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山田裕仁のスゴいレース回顧

【サマーナイトフェスティバル 回顧】史上初の“連覇”を支えた犬伏湧也

2022/07/19 (火) 18:00 27

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが玉野競輪場で開催されたGII「サマーナイトフェスティバル」を振り返ります。

優勝した松浦悠士(撮影:島尻譲)

2022年7月18日(月) 玉野12R 第18回サマーナイトフェスティバル(GII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①新田祐大(90期=福島・36歳)
②松浦悠士(98期=広島・31歳)
③和田健太郎(87期=千葉・41歳)
④森田優弥(113期=埼玉・24歳)
⑤荒井崇博(82期=佐賀・44歳)
⑥岩本俊介(94期=千葉・38歳)
⑦佐藤慎太郎(78期=福島・45歳)
⑧山田英明(89期=佐賀・39歳)
⑨犬伏湧也(119期=徳島・26歳)

【初手・並び】
←①⑦(北日本)⑧⑤(九州)⑨②(中四国)④(単騎)⑥③(南関東)

【結果】
1着 ②松浦悠士
2着 ⑥岩本俊介
3着 ⑦佐藤慎太郎

初の連覇達成に期待がかかる松浦悠士

 7月18日には玉野競輪場で、サマーナイトフェスティバル(GII)の決勝戦が行われています。3日間の短期間決戦で、昨年の覇者である松浦悠士選手(98期=広島・31歳)など、今年は9名のS級S班がすべて参戦したハイレベルなシリーズに。まだ真新しい玉野バンクで、アツい戦いが連日繰り広げられました。

 無傷で決勝戦へと勝ち上がったのは、新田祐大選手(90期=福島・36歳)と荒井崇博選手(82期=佐賀・44歳)の2名。新田選手は、まだ絶好調とはいえないものの「かなり調子を戻してきたな」という印象でした。そしてS級S班からは、松浦選手と佐藤慎太郎選手(78期=福島・45歳)が決勝戦に進出。敗退したS級S班の選手は、最終日の走りも総じてやや精彩を欠いており、デキの面でもの足りなさがあったと思います。

準決勝から冴えた走りを見せていた岩本俊介(撮影:島尻譲)

 それとは対照的に、デキのよさが目立っていたのが岩本俊介選手(94期=千葉・38歳)。4番手から一気に捲った初日、最後の直線で非常にいい伸びをみせた準決勝と、好内容で決勝戦へと駒を進めてきました。また、犬伏湧也選手(119期=徳島・26歳)も好調モード。前節の小松島記念でも素晴らしい走りをしていましたが、その時のデキをキープして、ここに臨んできましたね。

 決勝戦は「ラインが4つで単騎が1名」という、細切れの混戦模様。それだけに、展開がカギを握ります。主導権を奪う可能性がもっとも高いのは、犬伏選手が先頭を走る中四国ライン。その番手を回るのは、地元でもある松浦選手です。松浦選手はこれで5年連続で決勝戦進出と、サマーナイトフェスティバルとの相性がとにかくいい。まだ誰も達成していない“連覇”へ向けて、視界よしといったところでしょう。

 北日本ラインは初日特選や準決勝に続いて、ここも新田選手が「前」で佐藤選手が「後ろ」という組み合わせ。連日ワンツーを決めているのもあって、決勝戦でも人気を集めています。南関東ラインは、好調の岩本選手と和田健太郎選手(87期=千葉・41歳)のコンビ。岩本選手の立ち回り次第では、和田選手が直線で突き抜けるような展開も、ここは十分に考えられます。

無傷で勝ち上がったベテラン・荒井崇博(撮影:島尻譲)

 九州勢は、山田英明選手(89期=佐賀・39歳)が先頭を任されて、番手に荒井選手という並びに。レース運びが巧みなベテラン勢だけに、誰も想像もしなかったような「奇襲」をかけてくる可能性があり、侮れないですよね。そして最後に、単騎を選択した森田優弥選手(113期=埼玉・24歳)。細切れ戦となったここならば、単騎でも立ち回り次第で上位への食い込みが可能でしょう。

予想飛び交うなか決勝の火蓋が切られる

 つまり、どのラインにも十分に勝機があるという、予想する側としてもたいへん面白い決勝戦に。あいにくの雨模様でしたが、レース中の降雨がそれほどなかったのは幸いでしたね。では、回顧に入りましょう。スタートが切られると、ここは新田選手が迷わず前に。佐藤選手がそれに続いて、北日本ラインの「前受け」が決まります。決勝戦ではどうするかと思われましたが、新田選手はためらいませんでした。

ためらいなく前受けを選択した新田選手(撮影:島尻譲)

 その後ろにつけたのは山田選手が先頭の九州ラインで、犬伏選手はその後の5番手に。単騎の森田選手は、九州勢をマークするように7番手につけます。そして最後方に、岩本選手と和田選手というのが、初手の並び。レースが動き出したのは青板(残り3周)の周回で、後方にいた南関東ラインがゆっくり前へと進出。先頭の新田選手に並ぶところまで、ポジションを押し上げます。

 そして、赤板(残り2周)を通過して先頭誘導員が離れたところで、岩本選手が新田選手を斬って前に。新田選手は抵抗せずに、ポジションを下げます。ここで、岩本選手の動きに連動したのが山田選手で、新田選手を外から抑えるようなカタチで、中四国ラインの後ろにつけました。さらに、後方にいた犬伏選手も進路を外へと変えて、いつでもカマシにいける態勢を整えます。

 犬伏選手は、打鐘前の2コーナー過ぎから早々と始動。一気にカマシて先頭に立ち、主導権を奪いにいきました。後方から「その後ろ」を狙っていたのが単騎の森田選手で、犬伏選手のカマシに合わせて前を追います。しかし、犬伏選手のダッシュは非常に鋭く、思いのほか差が詰まらない。犬伏選手は打鐘過ぎで先頭に立ちますが、森田選手とはかなり車間が開いていました。

森田、新田両選手が失速、中四国ラインは先頭をキープ

 犬伏選手が先頭で、九州ラインは3番手、南関東ラインが5番手という隊列に変わって、打鐘過ぎのホームに。森田選手はまだ諦めず、中四国ラインの後ろを狙って必死に前を追って、1コーナー手前で荒井選手のポジションを奪いにいきます。しかし、荒井選手にあっさりと跳ね返されて、その後は失速。後方では、新田選手が進路を外に出して、前を捲りにいく態勢に入りました。

 最終1センターで新田選手は、下がってくる森田選手を避けるために外を回りますが、その際にやや膨らんでしまいます。その間に、後方から内をロスなく回った岩本選手が、九州勢の後ろまで進出しました。後続の和田選手とは離れてしまいましたが、この流れならば十分に勝負できる位置。外から捲りにいった新田選手は、その後も意外なほど伸びがなく、結局は不発に終わってしまいます。

森田選手(青)の両脇を抜けていく新田選手(白)と岩本選手(緑)(撮影:島尻譲)

 その間も、前では犬伏選手がかかりのいい逃げで先頭をキープ。早くから踏んでいるのですが、最終バックを過ぎても勢いは止まりません。番手の松浦選手は、前との車間を少し切りながら、後続を引きつけます。山田選手も捲りにいきましたが、松浦選手に並ぶところまでもいけず一杯に。それを察知した荒井選手が、3コーナー手前で内から前を強襲。同時に、荒井選手の後ろにいた岩本選手も外から捲りにいきました。

一騎打ちを制したのは松浦選手

 犬伏選手が先頭を守り抜いたままで4コーナーを回って、最後の直線へ。番手の松浦選手は進路を外に出して、満を持して差しにいきます。内からは荒井選手が前に迫りますが、仕掛けを待った松浦選手には、まだ余力がある。しかし、そんな松浦選手を捉える勢いで外から伸びたのが、岩本選手です。4コーナーで岩本選手の後ろに切り替えた佐藤選手も、そのスピードに乗って一気の伸びをみせます。

岩本選手との一騎打ちに競り勝った松浦選手(撮影:島尻譲)

 ゴールの手前では、外から伸びた岩本選手と、それを止めにいった松浦選手との一騎打ちに。ほとんど横並びとなったゴールで、ほんの少しだけ車輪が出ていたのは、先に抜け出した松浦選手のほうでした。犬伏選手の力強い先行のおかげもあって、史上初となるサマーナイトフェスティバル“連覇”を達成。松浦選手にとって今年初のビッグ制覇でもあり、レース後は本当にうれしそうでしたね。

誇らしげな松浦選手と先行した犬伏選手(撮影:島尻譲)

 優勝の立役者となった犬伏選手は、かなり力をつけていますよ。雨を考慮して、どのラインも早めに動くという厳しい展開のなかを、最後の直線に入るまで踏ん張り通したのには、ちょっと驚かされました。松浦選手も「ワンツーを決められるか」と、仕掛けをギリギリまで我慢していましたからね。今回はデキのよさもあっての結果でしょうから、この「次」でどういった走りを見せられるかを見たいですね。

 惜しい2着だった岩本選手は悔しい結果となりましたが、道中の立ち回りや判断なども冴えていて、100点満点といっても過言ではない競輪をしたと思います。素晴らしいデキにあったのも手伝って、シリーズを通して文句なしにいい走りができていました。この強い相手にこれだけのパフォーマンスを発揮できたことは、今後にも繋がるはずですよ。

GIへの期待高まる決勝戦だった

 人気に応えられなかった新田選手については、根本的には「調子を戻してきてはいるが、まだ好調とはいえない」のが敗因です。勝ち上がりの過程ではうまく立ち回って結果を出していましたが、本来は手のつけられないほどのスピードが持ち味の選手。本調子にあるのであれば、後方から一気に捲りきるような強気の競輪を仕掛けてくるはず。つまり、もう少し時間が必要ということでしょう。

 3番手から捲りにいった山田選手も、自分のやるべきことをしっかりやっている。結果はともかく、どの選手も「勝つための走り」ができていたのは、本当にうれしいですね。それもあって、ファンが手に汗握るような非常に見応えのある決勝戦となった。次の「ビッグ」である西武園でのオールスター競輪(GI)も楽しみで、年末へ向けてどんどん盛り上がっていきたいところです。

史上初のサマフェス連覇が達成された(撮影:島尻譲)

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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