2022/07/27 (水) 18:00 16
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが佐世保競輪場で開催されたGIII「九十九島賞争奪戦」を振り返ります。
2022年7月26日(火) 佐世保12R 開設72周年記念 九十九島賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①井上昌己(86期=長崎・43歳)
②守澤太志(96期=秋田・37歳)
③郡司浩平(99期=神奈川・31歳) ※欠場
④杉森輝大(103期=茨城・39歳)
⑤山田庸平(94期=佐賀・34歳)
⑥伊藤信(92期=大阪・38歳)
⑦和田健太郎(87期=千葉・41歳)
【初手・並び】
⑦(単騎)
←⑨⑤①(九州)②⑧(北日本)⑥(単騎)④(単騎)
【結果】
1着 ⑤山田庸平
2着 ②守澤太志
3着 ⑧和田圭
7月26日には長崎県の佐世保競輪場で、九十九島賞争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。S級S班では、郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)と守澤太志選手(96期=秋田・37歳)が出場しており、いずれも好内容で決勝戦に勝ち上がっています。ところが、郡司選手は決勝戦を病気のため欠場。かなりいいデキという印象で、決勝戦でも大いに期待できそうだっただけに、これは残念でした。
新田祐大選手(90期=福島・36歳)の走りも注目されるところでしたが、こちらは前節よりもさらに調子が悪いというか、冴えないというか…。新田選手“らしさ”が、まったく感じられないシリーズで、準決勝にすら進めずに敗退してしまいました。次に走るのは西武園でのオールスター競輪(GI)ですが、それまでにどれだけ調子を戻せるかが、カギとなりそうです。
新田選手とは逆に素晴らしいデキだったのが、決勝戦では地元・九州ラインの先頭を任された中川誠一郎選手(85期=熊本・43歳)。良くも悪くも気分屋というか、ムラっぽいところのある選手ですが、それがまた魅力なんですよね。それに、九州地区でのレースではいつも、本当にいい走りをするんですよ。二次予選や準決勝での力強い走りから、絶好調なのは間違いなし。ここを目標に、かなり身体をつくってきていました。
中川選手の番手を回るのは、初日特選では九州ラインの先頭を走っていた山田庸平選手(94期=佐賀・34歳)。今年の競輪シーンにおいて、随所で存在感を発揮しています。本当に力をつけていますよね。そして、九州ラインの3番手を固めるのが、ここ佐世保がホームバンクである井上昌己選手(86期=長崎・43歳)。この出場メンバーと並びならば、優勝まで十分に期待できそうです。
決勝戦でもうひとつのラインが北日本で、こちらは守澤選手が先頭に。怪我の影響もあって一時は順調さを欠いていましたが、もう本調子でしょう。マーク選手とはいえタテ脚もあるので、自力での勝負でもとくに問題なし。その番手を回るのは、佐世保記念と好相性の和田圭選手(92期=宮城・36歳)で、守澤選手の走り次第ではありますが、こちらも上位争いが可能でしょう。
郡司選手の欠場で単騎となった和田健太郎選手(87期=千葉・41歳)は、単騎を選択。レース前の顔見せでは、九州ラインの4番手を主張していましたね。あとは、伊藤信選手(92期=大阪・38歳)と杉森輝大選手(103期=茨城・39歳)も単騎勝負を選択。伊藤選手は、このシリーズで非常にデキがよかった選手の一人で、立ち回りや展開次第では侮れない側面があります。
以上、かなりの細切れ戦で、「中川選手が事実上の先行1車」といういささか特殊な組み合わせとなった決勝戦。機動型である郡司選手がいなくなったことで、落ち着いた流れとなりそうですが…さあ、どうなるでしょうか。それでは、回顧に入っていきましょう。スタートを取りにいったのは井上選手で、想定通りにここは九州ラインが前受け。その後ろの4番手は、車番通りに守澤選手がつけます。
しかし、単騎の和田健太郎選手がその外を併走して、ポジションを主張。とはいえ、守澤選手もここは引けません。7番手に伊藤選手、8番手に杉森選手と、単騎の2名は後方からのレースを選択。これで、初手の並びが決まります。以降に大きな動きはなく、和田健太郎選手がヨコの動きで守澤選手のポジションを奪おうとした程度。初手から態勢が変わらないままで、レースは赤板(残り2周)を迎えました。
ここで和田健太郎選手が動いて、赤板を通過して先頭誘導員が離れたところで、先頭の中川選手を斬って先頭に。中川選手はいったん引きますが、2番手をキープします。中団の守澤選手や後方の単騎勢に前を斬りにくる気配はなく、レースは打鐘に。ここで、2番手の中川選手が軽く仕掛けて先頭を奪い返すと、和田健太郎選手はスッと引いて、九州ラインの直後を確保。それほどまでに、この位置が欲しかったということです。
その後も大きな動きはなく、ほぼ一列棒状で打鐘後のホームを通過。先頭の中川選手が、全力でスパートを開始します。ここで動いたのが後方にいた伊藤選手で、単騎での自力捲りを敢行。しかし、この仕掛けは中団までポジションを押し上げたところで、守澤選手にうまく合わされてしまいます。
逃げた中川選手もよくかかっていましたが、5番手から捲った守澤選手のスピードはそれ以上で、最終バック手前で井上選手に並ぶところまで進出。ここで中川選手はやや脚色が鈍って、それを察知した山田選手が番手捲りにいきます。ここでクレバーに立ち回ったのが守澤選手で、併走する井上選手を内に押し込めて、前にも外にも進路がない状況に。3コーナーでは、ずっと最後方から動かずにいた杉森選手も、前を捌いて伸びてきます。
先頭で粘る中川選手を、番手から捲った山田選手が最終2センターで捉えて、先頭で最後の直線に。しかし九州ライン3番手の井上選手は、前に中川選手、外にはコーナーをタイトに回った守澤選手や和田圭選手がいるため、内で詰まって進路がありません。直線では、先に抜け出した山田選手を、外に出した守澤選手や和田圭選手、後方から捲ってきた杉森選手などが必死に追いすがります。
それでも山田選手のスピードは最後まで衰えず、余裕をもって1着でゴールイン。意外にも、山田選手はこれが記念初制覇だったんですね。九州ラインによる上位独占こそ果たせませんでしたが、落ち着いた立ち回りで強敵の追撃を封じきったのですから、胸を張れる内容ですよ。彼がいま発揮している存在感から考えると、「ようやくの記念優勝」といった感じで、遅すぎたくらいです。
2着が守澤選手で3着に和田圭選手と、北日本勢が上位に食い込みました。普段はマーク選手として活躍している守澤選手ですが、自力でもやれるところを見せましたね。和田健太郎選手が「九州ラインの後ろ」に徹底的にこだわる走りをしましたが、それがなくて「ひとつ前」から勝負できていれば、もっときわどい勝負に持ち込めたかもしれません。あの和田健太郎選手の動きは、結果的に九州ラインを有利にしているんですよ。
勝負どころで内で詰まって5着に終わった井上選手については「仕方ない」が素直な感想でしょうか。というのも、あの位置は誰にだって狙われるからです。よほど早くに山田選手が番手捲りにいって、九州ラインの「二段駆け」にでもなれば話は別ですが、ライン先頭の中川選手が好調でかかっているとなると、山田選手もそうそう早くに前へは踏めない。となれば、捲る選手は井上選手の外を抑えにきますよ。
今年の獲得賞金ランキング7位と、グランプリ出場が十分に意識できるところにいる山田選手。ずっと兄の山田英明選手(89期=佐賀・39歳)を追う立場でしたが、いまの充実ぶりは、その兄に比肩するところまできていると思います。まだ自力で勝負するのか、それとも番手を回る競輪が増えるのか…このあたりは番組次第でもあるので悩ましいところですが、今後のさらなる飛躍も十分に期待できそうですね。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。