2025/11/17 (月) 18:00 3
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが小田原競輪場で開催された「施設整備等協賛競輪」を振り返ります。
2025年11月16日(日)小田原12R 第13回施設整備等協賛競輪 NO KEIRIN,NO LIFE CUP(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①松坂洋平(89期=神奈川・43歳)
②山田諒(113期=岐阜・26歳)
③塚本大樹(96期=熊本・37歳)
④岡本大嗣(88期=東京・45歳)
⑤宮本隼輔(113期=熊本・31歳)
⑥一戸康宏(101期=埼玉・38歳)
⑦西村光太(96期=三重・39歳)
⑧志村太賀(90期=山梨・42歳)
⑨阿部将大(117期=大分・29歳)
【初手・並び】
←⑨⑤③(九州)⑥④⑧(関東)②⑦(中部)①(単騎)
【結果】
1着 ③塚本大樹
2着 ⑤宮本隼輔
3着 ④岡本大嗣
11月16日には神奈川県の小田原競輪場で、施設整備等協賛競輪(GIII)の決勝戦が行われています。小田原バンクでは、つい先日に記念が開催されたばかりですが、それに続いてのGIII開催。小倉・競輪祭(GI)の直前に行われる「裏」開催で、誰が優勝するのかまったく読めないような、いかにも難解なメンバーが集いました。注目株を一人あげるならば、それは市田龍生都選手(127期=福井・24歳)でしたね。
早期卒業制度によって今年デビューを果たしたエリートで、夏にはS級2班まで特別昇格。2018年に引退された市田佳寿浩・元選手(76期・引退)の息子であり、そして弟子でもあるというのも、注目を集める理由ですね。大学時代のインカレではケイリンと1kmTTを3連覇し、競輪選手養成所でもゴールデンキャップを獲得し、優秀な成績で卒業。将来を嘱望される、若きスター候補の一人であるのは間違いありません。
そんな市田選手ですが、7月の別府FI決勝戦で落車し、左鎖骨の骨折など大きなダメージを負います。その復帰戦とあって、どの程度のデキにあるのかも含めて、初日から大きな注目が集まりました。しかし、初日の一次予選は逃げるも最後に脚が完全に上がってしまい、8着に大敗。これが市田選手にとってのGIIIデビュー戦だったわけですが、なかなか厳しい結果となってしまいましたね。
初日特選は、競走得点上位の選手がズラリと並んだ九州勢が上位を独占。打鐘で前を叩いた阿部将大選手(117期=大分・29歳)が逃げ、番手の伊藤颯馬選手(115期=沖縄・26歳)が、最後の直線でそれを差して1着。ライン3番手の塚本大樹選手(96期=熊本・37歳)が2着で、逃げた阿部選手が3着という結果です。小田原記念の決勝戦にも乗っていた菅原大也選手(107期=神奈川・34歳)は、後方から捲るも不発で5着でした。
混戦模様のシリーズらしく、その後は特選メンバーが次々と姿を消していきます。混戦ほどモノをいうのが「デキ」で、勝ち上がったのはいずれも、調子のよさが感じられる選手ばかり。初日からオール連対の山田諒選手(113期=岐阜・26歳)や、準決勝では中団から力強く捲りきった一戸康宏選手(101期=埼玉・38歳)、安定した走りをみせる塚本大樹選手(96期=熊本・37歳)などは、とくにデキがよさそうでした。
決勝戦は、ライン3つに単騎が1名というメンバー構成に。2車ラインの中部勢は、好調モードの山田選手が先頭で、その番手を西村光太選手(96期=三重・39歳)が回ります。車番にも恵まれたここは、前々から積極的に攻めたいところ。そして3車の九州勢は、阿部選手が先頭で番手が宮本隼輔選手(113期=熊本・31歳)、3番手を固めるのが塚本選手という並び。総合力は、ここがナンバーワンですね。
関東勢も3車で、先頭を任されたのは一戸選手。番手を岡本大嗣選手(88期=東京・45歳)が回って、志村太賀選手(90期=山梨・42歳)が3番手を固めます。車番に恵まれなかったここは初手で後ろ攻めとなりそうで、そこからどうレースを組み立てるか注目ですね。唯一の単騎勝負が松坂洋平選手(89期=神奈川・43歳)で、自力もあるとはいえ、それをどう生かすかの勝負となりそうです。
ここは阿部選手の「先行一車」とも考えられるメンバー構成ですが、山田選手や一戸選手は思いきって逃げる可能性だけでなく、捌きや飛びつきで勝負してくる可能性もある。展開をコレと決め打ちできない、流動的な面が多々ある一戦といえます。それは実際に走る選手も同じで、それはつまり、展開次第でどの選手にも優勝のチャンスがあるということ。一筋縄ではいかない決勝戦になりそうですよ。
それではそろそろ、決勝戦の回顧といきましょうか。レース開始を告げる号砲が鳴ると同時に、素晴らしいダッシュをみせたのが9番車の阿部選手。4番車の岡本選手もいい飛び出しをみせますが、阿部選手が前に出てスタートを取ります。九州勢の前受けが決まり、関東勢の先頭である一戸選手は中団4番手から。山田選手はまさかの7番手で、最後方に単騎の松坂選手というのが、初手の並びです。
レース前の想定とは大きく異なる初手となった決勝戦。後方の山田選手は、青板(残り3周)掲示を通過したところから動き出します。単騎の松坂選手もこれに連動して、外から3車で位置を上げていきました。先頭の阿部選手はイエローライン付近までバンクを駆け上がり、山田選手を出させないようにしつつバックストレッチへ。バック通過で誘導員が離れるのに合わせて、両者が加速します。
先頭の阿部選手がここで突っ張る姿勢をみせると、山田選手はバックを踏んで一気に後退。しかし、連動していた単騎の松坂選手は中団の外をキープし、一戸選手の外につけます。一戸選手と松坂選手が絡みながら青板の2センターを回って、赤板(残り2周)掲示を通過。赤板後の1センターで、後方となっていた山田選手が位置を上げようとしますが、ここで一戸選手はヨコに動いて、松坂選手をブロックしました。
この動きで山田選手の進路は遮られ、山田選手は松坂選手の後ろから様子をみる態勢にシフト。ここで先頭の阿部選手が一気に加速し、中団の一戸選手もすかさず追ったことで、松坂選手は7番手、山田選手は再び後方8番手となりました。一気にペースが上がり、阿部選手の主導権でレースは打鐘を迎えます。山田選手は離れた後方に置かれる展開となり、2センターを回って最終ホームに帰ってきました。
ここで、少しだけ空いていた最内を狙ったのが、7番手にいた松坂選手。関東勢の懐に潜りこみ、最終1センターで内をすくって前に進出します。宮本選手は、先頭で飛ばす阿部選手と少し車間をきって、発進できる態勢を整えつつ追走。外を警戒していた宮本選手ですが、松坂選手が急追してくるのを確認すると、内を閉めてその進路を阻みました。時を同じくして、後方の山田選手が再び仕掛けて捲りにいきます。
最終バックで宮本選手は前に踏み込んで加速し、阿部選手の番手から発進。内で進路がなくなった松坂選手は、脚も残っておらず後退気味です。後方から捲りにいった山田選手は仕掛けを合わされ、前との差をなかなか詰められないまま。番手から発進した宮本選手は、最終3コーナーで阿部選手の前に出て、先頭に立ちました。中団の一戸選手はここで外に出して、九州勢を捉まえにいきます。
しかし、阿部選手の番手から発進した宮本選手の脚色がよく、一戸選手は最終2センターでも、前との差をまったく詰めることができません。後方の山田選手は完全に不発で、関東勢の3番手である志村選手もここで離れてしまいますが、その前にいた岡本選手は先頭集団に食らいつき、空いているインを狙って一戸選手の内に進路を取ります。岡本選手が内から一戸選手に並んで、短い最後の直線に向きました。
直線に向かう手前で差す態勢を整えていた塚本選手は、直線の入り口で宮本選手に並びかけます。その後ろからは、内の岡本選手と外の一戸選手が追いすがりますが、一気に前を捉えられるような勢いはありません。最後は、内の宮本選手と外の塚本選手によるマッチレースに。どちらも譲らず最後はハンドル投げ勝負となりますが、ゴールラインでは外の塚本選手が、ほんの少しだけ前に出ていました。
デビュー16年目となる塚本選手は、これがうれしいGIII初優勝。競走得点が最も高かったシリーズリーダーとして、終始安定した走りで見事に結果を出しましたね。僅差の2着が番手から捲った宮本選手で、熊本ワンツー決着。年明けの熊本・全日本選抜競輪(GI)を見据える熊本勢や九州勢は、このところ随所で存在感を発揮しているんですよね。阿部選手の力走のおかげとはいえ、じつに力強い走りでした。
優勝者インタビューでの談話で意外だったのが、阿部選手の突っ張り先行が作戦通りだったということ。「逃げイチ」に近いメンバー構成だったとはいえ、阿部選手の能力やデキならば優勝が十分に狙えると思われただけに、ここまで「ラインから優勝者を出す走り」に徹するとは思わなかったですね。9番車からスタートを取っての突っ張り先行には、他のラインも意表を突かれたのではないでしょうか。
それだけに効果は絶大で、しかも舞台は短走路の小田原バンク。調子もよさそうだった九州勢に見事なリレーを決められると、いかにデキがよくても、他のラインや選手はなかなか立ち向かえません。そんななかでも「なんとかしてやろう」という意気込みを感じたのが、間隙をつき最内を抜けて前に迫った、松坂選手の走り。結果は7着とふるいませんでしたが、単騎ながら意地をみせた走りだったと思います。
それとは逆に、なんでもできる選手であるはずが、何もできずに終わってしまったのが山田選手。初手で後ろ攻めになってしまってからも、後手を踏んでばかりで終わってしまった感があります。事前の読みとは展開が大きくズレて、その後の修正がきかなかった…といった印象ですが、飛びついてのライン分断などを期待していたファンにしてみれば、かなり残念な走り。もっと柔軟に立ち回ってほしかったですね。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。
