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山田裕仁のスゴいレース回顧

【蒲生氏郷杯王座競輪 回顧】明暗がハッキリ分かれた中部と近畿

2022/10/11 (火) 18:00 39

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが松阪競輪場で開催されたGIII「蒲生氏郷杯王座競輪」を振り返ります。

1月の玉藻杯争覇戦以来となる通算4度目の記念優勝を果たした山田久徳(撮影:島尻譲)

2022年10月10日(月) 松阪12R 蒲生氏郷杯王座競輪(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①浅井康太(90期=三重・38歳)
②太田竜馬(109期=徳島・26歳)
③諸橋愛(79期=新潟・45歳)
④皿屋豊(111期=三重・39歳)
⑤三谷竜生(101期=奈良・35歳)
⑥岡光良(94期=埼玉・40歳)
⑦山田久徳(93期=京都・35歳)
⑧大塚健一郎(82期=大分・44歳)
⑨坂口晃輔(95期=三重・34歳)

【初手・並び】
←④①⑨(中部)③(単騎)⑤⑦⑥(混成)②⑧(混成)

【結果】
1着 ⑦山田久徳
2着 ⑤三谷竜生
3着 ③諸橋愛

S班3名が総崩れで地元勢が人気を集めた決勝戦

 10月10日には三重県の松阪競輪場で、蒲生氏郷杯王座競輪(GIII)の決勝戦が行われています。ここには佐藤慎太郎選手(78期=福島・45歳)に清水裕友選手(105期=山口・27歳)、吉田拓矢選手(107期=茨城・27歳)と3名のS級S班が出場していたのですが、いずれもが準決勝で敗退という意外な結果に。S級S班が総崩れというのは、このところの記念ではかなり珍しい結果といえるでしょう。

雨の中で行われた準決勝。最終12レースでは吉田拓矢(2番)が落車するアクシデントもあった(撮影:島尻譲)

 その結果おのずと人気を集めることになったのが、地元である中部地区の選手。3名が決勝戦に勝ち上がりましたが、「オール三重」という結束力の強さは、やはり魅力的ですよね。ラインの先頭を任されたのは、ここ松阪がホームバンクである皿屋豊選手(111期=三重・39歳)。ここを目標に身体をつくってきたのもあって、調子のよさはかなり目立っていましたね。文句なしのデキだったと思います。

 その番手を回るのは、昨年の覇者で中部地区の“顔役”でもある浅井康太選手(90期=三重・38歳)。こちらも調子は上々のようで、昨年は単騎でこのレースを制しているように、機動力も十分です。それに昨年とは違って、今年は前にも後ろにも心強い味方がついていますからね。S級S班もいないここで、優勝候補筆頭とみなされるのは当然の話。ライン3番手は、坂口晃輔選手(95期=三重・34歳)が固めます。

 2名が勝ち上がった近畿勢は、三谷竜生選手(101期=奈良・35歳)が先頭を務めます。こちらも好内容での勝ち上がりで、展開次第では優勝争いが十分に期待できそうな気配。ただし、先行ではなく捲りが主体なので、車番に恵まれなかったここは、レースの組み立てがちょっと難しい。番手を回るのは山田久徳選手(93期=京都・35歳)で、関東の岡光良選手(94期=埼玉・40歳)はこのラインの3番手につけます。

 太田竜馬選手(109期=徳島・26歳)は、大塚健一郎選手(82期=大分・44歳)との混成ラインで挑みます。決勝戦のメンバーでもっとも機動力があるのは太田選手で、それだけにここが主導権を奪いにくるケースも考えられますが、2車というのはやはりネック。地元の皿屋選手が積極的なレースを仕掛けてきそうなここは、前でもがき合うような展開もありえますからね。

 そして唯一の単騎勝負が、諸橋愛選手(79期=新潟・45歳)。レース展開を読むのが上手な選手ですから、展開がもつれそうなここは怖いですよ。立ち回りの巧さで上位に食い込んでくるケースが、十分に考えられます。強力なS級S班がいなくなかったことで、どの選手も“色気”が出てきている。中部勢がすんなりと主導権を奪ってそのまま押し切るような、単純な展開にはならない可能性が高いんですよね。

浅井の落車で太田が先行、三谷は3番手から捲りを放つ

 ではここから、決勝戦の回顧に入っていきましょう。スタートの号砲が鳴って、まず出ていったのが浅井選手と山田選手。併走となりましたが、車番的に有利な浅井選手がスタートを取りきって、中部勢の前受けが確定します。その後ろに、途中から動いて中部勢の後ろを取りにいった諸橋選手。これを前に入れて、三谷選手は5番手からのレースを選択。そして後方8番手に太田選手というのが、初手の並びです。

4分戦で行われた決勝。前受けは地元の中部勢(撮影:島尻譲)

 最初に動いたのは、後方にいた太田選手。後方からゆっくりとポジションを押し上げていって、赤板(残り2周)を通過して先頭誘導員が離れたところで、先頭の皿屋選手を斬って先頭に出ます。中団にいた三谷選手も、大塚選手の後ろへと切り替えて、この動きに連動。皿屋選手は突っ張らずに引いて、いったん後方6番手に下げます。その後はどのラインもとくに動きを見せず、レースは打鐘を迎えました。

 皿屋選手が後方から前との差を少しずつ詰めていって、いよいよ主導権を奪いにいくか…と思われたタイミングで、大アクシデントが発生。打鐘過ぎの3コーナーで、皿屋選手の後輪と接触して、大本命の浅井選手がなんと落車してしまいます。その後ろにいた坂口選手や諸橋選手はうまく回避しましたが、こんな状況で皿屋選手が後方から仕掛けられるわけもなく、主導権は太田選手のものとなります。

 浅井選手の落車の直後、素晴らしい判断力で一気に動いて、中部ラインから岡選手の後ろに切り替えたのが諸橋選手。それに気付いた皿屋選手が、そうはさせじとばかりに追いかけますが、空いていた内をすくって先に動いた諸橋選手のほうがポジション的に有利でしたね。前では、いわば主導権が「転がり込んできた」太田選手が腹をくくり、全力でのスパートを開始して最終周回に入ります。

最終1センター。太田竜馬(2番)が逃げる展開に(撮影:島尻譲)

 2コーナーを回っても、先頭が太田選手で3番手に三谷選手という隊列のまま。そして最終バックの手前で、三谷選手が前を捲りに動きます。絶好の展開となった三谷選手は、ここまでほとんど脚を使っていない“サラ脚”の状態。それだけに、仕掛けてからはグングンと伸びていきましたね。最終3コーナーでは大塚選手の外に並びかけて、逃げる太田選手を完全に射程圏に入れました。

 山田選手は、三谷選手の直後をピッタリと追走。岡選手はインに進路をとって、大塚選手の内にできた狭いスペースへと突っ込んでいきます。その直後からいい伸びをみせたのが諸橋選手で、こちらも内を捌くルートを選択。前では、なんとか逃げ粘ろうとする太田選手に、外から三谷選手が猛追。近畿コンビが圧倒的に有利という態勢で、あとは最後の直線勝負となります。

 三谷選手は、直線の入り口で太田選手を抜き去って先頭に。それを、外に出した山田選手が猛然と追います。その後ろでは、内をついた岡選手と大塚選手が激しくやり合いますが、巧みなコース選択で外に出した諸橋選手がそこに肉迫。さらに、逃げた太田選手も最内で必死に粘り、大外からは追い込んだ坂口選手が迫るなど、こちらは5車がほぼ横並びという僅差の争いとなりました。

ツキの無かった太田、三谷と番手の山田はツキを味方に

捲った三谷竜生(5番)を差した山田(7番)が1着(撮影:島尻譲)

 優勝は、直線で三谷選手を力強く差した山田選手。これで通算4回目となる記念優勝を、松阪の地で決めてみせました。2着は3番手から捲った三谷選手で、絶好の展開を見事にモノにしましたね。そして、大接戦となった3着争いを制したのは諸橋選手。こちらは、落車を避けてからのリカバリーの巧さが、結果に結びついた印象を受けました。あそこで瞬時に切り替えていなければ、この着順までこられていませんから。

 逃げた太田選手については、やはり「混成の2車ライン」というのが厳しかった。最終的な着順こそ7着と振るいませんでしたが、粘りに粘って3着争いに加わっているように、最後までよく踏ん張っているんですよ。ただ、初手で最後方となったのは想定外でしょうね。車番的にも「最後方はない」と思っていたはずで、事前のレースプランとは大きく異なる展開となったのではないでしょうか。

 逆に、初手からうまく立ち回っていたのが三谷選手。初手から常に中団の位置が取れるように動き続けたところに、浅井選手の落車というトラブルが重なって、結果的に最高の展開が舞い込んできました。最後は山田選手に差されましたが、そこは現時点でのデキの差が出た印象。「いかなる展開になっても中団から捲る」という、三谷選手らしい気持ちの強さが感じられたレースでした。

他のラインと絡んでいない落車だけに余計に情けない

 そして、ファンの期待を最悪のカタチで裏切ることになった中部勢について。浅井選手らしからぬミスで、注意していれば避けられた落車です。そして…これは何度もこのコラムで強調してきたことですが、このような落車は本当に「百害あって一利なし」で、プロのスポーツ選手として恥ずかしいですよ。優勝を狙って勝負にいった結果ならばともかく、他のラインとはまったく絡んでいないんですから。

 皿屋選手は「前受けから引いてのカマシ先行」を考えていたのでしょうが、あのタイミングの仕掛けだと、前で待っていた太田選手に合わされる危険性がある。いくら調子がよかったとはいえ、機動力のある太田選手の上をいって中部3車が完全に出切るのは、けっこう難しかったような気がしますね。それに、山田選手にスタートを取らせて中団から…という選択肢もあった。いずれにせよ、ちょっと積極性を欠いていたように感じました。

 積極性や柔軟性のある走りをした三谷選手に対して、その逆をいってしまった中部勢。浅井選手の落車によって、その明暗がことさらハッキリ出た結果になったように思います。いやもう本当に、こういう落車だけは絶対に避けてほしい。業界全体に活気があって、新しいファンが増えてくれている時期だからこそ、見限られるようなことをしてはいけないんです。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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