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山田裕仁のスゴいレース回顧

【オランダ王国友好杯 回顧】S級S班という“格”を示した守澤太志

2023/12/11 (月) 18:00 37

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが別府競輪場で開催された「オランダ王国友好杯」を振り返ります。

(写真提供:チャリ・ロト)

2023年12月10日(日)別府12R開設73周年記念オランダ王国友好杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①松浦悠士(98期=広島・33歳)
②守澤太志(96期=秋田・38歳)
③浅井康太(90期=三重・39歳)
④渡部哲男(84期=愛媛・44歳)
⑤内藤秀久(89期=神奈川・41歳)
⑥松本秀之介(117期=熊本・23歳)
⑦三谷竜生(101期=奈良・36歳)
⑧大塚健一郎(82期=大分・46歳)

⑨佐々木豪(109期=愛媛・27歳)

【初手・並び】

←⑦③(中近)①⑨④(中四国)②⑤(混成)⑥⑧(九州)

【結果】

1着 ②守澤太志
2着 ⑤内藤秀久
3着 ⑨佐々木豪

※3位で入線した⑧大塚健一郎選手は失格となりました

この時期の記念としてはレベルの高いメンバー

 12月10日には大分県の別府競輪場で、オランダ王国友好杯(GIII)の決勝戦が行われています。出場したのは、今年もKEIRINグランプリ出場を決めた松浦悠士選手(98期=広島・33歳)や、現S級S班である新田祐大選手(90期=福島・37歳)、守澤太志選手(96期=秋田・38歳)など。次期のS級S班がほとんど出てこないこの時期の記念としては、なかなかレベルの高いメンバーとなりました。

 グランプリ前に地元の広島記念を走ることが多い松浦選手ですが、今年は広島記念がグランプリ直前であることなどから、このシリーズで感触を確かめることにしたのでしょう。初日特選は3着だったものの、二次予選と準決勝はいずれも1着で勝ち上がりと、悪くない仕上がりにある様子でしたね。準決勝で思わぬ大敗を喫した新田選手は、やはりそれほどデキがよくなかったのでしょう。

松浦悠士選手は、二次予選と準決勝はいずれも1着で勝ち上がり、悪くない仕上がりにある様子だった(写真提供:チャリ・ロト)

 調子のよさが目立っていたのは、初日特選を最後方から単騎で豪快に捲りきった坂井洋選手(115期=栃木・29歳)や、近況好調モードの北津留翼選手(90期=福岡・38歳)でした。しかし、両者ともに残念ながら準決勝で敗退という結果に。つまり、決勝戦まで勝ち上がったメンバーのなかに、「素晴らしいデキ」と感じるような選手は見当たらなかったということです。

 四分戦となった決勝戦。唯一の3車ラインが中四国勢で、意外なことに松浦選手が先頭となりました。このシリーズで、松浦選手の前をずっと任されていた佐々木豪選手(109期=愛媛・27歳)が番手を回り、渡部哲男選手(84期=愛媛・44歳)が3番手を固めるという並び。愛媛の選手の間に割って入ることや、ライン3番手を松浦選手が避けたのか…とも思われますが、そのほかの意図もありそうで、意味深です。

 守澤選手は、内藤秀久選手(89期=神奈川・41歳)と即席コンビを結成。自力勝負はさすがにないでしょうから、主導権を奪いそうなラインの直後につけて、あとは巧く立ち回るといったレースになりそうです。三谷竜生選手(101期=奈良・36歳)は、浅井康太選手(90期=三重・39歳)と組んで中部近畿ラインで勝負。準決勝ではいずれも1着というラインの総合力の高さからも、侮れない存在といえるでしょう。

 最後に九州勢ですが、こちらは松本秀之介選手(117期=熊本・23歳)が先頭で、番手に地元の大塚健一郎選手(82期=大分・46歳)という並び。松浦選手が積極的に主導権を奪いにくるとは考えづらいので、ここは意外にすんなりと、松本選手の主導権という展開もありそうですよね。とはいえ、相手関係はかなり強力。車番にも恵まれなかったので、仕掛けにはひと工夫がほしいところです。

徹底先行型の選手がおらず読みづらい決勝戦だったが…

 徹底先行型の選手がいないのもあって、どういった展開になるか読みづらかった決勝戦。それではここからは、レース回顧に入っていきます。スタートを取ったのは3番車の浅井選手で、中部近畿ラインが前受け。その直後の3番手に、中四国ライン先頭の松浦選手がつけました。6番手が守澤選手で、後方8番手に松本選手というのが、初手の並びです。後方の選手が、前を斬りにいきやすい並びですよね。

 レースが動いたのは、青板(残り3周)周回の後半から。後方にいた松本選手がゆっくりとポジションを押し上げますが、それに先んじて、6番手の守澤選手が赤板(残り2周)通過の手前から動きました。赤板通過の直後に、守澤選手が先頭の三谷選手を斬って先頭に立ちます。そしてすかさず、今度は松本選手が守澤選手を斬って、赤板後の1センターで先頭に。中部近畿勢が5番手、中四国勢は7番手となります。

 まだペースは上がらず、今度は中四国勢が前を斬る「順番」でしたが、松浦選手は動かずに後方をキープ。隊列が変わらないまま、一列棒状でレースは打鐘を迎えました。まるで先手を「取らされる」ように主導権を奪えたのですから、松本選手にとっては願ってもない展開。その直後につける守澤選手も、優勝が狙える位置です。松本選手は打鐘後から一気に加速して2センターを回り、先頭で最終ホームに帰ってきました。

最終HSの様子(写真提供:チャリ・ロト)

 最終ホームの手前で後方の松浦選手が仕掛けますが、それに合わせた仕掛けで松浦選手を前に出さなかったのが、中団5番手にいた三谷選手。捲りにいった三谷選手は、最終1コーナーで守澤選手の外から並びかけますが、守澤選手が絶好のタイミングでブロックに。これで態勢を崩した三谷選手は、立て直すもイエローライン付近まで外にいってしまい、その後ろにいた4車も大きく外を回らされることになります。

 三谷選手はそのまま外から前を追いますが、松浦選手はそこから内に斬り込んで、内藤選手の後ろに切り替えます。そしてそのまま、すぐ外にいた浅井選手を内から捌いて、ポジションを確保。浅井選手は連係を外してしまいますが、同時に中四国ライン番手の佐々木選手と3番手の渡部選手も、松浦選手との連係を外してしまいます。そんなゴチャつく後方を尻目に、最終バック手前で守澤選手が仕掛けました。

 捲りにいった守澤選手は、最終3コーナー手前で逃げ粘る松本選手のすぐ外にまで進出。その直後は、内の内藤選手と外の三谷選手が併走状態です。その後ろから勢いよく伸びてきたのが、自力に切り替えた佐々木選手。浅井選手も松浦選手の直後に切り替え、仕掛けるタイミングを見定めています。そして最終3コーナー、守澤選手が松本選手を捉えて先頭に立ちますが、ここでアクシデントが発生します。

 内藤選手の直後が4車併走状態となったタイミングで、いちばん内にいた大塚選手が、進路を外に振ってブロック。そのすぐ外にいた松浦選手が、力尽きて下がっていこうとする三谷選手や、単騎で勢いよく捲ってきた佐々木選手のほうに押し込まれ、松浦選手の後輪と三谷選手の前輪が接触して落車転倒してしまいます。それもあって、前の守澤選手と内藤選手が完全に抜け出すカタチとなりました。

 前の2車を大塚選手と佐々木選手が追う態勢で、最後の直線に突入。しかし、絶好の展開に恵まれた守澤選手の脚色はまったく衰えません。内藤選手が外に出して差しにいきますが、その差が詰まりそうで詰まらない。3番手グループの大塚選手や佐々木選手も、グッと伸びてくる気配はありません。その後も態勢は変わらず、守澤選手がリードを守ったまま先頭でゴールを駆け抜けました。

守澤選手がリードを守ったまま先頭でゴールを駆け抜けた(写真提供:チャリ・ロト)

 守澤選手マークの内藤選手が2着で、その後は大塚選手、佐々木選手、浅井選手という順番でゴールイン。落車した三谷選手は再乗して7着でゴールしますが、松浦選手はそのままレースを棄権します。幸い、松浦選手は擦過傷程度のダメージで済んだようで、落車後はすぐに立ち上がって手をあげ、観衆に無事であることをアピール。もうグランプリ直前ですから、観ている側も本当にヒヤッとしましたよね。

 そして、レース後には赤ランプが点灯して、この落車アクシデントについて審議に。その結果、3位入線の大塚選手は「押し上げ」で失格となり、佐々木選手が3着に繰り上がりました。大塚選手はもともと、ちょっと挙動がオーバーなところがあるんですよ。地元記念の決勝戦でもあって気合いが空回りして、なおさら悪い方向に出てしまった印象ですね。松浦選手が軽傷で済んで、彼もホッとしていることでしょう。

 ケガの影響もあって、今年はなかなかいい結果を出せずにいた守澤選手。これが今年の初優勝で、別府記念は昨年に続いての連覇となります。後ろ攻めとなった松本選手が主導権をとるのを見越して、先に動いてまんまと絶好位を確保した立ち回りなど、さすがはS級S班というレース内容。三谷選手の捲りを自分で止めて、その後に捲りきって優勝するという文句なしの強さをみせつけました。

 それとは対照的に、終始「らしからぬ」走りになってしまったのが松浦選手。道中の動きについても、ちょっと迷いを感じました。佐々木選手が番手を志願したという談話も出ていましたが、注目を集めたわりに意図が見えなかったというか…。身体や自転車のダメージがゼロというわけではないでしょうが、それが軽微で済んだのは不幸中の幸い。グランプリでの巻き返しを期待するとしましょう。

 この後は、玉野競輪場での広島記念に出場予定の守澤選手。グランプリ出場が叶わなかったのは残念ですが、ここでS級S班としての“格”を示せたのは、おおいに意味がある。常に謙虚な姿勢で、優勝者インタビューでも相変わらず控えめなコメントに徹していましたが、まだまだ大きなタイトルだって狙える選手。ゆくゆくは、佐藤慎太郎選手(78期=福島・47歳)のような北日本の精神的支柱になってほしいものです。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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