2024/11/28 (木) 18:00 13
11月の平原康多選手は、GI競輪祭に出走しました。3場所連続の落車という不運の結果にも負けず、満身創痍の体で最終日まで走り抜きました。落車後の心境や、1カ月後に控えるKEIRINグランプリへの思いなど、今回も思いの丈を語ってもらいました。
ーー悪い流れが今回も断ち切れませんでした。まず、二次予選のけがの程度はどれぐらいだったのですか?
打撲と擦過傷、あとは軽い肉離れのようなものが残りました。大事には至らなかったです。
ーーしかし、3場所連続の落車ですから、体だけでなく、ショックも大きかったでしょう。
二次予選は、佐々木(悠葵)が完璧なレースをしてくれて、あとはゴール前で踏むだけという状況でした。(落車の瞬間は)何が起こったか、分からなかったですね。完全に不可抗力だし、もらっちゃった事故という感じでした。治り切っていない中での落車だから当然、体は痛かったけど、またやってしまったという精神的なショックの方が大きかったかもしれません。
ーーところが、今回も翌日の強行出場を決めました。グランプリ前の無理をする時期ではないのに、なぜ走ったのですか?
医務室に搬送されている時は、帰るつもりでした。医務室で擦過傷の部分をこすって消毒し、腕を上げ下げして動作を確認したり、痛いところがどこかを確認していく間に、またいろいろと考えました。3場所連続で落ちて欠場。その悪い流れのままグランプリを走るのはイヤだなと思いました。自転車も煮詰まっているわけじゃないし、まだ試したいことも残っていた。きついけど、走ってみようと。
ーーとはいえ、体が言うことをきかないんじゃないですか?
翌朝、起きた時はヤバい痛みでしたね。とりあえずロキソニンを飲んで痛みをごまかして、体を動かしました。
ーーレースにも支障は出たでしょう。
痛い箇所をかばう部分があるし、普段と同じようには乗れないですよね。落車をすると、その瞬間にすごい力が入るので、お腹がガチガチに固まっちゃうんです。そうなると、サドルとのフィット感もなくなります。
ーーその場面で1着を取るとか、メンタルと体の強さにただただ驚かされます。
松本貴治のカマシにスイッチする瞬間だけ、ぐっとお腹に力が入ったんです。宿口(陽一)も前には出してもらえなかったけど、頑張ってくれましたし。
ーー宿口陽一選手との前後は、すんなり決まったんですか?
いつものように自分から「前でやろうか?」と言うと、宿口が「前でやらせて下さい」と。自分も最近は自力で戦っているわけではないし、偉そうなことも言えない。この時は宿口の気持ちの強さを感じたので、後輩の意思を尊重しました。
ーーあの状況で勝てるわけですから、落車がなかったら…と考えてしまいます
それは仕方のないことです。昨年のけがはこんなもんじゃなかったので、それに比べたらまだマシです。あの時の経験が今に生きていますよね。
ーー一次予選の2走がいい感じだっただけに残念です。話は戻りますが、初日が休みで2日目からの出走になりました。オール予選の競輪祭は、1走目が初日になるか2日目になるか分かりませんが、調整はどう考えていますか?
もちろん初日走るつもりで準備してきます。
ーー今回は2日目からでした。初日から走りたかったですか?
早めに合わせているし、初日走って1日休めた方が体にはいいですよね。
ーーいきなり初日がオフになりました。オフ日はどんな感じで過ごすのですか?
指定練習でもがいて体に刺激は入れます。あとはレースに出た仲間の自転車を取りに行ったり、そこまでのんびりという感じではないですね。
ーーリラックスして山口富生選手と談笑していた姿が印象的でした。どんな話をしていたんですか?
僕よりひと回り以上も年上の富生さんが、こうして同じGIに出ている。リスペクトしかないじゃないですか。だからいろいろと聞かせてもらっていました。コラムでは話せないことも多いですよ。
ーーそこを何とか。ざっくりでも構わないので。
モチベーションの保ち方とか、気持ちの面をけっこう聞きました。走りを見てもすごいし、今の成績に満足していないところもすごい。一番は、あの負けん気の強さですかね。他にはお互いの趣味の時計の話なんかもしていましたよ。
ーー 一次予選(1)は、北井佑季選手との初連係でした。事前にコミュニケーションは取りましたか?
たまたま大会の1週間前に北井が西武園に来ていて、みんなでもがいたんですよ。それもあったし、控え室でも神奈川が隣だったので、コミュニケーションは取っていました。
ーーそれは奇遇でしたね。アマ時代から北井選手は見ていたんですよね。ここまで強くなると思っていましたか?
師匠の高木(隆弘)さんが厳しい人でしたし、厳しい環境が当たり前だから、それは強くなりますよね。
ーー作戦会議はどんな感じだったのですか?
僕は普段通りにやったんですけど、レース後に北井から「すごく丁寧で、ああいう作戦会議は初めてだった」と言われました。
ーーその成果か、ともに確定板に乗る初連係になりました。
前半からいいピッチで、こういうペースで踏むのかと感じながら付いていました。ただ、新山(響平)と同じようにエアロフォームなので、後ろでずっと風を受けている感じで、足を削られるんですよ。
ーー初戦からものすごいメンバーでしたけど、あそこで上位に入れたのは大きかったですよね。
いきなりこんなメンバーかと思いました。寺崎(浩平)にアベマサ(阿部将大)までいる。最後は河端(朋之)に行かれましたけど、自分としては北井をかばっての2着だから、2人でいいレースが出来たなと納得出来ました。
ーー 一次予選(2)は、吉田拓矢選手との連係でした。危ないシーンもありましたね。
中野慎詞がちょっと焦っている感じはあったものの、簡単に位置は譲らないぞという気迫を見せましたよね。ナショナルも帰ってくると、ちゃんと競輪するんだなと思いました。
ーー吉田選手と中野選手が並走になった瞬間は、危険なニオイがしましたよね。
早めにニオったから自分は落車を避けられたんだと思います。あれを避けたから、今回はもう大丈夫かなと思ったんですけどね、ははは。
ーーそれにしても過酷な6日間お疲れ様でした。いよいよグランプリメンバーが出そろいましたね。
岩本(俊介)が乗るには、ワッキー(脇本雄太)優勝の松浦(悠士)が3着以下という条件でしたよね。岩本と同期のワッキーが決めて、松浦が3着になる。すごいドラマがあるなと思いました。
ーー残すところ1カ月となりました。
現時点では、落車3連発でまともな体の状態じゃないし、さてどうやって戻していこうかという段階です。
ーー平原選手のグランプリ制覇はファンの悲願でもあります。
今は強気なことは言えないし、まずは本番で眞杉(匠)に迷惑をかけないようにしたいのが本音です。ただ、競輪祭を最終日まで走り切ったことで、流れは変わってくれると信じたい。次のグランプリ前のコラムでは、「(復活の)兆しが見えたから優勝を目指して頑張る」ぐらいのことを言えるように頑張ってみます!
(※文中敬称略)
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平原康多
Hirahara Kota
埼玉県狭山市出身。日本競輪学校87期卒。競輪選手・平原康広(28期)を父に持ち、その影響も受けて高校時代から自転車競技をスタート。ジュニア世界自転車競技大会などで活躍し、頭角を現していった。レースデビューは2002年8月5日の西武園。同レースで初勝利を記録。2009年には高松宮記念杯と競輪祭を制し、2010年も高松宮記念杯で勝利。その後もGⅠ決勝進出常連の存在感を示し、2013年は全日本選抜、2014年と2016年には競輪祭、2017年も全日本選抜などで頂点に輝く。最高峰のS級S班に君臨し続け、全国の強者と凌ぎを削っている。