2025/07/24 (木) 18:00 8
netkeirinをご覧の皆さん、こんにちは、金子貴志です。暑い日が続きますが、体調には気をつけてくださいね。今回は自然の秘密と言われるフィボナッチ数列、黄金比について書いていきたいと思います。
その前にまず私の状況をお知らせします。6月のいわき平で落車してしまい、帰ってきてから歩行が困難になって入院していました。脚が今まで見たことないほど腫れ上がり、激しい痛みで足を伸ばすこともできず歩けなくなってしまいました。現在はレースに参加していませんが、徐々に体も良くなり、26日からの京王閣で復帰します。
体が動かせない分、休んでいる時間に頭をフル回転させて、以前から興味のあったことを調べたり、本を読みあさりました。次に書く黄金比もそのひとつで、知れば知るほどすっかりハマってしまいました。すると入院していた6階の病室から見える窓の外の景色も、以前とは違って見えるようになりました。
きっかけは、弟子の花田雄飛(127期)と同期の岩原健馬君と犬塚貴之君(117期)が、植物に興味があり私の植物の店に見に来てくれたことです。
だんだんと広がってきた植物好きの選手の輪ですが、岩原君は独自の視点を持っていて、植物の見方が違っていました。ひとつの植物を指さし「この植物は黄金比に当てはまっていますね」と言うのです。
ここで簡単に「黄金比」と、関係が深い「フィボナッチ数列」について説明します。まずフィボナッチ数列とは、0と1から始まり、前の2つの数を足し合わせることで次の数が導き出される数列のことです。「0、 1、 1、 2、 3、 5、 8、 13…」と無限に続いていきます。
そして黄金比とは、およそ1:1.618という比率のことで、人間が最も美しいと感じるとされる比率です。この比率は、フィボナッチ数列の隣り合う2つの数の比が、数が大きくなるにつれて黄金比に近づいていくという密接な関係があります。
実は以前から黄金比に興味があった私は、岩原君と意気投合しました。岩原君は絵やデザインが好きだそうで、自らステッカーをデザインしているのを知り、私もお願いして植物のお店のステッカーなどを作ってもらいました。
黄金比とは「ギザの三大ピラミッド」、「パルテノン神殿」などの歴史的建造物や、ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」に見え隠れする一定のパターンや比率です。2000年以上も前からさまざまな時代、地域において賢人達がいっぷう変わった普遍的なたったひとつの数に魅せられてきました。それが聖なる美の世界、ということでしょうか。
台風の渦や巻き貝の形、DNAの二重らせん構造、光合成に合理的な植物の葉の開き方など、黄金比は自然界においても多く見られます。
身の回りのあらゆるものにフィボナッチ数列や黄金比が見られ、人が美を感じる視覚的メカニズムといえそうです。有名な葛飾北斎の『富嶽三十六景』や、Apple社のリンゴのロゴマーク、Google社のロゴなど、最近のデザインにも多く取り入れられていますが、1202年にフィボナッチ氏が発表する遥か昔から自然界に存在していたというのは本当に驚きで、神秘的に感じます。
犬塚君と岩原君の3人でランチに行った時に、岩原君は店の看板やメニューのデザインが気になるらしく、それを聞いた私もすっかり感化されました。それ以降、自分の好きな植物はもちろん、ありとあらゆるものから黄金比が浮かび上がって見えるようになりました。「あの看板も黄金比だ!」「この植物も黄金比が入っているんじゃないか」と、新しい発見の連続です。
これを自転車にあてはめて考えてみると、フレームもその人のサイズに合わせた“黄金比”になっていることが多いのかもしれません。強い選手はバランスが良いフォームをしています。私は吉岡稔真さんのフォームがとてもかっこよく感じていましたが、ひょっとしたらこれも黄金比に当てはまるのではないかと思っています。人が見て魅力的に思うものは、普遍的な美の法則に当てはまっている可能性があるというのが面白いですね。
もしかすると、人は正解が分かっていないことに心ひかれるのかもしれません。黄金比やフィボナッチ数列について岩原君と話して「自然現象や建造物などはるか昔からたくさんのものが黄金比に当てはまり、それがどうしてか未だ解明されていないのが神秘的で魅力的だ」と感じました。
お店の植物の鉢に貼るステッカーのデザインも岩原君と一緒に考えました。買った人のイメージに合うように何種類もパターンを作ったのですが、もともとカラフルスタイルのマークに使っていた羅針盤や、聖母マリア、ドクロなど様々なモチーフを植物と合わせたデザインです。優しいイメージやワイルドなイメージなど、アイデアを膨らませるのがとても楽しかったです。
さらに岩原君に妻のお店に来てもらい、ピンク色の壁のディスプレイを見てもらいました。黄金比に当てはめて掲示物を配置すると、すごくすっきりして見えました。黄金比を意識しただけでこんなに変わるのかと驚きました。
以前「ダ・ヴィンチコード」という映画を観たときはいまひとつピンときませんでしたが、フィボナッチ数列や最近話題になったコンクラーベなど、知識を増やしてもう一度観てみるととても面白く、点と点がつながる感覚がありました。キリストの歴史をもっと知りたくなりました。新しいことを知ると世界が広がる感じがして、物事の奥深さに気づきます。興味を持たないのはもったいないなと心から思うようになりました。
2週間あった入院期間で、トレーニングの考え方、心理、法則、経済、量子力学など、様々な本を読みました。それによって物事の見え方が変わり、選手としての視点も変わりました。
人が見ている世界、犬が見ている世界、虫が見ている世界… と生物の種類によって見ている世界が違う『環世界』という面白い考え方があります。人間同士であっても、自分にとっては当たり前の景色がほかの人にはまったく違うように映っているのかもしれない、と考えました。みんな見える世界が違って、考えていることも違う。それを読み解くのが面白いと思います。
知れば知るほど面白いことが世の中にはたくさんあります。黄金比についても、岩原君が来ていなかったらこんなふうに考えなかったかもしれません。すべてを知り尽くすことはできなくても、ひとつでも興味を持つことが増えれば、見方が変わり、人生が面白くなります。
知らずに過ぎていったはずのものも、何かのきっかけで興味を持ったら世界が広がっていくはずです。いろんなことに興味を持つことは絶対にマイナスにはならないと思います。何を食べても美味しければ幸せなように、好き嫌いが多かったら寂しいです。よく知る前から決めつけてしまうのはもったいないですね。
岩原君は私がおすすめした「LEON」という映画を見て、映画に出てくるのと似た植物を買ったそうです。植物は「絶対こうだ」という答えがないところが面白いと言っていました。
自転車もどんなに極めようとしても正解が出ないところが魅力です。不確かなものの中にこそ、化学反応が生まれるのかもしれません。この入院期間で得た知識を、今後のレースにも役立てたいと思っています。
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Kaneko Takashi
愛知県豊橋市出身。日本競輪学校75期卒。2013年には寛仁親王牌と競輪祭を制し、同年のKEIRINグランプリでも頂点に。通算勝利数は500を超え、さらには自転車競技スプリント種目でも国内外で輝かしい成績を収めている。またYoutubeをはじめSNSでの発信を精力的に行い、キッチンカーと選手でコラボするなどホームバンクの盛り上げにも貢献。ファンを楽しませることを念頭に置き、レース外でも活発に動く中部地区の兄貴的存在。