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不屈の男・金子貴志の奮闘記 〜40代の挑戦〜

【金子貴志のオールスター回顧】1ポイント足りない悔しさと最高の“GI刺激”そして京都の稲垣裕之君

2022/08/26 (金) 18:00 18

 netkeirinをご覧の皆さん、金子貴志です。今回は「西武園オールスター競輪(GI)」を振り返りつつ、競輪選手には“付き物”である落車や怪我といったテーマについても書きたいと思います。

熱きドラマが生まれた2022年西武園オールスター競輪(撮影:島尻譲)

去年に続き1ポイントに泣く

 オールスターは前回、前々回のコラムでも書きましたが、コンディションをしっかり整えて、ルーティーンや験担ぎをして入りました。

 一次予選の2走を終えて獲得ポイントは15ポイントで、勝ち上がりのボーダーラインに位置することはできたものの、選考順位で二次予選には進めず。去年と同じく1ポイントに泣き、悔しく残念な結果を受け止めなくてはなりませんでした。

背水の陣で挑んだ一次予選2(撮影:島尻譲)

「あとひとつ上の着をとれていれば」と悔やんでも仕方のないことですが、ファンのみなさんに選んでもらって走っているオールスターは特別勝ち上がりへの意識も強く、とにかく燃えます。この1ポイントの壁を乗り越えるために、これからまた試行錯誤を繰り返していこうと思います。

勝ち上がりを懸けた一戦で師弟が別ラインで戦った(撮影:島尻譲)

張り詰めた独特な雰囲気

 しかし、勝ち上がりを逃して悔しいものの、やる気をなくしたかと言えばそれはありません。得るものもたくさんあるのがオールスターであり、GIの舞台です。優勝した脇本君とはセッティングに関する話ができましたし、私もどんどん試してみたいことが増えました。

 そして1番はGI特有の“雰囲気”です。オールスターも検車場から張り詰めていました。選手たちが作り出す独特な空気感の中に身を置いて過ごせたことは大収穫です。たくさんの選手たちが少しでも強くなろうとあちらこちらで情報交換する姿が見受けられました。

『もっと速く、もっと強く』という意識は私にもありますが、それは他選手も同じことです。この雰囲気は唯一無二の刺激となり、モチベーションを高める燃料になります。

GIのムードを全身で感じながら最終日まで戦い抜いた(撮影:島尻譲)

 それにしても今回のオールスターは脇本雄太君が凄まじかったです。脇本君のためにあったような開催というか、そういう圧倒的な強さを感じました。脇本君、オールスター優勝おめでとうございます。

完全優勝を決めた脇本雄太選手(撮影:島尻譲)

ポジティブを超えている稲垣裕之君

 さて話は変わりますが、競輪選手にとって落車や怪我は避けられないものです。怪我をすると良いことはなく、骨折したり、体のバランスが崩れたりするので、復帰するまでに相当時間がかかってしまいます。にも関らず、選手の中には落車して擦過傷や打撲をしていても途中欠場することなく、最後まで走り抜く選手もいます。擦過傷は強烈にヒリヒリして、中には熱が出てしまう選手もいるくらいです。

 このオールスターでは京都の稲垣裕之君が落車してしまいました。レース後に「大丈夫か」と声を掛けると「擦過傷は気持ちいいです!」との返事でした。これはいつ聞いてもビックリします。というのも稲垣君とはナショナルチームで一緒に走っていた時期があり、何事もポジティブに受け止めるメンタルの持ち主です。

 いつも物事を前向きに捉える選手ですから「擦過傷は気持ちいい」と脳にインプットしているようです。以前も落車した稲垣君に声をかけたことがありますが「気持ちいいですよ」と返答がありました。このあたりはとても稲垣君らしくて見習いたいところです。私も擦過傷が気持ちいいと感じられるようになりたいです(笑)。落車後の稲垣君は弱音を吐くこともなく、最終日まで走り、競輪場から帰っていきました。競輪界に存在するとてつもない選手のうちのひとりです。

落車後にも関らず最終日は確定板を捉えた稲垣裕之選手(撮影:島尻譲)

極限の緊張感の中で火花散らす

 私は過去に落車をした際に「恥骨」を骨折したことがあります。その骨折では歩けなくなり、足もみるみるうちに細くなってしまいました。そこから復帰するまでは本当に大変でした。最近ではさまざまな治療があって医療の進歩に選手たちは助けられていると思います。しかし、ケガをしないに越したことはありません。

 選手たちは体を守るためにプロテクターを付けたり、擦過傷予防のための「キネシオテープ」を貼ったり、脚にオイルを塗ったりしてレースをしています。最近はスピード競輪ということもあり、プロテクターも軽量化されていますし、そもそも着けていない選手が多いような気がします。

 プロテクターがかさばると、その分だけスピードやキレが鈍るからかもしれませんが、落車した時はダメージをダイレクトに体で受けてしまうので、大きなリスクも伴います。選手の姿を見て、プロテクターをしているかどうかチェックするのも面白いかもしれませんね。そんなところにも選手の個性が現れます。

選手はプライドをかけて凌ぎを削る(撮影:島尻譲)

 怪我は百害あって一利なしですが、唯一プラスになることは「怪我をする前よりも強くなって復帰したいという気持ち」が心の底から湧き上がってくることです。その気持ちを復帰してからも持ち続けることが大切ですし「常に危険と隣り合わせで真剣勝負をしている」ということも忘れてはいけません。

 ギリギリのところで勝負して、はじめてお客さんの胸を打つような走りが生まれるはずです。しかし本当に落車や怪我をしてしまってはお客さんにも選手自身にも良いことはありません。これを忘れずに競輪選手として闘って行きます。

 さいごになりますが、西武園では熱い声援を届けていただきありがとうございました。最終日に会場から聞こえた「また戻って来いよ!」の言葉を刻み込み、日々挑戦していきたいと思います。これからも応援よろしくお願いします!

最終日、ファンの激励が心に響いた(撮影:島尻譲)

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金子貴志

Kaneko Takashi

愛知県豊橋市出身。日本競輪学校75期卒。2013年には寛仁親王牌と競輪祭を制し、同年のKEIRINグランプリでも頂点に。通算勝利数は500を超え、さらには自転車競技スプリント種目でも国内外で輝かしい成績を収めている。またYoutubeをはじめSNSでの発信を精力的に行い、キッチンカーと選手でコラボするなどホームバンクの盛り上げにも貢献。ファンを楽しませることを念頭に置き、レース外でも活発に動く中部地区の兄貴的存在。

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