2025/07/01 (火) 13:00 6
“ロスの超特急”こと自転車競技日本人初の五輪メダリスト・坂本勉氏。坂本氏は自転車競技と競輪の両軸を深く知る存在として、これまでKEIRINグランプリやGIシリーズの展望コラムはもとより、パリ五輪特集やPIST6解説コラムなどもお届けしてきました。選手の特徴やバックグラウンドを紐解く解説は好評を博し、KEIRINグランプリ2024特集コラムランキングでは“注目数”ナンバーワンを獲得。今回からスタートする新連載は『究極に仕上がっている選手=超抜選手』として、より一層“選手”を深掘りする内容になっています。坂本氏が太鼓判を押すA級&S級の“超抜選手”をチェックし、ブレイク必至の選手を先取りしましょう!(構成・netkeirin編集部)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。このたび編集部から「超抜の仕上がりを見せている選手を毎月ピックアップして教えて欲しい」とのテーマリクエストを受けて、これまで以上にA級やS級の選手の走りを見るようになっています。デキが抜群ということはもとより、しっかりと「勢いを感じさせる選手」をご紹介し、みなさんにお届けできればと考えています。
私は解説の仕事で全国各地に呼んでもらっていますが、やはり出演する機会が多いのが地元の青森競輪場となります。バンクを見慣れていることもあるのか、青森競輪場で目立ったレースを見せた選手の印象は強く残りますね。それでは早速、『超抜選手』を紹介していきましょう。まずはA級の選手で大注目の選手がいます。
近年はデビューから間もない若手選手が「特昇」を決めることも珍しいことではなくなりました。走りを見ていても「若々しく、勢いがあるなあ」と思わされるばかりです。ただ、気になる点を見つけているのも事実です。
『勝つレースをしたい』
最近はよくこの言葉が見受けられます。もちろん、車券を購入して応援してくださるファンの方々を考えると、勝つレースにこだわるのは選手として当たり前です。ただ、勝ちにこだわり過ぎるばかりに、そういったコメントを残す選手たちが、レースを重ねるごとに「小さく」なっている点が気になるのです。
自分の現役時代との比較は時代背景も違いますし、参考外かもしれませんが、自分が若手の頃は「勝つレースをしたい」という言葉は“ご法度”であり、コメントを求められた際は「とにかく力を出し切ります」とか「先頭で頑張ります」と答えていたように記憶しています。
ラインの先頭を任せられたからには、「自分だけでなく、ラインの選手も引きつれてゴールするのが当たり前」だと思っていましたし、そのために積極的に仕掛けていく「大きなレース」をしようと心がけていたものです。
“勝つためのレース”はファンの方の期待に応えるだけでなく、自分の成績を上げていくためにも必要です。ただし、自分だけが届くような走りをし続ければ、上のクラスで戦う時に壁にぶつかることもあります。成績だけを見ると、「この若手選手は強いのだろうなあ」と期待しますが、レースで実際の走りを見て、「勿体ないなあ」と思うこともしばしばあります。
そんな中、「大きなレース」にこだわりながら、今年の2月に特昇を果たしたのが、小川三士郎(徳島・125期)です。その走りをしっかりと見たのは6月23日〜25日、小川が完全優勝を果たした「スポニチ杯 エフエム青森杯(FI)」となります。この時の小川ですが、とにかく先行にこだわり、先行するためなら長い距離でも積極的に踏んでいくようなレースを見せていました。自分は「さすがに決勝では勝つレースをしてくるのでは」と考えました。
しかしながら、小川は先行した一ノ瀬匠と先行争いを繰り広げました。一ノ瀬に突っ張られるも、3番手に控えると2コーナーからバックにかけて捲りを繰り出していきます。小川はかなり長い距離を踏み消耗していたと思いますが、それでも(勝負所で番手に入っていた)稲吉悠大に迫られることなく、完全優勝を果たしました。
小川の実力からすれば、最初から捲りに徹していた方が楽に勝てたと思います。それでも一ノ瀬に対して先行勝負を挑んでいった走りを見た時に、魅力のある選手だと思いました。レース後に気になって小川の過去のレースを確認しました。小川は同じレースに自力型の若手選手がいたとしても、積極的にバックを取る走りを貫いています。
またS級特昇がかかった防府競輪「せいらちゃんずカップ(FII)」の決勝では、他の選手にマークされたばかりに2着に敗れてしまっていますが、そこから取手競輪の「デイリースポーツ賞(FI)」、そして前回の「スポニチ杯 エフエム青森杯(FI)」で負けなしの6連勝の成績です。
小川は7月1日開幕の名古屋競輪「中日スポーツ杯・オッズパークC(FI)」に参戦しますが、ここで完全優勝を果たせば改めてS級特昇が叶います。小川三士郎はS級へ特昇しても「大きいレース」を貫くと思えるだけに、今節もスタイルを貫いての完全優勝を期待しています。
小川三士郎出走情報
開催場 | 開催名 | シリーズ日程 |
---|---|---|
名古屋 | 中日スポーツ杯・オッズパークC(FI) | 7月1日〜3日 |
久留米 | 楽天ケイドリームス杯(FII) | 7月15日〜17日 |
熊本 | アドルーム杯(FII) | 7月30日〜8月1日 |
玉野 | おトクにPLAYオッズパーク杯(FII) | 8月9日〜11日 |
奈良 | 中井光雄記念杯オッズパーク杯(FI) | 8月21日〜23日 |
※上記出走情報はコラム公開日時点(2025年7月1日)のものです。
※アプリをインストールの上、データベース内の選手ページにてお気に入り登録(☆をタップ)しておくと出走確定情報が通知されるので便利です
さて、S級の『超抜選手』は石原颯(香川・117期)です。石原の良さは、レースでの優秀なタイムにも証明されているスピードですが、そのスピードを持続できるような強靭な粘りも持ち味となっています。以前から石原の走りには注目していましたが、青森競輪場で行われた全プロ競輪初日のS級選抜の走りもさることながら、2日目のダイナミックステージでのレース内容が圧巻でした。
7番手の位置からジャンに併せて先行態勢に入っていき、高橋晋也をダッシュ力の違いで交わしていきます。最終バック付近から捲ってきた藤井侑吾に3コーナー過ぎでは並びかけられるも、番手にいた岩津裕介の援護こそあったとは言えど、ゴールまで押し切った走りは素晴らしかったです。
石原は今年の「日本選手権競輪(GI)」でも、予選で得意としているカマシで勝利をおさめていますし、二次予選では捲ってきた深谷知広の後ろに入り、ゴール前では差し返して連勝を決めています。「この勢いのまま決勝まで行ってしまうのではないか?」と思いました。
車番が悪くなった準決勝では後ろから抑えに行くも、他の選手に叩かれた結果、ホームでは6番手になってしまいます。こうなると持ち味であるカマシも不発となり、結果は9着敗退でした。石原の負ける時のレースは、このように初手で抑えに行ったときが多いです。その一方で、スタートで前の位置が取れた時には脚を使わず溜めていけるので、そこからのカマシは桁違いの強さを見せます。
石原も「大きいレース」を心がけている感がありますし、記念競輪どころか、特別競輪でも決勝の常連になれるところまで来ていると見ています。しかも25歳のまだまだ伸び盛り。今はカマシを得意としていますが、今後のトレーニングで伸ばしていく能力によっては幅も広がるでしょう。何よりレースの中で様々な駆け引きを学んでいけば、どんな展開でも結果を残せるような走りができるはずです。
石原は開催中の久留米競輪「中野カップレース(GIII)」に参戦中です。一次予選は見事なカマシ捲りで勝利をあげ、二次予選でも持ち前のスピードを武器に快勝しています。今大会でも自信を持って、スタイルを貫いて欲しいと思います。
石原颯出走情報
開催場 | 開催名 | シリーズ日程 |
---|---|---|
弥彦 | ふるさとカップ (GIII) | 7月10日〜13日 |
玉野 | サマーナイトフェスティバル(GII) | 7月18日〜21日 |
別府 | 7車立てならTIPSTAR杯(FI) | 7月28日〜30日 |
いわき平 | 東スポ杯・いわき健康センターC(FI) | 8月4日〜6日 |
函館 | オールスター競輪(GI) | 8月12日〜17日 |
※上記出走情報はコラム公開日時点(2025年7月1日)のものです。
※アプリをインストールの上、データベース内の選手ページにてお気に入り登録(☆をタップ)しておくと出走確定情報が通知されるので便利です
第1回目のコラムはここまでとしましょう。小川も石原も同じ四国地区にはSS班となった犬伏湧也(徳島・119期)がいます。2人にとって地元にSS班の選手がいるのは刺激になっていると思います。犬伏も「大きなレース」をする選手ですし、恰好の目標ともなっているのではないのでしょうか。
小川は父である小川圭二(68期)だけでなく、兄・小川丈太(111期)、弟・小川将二郎(121期)も競輪選手ですから、競輪に打ち込める環境が整っていることでしょう。犬伏だけでなく、石原、小川のような若手選手が特別競輪に名を連ねるようになった時、四国地区は競輪界でかなりの勢力を誇るかもしれません。
坂本勉
Tsutomu Sakamoto
●坂本勉(さかもと・つとむ) 1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。