2025/10/06 (月) 18:00 30
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが京王閣競輪場で開催された「ゴールドカップレース」を振り返ります。
2025年10月5日(日)京王閣12R 開設76周年記念 ゴールドカップレース(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①眞杉匠(113期=栃木・26歳)
②守澤太志(96期=秋田・40歳)
③脇本雄太(94期=福井・36歳)
④小倉竜二(77期=徳島・49歳)
⑤和田真久留(99期=神奈川・34歳)
⑥大川龍二(91期=広島・41歳)
⑦菅田壱道(91期=宮城・39歳)
⑧新田祐大(90期=福島・39歳)
⑨和田健太郎(87期=千葉・44歳)
【初手・並び】
←①⑤⑨(東日本)⑦⑧②(北日本)⑥④(中四国)③(単騎)
【結果】
1着 ③脇本雄太
2着 ⑤和田真久留
3着 ⑨和田健太郎
10月5日には東京都の京王閣競輪場で、ゴールドカップレース(GIII)の決勝戦が行われています。今年も残すところあと3か月となり、獲得賞金によるKEIRINグランプリ出場権争いも佳境に入ります。出場ボーダー近辺にいる選手は、ぜひとも記念優勝で賞金を上積みしたいところ。しかし、このシリーズはまるで特別競輪のような豪華メンバーとなりました。S級S班、なんと5名が出場です。
福井・共同通信社杯競輪(GII)からのローテとなるのが、岩本俊介選手(94期=千葉・41歳)、脇本雄太選手(94期=福井・36歳)、清水裕友選手(105期=山口・30歳)。怪我からの復帰戦となるのが松浦悠士選手(98期=広島・34歳)で、眞杉匠選手(113期=栃木・26歳)はあっせん停止明けでの出場となります。松浦選手がどこまで調子を戻しているのか、注目ですね。
今年のダービー王である吉田拓矢選手(107期=茨城・30歳)も怪我明けで、こちらもデキがちょっと気がかり。そんな錚々たるメンバーで争われた初日特選は、眞杉選手を叩いて岩本選手が先行する展開となりました。眞杉選手は最終バックで仕掛けるも、和田健太郎選手(87期=千葉・44歳)にブロックされて勢いを削がれることに。最後の直線では、外から単騎の菅田壱道選手(91期=宮城・39歳)が強襲します。
岩本選手の番手を回った和田健太郎選手や、眞杉選手の番手から最後は内を突いた吉田選手もよく伸びるも、勝ったのは菅田選手。5名も出走したS級S班が1人も車券に絡まないという、波乱の幕開けです。後方の位置となった脇本選手は伸びがなく、清水選手は6番手から差を詰めようとするも捲りを合わされて不発という結果で、これは車券的にもかなり難しかったですね。
初日特選を勝った菅田選手は上々のデキで、準決勝でも1着をとって優出。2着だった和田健太郎選手も二次予選1着、準決勝3着で勝ち上がりと、京王閣バンクとの相性のよさが光ります。岩本選手もデキはかなりよさそうだったのですが、準決勝で8着に敗れて勝ち上がりを逃しました。決勝戦に勝ち上がった選手は総じて好調でしたが、なかでも目立っていたのは、「グランドスラマー」の2人ですね。
連勝で準決勝に臨んだ新田祐大選手(90期=福島・39歳)は、番手を回る小倉竜二選手(77期=徳島・49歳)に差されたものの、先行勝負で力強い走りをみせていました。久々に、いいときの新田選手が見られましたね。そして脇本選手は、二次予選と準決勝を次元の違う捲り脚で勝ち上がり。本人にしてみれば「まだまだ」なのでしょうが、この上がりが出せるのですから、上々のコンディションですよ。
清水選手は二次予選で7着に敗れ、松浦選手は準決勝で押し上げの反則で失格。勝ち上がったS級S班は2名だけで、決勝戦は三分戦で単騎が1名というメンバー構成となりました。眞杉選手の後ろには南関東勢の和田真久留選手(99期=神奈川・34歳)と和田健太郎選手がついて、東日本ラインで勝負します。ただ、眞杉選手は練習の疲れが抜けていないのか、本調子を欠いている様子なのが気がかりです。
北日本勢は、菅田選手が先頭で番手が新田選手。3番手を、守澤太志選手(96期=秋田・40歳)が固めるという並びです。デキ絶好の菅田選手と新田選手が、ここでどのような走りをするのか楽しみですね。そして中四国勢は、久々の記念優出となる大川龍二選手(91期=広島・41歳)が先頭で、番手が小倉竜二選手(77期=徳島・49歳)という組み合わせ。こちらは、立ち回りの巧さを活かしたいところです。
唯一の単騎勝負が脇本選手で、レース前にもコメントしていたように、ここはいつもの走りに徹するのみ。前がもつれる展開にでもなればしめたもので、後方からのひと捲りで突き抜けてしまいそうです。このメンバーだと、おそらく主導権を奪うのは眞杉選手ですが、菅田選手の出方次第では乱戦もありそう。どのような展開となったのか…それでは、決勝戦の回顧に入りましょうか。
レース開始を告げる号砲が鳴って、いい飛び出しをみせたのは5番車の和田真久留選手。内から1番車の眞杉選手もダッシュを決めていたように、まずはスタートを取る青写真だったのでしょう。眞杉選手が先頭の東日本ラインが前受けで、中団4番手に北日本勢の先頭である菅田選手。後方7番手が大川選手で、最後方に単騎の脇本選手というのが、初手の並びです。完全に想定通りですね。
後方の大川選手が動いたのは、青板(残り3周)周回のバックから。外からゆっくりと位置を上げて、先頭の眞杉選手を抑えにいきます。眞杉選手は、大川選手が外に並ぶと同時に軽く張って、突っ張る意思表示。そして赤板(残り2周)掲示を通過と同時に踏み込んで、大川選手を前に出させません。大川選手も無理に前に出ようとはせず、様子見のまま1コーナーを回ります。
ここで動いたのが菅田選手で、1センターの大外を回って眞杉選手を叩きにいきました。脇本選手はこれには連動せず、最後方のままです。先頭の眞杉選手はここも突っ張る姿勢で、加速しながら打鐘前のバックストレッチに進入。内の眞杉選手と外の菅田選手が並んだ状態で、レースは打鐘を迎えました。打鐘後の2センター、菅田選手だけ眞杉選手の前に出ますが、新田選手や守澤選手は出られません。
つまり菅田選手の番手を眞杉選手が奪うカタチとなって、新田選手は眞杉選手の外併走に。その後ろでは和田真久留選手と守澤選手が激しく絡み合っています。そこから少し離れて中四国勢と脇本選手が追走という隊列で、最終ホームに帰ってきました。外で浮かされる態勢となった新田選手は、かなり苦しい状況です。最終ホームを通過したところで、後方の大川選手が仕掛けました。
捲りにいった大川選手は、最終1センターで守澤選手の直後まで進出。脇本選手以外の8車が一気に凝縮したところで、アクシデントが発生します。眞杉選手が外の新田選手を軽く張ったところで、新田選手がバランスを崩して転倒落車。守澤選手は回避するも、大川選手も巻き込まれて落車してしまいます。最後方の脇本選手はバンクをフェンスまで駆け上がり、回避しました。
逃げる菅田選手は孤立無援となり、その番手に眞杉選手という隊列で、バックストレッチに進入。落車を回避した脇本選手は、前の集団から大きく離されてしまいました。大川選手の落車を内に入って避けた小倉選手は、そのまま加速して眞杉選手の後ろを狙おうと一気に3番手の外まで進出。そして、最終バックでは眞杉選手が仕掛けて、前の菅田選手を捉えにかかりました。
ここで小倉選手が、外に出した眞杉選手の番手を確保。そして後方から、大きく離されていた脇本選手がバンクを駆け下りる「山おろし」の加速で、一気に先頭集団に迫ってきます。ここで菅田選手の番手から捲りにいった眞杉選手が先頭に立ち、その後ろに小倉選手、和田真久留選手、和田健太郎選手、守澤選手がタテ一列に並ぶところに、外から脇本選手が飛んできました。
驚異的なスピードで外から飛んできた脇本選手は、最終2センターで3番手の外まで進出。眞杉選手が先頭で、その直後に小倉選手と和田真久留選手が並ぶという態勢で、最後の直線に入ります。外からグングン伸びる脇本選手は、30m線で2番手に浮上。その後ろからは、和田健太郎選手もいい脚で伸びてきます。先頭の眞杉選手はなんとか粘ろうとしますが、その外を脇本選手が一瞬で駆け抜けました。
そしてそのまま、脇本選手が先頭でゴールイン。落車を避けて先頭集団から大きく離されるも、そこから驚異的な上がりで1着まで突き抜けるという“離れ業”に、スタンドから大歓声が飛びます。中継のカメラに映らなくなったところから一気の捲りですから、本当に次元が違う。目の前で観ていたファンは、さぞかし痺れたでしょうね。前橋・寛仁親王牌(GI)へ向けて、弾みがつく優勝です。
眞杉選手は2位で入線するも、レース後に赤ランプが灯って審議に。その後ろの争いは僅差となりましたが、和田真久留選手選手が3位、和田健太郎選手が4位、小倉選手が5位で入線です。審議の結果、眞杉選手は失格と判定されて、3位以下がそれぞれ繰り上がって確定。この組み合わせの3連単3,600円が、なんと2番人気だったことにも驚かされましたね。競輪ファン、車券が上手すぎます。
あっせん停止明けでの失格で、眞杉選手の走りを咎める方もいるでしょうね。実際、新田選手と大川選手を落車させているのですから「咎められるもの」ではありますが、自然と身体が動いた結果であって故意ではない。これは、準決勝で失格となった松浦選手も同じですね。自分で思っている以上に身体が反応してしまったのが理由で、その背景には、本調子を欠いていたことがあると思います。
今回の眞杉選手のように、合宿などでいつもと違う激しい練習をした後というのは、思った以上に疲労が抜けてくれないもの。松浦選手も、大怪我からの復帰戦に向けて、かなり身体を追い込んでいたはずです。そして疲労が残っている状態だと、身体が自分が思った通りに動いてくれず、今回のようなケースとなる場合がある。反則による失格ではありますが、故意に反則をするトップ選手なんていませんよ。
新田選手の落車というアクシデントもあり、いい結果を残せなかった北日本勢。とはいえ、作戦についてはもう少し考えるべきだったかもしれません。眞杉選手が前受けから突っ張っているわけですから、ヨコの動きによる捌きや飛びつきなどで、ラインが分断される可能性があるとわかっていたはず。菅田選手、新田選手ともに絶好のデキだっただけに、それを活かせなかったのは残念です。
それにしても、今回の脇本選手がみせたスピードは本当にすごかったですね。あの位置から一気に前を飲み込んだのですから、まさに次元が違う。どの選手も優勝を目指して「できることはやった」といえる内容で、それをタテ脚ひとつでひっくり返したのですから、脇本選手が強かったと言うしかない。時にこういう異次元のレースをみせてくれるというのも、脇本選手の大きな魅力ですよね。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。