アプリ限定 2024/12/14 (土) 18:00 23
今年最後の平原康多コラムは、GIの舞台で平原選手を最も近くで見ている武藤龍生選手をゲストにお迎えしました。気心の知れた2人の対談は、まるで宿舎で話しているような緩い時間が流れました。そんなお二人に遠慮なくいろいろなことを語り合ってもらいましたが、最後はとんでもない暴露話で終わります。お楽しみに!
ーー2年ぶり14度目のグランプリ出場おめでとうございます。
平原 ありがとうございます。
ーー昨年の大きなけがを乗り越え、見事なSS返り咲きです。しかし、3場所連続の落車明け。現状はいかがですか?
平原 ようやくちょっともがけるようになってきました。通常の練習はやれています。
ーーそれにしても、今年のダービーの優勝は驚きでした。今年のベストレースになりますよね?
平原 あの時は腰の違和感もあまりなくて、今年の中ではいい状態でした。自転車とのマッチングも良かった。今年、満足に体が動いたなと思えるのは、あのダービーだけだったかもしれません。
ーーその優勝シーンを真後ろで見ていたのが武藤選手でした。お二人の関係性から聞いていきたいのですが、武藤選手がデビューした時は、すでに平原選手はGIでタイトルを獲るような選手になっていましたよね。
武藤 僕は親父(武藤嘉伸=22年6月引退)が選手でしたから、アマ時代から平原さんのことはずっと見ていました。本当にスーパースターでしたし、ずっと憧れの存在です。
ーーデビューして身近になって印象は変わりましたか?
武藤 練習させてもらうようになったのは、ここ2年ぐらい。それまでは同県でも遠い存在だったし、緊張感がありました。でも今は…だいぶ話ができるようになりました。
平原 はははは、緊張なんて全然そんなことないし、楽だと思いますよ。
武藤 いや、バキバキです。
ーー武藤選手は早くから追い込みとしてスタイルを確立しましたが、平原選手のように自力でトップを目指そうとは思わなかったのですか?
武藤 自力で戦いたいという思いはあったんですけど、S2班の時に自力ではここまでかなと思った時期が来て、親父に相談しました。デビュー7年目ぐらいで方向性を決めた感じです。
ーー今年はFIでの優勝が4回。GIIIで3度、GIでは1度の決勝進出がありました。年々ステップアップしていますし、平原選手も「武藤龍生は、諸橋愛さんと並ぶ関東屈指のマーク屋」と言っていますが?
武藤 それはうれしいですけど、流れが良くて自分の価値が上がってきている感じだし、まだまだだと思っています。
ーー21年の高松宮記念杯で宿口陽一選手が優勝しました。そのころから武藤選手もメキメキと頭角を現してきましたが、宿口選手の活躍はカンフル剤になりましたか?
武藤 そうですね。みんながやってやるぞという気持ちになったのは間違いないし、盛り上がりましたね。
平原 ふふふふ。
武藤 あの時はうれしかったですね。陽一さんがタイトルホルダーになって、自分もそこに近づきたいと思えたし、ラインを固められる選手がもっと必要だなと思いました。
ーー自分の目指す役割が明確になったのですね?
武藤 そうですね。そういう方が自分の性に合っているのだと思います。
ーーまさにダービーの決勝がそういうシチュエーションでした。武藤選手は完璧な3番手の仕事だったと思います。作戦はすぐに決まったのですか?
平原 あの時は3人の意見が一致していて、作戦会議も1分ぐらいで終わったと思います。細かいことは話さなかったですね。ヨシタク(吉田拓矢)の仕掛けるポイントと、初手の位置ぐらいでした。
ーーダービーの決勝で平原選手の後ろを回ることになって、武藤選手はどのような思いでしたか?
武藤 めちゃくちゃうれしかったですね。アマ時代から見てきた平原さんとダービーの決勝を走れる。ここに来られたんだなと思いました。
ーーレースは緊張しましたか?
武藤 昨年から平原さんが苦しんでいるのをずっと見てきたし、報われたらいいなと思っていました。その上で自分の結果も良かったらという感じでしたね。まずは自分の役割に集中していました。
ーーSSから陥落した平原選手は裏でどのような感じでしたか? 実はすごく悔しがっていたりとか(笑)
平原 はははは。
武藤 あんまり悔しがる姿は見たことがないですね。常にテーマを持って1つずつ淡々とやられていると思うので、着が良くても悪くても、自分が納得していればいいのだろうと、そういう感じで僕は見ています。
ーーブレがないんですね。
武藤 本当にブレがなく淡々と勝負していますね。いつもそういう姿に勉強させてもらっています。
平原 そういう風に映るんですね。こちらはその都度必死なんですけどね、ははは。
ーー昨年は身近にいて平原さん苦しそうだな、辛そうだなと感じましたか?
武藤 そういうところを見せないし、練習はいつでも強いんですよ。本当にけがしてんのかなと思うぐらいに。同じ人間とは思えないですね。こないだの競輪祭でもそう思いました。
ーー競輪祭で落車した後、破けたレーサーパンツのまま、お尻から血を流しながら次の日の準備をしていたときは、こちらも「えっ!走るの?」と信じられない思いで見ていました。
平原 その擦過傷を龍生に治療してもらって、そのおかげで5日目と6日目も走り切ることが出来ました、ははは。
ーー平原選手のお尻を見てどうでしたか?
武藤 いやぁ、大きかったですね。
平原 はははは。
武藤 自分は二次予選で敗退して気持ちが切れそうだったんですけど、そんな平原さんを見て震えていました。自分は元気なんだから頑張らなきゃと思いましたよ。
ーー逆に平原選手は武藤選手から刺激をもらったり、学ぶことはありますか?
平原 最近、西武園で会うことが多くなりましたけど、やっぱり他の選手とは違いますね。自分がやりたいこととか、意思を持って練習に来ているというのが分かります。今の自分はこういうところが足りないと明確に分かっていて、練習をどうレースにリンクさせたいかが見えますね。
ーー数年前から武藤選手の明らかな成長を感じますか?
平原 龍生は自分と歩んできている道が違う。マーク選手で番手勝負して、競って勝ち負けをして今の地位まで来ている。すごく厳しい道を進んでここまでたどり着いたのはすごいですよ。一歩一歩、地に足をつけて歩んできたから、そう簡単には崩れない選手だと思います。
ーー長くトップ戦線で一緒に戦える仲間だと?
平原 そうですね。ぽっと出で、いきなり強くなって、いきなりいなくなる選手では絶対にないと思います。
武藤 うれしいですね。やってきて良かったなと思います。
ーー武藤選手は真後ろから見た平原選手のダービーの優勝シーンをどう感じましたか?
武藤 正直なところ、ゴールの瞬間は諸橋さんを倒すのにいっぱいいっぱいで見られませんでした。平原さんがガッツポーズをしている姿を見て、あっ!やった!優勝なんだ!と思いました。何だか映像がキラキラしていましたよ。なかなか見られる光景じゃないし、思い切って仕掛けてくれたタクヤ(吉田拓矢)の気持ちもうれしかったです。
ーーここまでお互いにすごく褒め合っているので、面白いエピソードも入れたいのですが、平原選手が出られなかった松戸のサマーナイトの前検日に、武藤選手と宿口選手にネックレスをプレゼントした一件がありましたよね。
平原 ははは、ありましたね。
ーー武藤選手は、「俺はいないけど、関東を頼むぞ」という大将からのエールと受け取っていました。誇らしげにネックレスを見せてくれたのですが、そういう意味だったのですか?
武藤 自分はそういう気持ちで受け取りました。
平原 いやいや、実は何年か前に僕がブルガリのネックレスをしていた時に、龍生が「それいいですね」と言ったんです。そうしたら横にいた阿部大樹が、「龍生、お前に似合うのはそういうネックレスじゃなくて、ドッグタグなんだよ」と言ったんですよ、ははは。
武藤 はははは。
平原 それがずっと頭にあったんですよ。サマーナイトの前、都内に買い物に出たら、何か龍生に似合いそうだなと思うネックレスを見つけたんです。もちろんドッグタグじゃないですよ、ははは。それを軽い気持ちで陽一と龍生にあげようと思って買ったんです。
ーーでも、武藤選手はそのネックレスのおかげでめちゃくちゃ気合が入っていましたよ。
平原 それで頑張ってもらえたなら、良かったです。
ーー今年の関東は平原選手の他に眞杉匠選手もグランプリに出場します。佐々木悠葵選手や他の若い選手たちも飛躍しました。来年の関東はどうなると思いますか?
平原 まず今の関東はみんな仲がいいというのが前提にあって、日ごろから友達感覚でいられる。堅苦しい感じじゃなくアドバイスが出来る関係。だからみんなが受け入れてくれるのかなと思いますし、まとまっていけば、すごい力になると思います。アイツらが僕のことをナメてるだけなんですけどね、ははは。だから、これからは関東のリーダーと自負している龍生にまとめていってほしいですね。
武藤 いやいや、自負してないですよ…。勘弁して下さい…。
ーー平原選手は自分の後継者は武藤選手だと思いますか?
平原 当然そういう気持ちはありますよ。もう自分がうるさく言う立場じゃなくて、龍生のような中堅の立場の人間が後輩たちに厳しいことも言ってあげたらいいし、そうすれば関東もまとまっていいレースが出来ていくと思うんです。
ーー平原選手は若いころ先輩にうるさく言われましたか?
平原 僕はあまり怒られなかったですね。怒られることをする前に、後閑(信一)さんや武田(豊樹)さんが色々と教えてくれましたからね。
ーーこちらの勝手なイメージですけど、お二人の間にいる宿口陽一選手はよく怒られている印象があります。
平原 陽一は僕が高校3年の時の1年。向こうが40歳近くになってまで怒りたくはないけど、ちょこちょこ何かやらかすんですよ。まだこれ言わないといけないの?みたいな。言わざる得ない時がいまだにあるんです。
武藤 (ニヤニヤ)
ーーそういう光景を武藤選手はどう見ているのですか?
武藤 いやあ勉強になりますね。
平原 お前、いつも見てめちゃくちゃウケてるだろ!
武藤 陽一さんには感謝したいです、ホント。
ーー宿口選手は愛すべき必要な存在ですね。
平原 ギャグキャラですし、本当に面白いヤツです。
ーー武藤選手はこれからの関東がどうなっていくといいと思いますか?
武藤 先輩方がこうした方がいいと言ってくれるので、各々の“競輪力”が上がってきていると思うんです。力を合わせれば強力なラインになるし、来年は眞杉と平原さんがSSになる。二人を中心に自分たちも支えになって、みんなで活躍できればいいと思います。
ーー武藤選手がグランプリに乗るには、何が足りないですか?
武藤 それを最近考えていて、今までやってきていないことを試すことが近道かなと。フレームやセッティングも色々と試したいですね。でも、自分は急ぎで強くはなれないんで、日ごろの積み重ねが結果に結びついていけばいいかなと思います。
ーーでも、武藤選手は確実に今が一番強いですよね?
平原 (ニヤニヤしはじめ、笑いが止まらなくなる)
武藤 ラインの力のおかげなんですけど、前よりも…(笑いに耐えきれなくなる)
平原 競輪祭の時に部屋で言ってたじゃん。僕すごい力付いてきましたって、ははは。
武藤 前よりは付いてきたかなと。いつか平原さんと一緒にグランプリ乗りたいです。
ーー今回またグランプリを走る平原選手へ武藤選手からエールを送ってもらえますか?
武藤 眞杉と2人で頑張ってもらって、どちらかが優勝してくれたらと思います。僕もそのシリーズを走るので、一緒に頑張りたいと思います。僕はS級初優勝が静岡だったので。印象もいいんですよ。
ーー平原選手は何回も乗っていますが、今回のグランプリは特別な思いがあるでしょう。
平原 グランプリは回数じゃないですね。毎回メンバーも雰囲気も全て違う中でやるので、初めてのつもりで走ります。前夜祭までには納得のいく体の状態を作ろうと思います。
ーー平原選手の静岡グランプリといえば、落車後、2万人の声援を受けて傷だらけでゴールした18年のシーンが思い出されます。
平原 静岡は自分の記憶だと過去に優勝がないんです。でも、あの時に受けた声援は忘れられないし、いい思い出として残っていますね。
ーー今年は今まで獲れなかったダービーを獲りましたし、ジンクスは覆るでしょう。
平原 そうですね。運もかなり必要ですけど、そうなるように頑張ります。
ーーきっと武藤選手もサポートしてくれますよね?
武藤 バッチシです。
平原 はははは。
ーーこれで走ろうというフレームは決まっているのですか?
平原 3場所連続で落ちたフレームは縁起が悪いので、ダービーの時の自転車とセッティングで臨もうと思っています。
ーー気になる車番ですが、今回は選考順位の順に希望を言っていくシステムですね。
平原 競輪祭の時、すでに聞かれて希望は伝えました。他のみんなも書いて出していると思います。
ーー選考順位が3番目の平原選手は割といい位置が取れそうですね。
平原 それもスタート次第じゃないですかね。グランプリは歓声がすごくて、発走員の声がまったく聞こえない。ミスっちゃうパターンもあると思うので。
ーーでは眞杉匠選手が勝った昨年のオールスター決勝(平原選手が1番車でS取りの役割を背負っていた)ぐらい、今回もスタートは緊張しますね。
平原 ああ確かにそうですね。すごい集中力がいるし、緊張すると思います。古性(優作)のようにスタートがずば抜けて速い人はいますからね。当日は全力で挑みたいと思います。
ーーでは、最後に一緒に練習もするようになって関係が近くなったお二人に聞きます。お互いにここが変だなと思うようなところはありますか?
平原 放送できないようなことばかりです、ははは。
武藤 僕はないです…。
ーー平原選手がふざけ始めると、書けないことが多いですよね。
平原 埼玉は宿舎の部屋での雰囲気が和気あいあいです。普段からいつもふざけているので、本当に書けないことが多いと思います、ははは。
ーー何か1つ話せるエピソードを下さい。
平原 こないだの競輪祭で龍生がバナナ10本食った話はどうですか?
ーーぜひぜひ!
平原 森田(優弥)がいつも一番最初に悪ふざけを仕掛けてくるんですけど、バナナの皮をむいて人の顔の前に持っていくんですよ。そうすると出された方は食べるしかなくなるじゃないですか。それも歯を磨いた後とかにやるんですよ。競輪祭でも、それをやり続けられて龍生がバナナを10本ぐらい食わされてました、ははは。
武藤 お腹パンパンでやばかったです。この流れって共同(通信社杯)から始まったんですよ。
平原 そうなの?
武藤 平原さんが途中欠場して、残された森田と陽一さんと「気持ち強くしていこうぜ」なんて言ってたら、それじゃあと、ご飯を漫画みたいな大盛りにして食ったり、さんまの頭を5匹ぐらい食ったりと、そういうノリが始まっちゃったんです。
平原 競輪祭では僕もけっこう食わされたんですよ。そんな風にふざけてても、龍生は次の日に1着取ってましたからね。
武藤 じゃあ静岡もバナナ買っていきます。
平原 はははは。
ーー最後に平原選手から見て、武藤選手はこうすればもっと強くなるよという部分はありますか?
武藤 それめっちゃ聞きたいです。
平原 普通に強くなってますよ。自分で力が付いてると言うぐらいですからね。龍生はマーク選手ですけど、1周以上踏めるし、自力を出せる足はあると思います。それぐらい強いと感じますね。
ーーでは2025年には武藤選手、1回ぐらい逃げ切りを見せてくれますか?
武藤 そうですね。警戒されていない時にチャンスがあればやってみたいと思います。
ーー武藤選手は何か話し足りないことありますか?
武藤 今回この話をいただいて、だんまりになると思っていたんですけど、こんなに話すとは思いませんでした。
ーーでは、そのついでに武藤選手が平原選手にここを直して欲しいということありますか?
平原 いいですね。そういうの聞きたいです。
武藤 えーっ。言っちゃっていいのかな…。実は1個だけあるんですよ。
平原 お?
武藤 普段は全く直して欲しいとこなんてないんですよ、平原さんは漢なんで。
ーーそこまで言ったならぜひ!
武藤 ウオーミングアップが終わると、平原さんは汗をかいたインナーを着替えるんです。ある時、ティッシュがなくて、平原さんが着替えながら、インナーでブーっと鼻をかんだんですよ。
平原 あははははははは。
武藤 マジかよと思って。
平原 それ嫁にも怒られるんですけど、その後すぐに洗濯するやつだったら、鼻かんでそのまま洗濯機に入れちゃうんですよ。洗うからいいやって。それがクセになっちゃって。
武藤 ワイルドだなと、はははは。
平原 ワイルドじゃなくて、エコですエコ、はははは。
武藤 はははは。すいません。
(※文中敬称略)
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お待ちしております!
平原康多
Hirahara Kota
埼玉県狭山市出身。日本競輪学校87期卒。競輪選手・平原康広(28期)を父に持ち、その影響も受けて高校時代から自転車競技をスタート。ジュニア世界自転車競技大会などで活躍し、頭角を現していった。レースデビューは2002年8月5日の西武園。同レースで初勝利を記録。2009年には高松宮記念杯と競輪祭を制し、2010年も高松宮記念杯で勝利。その後もGⅠ決勝進出常連の存在感を示し、2013年は全日本選抜、2014年と2016年には競輪祭、2017年も全日本選抜などで頂点に輝く。最高峰のS級S班に君臨し続け、全国の強者と凌ぎを削っている。