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山田裕仁のスゴいレース回顧

【水都大垣杯 回顧】前を“斬る”勇気とは

2022/03/14 (月) 18:00 18

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが大垣競輪場で開催された「水都大垣杯」を振り返ります。

初日から白星を重ねる完全優勝で今年2度目の記念Vを飾った平原康多(撮影:島尻譲)

2022年3月13日(日) 大垣12R 開催69周年記念 水都大垣杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①山口拳矢(117期=岐阜・26歳)
②菊地圭尚(89期=北海道・41歳)
③郡司浩平(99期=神奈川・31歳)
④飯野祐太(90期=福島・37歳)
⑤平原康多(87期=埼玉・39歳)
⑥石川裕二(99期=茨城・37歳)
⑦岩本俊介(94期=千葉・37歳)
⑧大森慶一(88期=北海道・40歳)
⑨村田雅一(90期=兵庫・37歳)

【初手・並び】
←④②⑧(北日本) ⑤⑥(関東) ①⑨(中近) ③⑦(南関東)

【結果】
1着 ⑤平原康多
2着 ①山口拳矢
3着 ⑦岩本俊介

番手の競輪が続いた平原は決勝では自力に

 このところ、あの寒さが何だったのかと思うほど、急激に暖かくなってきました。花粉症に悩まされる時期でもありますが、冬の寒さが身にしみる競輪選手からしてみると、やはり春の暖かさはうれしいものです。当たり前ですが、暖かいほうが身体はよく動いてくれますからね。

 さて、3月13日に大垣競輪場で、水都大垣杯(GIII)の決勝戦が行われました。ここには、平原康多選手(87期=埼玉・39歳)と守澤太志選手(96期=秋田・36歳)、そして郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)と、3名のS級S班が出場。残念ながら守澤選手は二次予選で敗退となりましたが、あとの2名は順当に決勝戦へと駒を進めています。

 初日特選から無傷の3連勝で決勝戦に進出したのが、平原選手。とはいえ、勝ち上がる過程ではライン番手からの勝負だったものが、決勝戦では一転して自力勝負となりました。調子自体はなかなかよさそうで、機動力も高いレベルで備えているとはいえ、これはちょっと気がかりでしたね。平原選手が先頭を走る関東ラインは、番手を石川裕二選手(99期=茨城・37歳)が務めます。

 デキのよさが目立っていたのが郡司選手です。初日特選こそ平原選手に惜敗しましたが、主導権を奪った森田優弥選手(113期=埼玉・23歳)の番手から捲った平原選手に対して、郡司選手は捲り追い込みでの2着。その後も自力で勝負して連勝と、その能力の高さをいかんなく発揮していました。郡司選手は、決勝戦も自力で勝負。ここは、岩本俊介選手(94期=千葉・37歳)とのタッグで挑みます。

 もっとも人数が多いのは、3名が勝ち上がった北日本ライン。その先頭を任されたのは飯野祐太選手(90期=福島・37歳)で、番手に菊地圭尚選手(89期=北海道・41歳)。3番手を大森慶一選手(88期=北海道・40歳)が固めます。積極的に主導権を奪いにいきたいラインが見当たらないので、飯野選手が逃がされるカタチもありそう。いずれにせよ、強力な他地区と互角に張り合うには、ラインの結束力が要求されます。

 大垣がホームバンクである山口拳矢選手(117期=岐阜・26歳)は、約2カ月ぶりにレースへと復帰。久々の実戦ながら、地元の期待を背負っての出場で、見事に決勝進出を果たしました。とはいえ、そのデキは「休養前よりは幾分よくなった」という程度で、地元記念らしく番組面でかなり助けられての勝ち上がりだったと思います。決勝戦では番手に村田雅一選手(90期=兵庫・37歳)がついて、中近ラインで勝負となりました。

地元のエースとして期待を集めた山口拳矢(撮影:島尻譲)

斬って斬られて結局は初手と同じ位置取りに

 では、決勝戦の回顧です。スタートの号砲が鳴ると、まずは北日本ラインの大森選手が飛び出していきました。その後ろを確保したのが関東ラインで、平原選手は4番手から。6番手に山口選手、そして後方8番手に郡司選手というのが、初手の並びです。山口選手が1番車の時点で、変則的な並びになってもおかしくないとは思っていましたが…コレはけっこう意外でしたね。

 レースが動き出したのは、赤板(残り2周)の手前から。後方にいた郡司選手が、少し早めに動き出して、前を斬りにいきます。この動きに、中近ラインの山口選手や、関東ラインの平原選手も瞬時に反応して追随。先頭誘導員が離れたところで郡司選手が先頭に立つと、続いて山口選手がそれを斬って、さらに今度は平原選手が山口選手を斬って先頭に立ちました。

 そして2コーナーを回ったところで、最初は前受けだった北日本ラインの飯野選手が平原選手を叩きにいって、先頭を奪取したところでレースは打鐘を迎えます。赤板から打鐘までの短期間に「斬って斬られて」が繰り返された結果、初手の並びとまったく同じ隊列となった。こうなってしまうと、後方8番手となった郡司選手はかなり厳しい。逆に、中団前の4番手が取れた平原選手は流れが向きそうです。

打鐘後2センター。位置取りが目まぐるしく変わり、人気を集めた郡司(赤)は8番手になってしまう(撮影:島尻譲)

 ここで決まった並びのままでしばらくレースは進み、最終1コーナーまでは一列棒状のまま。ここで、6番手の少し外で前の様子をうかがっていた山口選手のポジションを、内からうまくすくった郡司選手が奪いにかかります。郡司選手はここで前に踏んだ勢いのまま、さらに前へと進出を開始。しかし、その動きを察知した平原選手にキッチリ合わされてしまい、苦しくなってしまいます。

 時を同じくして、先頭を走っていた飯野選手も苦しくなり、それをみた北日本ライン番手の菊地選手は早々と番手捲りに。最終バック通過前から、各ラインが捲り合うような様相となってきました。菊地選手が番手捲りから粘り込もうとするところに、外から平原選手が襲いかかって併走するカタチで、最終3コーナーに突入。後方では、郡司選手の番手にいた岩本選手が切り替えて、内を突いて一気に差を詰めています。

 そして最後の直線。粘る菊地選手をねじ伏せるように平原選手が先頭に立ったところに、インの最短コースをうまく突いた岩本選手や、北日本ライン3番手の大森選手が襲いかかろうとしますが、そこからの伸びはイマイチ。平原選手に捲られた菊池選手も失速はしておらず、2着争いに持ち込めそうな態勢です。

 そこに、外のイエローライン付近を素晴らしい上がりの脚で突っ込んできたのが、郡司選手の動きで仕掛けが遅れた山口選手。最終2センターではまだ7番手でしたが、一気に突き抜けそうな勢いで伸びてきます。しかし、この追い込みは残念ながら届かず、先に抜け出していた平原選手が1着でゴールイン。昨年に続く、大垣記念の連覇を達成しています。

 大接戦となった2着争いは、地元代表である山口選手に凱歌があがりました。3着に岩本選手で、4着が菊地選手。ポジション争いで後方からとなった郡司選手は7着という結果で、デキもよかっただけに残念でしょうね。初手の並びで後方になったことが、最後の最後まで響いたといえます。

 郡司選手とは対照的に、初手の並びで4番手を取れたのが、平原選手が優勝できた要因。そして、「自分が逃げるカタチになってもいい」と覚悟して、躊躇せずに山口選手を斬りにいったことも、功を奏した印象です。結果的には飯野選手が平原選手を斬りにきて平原選手は4番手となったわけですが、動き出すタイミング次第では、自分が「逃がされる」ことも十分に考えられたんです。

残り2周で前に出た山口(白)を斬りにいく平原(黄)。結果的にこの決断が功を奏した(撮影:島尻譲)

 その“リスク”を取りにいった結果、優勝という最高のリターンを得ることができた。こういったポジション争いの駆け引きや立ち回りの巧さは、さすが平原選手ですよね。逆に、初手からつまずいてしまった郡司選手は、素晴らしいデキだったにもかかわらず、そこから挽回できなかった。現在の競輪における「初手の並び」の重要性が、改めて感じられたレースだったといえます。

 2着の山口選手は、郡司選手に内からすくわれて、仕掛けのタイミングが遅れてしまったのが敗因。大敗もありえた展開だったと思いますが、そこを最終2センターから直線だけで巻き返してしまうのだから、やはり力があります。久々の実戦だったことを考えれば、悪くない結果。さらに調子を上げて、今後の大レースでの活躍を期待したいですね。

 動き出すのをしっかり我慢して最短コースを突いた岩本選手や、早めの番手捲りから最後の最後までよく粘った菊地選手も、いい走りをしていましたよ。展開に左右された面はありつつも、どのラインの選手も自分の仕事をしっかりしていた印象。見応えもあり、なかなかいいレースだったと思います。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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