2021/03/10 (水) 12:00 5
暮れのKEIRINグランプリが終わると、例年、すぐに立川記念でGⅢ戦線がスタートする。その時はもう12月30日に前検日を行い、31日〜1月2日のシリーズから、選手たちには期の関係で新たな年が始まっている。
そんな競輪の歴史は1948年11月に始まった。
人には誰にも大事な一年、忘れられない一日があるだろうが、それはすべて、あっという間に過ぎてしまったものでしかなくなる。旅に生きた俳人・松尾芭蕉は、代表作の奥の細道の最後の地を“大垣”としている。
「蛤のふたみにわかれ行く秋ぞ」
何やら、2020年12月に引退した浜口高彰さん(53歳・岐阜=59期)を暗示したのかと思わせる一句が、奥の細道の結びの句だ。
“はまぐり”と“はまぐち”、二見に分かれているとは、岐阜県には競輪場が2つあり、浜口さんのホームバンクは岐阜だったということか。
水都大垣杯では、地元の川崎で開催された全日本選抜を制した郡司浩平(30歳・神奈川=99期)、平原康多(38歳・埼玉=87期)、守沢太志(35歳・秋田=96期)とS級S班は3人。中部は浅井康太(36歳・三重=90期)、柴崎淳(34歳・三重=91期)、重鎮・山口富生(51歳・岐阜=68期)、そして山口を師匠とする竹内雄作(33歳・岐阜=99期)と主力が揃った。公務員を15年務めた後、競輪選手になった皿屋豊(38歳・三重=111期)も参戦する。
竹内は2016年9月に富山で開催された共同通信社杯を制している。GⅢより先にGIIを勝ち、次はGI、記念はそのうちにという道に入った。だが、チャンスはあってもつかむことができず、今は苦しい低迷に沈んでいる。
類まれな先行力を持ち、特に強風や低温での重馬場での強さは輪界一だ。雪山を切り開く「ラッセル」という用語から、竹内の走りは“ラッセル先行”とも呼ばれる。
俳句に詳しいどころか、特に興味もないが、この芭蕉…「辞世の句」といわれるものは、好きだ。細かい解説も分からない。ただ、“死”そのものが迫ってくる空気があり、旅、病、夢、枯野、駆け巡る、それぞれの意味は離れているはずの言葉がくっついている。
離れているはずの何かがくっついて何かを生むのがラインの妙味。今、中部は劣勢に立たされているが、だからこその連係で遠征勢を迎え撃つ。
「ラインを組んで誰が先頭駆け抜ける」
日本語としてだけでなく、競輪の推理の文章の書き出しだったとしても、稚拙の極みだが、この武骨さだけの一文を送りたいのが竹内雄作という男。器用さは全くなければ、身につく気配もない。笑顔だったり、怖い顔だったりと、無邪気な男。
不器用だが、ラインの力を生かして、地元記念を目指してほしい。
山口拳矢(25歳・岐阜=117期)は、町田太我(21歳・広島=117期)と連係する予定だったそうだが、町田が取手の落車の影響で欠場となった。寺崎浩平(27歳・福井=117期)との対決が最大の注目ポイント。
「夏草や兵どもが夢の跡」…語り継がれる名勝負に期待したい。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。