2025/11/07 (金) 18:00 10
全国300万人の慎太郎ファン、netkeirin読者のみなさん、佐藤慎太郎です。寛仁親王牌を走ってきたが、タイトルの通りだ。シリーズでは己の実力のなさを痛感する毎日だった。今回は自戒を込めてシリーズを振り返ろうと思う。
シリーズ前にタイムは怪我をする前の状態に戻せていた。前検日にも仕上がりの良さを感じていたし、体はまったく問題なかったように思う。初日は神奈川の青野将大、同県の渡部幸訓と連係して2着だった。このレースは差して1着を掴みたかった。青野はペースで駆けるのが巧い選手で、持ち味を発揮しているように感じた。追走していても脚が徐々に削られていくので、差すのは簡単ではない。とはいえ、差したかった。
初日に理解したことは抜きに行くタイミングや各所での判断に「レース勘」の鈍さが出ていたということ。タイミングを計る感覚がどこか狂っていて、自信が持てなかったし、安全策を取るような気持ちに支配されていた。ある程度良いコンディションでシリーズ入りできた分、初日で好感触を掴み、「このシリーズ行けるぞ」と確信を持ちたかったが、レース終了後には不安な気持ちが残った。
そして二次予選。オレは響平と連係した。周知の事実ではあるが、響平は本当に強い。日本を代表する先行選手だ。今まで後ろを回っていて、何度「マジかよ…」と驚かされたかわからない。このレースでも強い気持ちとともに強い走りをしてくれたわけだけど、オレの力が足りていなかった。勝負所で河端朋之に行かれてしまった。初日も不安が残る心境だったが、二次予選でも不安の上塗りをすることになった。
競輪はラインで勝負する競技だ。自分が弱ければ自分だけではなく、ライン全体に迷惑がかかる。響平が強いとは言え、追走で一杯になっている時点で、どうしようもない。情けない気持ちになったし、自分が弱いと他者にも迷惑をかけるという当たり前の事実。改めて痛感した次第だ。
前回のコラムで「現在の勝利の基準は確定板」と書いたが、とんでもない。初日も二次予選も“連れて行ってもらった”に過ぎず、あの2着と3着を勝利にカウントしたら番手選手としての誇りは消える。これまでの競輪人生、番手の位置に死ぬほどこだわってきたが、基本中の基本「先行選手を守る」ができる状態になかった。響平という日本一の先行選手を追走してみて、現状の力関係を理解した。
それでも準決勝まで進んだのだから、「やってやるぞ!」と自分を鼓舞して戦いには臨んでいる。それでも自分の実力不足から目を離せず、弱気な部分が出ていたように思う。言葉にするとニュアンスが異なってしまうが、「響平に迷惑をかけないようにしなくては」みたいな気持ちが先立っていたのが本心。いま振り返ればこのメンタルは非常に良くなかったな。
自信満々に「後ろは守る!」という番手選手の存在でラインの走りは変わる(少なくともオレはそう思っている)。レース的な要因は複数あるものの、結果として響平と連係し切ることすら叶わない準決勝になってしまった。結果どうのこうのよりも、新山響平のような日本一の先行選手と走っているのに、バシッと自信を持って戦えていない時点で、足りていないし、負けている。
そして最終日も響平との連係。シリーズ3連発で新山響平の番手。レースは菊池岳仁に捲られてしまい、二次予選で河端に行かれたときと同じような気持ちになった。自分の走りに余力がなければ、仕事もできない。余裕を持って追走できれば仕事もできるし、響平の逃げ切りも援護できる。自分がゴール前で差すチャンスだって増えるだろう。
実力が足りなければラインごと行かれちまう。これまでも番手というポジションには誇りを持って走ってきたが、本当に責任のある位置であること、先行選手の成績に関わる役割があるのだと再確認した。
シリーズが終わり、ファンのみなさんからは多くの励ましの言葉を頂戴した。今年大怪我から復帰したともあって、4走して3度の確定板という結果を「上出来」としてくれる声もあったな。みなさんの声援はどんな表現でも、やっぱり嬉しい。だが、ここまで読んでくれたのなら、上出来だなんてこと1ミリもなかったことをわかってもらえるでしょう(苦笑)。
GIの舞台で落車なく完走できたことは良かったが、「もう一度やり直し」とか「ゼロから出直し」という気持ちでしかない。負けて学んだことをどう行動に変換していくか、だね。さすがに威勢のいい言葉は出てこないが、励ましの声を届けてくれた人たちには気持ちは沈んでいないことをお伝えしておく。課題を見つけたら受け止めて、乗り越えられるように鍛錬するだけだ。
ラインの『番手』というのはキャリアから形成されるような“格”であったり、競走得点だったり、その時のコンディションだったりで任せてもらえるのかが決まっていく。しかしながら「ラインとして強くなるための配置」というのが大前提ということ。先行選手に連れていってもらった着ではなく、自分の役割を全うして、自分の力で勝ち取る着を残したい。そのためにできることをひとつ、ひとつだ。
今年残すGIは競輪祭だけ。寛仁親王牌を終えて、自分の走りに確信が持てずにいる。まさに課題山積だ。でも負けてこそ学ぶことが多い。競輪祭までにやり残しは一切ないように練習しようと思う。自分の中で万全の状態だと納得できるように追い込んでいくだけだ。
50歳まであと1年ーー。
己の実力のなさを認める。そして今日できることに精一杯取り組んでいく。
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佐藤慎太郎
Shintaro Sato
福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界の第一線で活躍し続けている。2019年、立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現で常にファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。麻雀とラーメンをこよなく愛する筋肉界隈のナイスミドルであり、本人の決め台詞「限界?気のせいだよ!」の言葉の意味そのままに自身の志した競輪道を突き進む。