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山田裕仁のスゴいレース回顧

【泗水杯争奪戦 回顧】実際にレースを支配していたのは古性優作

2025/11/04 (火) 18:00 21

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが四日市競輪場で開催された「泗水杯争奪戦」を振り返ります。

泗水杯争奪戦を制した神山拓弥(写真提供:チャリ・ロト)

2025年11月3日(月)四日市12R 開設74周年記念 泗水杯争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①古性優作(100期=大阪・34歳)
②浅井康太(90期=三重・41歳)
③眞杉匠(113期=栃木・26歳)
④稲川翔(90期=大阪・40歳)
⑤山口拳矢(117期=岐阜・29歳)
⑥佐々木雄一(83期=福島・45歳)
⑦山田英明(89期=佐賀・42歳)
⑧神山拓弥(91期=栃木・38歳)
⑨和田圭(92期=宮城・39歳)

【初手・並び】

←⑤②(中部)①④(近畿)⑦(単騎)③⑧⑨⑥(東日本)

【結果】

1着 ⑧神山拓弥
2着 ⑦山田英明
3着 ④稲川翔

ビッグさながらの超豪華メンバー集結!

 11月3日には三重県の四日市競輪場で、泗水杯争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。前橋・寛仁親王牌(GI)の直後でしたが、まるで特別競輪のような超豪華メンバーがここに参戦。現S級S班が5名出場というだけですごいというのに、来年のS級S班が確定している嘉永泰斗選手(113期=熊本・27歳)や寺崎浩平選手(117期=福井・31歳)まで出場しているのですから、とんでもないですよ。

来期SSの嘉永泰斗、寺崎浩平も参戦!(写真提供:チャリ・ロト)

 地元代表である浅井康太選手(90期=三重・41歳)が初日特選に乗れないほどレベルが高いメンバーで、それだけにこのレースに注目が集まります。ラインが3つに単騎が3名という組み合わせとなった初日特選は、深谷知広選手(96期=静岡・35歳)が赤板(残り2周)掲示を過ぎたところで主導権を奪います。その直後の3番手につけた寺崎選手が、最終バックストレッチで捲りにいきました。

 深谷選手を捲りきって寺崎選手が先頭に立つも、最後の直線では粘りきれず4着。その番手から差した古性優作選手(100期=大阪・34歳)が1着で、後方から最後いい伸びをみせた山口拳矢選手(117期=岐阜・29歳)と眞杉匠選手(113期=栃木・26歳)が、2着と3着という結果でした。犬伏湧也選手(119期=徳島・30歳)は後方に置かれ、捲り不発で7着に終わっています。

犬伏らSS3名は準決敗退…地元・浅井は優出

 その後、5名のS級S班は全員が準決勝まで進出しますが、岩本俊介選手(94期=千葉・41歳)と松浦悠士選手(98期=広島・34歳)、犬伏選手の3名は残念ながらここで敗退。好調モードだったのが初日特選で2着に食い込んだ山口選手で、二次予選と準決勝はいずれも浅井選手の前を走ってワンツーを決め、決勝戦まで勝ち上がりました。寛仁親王牌で落車していた浅井選手ですが、ダメージを心配する必要はなさそうですね。

 そのほかにも、すべて番手回りとはいえオール1着で勝ち上がってきた神山拓弥選手(91期=栃木・38歳)や、単騎勝負の準決勝でも2着に好走していた山田英明選手(89期=佐賀・42歳)など、デキのいい選手は多かったですよ。古性選手もだいぶ調子を戻してきた印象で、眞杉選手も悪くない仕上がりにありそう。能力とデキを兼ね備えていなければ、この相手関係で勝ち抜けませんからね。

無傷で勝ち上がった神山拓弥(左)、好走見せていた山田英明(写真提供:チャリ・ロト)

東日本は4車結束、他ラインはどう動く?

 決勝戦は三分戦で単騎が1名というメンバー構成。4車という“数の利”があるのが眞杉選手が先頭の東日本ラインで、番手を眞杉選手と同県の神山選手が回ります。その後ろに北日本勢の和田圭選手(92期=宮城・39歳)と佐々木雄一選手(83期=福島・45歳)が続くという並びで、しかもここは「先行一車」なんですよね。眞杉選手をすんなり逃がしてしまうと、ほかのラインは厳しい戦いとなりそうです。

 近畿勢は、古性選手が先頭で番手が稲川翔選手(90期=大阪・40歳)という大阪コンビ。好調時の古性選手ならば、眞杉選手のライン分断という選択肢もありそうですが、タテ脚を元に戻そうとしている時期だけに、ここは正攻法かもしれません。そして中部勢は、二次予選や準決勝と同じく山口選手が前で、番手が浅井選手という組み合わせ。相手は強力ですが、地元の意地を見せたいところでしょう。

山口&浅井は“地元の意地”発揮なるか!?(写真提供:チャリ・ロト)

 そして、唯一の単騎勝負が山田選手。近畿勢か中部勢の後ろにつけて機敏に立ち回れば、このデキならば一発も十分に狙えそうです。課題はやはり、逃げイチである眞杉選手が先頭の東日本ラインに対して、どう立ち向かうか。それでは、そのあたりを確認しつつ、決勝戦のレースを振り返っていきましょう。

中部が前受け、古性は3番手から

中部勢が前受けに(写真提供:チャリ・ロト)

 レース開始を告げる号砲が鳴って、まずは1番車の古性選手と2番車の浅井選手が自転車を出していきます。ここは古性選手が浅井選手を前に出して、中部勢の前受けが決定。古性選手は3番手からで、近畿勢の後ろの5番手には単騎の山田選手がつけました。眞杉選手は6番手からの後ろ攻めで、おおむね車番から想定された通りの初手の並びとなりました。後方の眞杉選手が動き出したのは、青板(残り3周)周回の3コーナーから。中団の古性選手もこれに合わせて動き、3列併走で赤板のホームを迎えます。

 赤板掲示の通過と同時に古性選手が前を斬りますが、外の眞杉選手は動かず、いったん様子見の態勢に。その後に眞杉選手は後方に下げ、単騎の山田選手は内から動いて、近畿勢の後ろにつけます。山口選手が4番手、眞杉選手が6番手に替わりますが、バックストレッチに入ったところで、眞杉選手がカマシ気味のダッシュで始動。先頭の古性選手も合わせて前に踏み、一気にペースが上がります。

古性(1番車)が前を斬るが眞杉(3番車)は動かず(写真提供:チャリ・ロト)

一気にペースアップ!

 前を叩きにいった眞杉選手は、打鐘とほぼ同時に古性選手の外に並び、打鐘後の2センターでは和田選手までの3車が前に出切ります。古性選手は佐々木選手を捌きにいくかと思われましたが、最終ホームに帰ってきたところで佐々木選手が前に出て、古性選手はその後ろの5番手につけます。単騎の山田選手が7番手で、中部勢の先頭である山口選手は、後方8番手に置かれてしまいました。

地元・浅井(2番車)を背負う山口(5番車)は後方に…(写真提供:チャリ・ロト)

 再び一列棒状となって、最終ホームを通過。そのまま最終1センターも回りますが、バックストレッチに入ったところで、中団の古性選手が仕掛けます。ほぼ同時に後方の山口選手も捲りにいって、最終バックで山田選手の外まで進出。中団から捲った古性選手は和田選手の外に並んで、前を射程圏に入れます。しかし、ここで神山選手が外に動いて、古性選手の動きをブロックします。

地元・浅井は直線勝負に賭ける…!

 先頭では眞杉選手が踏ん張っていますが、その脚色はもう鈍り始めている。ブロックから戻った神山選手は、そのまま前に踏み込んで差しにいく態勢を整えます。山田選手は稲川選手の直後まで差を詰めてから、内の進路を狙っている様子。最終3コーナーでは、3つのラインが内外で併走する密集隊形となります。ここで、大外から捲ってきた山口選手を、稲川選手がヨコの動きでブロックしました。

山口(5番車)が大外から捲るも稲川(4番車)がブロック(写真提供:チャリ・ロト)

 密集した隊列のまま最終2センターを回ったところで、神山選手が眞杉選手の外に並び、その直後から古性選手と和田選手が前を追います。さらにその後ろでは、内から佐々木選手、山田選手、稲川選手が横並び。稲川選手のブロックでさらに外を回らされた山口選手は、イエローライン付近の8番手。浅井選手は最後方で、最後の直線勝負に賭けるしかないという状況で、最後の直線に向きました。

 直線の入り口で眞杉選手を差して先頭に立った神山選手の直後から、内の和田選手と外の古性選手が追います。その後ろの佐々木選手はごったがえす内に進路がなく、外からは山田選手と稲川選手が伸びてきます。浅井選手はその後ろで、山口選手は大きく離れた大外から。しかし、後続が追いすがるも、先頭に立った神山選手との差がなかなか詰まらないままで、30m線を通過します。

神山が超豪華メンバー相手に完全V!

 最後にいい伸びをみせたのは、内の古性選手や和田選手ではなく、外の山田選手と稲川選手。しかしそれでも、神山選手には届きません。眞杉選手の番手から力強く抜け出した神山選手が、そのまま先頭でゴールイン。2019年1月の大宮以来となる、じつに6年10か月ぶりのGIII制覇を、なんと完全優勝で決めてみせました。超豪華メンバーを相手に完全優勝ですから、これは本当に価値があります。

超豪華メンバーを相手に完全V!(写真提供:チャリ・ロト)

 2〜3着争いは内から4車がズラッと並びましたが、2着は山田選手で3着が稲川選手という結果。中団から捲った古性選手は4着までで、伸びきれなかったことについては神山選手が優勝者インタビューで述べていたように、車輪を払われたのが影響したかもしれませんね。最後の直線に賭けた浅井選手は6着。山口選手は7着と、存在感を発揮できないまま終わってしまいました。

レース支配していたのは『古性』

 主導権を奪ったのは眞杉選手でしたが、この展開を作りあげてレースを支配していたのは、実際には古性選手だったように感じます。後ろ攻めの眞杉選手が動くのに合わせて先に前を斬り、先頭に立って眞杉選手や山口選手の動向を見定めていた。ここで山口選手が前を斬りにいって先頭を奪い返せていれば、また違う結果が出ていたでしょうね。しかし、山口選手は動きませんでした。

レースを支配していたのは古性優作(写真提供:チャリ・ロト)

 あそこで前を斬りにいくのは、「いざとなれば自分が逃げる」という“覚悟”が問われる行為。タラレバになりますが、眞杉選手が後方に下げたまま動かず打鐘を迎えたならば、古性選手は自分が逃げる展開を厭わないでしょう。結果的には眞杉選手がカマシて主導権を奪ったわけですが、少なくとも山口選手については、古性選手は動かないと踏んでいたでしょうね。かくして、山口選手は後方に置かれる展開となったわけです。

 眞杉選手は眞杉選手で、古性選手に「飛びつかせないスピード」で叩きにいったのが素晴らしかった。当然ながらかなり脚を使い、実際にその影響もあって最後は粘りを欠きましたが、番手の神山選手が優勝するチャンスを作り出している。打鐘の前後にあったS級S班の2名による攻防は、なかなか見応えがありましたよ。ただ、最近の眞杉選手は本当にいい頃ほどには、デキがよくない印象を受けます。

 山田選手は、赤板〜バックストレッチの攻防で、中部勢の後ろから近畿勢の後ろに切り替えたのが好判断でした。優勝こそできませんでしたが、デキのよさもしっかり生かしての2着好走で、年明け2月の熊本・全日本選抜競輪(GI)を見据える九州勢は、総じて気合いが入っていますね。このデキならば、次場所の小倉・競輪祭(GI)でもいい走りが期待できそうです。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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