2025/09/08 (月) 18:00 14
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが岐阜競輪場で開催された「長良川鵜飼カップ」を振り返ります。
2025年9月7日(日)岐阜12R 開設76周年記念 長良川鵜飼カップ(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①清水裕友(105期=山口・30歳)
②嘉永泰斗(113期=熊本・27歳)
③菅田壱道(91期=宮城・39歳)
④纐纈洸翔(121期=愛知・23歳)
⑤園田匠(87期=福岡・43歳)
⑥中村圭志(86期=熊本・44歳)
⑦村田雅一(90期=兵庫・41歳)
⑧志智俊夫(70期=岐阜・53歳)
⑨犬伏湧也(119期=徳島・30歳)
【初手・並び】
←⑨①(中四国)③(単騎)⑦(単騎)②⑥⑤(九州)④⑧(中部)
【結果】
1着 ①清水裕友
2着 ⑨犬伏湧也
3着 ⑧志智俊夫
9月7日には岐阜競輪場で、長良川鵜飼カップ(GIII)の決勝戦が行われています。福井・共同通信社杯競輪(GII)の開催前というのもあってか、ここに参戦のS級S班は清水裕友選手(105期=山口・30歳)と犬伏湧也選手(119期=徳島・30歳)の2名にとどまりました。しかし、松井宏佑選手(113期=神奈川・32歳)や嘉永泰斗選手(113期=熊本・27歳)など、その他の機動型もなかなか強力です。
初日特選で中四国は連係せず、犬伏選手は小倉竜二選手(77期=徳島・49歳)との師弟コンビで出走。清水選手は、村田雅一選手(90期=兵庫・41歳)と連係します。コマ切れ戦となったここは、犬伏選手が積極的に主導権を奪い押し切りにかかりますが、最後方から仕掛けた単騎の嘉永選手が素晴らしい伸びをみせます。犬伏選手も最後までよく粘りますが、捲り追い込んだ嘉永選手が突き抜けて1着をとりました。
2着には逃げた犬伏選手が粘って、最後に外をよく伸びた菅田壱道選手(91期=宮城・39歳)が3着。3番手から捲りにいった清水選手は、伸びを欠いて7着に終わっています。それにしても、調子がいいときの嘉永選手は本当に強いですね。犬伏選手もなかなかデキがよさそうで、2着に敗れたとはいえ、この初日特選でいい手応えが得られたことでしょう。清水選手については、二次予選や準決勝の内容次第でしょうか。
嘉永選手はやはり好調モードで、準決勝では番手の園田匠選手(87期=福岡・43歳)に差されたものの、6番手から捲った走りは力強いものでした。清水選手は準決勝を後方からのひと捲りで快勝するも、やはりデキがいいという感じはしませんでしたね。そして、圧巻だったのが犬伏選手が準決勝でみせた走り。打鐘後の2センターからカマシて先頭に立ち、そのまま後続に6車身差をつけて勝ち上がっています。
そんな犬伏選手は、決勝戦では清水選手との「中四国SSコンビ」で勝負となりました。清水選手が1番車と車番にも恵まれたここは、どのようなレースの組み立てとなるのか注目です。そして、唯一の3車ラインとなった九州勢は、好調の嘉永選手が先頭で、番手に中村圭志選手(86期=熊本・44歳)、3番手を固めるのが園田選手という布陣です。ここは、中団でうまく立ち回りたいところですね。
中部勢は、地元の志智俊夫選手(70期=岐阜・53歳)と、昨年のヤンググランプリ覇者である纐纈洸翔選手(121期=愛知・23歳)が決勝戦に駒を進めました。当然ながら纐纈選手が前で、志智選手が番手を回ります。志智選手はこの地元記念に向けて、かなり身体をつくって臨んできた様子。纐纈選手もデキは悪くはありませんが、この相手関係で車番にも恵まれませんでしたから、厳しい戦いになりそうです。
単騎で勝負するのが村田雅一選手(90期=兵庫・41歳)と菅田壱道選手(91期=宮城・39歳)で、どちらも狙うは「主導権を奪うラインの直後」でしょう。普通に考えれば犬伏選手の主導権ですが、ここは中部勢の纐纈選手が逃げる可能性もありそうで、嘉永選手の意表のついた先行策もゼロではない。うまく流れを読んで柔軟に立ち回ることができれば、単騎でも上位への食い込みが可能でしょう。
いずれにせよ、どのような展開になるのか注目の一戦。それでは、決勝戦の回顧に入りましょうか。レース開始を告げる号砲が鳴ると、1番車の清水選手と3番車の菅田選手がいい飛び出しをみせます。ここは清水選手がスタートを取り、中四国勢の前受けが決まりました。単騎の菅田選手が3番手につけて、4番手も単騎の村田選手。嘉永選手は5番手からで、後方8番手に纐纈選手というのが、初手の並びです。
後ろ攻めとなった纐纈選手が動き出したのは、青板(残り3周)周回のバックから。ゆっくりとポジションを上げていって、周囲の動きを見定めます。先頭の犬伏選手に突っ張るような気配はなく、纐纈選手は赤板(残り2周)掲示の通過と同時に、前を斬って先頭に立ちました。村田選手は中部勢の後ろに俊敏に切り替え、さらに菅田選手も切り替えて、村田選手の後ろにつけます。
嘉永選手はその後ろの中団5番手で、犬伏選手は下げて後方の外を回っています。そしてレースは打鐘を迎えますが、先頭の纐纈選手はまだペースを上げずに、打鐘後の2センターを回ります。そして最終ホームに帰ってくるところで、後方の犬伏選手が動きます。バンクを駆け上がってからの山おろしで加速をつけ、素晴らしい加速で外から一気に強襲。清水選手も、犬伏選手にぴったり離れずついていきます。
嘉永選手もその後に仕掛けますが、その時には犬伏選手は纐纈選手の外まで進出。最終1センターで菅田選手が進路を外に振って嘉永選手を牽制したことで、さらに立ち後れてしまいます。犬伏選手はバックストレッチに入ったところで前に出切って先頭に立ち、叩かれた纐纈選手はここで早々と失速。しかし、その番手にいた志智選手がすぐさま前に出て、中四国勢に食らいつきました。
嘉永選手は最終バックでも菅田選手の前に出ることができないままで、完全に不発。こうなってしまうと、レースは中四国勢のものです。3番手の志智選手が清水選手との差をジリジリと詰めていきますが、先頭の犬伏選手にはまだ余裕がある。最終3コーナーを回ったところで、志智選手が清水選手の直後まで迫って、その後ろから村田選手や菅田選手が追うという隊列で、最終2センターを回りました。
先頭の犬伏選手は、直線の入り口で踏み直して再加速。それを、少し外に出した清水選手が差しにいきます。その後ろから志智選手と村田選手が並んで前を追うという態勢で、30m線を通過。先頭の犬伏選手が最後の踏ん張りをみせますが、清水選手が少しずつ差をつめていきます。そして最後はハンドル投げ勝負となりましたが、ゴールラインでグイッとひと伸びしたのは…外の清水選手のほうでしたね。
ゴール直前で犬伏選手を差した清水選手が1着で、僅差の2着に犬伏選手。3着は最後までしっかり伸びた志智選手で、村田選手が4着という結果。嘉永選手はデキのよさを生かせず、7着に終わっています。清水選手は、4月の高知記念以来となる今年2度目のGIII優勝で、苦手な暑い時期に優勝できたのは大きいでしょうね。本調子とはいえないデキでも、さすがの底力ですよ。
終わってみればS級S班コンビの完勝で、格の違いをみせつけたという結果。惜しくも敗れた犬伏選手も、次の福井・共同通信社杯競輪(GII)へ向けて、いい手応えが得られたのではないでしょうか。これは清水選手もそうですが、獲得賞金ランキングでは上位に大きく水をあけられている状況。現S級S班として、賞金の上積みとビッグ奪取に向けて、手をこまねいてはいられません。
そして、地元の意地をみせてくれた志智選手について、触れないわけにはいきませんね。纐纈選手が脚をなくした後も、中四国勢に食らいついて3着を奪取。53歳という年齢であの走りができるというのは、やはり驚きですよ。犬伏選手の番手を回った準決勝での、ダッシュで離されてからのリカバリにも感心させられました。これで「来年の」競輪祭出場権を手に入れたわけで、まだまだ奮闘してほしいものです。
残念だったのはやはり、嘉永選手の走り。まだペースが上がっていない段階で、犬伏選手よりも先に仕掛けることができたはずです。これはタラレバになりますが、先捲りを打つか、せめて犬伏選手と同時に仕掛けていれば…と思ってしまうほど、嘉永選手のデキのよさは目立っていた。少なくとも、捲り不発で後方ママで終わったこの決勝戦よりは、多くの人に“納得感”を持ってもらえたことでしょう。
後方からの捲りという勝ちパターンがあるのはいいですが、相手が強くなる記念や特別の決勝戦レベルでそれが通用するかといえば、答えは“否”ですよね。あの脇本雄太選手(94期=福井・36歳)ですら、ときには先行のカードを切る。それなのに、いまの嘉永選手は大舞台になると、「先行」や「先に動く」といったカードを切れなくなっている。そしてそれに、周りの選手も気づいています。
レース後に犬伏選手が「嘉永君が仕掛けなかったのも大きかったと思う」とコメントしていますが、おそらく犬伏選手は、嘉永選手が自分より先に動かないと踏んでいた。だからこそ、犬伏選手は自分のタイミングで、いわば安心して仕掛けられているんですよね。勝利の栄冠をつかむために不可欠なのは、勝負にいく勇気。タテ脚やヨコの技術だけでなく、心の強さも備えているものが、“超一流”と呼ばれるのです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。