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山田裕仁のスゴいレース回顧

【ふるさとカップ 回顧】“次”につながる価値ある勝利

2022/08/01 (月) 18:00 16

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが弥彦競輪場で開催されたGIII「ふるさとカップ」を振り返ります。

優勝した平原康多(撮影:島尻譲)

2022年7月31日(日) 弥彦12R 開設72周年記念 ふるさとカップ(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①諸橋愛(79期=新潟・45歳)
②荒井崇博(82期=佐賀・44歳)
③成田和也(88期=福島・43歳)
④小松崎大地(99期=福島・39歳)
⑤平原康多(87期=埼玉・40歳)
⑥横山尚則(100期=茨城・31歳)
⑦三谷竜生(101期=奈良・34歳)
⑧飯野祐太(90期=福島・37歳)
⑨吉田拓矢(107期=茨城・27歳)

【初手・並び】
←⑨⑤①⑥(関東)⑦②(混成)⑧④③(北日本)

【結果】
1着 ⑤平原康多
2着 ③成田和也
3着 ②荒井崇博

選手たちのデキの良さが目立った今開催

 8月に入って、まさに「夏本番」という気温の高さに。この暑さのなかを、シリーズの合間も休まずに練習している選手たちには頭が下がります。西武園でのオールスター競輪(GI)が目の前に迫っているのもあって、そこを大目標としている選手は休んでいる暇などありませんからね。

 そのオールスター競輪を走る予定の選手も多く出場していたのが、新潟県の弥彦競輪場で開催されたふるさとカップ(GIII)。7月31日には、その決勝戦が行われています。弥彦競輪場は400mバンクながら、みなし直線が63.1mと非常に長いのが特徴。そのぶん、コーナー部分がタイトではあるんですが、だからといって、とくに難しさは感じなかったですね。意外とクセのない、走りやすいバンクですよ。

 初日特選に出場していた選手が7名も決勝戦に乗ったように、勝ち上がりの過程で大きな番狂わせなどはなかった印象。調子のよさを感じられる選手が多かったというのも、その理由のひとつでしょう。なかでもデキのよさが目立っていたのは、荒井崇博選手(82期=佐賀・44歳)や成田和也選手(88期=福島・43歳)でしょうか。荒井選手は、山田庸平選手(94期=佐賀・34歳)の活躍にも触発されている気がしますね。

 決勝戦は三分戦に。4名が勝ち上がった関東勢は、1つのラインに結束して戦うことになりました。先頭を任されたのはS級S班の吉田拓矢選手(107期=茨城・27歳)で、番手を回るのも同じくS級S班の平原康多選手(87期=埼玉・40歳)。ライン3番手を弥彦がホームバンクである諸橋愛選手(79期=新潟・45歳)、4番手を横山尚則選手(100期=茨城・31歳)が固めるという、超強力ラインナップです。

 平原選手は、準決勝での走りが印象的でしたね。菊池岳仁選手(117期=長野・22歳)の番手を回っていましたが、その菊池選手が赤板過ぎの接触で落車。目標を失ってどうするかと思いきや、自力での思いきったカマシで主導権を奪うと、そのまま押し切る寸前まで踏ん張ってみせました。最後は横山尚則選手(100期=茨城・31歳)に差されたとはいえ、若々しく力強い内容。これなら、決勝戦でもおおいに期待できそうです。

準決勝で若々しいカカリを見せた平原康多(黒)(撮影:島尻譲)

 オール福島勢となった北日本ラインは、飯野祐太選手(90期=福島・37歳)が先頭。小松崎大地選手(99期=福島・39歳)が2番手で、3番手に好調モードの成田和也選手(88期=福島・43歳)という並びです。結束が固いのは言うまでもなく、飯野選手がうまく立ち回れば、小松崎選手や成田選手にも十分にチャンスがありそう。強力な関東ラインの力を削ぐために、レースをどう組み立てるかが課題となります。

 混成ラインを形成したのが、三谷竜生選手(101期=奈良・34歳)と荒井崇博選手(82期=佐賀・44歳)です。連係するのは今回が初だけに、ラインとしてうまく機能するかどうかは賭けとなりますが、いずれも力のある選手なのは言うまでもありません。単騎で勝負するよりも、ここは組んだほうが勝ち目があるという判断でしょうから、前を任された三谷選手も積極的なレースを仕掛けてきそうです。

カギを握るのは吉田選手の動きだったが…

 ではここからは、決勝戦の回顧といきましょう。スタートが切られると、1番車の諸橋選手が迷わず前に。これで、関東ラインの前受けが決まりました。中団5番手には三谷選手がつけて、北日本ライン先頭の飯野選手は7番手から。レース前の想定とまったく同じカタチで、初手の並びが決まります。こうなると、関東ライン先頭の吉田選手が前受けから突っ張るのかどうかが、展開のカギとなりますね。

 静かに進行していったレースが動き出したのは、赤板(残り2周)の手前から。最初に動いたのは意外にも、中団の三谷選手でした。2センターからポジションを押し上げていって、赤板のホームを通過して先頭誘導員が離れたところで、先頭の吉田選手を斬りにいきます。吉田選手は突っ張らず、素直に下げることを選択。そこをすかさず、今度は後方に位置していた北日本ラインが、前を斬りに動きました。

一度は最後方に下がった関東ライン(先頭:紫)(撮影:島尻譲)

 これらの動きで、先頭から最後方へと位置が変わった関東ライン。吉田選手は、打鐘の手前から早々と仕掛けて、主導権を奪いにいきました。素晴らしいダッシュで、打鐘過ぎの3コーナーで先頭を奪い返しますが、番手の平原選手と3番手の諸橋選手との車間が少し開いてしまっていた。そこを狙ったのが「吉田選手と平原選手だけを前に出していた」飯野選手で、諸橋選手を内から外に張ってポジションを奪いにいきます。

 しかし、地元記念4回目の優勝がかかる諸橋選手ですから、ライン分断をそう簡単に許しはしません。今度は飯野選手を内へと押し返して、ポジションを死守。その後も攻防が続きますが、最終的には諸橋選手が関東ライン3番手を守り抜きました。飯野選手は残念ながら、ここで力尽きて失速。しかし、その頑張りを無駄にはしない…とばかりに、今度は自力に切り替えた小松崎選手が、5番手から前へと襲いかかりました。

「待ち受けていた」関東の総大将

 最終1センターから捲りにいった小松崎選手が前へと詰め寄りますが、それを前との車間をきって待ち受けていたのが平原選手。小松崎選手が諸橋選手の外へと並びかけたところで、前へと踏んで番手捲りにいきます。早くから仕掛けていたのもあって、吉田選手は最終バックを過ぎたところで失速。ここで、後方から仕掛けた三谷選手が非常にいいスピードで伸びて、前との差を一気に詰めてきます。

先頭との車間をあえてきっていた平原(黄)と追い上げてくる小松崎(水色)(撮影:島尻譲)

 最終3コーナーでは、先頭にかわった平原選手と、それを外から追う小松崎選手と成田選手という態勢に。平原選手の後ろにつけていた諸橋選手は、飯野選手との攻防でかなり脚を使わされたのもあって、平原選手についていけません。その後ろの横山選手も伸びはなく、平原選手の直後のポジションは成田選手の手に渡りました。そして外をついては、三谷選手と荒井選手が猛追。直線の長い弥彦ならばギリギリ射程圏というところまで進出してきました。

 最終2センターで、外から捲ってきた小松崎選手を平原選手がブロック。小松崎選手が外へと振られて、その影響で三谷選手や荒井選手は「さらに外」を回ることになりました。そしてレースは、平原選手が先頭のままで最後の長い直線へ。平原選手の直後から外に出して前を追う成田選手に、外から伸びる三谷選手や荒井選手と、横にズラリと並んでの追い比べ。これには思わず、手に汗を握りましたよ。

選手自身にもわからないほど接戦だった追い比べ(撮影:島尻譲)

 成田選手が平原選手との差をジリジリと詰めますが、平原選手の脚も最後まで鈍らず、離れた外からは三谷選手と荒井選手が飛んでくる。そして、4名が横並びでゴールイン。内外が離れていたのもあって、ゴールの瞬間は誰が勝ったのかわからないレベルの大接戦でしたね。凱歌があがったのは、番手捲りから押し切った平原選手。人気に応えて、通算31回目となる記念優勝を決めてみせました。

どの選手も力あるレースを見せてくれた

 2着は成田選手で、勝負どころで平原選手の後ろを取りきった立ち回りなど、相変わらずの“巧さ”が光りました。ライン先頭の飯野選手と2番手の小松崎選手がキッチリと自分の仕事をしてくれた成果を、結果へと結びつけましたね。それだけに悔しい結果でもあるわけですが、走りの内容は文句なし。調子のよさも手伝って、非常に高いパフォーマンスを発揮していたと思います。

 最後方の位置から優勝争いに加わってきた、3着の荒井選手と4着の三谷選手もお見事。初手で中団だった三谷選手には、「北日本の動きを待つ」という選択肢もあったわけですが、ここは積極的に動いていきましたね。そのほうが後方で何もできずに終わるような展開になりづらい…という判断のはずで、それが正解だったかどうかについてはタラレバになるので何ともいえませんが、その積極性は評価すべき。捲ったスピードも素晴らしく、やはり力があります。

 そして最後に、関東ラインについて。平原選手が番手にいるレースで同じ失敗を繰り返すわけにはいかない吉田選手は、迷わず果敢に主導権を奪いにいきましたね。さすがに最後は止まってしまいましたが、気持ちの入ったかかりのいい先行で、平原選手の優勝に大きく貢献したといえます。その“気持ち”を無駄にするわけにはいかないとばかりに踏ん張った、平原選手の粘りもすごかった。特別競輪の優勝もある好相性の弥彦バンクですが、今日は最後の直線が長く感じられたと思いますよ。

ゴール後、1着だと判明する前の鬼気迫る平原康多(撮影:島尻譲)
その後、優勝とわかりニッコリ(撮影:島尻譲)

 地元開催となるオールスター競輪に向けて弾みがついた平原選手ですが、今回が絶好調というイメージはなく、もう一段上のコンディションに持っていけそう。この決勝戦に出走していたその他の選手も総じてデキがよく、“次”がますます楽しみになるような、いい内容のレースをしていた。2週間後にどんなレースが観られるのかと、今からワクワクしてきますね!

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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