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すっぴんガールズに恋しました!

【石井貴子】姉・寛子とは違うスタイルで! 先行勝負と自分らしさにこだわり続けるオシャレ番長

アプリ限定 2021/06/22 (火) 18:00 12

日々熱い戦いを繰り広げているガールズケイリンの選手たち。このコラムではガールズ選手の素顔に迫り、競輪記者歴12年の松本直記者がその魅力を紹介していきます。
6月のピックアップ選手は逃げて逃げての徹底先行が魅力の「石井貴子(いしい・たかこ)選手」です。自身のスタイルを確立するまでのストーリー、大切にしている幼き頃の夢…などなど今月も盛り沢山でお送りいたします!


石井貴子(33歳=東京・104期)

 ガールズケイリンには2021年6月22日現在、4組の姉妹レーサー(※1)がいるが、一番有名な姉妹と言えばガールズケイリン2期生の石井姉妹(寛子・貴子)だろう。今回は妹の貴子を徹底解剖したい。

三姉妹の末っ子、好奇心旺盛で自由

 石井家は三姉妹。長女は競輪と全く関係ない一般の方、次女が寛子、三女が貴子。小学生のころは陸上(ハードル)、中学は陸上(走り幅跳び)とソフトテニス、高校でもう一度陸上に戻り、やり投げでは関東大会に出場するほどの運動神経の持ち主だった。

 高校からの進路は迷うことなく大学進学を決断。東洋大時代は勉強することが好きで、キャンパスライフを存分に楽しんでいたという。貴子は長女の影響でギターに興味を持ち、軽音楽部でエレキギターを弾いていたらしい。また、フットサルサークルで体を動かしたり、フィットネスジムの受付アルバイトに精を出したり、文化部も体育部も社会人経験も、好奇心のままに経験の幅を広げたことだろう。 

アパレル業界に就職するも苦悩

 姉・寛子が自転車競技で活躍する中、貴子は就職の道を選択した。洋服が好きなこともあり、アパレル関係の仕事を熱望。第一希望の会社では最終面接まで行くことはできたが、入社はかなわなかったらしい。当時のことを聞くと「失恋した気分でした。でも第一希望の会社に入れていたら、ガールズケイリンに来ていないかもしれないし、分からないものですね」と振り返っていた。

 その後、第一希望ではなかったが、ファッション業界に就職。だが、常に物足りなさを感じる日々に直面する。貴子は「洋服を売りたかったけど、雑貨の販売を選びました。渋谷の店舗に配属になり、一日中忙しくて大変だった。それでも(店内の)レイアウトを一生懸命考えたり、売り上げアップに貢献した。でも評価してもらえなかった…」と当時の心境を話した。モチベーション低下は2011年3月11日の東日本大震災と重なり、さらに拍車がかかったという。将来への不安も膨らみ、仕事への意欲も落ちていった。

 貴子の苦しい時期に姉・寛子はガールズケイリン2期生の受験を決意していた。寛子から「ガールズケイリン一緒にやる?」と声を掛けられて、飛び込んでみようかと考えたそうだ。「大好きな洋服は趣味として買えればいいかなと思った。ガールズケイリンは自分の頑張り次第で結果が出る。そこに魅力を感じたんでしょうね」と振り返る。

努力がそのまま結果に反映される厳しい世界だが、その点が転職の最大の決め手になったのかもしれない

オンとオフをしっかり切り替える

 会社を辞め、ガールズケイリンに打ち込むことを決意。学校に入れば自転車漬け、海外旅行にも行けなくなる。貴子は大好きなスパイスカレーを求めてインドへ旅行に行きリフレッシュした後、秋の試験に向けて自転車の練習に入った。オンとオフのメリハリをつけた生活の中で、時間を有効的に使った。

 陸上やテニスなど運動の経験はあったが、6年ほどしっかりとした運動もしておらず、自転車も未経験だった。それでもギリギリのタイムで一次試験を見事合格。学科には自信があり、二次試験は余裕で突破したという。そして日本競輪学校104期として入学した。学校時代のことを尋ねると「あまり思い出したくない」と話す。自転車未経験の貴子にとって乗り込みは相当キツかったらしい。それでも朝練習を欠かさず、休日も外出することなく練習に明け暮れ力をつけていった。

自転車未経験ながら厳しい学校生活を耐え抜いた

初優勝は逃げ切り勝ち、スタイルの確立

 デビュー戦は2013年5月の松戸。デビュー戦は6着だったが、2走目には1着を取り、決勝進出を果たした。その後もコンスタントに決勝進出を続け、姉に続いての優勝も時間の問題という雰囲気だった。しかし、実際は初優勝の機会はなかなか訪れず、時間も掛かった。

「デビュー前は先行でやっていこうと思ったのに、デビューしたら優勝したいって思考に変わっていた。色気を出して走っていたら、ドンドン成績が悪くなっていきました」と笑いながら振り返る。それでも先行スタイルに戻しつつ、少しずつ力を付けていき、デビューから10カ月目の2014年3月の小倉で初優勝。この優勝は先行逃げ切りで決めた。同期の梶田舞、山原さくら、1期生の中川諒子といった強者を相手に打鐘からの逃げ切り。周囲、関係者に強いインパクトを残した。

「後方がもつれてくれたおかげで逃げ切れました。逃げ切りの優勝を決めることができて『これからも先行でやっていこう』と思った優勝でした」。方向性が決まると、以降の競走は積極的に逃げまくった。『先行の石井貴子』として競輪ファンに認知され、『車券を買うときの推理がしやすい選手』に成長した。

落車による大怪我、応援してくれる人のために

 競輪に落車はつきものでケガは仕方ない部分がある。しかし貴子のケガはガールズケイリンの中でもひどい部類に入るだろう。2015年7月、高知で落車。右膝に大怪我を負ってしまった。また、このレースは圧倒的な人気を背負った小林優香が失格。ガールズケイリン史上最高配当(142万6550円)が飛び出した。

「痛かったですね。落車のダメージを全部右の膝で受け止めてしまった感じ。右膝半月板、前十字靱帯(じんたい)、後十字靱帯の損傷。入院、リハビリはつらかったです。でも応援してくれる人がいたおかげで前を向けた。友達やファンの人、両親もずっと応援してくれていた」。曲げることができない右膝に不安はあったが、リハビリに専念。落車から7カ月後に和歌山で戦列に復帰した。

「復帰戦はやっと戻ってきたって感じ。完全に治ったわけではないけど、レースで自力を出して。少しずつ戻していく感じだった」。それでも復帰戦の和歌山では白星もゲットして、応援してくれた人を安心させた。膝の状態は時を重ね、少しずつ回復。貴子らしい先行力も段々と戻ってきた。

大怪我からの復活は応援してくれた人のおかげと笑顔で語る石井貴子

石井貴子がファンの人気を集める理由

 2017年4月の小倉では2度目の優勝をゲット。奥井迪を差し切っての優勝だったが、モヤモヤ感が残ったとのこと。「小倉は枠も良かったし、終始奥井さんをマークして、ゴール前で差すだけの優勝だった。でも優勝した後『達成感』がなかった。だから優勝した直後の大垣で奥井さんと走れたときは、先行で挑みたいと思った。すぐに行かれてしまって3着だったけど、そっちの方が達成感があった」と先行選手のプライドを見せた。

 この姿勢がファンの心に響いているのだろう。ガールズケイリン総選挙では毎年支持されている。2017年から8月オールスター時のコレクションが2個レース(1〜7位ガールズドリームレース、8〜14位アルテミス賞)になり、貴子はアルテミス賞に4年連続で出場(※2)。

「ファン投票で走れたアルテミス賞は本当に嬉しかったですね。もちろん寛子を応援している人が姉妹を応援してくれているのもあると思います。初めてアルテミス賞に選ばれたときは寛子と初めて一緒のレースだったから思い出に残っていますね。オールスターのファン投票は先行姿勢をファンの人に評価してもらっていると思うので、日々のレースでは先行して頑張ろうと思って臨んでいます」

優勝してもプロセスに納得しなければ満足しない、その姿勢がファンの心に刺さっているのだろう

幼い頃の夢に向かって…! 先行勝負で挑んでいく

 今年は3月奈良で自身7度目の優勝を『逃げ切り』で達成した。「やってきたことのご褒美がもらえました。最近は車券に貢献できなくて、自分勝手な走りをしていないかと悩むことが多かったから」。先行することと、車券に貢献することの葛藤はつきない。

「選手になり始めたころは、格好がいいから、先行していれば脚力が鍛えられるからと思ってやっていたけど、競輪ファンの方で、病気で入院している人から『あなたの果敢な走りを見て元気をもらえた』と言ってくれたことがあったんですよ。自分自身のために走っていたけど、私の走りで人に元気や勇気、感動を与えられる仕事なのだなと気づくことができ、私の中で走る糧になっている。

 最近いろんな人に先行にこだわっているんですか?って聞かれることが多いけど、昔からやっていることに変わりはないんです。ただ最近は体格も変わってきたし、自転車の乗り方も少しずつわかってきた気もする。それで結果につながり、バック本数が増えてきて、認識されたのかな。それに、最近は京王閣の仲間と楽しく練習ができているのが大きい。私はメンタルが大事ですから」と笑いながら話した。

 競輪にはいろんな戦法がある。それはガールズケイリンでも同じだ。

「先行の力強さ、まくりのスピード感、寛子のような自在の技術はそれぞれすごいものがあり、どれも格好いい。けど今の自分にはできない。そんな中でも私が1番勝てる方法はやっぱり先行だと思った。自分のレースを楽しんで見て、応援してくれる人もいる。競輪を楽しんで見てもらいたい。体力の許す限り自分らしい先行で頑張ってみます」

 石井貴子の持ち味は『先行力』だ。もう一度、姉妹でビッグレースに同乗し、今度は姉寛子を振り切るレースを見てみたい。石井貴子の小さいころの夢は元気を与える「ヒーローになること」。これからも、競輪ファンに先行で元気を届けてくれるはずだ!

自分らしく走り、ファンが楽しめる先行勝負を演出し続けるだろう。アパレル仕込みの“おしゃれ女子”としての素顔にも注目だ!


(※1)現役姉妹レーサー
石井寛子、石井貴子
三宅愛梨、三宅玲奈
太田美穂、太田瑛美
當銘直美、當銘沙恵美

(※2)取材実施後にファン投票の結果が発表され、石井貴子選手はアルテミス賞への出場が決定

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すっぴんガールズに恋しました!

松本直

千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。

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