閉じる
山田裕仁のスゴいレース回顧

【ゴールド・ウイング賞 回顧】文句なしにエキサイティングだった決勝戦

2025/09/01 (月) 18:00 7

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが西武園競輪場で開催された「ゴールド・ウイング賞」を振り返ります。

文句なしにエキサイティングだった西武園記念(写真提供:チャリ・ロト)

2025年8月31日(日)西武園12R 開設75周年記念 ゴールド・ウイング賞(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①森田優弥(113期=埼玉・27歳)
②山口拳矢(117期=岐阜・29歳)
③眞杉匠(113期=栃木・26歳)
④宿口陽一(91期=埼玉・41歳)
⑤新山響平(107期=青森・31歳)
⑥久木原洋(97期=埼玉・41歳)
⑦南修二(88期=大阪・43歳)
⑧塚本大樹(96期=熊本・36歳)
⑨武藤龍生(98期=埼玉・34歳)

【初手・並び】

←⑤⑦(混成)①⑨④⑥(関東)③(単騎)②⑧(混成)

【結果】

1着 ③眞杉匠
2着 ④宿口陽一
3着 ⑨武藤龍生

S班2名のほか、注目選手が目白押し!

 8月31日には埼玉県の西武園競輪場で、ゴールド・ウイング賞(GIII)の決勝戦が行われています。ここに出場のS級S班は、新山響平選手(107期=青森・31歳)と眞杉匠選手(113期=栃木・26歳)の2名。しかし、関東地区のダービー王・吉田拓矢選手(107期=茨城・30歳)や、このところの復調顕著な山口拳矢選手(117期=岐阜・29歳)、近況が絶好調の南修二選手(88期=大阪・43歳)など、注目選手が目白押しです。

S班は2名参戦! 左から眞杉匠、新山響平(写真提供:チャリ・ロト)

 そのほかの関東勢も強力で、層の厚さはかなりのもの。初日特選の関東勢は、眞杉選手が先頭で番手が吉田選手、3番手が武藤龍生選手(98期=埼玉・34歳)という並びでした。当然ながら人気を集め、新山選手との激突にファンの注目も集まりましたが……ここで1着をもぎ取ったのは、単騎で勝負した山口選手でした。関東勢の間隙をついて眞杉選手の番手を奪取した動きは、見事なものでしたね。

 新山選手は後方から仕掛けるも、出切れずに失速。最終バックで眞杉選手の番手から捲った山口選手がそのまま押し切り、突っ張り先行から粘った眞杉選手が2着。山口選手の後ろから差を詰めた吉田選手が3着という結果で、ライン戦における関東勢の戦略的勝利を、山口選手が戦術で逆転するといったレースの流れでした。山口選手と眞杉選手は、いずれもかなりデキがよさそうです。

吉田拓矢の落車は『避けられた落車』

 これで勢いに乗った山口選手は、二次予選と準決勝でも1着をとり、完全優勝に王手をかけて決勝戦へ。眞杉選手も同様に、連勝で決勝戦に駒を進めてきました。初日特選で大敗を喫した新山選手やよさを出せなかった南選手も、2日目からはキッチリ巻き返して決勝戦進出。初日シード組が順当に勝ち上がりを決めていくなか、残念な結果に終わってしまったのが吉田選手でした。

 結束の強い地元・埼玉勢や、佐藤慎太郎選手(78期=福島・48歳)と新田祐大選手(90期=福島・39歳)というビッグネームを擁する北日本勢など、いかにも混戦模様だった準決勝第10レース。スタート直後、最内1番車の新田選手と3番車の森田優弥選手(113期=埼玉・27歳)が前に出ようとしますが、2番車の吉田選手も少し遅れて、両者に挟まれながら前へ。しかし、2コーナーで接触して落車してしまいました。

吉田拓矢の落車は「避けられた落車」のはず(撮影:北山宏一)

 これは私がよく言うところの「避けられた落車」のはずで、スピードが出ていない段階だったので身体へのダメージこそ小さかったでしょうが、車券を買って応援してくれたファンの落胆は、言うまでもなくたいへん大きかった。こういったケースを少しでも減らしていくことも、トップクラスの選手に課せられた“義務”ですからね。決勝戦進出を逃したこと以上に、残念な落車だったといえます。

5車勝ち上がりの関東勢は別線勝負!

 それでも関東勢は、過半数となる5名が決勝戦に勝ち上がり。こちらは、地元・埼玉勢の4車と、単騎の眞杉選手と別線での勝負となりました。埼玉勢の先頭は森田選手で、こちらもデキは上々です。番手を回るのが武藤選手で、3番手が宿口陽一選手(91期=埼玉・41歳)。ライン最後尾は、久木原洋選手(97期=埼玉・41歳)が固めます。相手は強力ですが、この“数の利”をうまく活かすレースができれば、好勝負可能でしょう。

 山口選手は準決勝に続いて、九州の塚本大樹選手(96期=熊本・36歳)とコンビを結成。山口選手らしい立ち回りの巧みさと近況でみせている積極性、そして絶好のデキからも好勝負が期待できそうな雰囲気です。同様に新山選手も、ここは南選手との即席コンビで臨みます。後ろに南選手がついてくれるというのは、新山選手にとっても心強いでしょうね。ただし、2車ラインでどう立ち回るかは、なかなか難しいところです。

位置主張の新山が前受け、埼玉勢は3番手から

 それではそろそろ、決勝戦の回顧といきましょうか。レース開始を告げる号砲と同時にいい飛び出しをみせたのは、1番車の森田選手と2番車の山口選手、7番車の南選手の3名。まずは最内の森田選手がスタートを取りますが、後から新山選手が位置を主張してくると、前に入れてポジションを譲りました。これで新山選手が前受けとなり、埼玉勢は3番手から。単騎の眞杉選手が7番手で、山口選手は後ろ攻めとなりました。

先頭を斬りにいく山口(2番車)(写真提供:チャリ・ロト)

 さまざまな思惑が交錯する初手での攻防が落ち着いて、青板(残り3周)掲示を通過。ここで後方の山口選手が早々と動き出し、外からゆっくりとポジションを上げていきます。様子をみながら新山選手の外まで位置を上げ、赤板(残り2周)掲示の通過と同時に一気に踏み込んで、先頭を斬りにいきます。この動きに追随した埼玉勢は、山口選手が先頭に立った後は、新山選手の外で他の動向をうかがいます。

埼玉4車が先頭、眞杉は絶好位に

機敏な動きで眞杉(3番車)が好位置をゲット(写真提供:チャリ・ロト)

 そして森田選手は、打鐘と同時に山口選手を斬って先頭に。ここで後方の眞杉選手が機敏に動いて、埼玉4車の後ろにつけます。山口選手は眞杉選手の後ろの6番手、新山選手は最後方8番手に置かれる隊列となって、打鐘後の2センターを回って一列棒状で最終ホームに帰ってきました。埼玉勢の先頭である森田選手は主導権の奪取に成功して、かかりのいい逃げで最終周回に突入しました。

 一列棒状のままで最終1センターを回って、バックストレッチへ。ここで中団の眞杉選手が仕掛け、素晴らしい加速で前との差を一気に詰めにかかります。少し離れて、山口選手もこの仕掛けに連動。さらに、後方に置かれた新山選手も仕掛けますが、この位置ではさすがに厳しい。中団から捲った眞杉選手は、最終3コーナーの入り口で宿口選手の外まで並び、前を完全に射程圏に入れました。

眞杉(3番車)が一気の発進!後方の新山(5番車)は厳しい展開に(写真提供:チャリ・ロト)

粘る森田、牽制する武藤&宿口…

 宿口選手や武藤選手が進路を少し外に振って、眞杉選手を牽制。先頭の森田選手がいい粘りをみせているのもあってか、武藤選手は番手から早めには出ませんでしたね。しかし、眞杉選手が直後まで迫ったところで、武藤選手は外に出して番手から発進する態勢に。宿口選手はそのまま最内を突き進み、最終2センターでは山口選手が眞杉選手の直後まで迫ってきて、最後の直線へと向かいます。

 ここで、宿口選手が森田選手のさらに内を回って、最短距離で先頭に出ます。外に出した武藤選手が差を詰めてきますが、勢いがいいのはさらにその外を回る眞杉選手のほう。眞杉選手は30m線で武藤選手の外に並び、これを抜き去ります。さらにその外のイエローライン付近からは山口選手や新山選手も伸びてきますが、こちらは3着争いが精一杯という位置。眞杉選手は、宿口選手との差を確実に詰めていきます。

眞杉匠の連覇は「マグレではない」

眞杉匠(3番車)が力の違いを見せつけ大会連覇!(写真提供:チャリ・ロト)

 そして……眞杉選手がほんの少しだけ前に出て、ゴールラインを先頭で駆け抜けました。西武園記念の連覇を達成で、今年は玉野・サマーナイトフェスティバル(GII)に続くグレードレースの制覇。GIIIは、これで通算5回目の優勝となります。先行した地元・埼玉勢4車を捲りきっての勝利ですから、力の違いを見せつけたといっても過言ではないでしょう。誰がどう見ても、まぐれではないです(笑)。

 僅差の2着が宿口選手で3着が武藤選手という結果で、昨年も眞杉選手にしてやられている埼玉勢としては、本当に悔しかったことでしょう。レース後に武藤選手がコメントしていたように、地元記念はやはり地元の選手に獲ってもらいたいもの。とはいえ、今年の埼玉勢は「やるべきことはやった」といえる内容で、眞杉選手にその上をいかれたのですから、仕方がない。力不足だったと、来年に向けて牙を研ぐしかありません。

▶眞杉匠が大会連覇!「まぐれって続くもんですね(笑)」/優勝者コメント
▶3着 武藤龍生「地元記念を獲られるのは本当に悔しい」/2・3着インタビュー

左上から森田優弥、武藤龍生、宿口陽一、久木原洋(写真提供:チャリ・ロト)

 4着は山口選手で、新山選手は最後よく差を詰めるも5着まで。新山選手は、後ろに南選手がついてくれたとはいえ、やはり2車では思いきった走りができなかったですね。山口選手もけっして悪くないレースの組み立てをしていたのですが、ここは眞杉選手や埼玉勢に一歩およばずという結果に。とはいえ、完全復活に近いデキまで戻せてきていますから、次の福井・共同通信社杯競輪(GII)でもおおいに期待できそうです。

こんな決勝戦が続けば、競輪界はもっと盛り上がる!

 この決勝戦では、初手での位置取りの攻防からゴールに至るまで、出場した全選手の「優勝しようという強い意志」を感じることができました。全員がやるべきことをやって、その上で出たのが眞杉選手の優勝という結果だった。負けた選手、車券に貢献できなかった選手を応援していたファンの人も、これならば仕方がないという“納得感”を得られたはずで、道中の駆け引きも非常に面白かった。いやあ、いいレースでしたよ!

 こんな決勝戦が続けば、競輪界はもっと盛り上がること間違いなし。若いファンが増えているこの時期だからこそ、面白いレース、エキサイティングな走りを観てもらって、楽しんでもらいたいじゃないですか。もっとも、こんな「言うことなし」の決勝戦ばかりだと、このコラムの必要性はなくなってしまうかもしれませんね(笑)。それでもやはり、力強く面白い走りをファンは観たいのだ…と、私は強く思います。

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

バックナンバーを見る

質問募集

このコラムでは、ユーザーからの質問を募集しております。
あなたからコラムニストへの「ぜひ聞きたい!」という質問をお待ちしております。

山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

閉じる

山田裕仁コラム一覧

新着コラム

ニュース&コラムを探す

検索する
投票