2025/08/28 (木) 18:00 8
“ロスの超特急”こと坂本勉氏が『究極に仕上がっている選手=超抜選手』を紹介する当コラム。坂本氏が太鼓判を押したくなる“超抜選手”をチェックして車券推理に役立てましょう!(構成・netkeirin編集部)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。解説の仕事などで全国を飛び回る日が続いていますが、このコラムを書かせてもらうようになってから、これまで以上に若手選手たちの走りに注目するようになりました。
その中でも目に留まるのが、どんなメンバーが相手でも自分のスタイルを崩すことなく、果敢に先行を見せていくような「大きなレース」をする選手です。今回のコラムでもA級とS級それぞれから、「大きなレース」を見せているだけでなく、この経験を元に更なる飛躍が期待できる選手を紹介していきたいと思います。
まず、A級の選手で名前を挙げたいのは谷内健太(京都・125期)です。谷内は前回のコラムでも注目選手として取り上げた小堀敢太(北海道・125期)や、同じ地区の中石湊(北海道・125期)と同じ125期となります。
125期の選手たちは近年の競輪界で目覚ましい活躍を見せています。谷内もインカレのロードレースで優勝経験があるなど、大学時代は競技で名を馳せてきた選手となります。ただ、競技こそ違えど、学生時代の実績は中石の方が格上であり、養成所での順位31位もまた、小堀の18位の方が上でした。
谷内が学生時代に実績を残したロードレースは、200km程の距離を走るように、持久力が必要な競技となります。しかし競輪では中石のようにスプリントや1kmのタイムトライアルといった「ダッシュ力のある選手たち」が活躍する傾向にあります。現役で谷内のようなロードレース出身の競輪選手たちが少ないのは、競輪がスタミナよりもスピードを必要することに関係しています。
養成所でもパワーとスピードを兼ね備えた、ダッシュのある選手を育てていく流れとなっているのですが、谷内も学生時代とは真逆と言えるトレーニングを行ってきただけに、当初は戸惑いだけでなく、スピードの違いも痛感したと思います。
ただ、デビュー後にはレース経験を重ねてきただけでなく、そこに日々のトレーニングもあって、スピードも付いてきたのでしょう。どのレースでも積極的に先行を見せていきながら、昨年の12月にはA級2班への特昇を決めただけでなく、A級2班に入ってからもこれまでに二度、特昇のチャンスがありました。
谷内の走りをジカに見たのは、解説を行った5月7日からの青森競輪場の「日刊スポーツ杯(FI)」となります。このレースで谷内は先行争いを冷静にさばいて、バックからの捲りを見せていきますが、ゴール前で番手にいた西本直大(92期・大阪)にゴール前で交わされての2着となってしまいました。
積極性だけでなく、展開を見ながら瞬時に反応できるレースセンスも感じさせていただけに、「勿体ないレースだったな」と思ったのですが、その後の準決勝、そして決勝では、“小細工ナシ”の早めの先行で優勝をしています。
谷内の良さはこの積極性にあります。7車立てのレースで二分戦ならばほぼ突っ張り先行。三分戦でも押さえ先行や、一度引いてからのカマシ先行と長い距離を踏んでいくのを苦にしていません。
谷内は青森の大会を挟んで連勝をしていただけに、あの時の2着が無ければ特昇を果たしていたとも言えます。ただ、本人としてはその時の悔しさもあったのか、それ以降は更に積極的なレースを見せるようにもなりました。
当然のように他の選手からすると、谷内の先行を封じるべく、道中では後方に置かれる展開も増えてきました。それでも自分のレーススタイルを崩さないのは立派であり、様々なレース経験を重ねながら、更に強さを増してきた印象さえ受けます。
次の大会で完全優勝を果たした暁には、3度目の正直となる特昇が叶えられます。今の谷内の走りならば、S級に入ってからでも更に成績をあげていくはずです。次走は8月28日から行われる、川崎競輪「報知新聞社杯争奪戦(FI)」に出走を予定していますが、谷内の走りに皆さんも注目してください。
谷内健太出走情報
開催場 | 開催名 | シリーズ日程 |
---|---|---|
川崎 | 報知新聞社杯争奪戦(FI) | 8月28日〜30日 |
名古屋 | スポーツニッポン杯・S一宮C(FI) | 9月13日〜15日 |
小倉 | スポーツニッポン杯×CTC杯(FI) | 9月24日〜26日 |
※上記出走情報はコラム公開日時点(2025年8月28日)のものです。
※アプリをインストールの上、データベース内の選手ページにてお気に入り登録(☆をタップ)しておくと出走確定情報が通知されるので便利です
S級の選手では櫻井祐太郎(宮城・117期)を取り上げます。先日、「オールスター競輪(GI)」が函館競輪場で行われていましたが、ここに櫻井が選ばれていなかったのが不思議になるほどに、最近の競輪では目覚ましい活躍を見せています。
8月20日から取手競輪場で行われていた「サテライトしおさい鹿島杯(FI)」の決勝でも、(前回のコラムで名前をあげた)木村皆斗(茨城・119期)や、南潤(和歌山・111期)といった若手の自力タイプを相手に、中団から捲りを繰り出して優勝。競走得点も108点を超えてきました。
結果もさることながら、櫻井の凄さを物語るのはそのバック本数にあります。取手の大会を終えた時点で37回のレースに出走していますが、そのうちバックの本数は22回を数えています。
櫻井はどのレースでも、他の自力選手に主導権は渡さないといった、積極さが武器と言えます。それでいながら最近のFIでは決勝まで勝ち上がっているあたり、ファンからの支持も集めているのではないのでしょうか。
この積極さがいい結果として表れたのが、S級初優勝となった別府競輪場での「ジャパンカップ×HPCJC(FI)」でした。このレースの決勝にも木村や南が出ていただけでなく、後に「日本選手権競輪(GI)」を制することとなる吉田拓矢(107期・茨城)も出走しており、ハイレベルなレースでした。
この大会を自分は現地で解説を行っていました。櫻井が前を切った後に、木村が先行体勢へと入り、南を後ろに付けた阿部英斗(125期・福岡)もかましていくなど、激しい先行争いが繰り広げられました。
結果的に後方からのレースとなった櫻井でしたが、捲りに切り替えると、後ろに4車身差を付けての鮮やかな優勝。ただ、これはジャンの前に櫻井が叩いていった際に、「そのまま先行されてしまう」との思いから、後ろにいたラインが動き出した結果です。櫻井の動きが引き出したものなんですよね。
記念大会ではまだ決勝にこそ勝ち上がれてはいませんが、富山の「大阪・関西万博協賛競輪(GIII)」では、初日8着からの巻き返しを見せて、2日目以降は3連勝でS級特秀にで勝利しました。この特秀でも櫻井は残り2周から町田太我(広島・117期)を叩いて、一気に先行体勢へと入っていきます。櫻井の良さは先行してからの粘り込みなのですが、3車のラインそのまま逃げ切り勝ちを果たしたレースには、櫻井の良さが現れていましたね。
また、櫻井とラインを組む北日本の選手たちにとっても、その後ろは勝ち上がっていくために最高の位置取りともなっています。
他地区の先行選手からすれば、櫻井を前に出したくないと考えてしまいますが、別府の大会のように引いてからの捲りでも結果を残しているだけに、かなり厄介な存在とも言えるでしょう。
富山のGIIIで自分は解説をさせてもらっていたのですが、たまたま帰りの新幹線で櫻井と一緒になり、その際に色々と話をする機会がありました。現在の競輪ではナショナルチームで行っている「ナショナルメニュー」といった練習方法が主流となっており、瞬発力とパワーを高めるためのウエイトトレーニングも取り入れられています。
櫻井もナショナルメニューを中心に練習をしているかと思いきや、ナショナルメニューを重視することなく、師匠である和田圭(宮城・92期)などと共に、街道練習を中心にメニューを組んでいるとのことでした。
櫻井の師匠である和田は練習熱心な選手です。また、他の選手たちから色々な情報を取り入れながら、自分たちの練習メニューを構成しているそうです。櫻井が強くなっているのは和田の存在が大きいと思います。日々の練習で粘り込んでいく先行に、更に磨きがかかっていくようだと、宮城の選手たちだけでなく、北日本全体にとっても心強い存在となっていくはずです。
北日本の先行選手と言えば中石や小堀もいますし、125期には山崎歩夢(福島・125期)も頭角を現しています。数年後には北日本の若手選手たちが、競輪界の一大勢力となっていくような可能性はあるはずですし、その中心を担うのは櫻井かもしれません。
櫻井祐太郎出走情報
開催場 | 開催名 | シリーズ日程 |
---|---|---|
熊本 | チャリロト協賛松本秀人杯争奪戦(FI) | 9月28日〜30日 |
※上記出走情報はコラム公開日時点(2025年8月28日)のものです。
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坂本勉
Tsutomu Sakamoto
●坂本勉(さかもと・つとむ) 1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。