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すっぴんガールズに恋しました!

【島田優里】代謝崖っぷちで産休から覚悟の復帰 “母の強さ”で逆境に挑む「まずは今期47点以上を」

アプリ限定 2025/10/21 (火) 18:00 10

日々熱き戦いを繰り広げているガールズケイリンの選手たち。その素顔と魅力に松本直記者が深く鋭く迫る『すっぴんガールズに恋しました!』。今回は7月に産休から復帰した島田優里選手(30歳・長崎=108期)。デビュー後はマーク巧者として活躍したが、大ケガの影響で成績は低迷。23年夏に産休に入り、代謝の成績審査対象となる3期目での復帰となった。支部移籍を経て、逆境でも復帰を決断した理由とは?

ガールズケイリン108期 島田優里

柔道で培った「折れない心」

 大阪府出身の島田優里は、6人きょうだいの長女として育った。スポーツを始めたのは小学校低学年、父の勧めで柔道を習い始めた。

 小柄な体で同年代の男子と練習する日々は厳しかったが、島田は忍耐強く取り組んだ。このとき培われた「折れない心」が、のちの競輪人生に生きることになる。

 中学でも柔道部に所属し、勉強と部活動に励む学生生活を送った。

高校時代はアルバイト中心の生活

 高校は地元の府立伯太高校へ進学。「柔道を続けるつもりはなかったので、自宅から通える学校を選んだ」そうで、高校では部活動に入らず、放課後はアルバイトに明け暮れた。

「小さいころからお菓子作りが好きで、パティシエになりたいと思っていた。でも働いていたのはマクドナルド(笑)。高校の友だちが先にアルバイトをしていて、一緒にやろうよと誘われて」

 友人に誘われて始めたアルバイトは思いのほか楽しく、遊ぶお金を自分で稼ぐ充実した高校生活だった。

 高校卒業後の進路は看護関係の仕事をぼんやりと考えていた。だが、その進路を大きく変える出会いが訪れる。

“ガールズケイリン”と運命の出会い

 ある日、自宅で何気なく見ていたテレビに映ったのは、ガールズケイリン1期生の競輪学校特集だった。女性がバンクを疾走する姿に強い衝撃を受け、「こんな世界があるんだ」と心を奪われた。

 自宅近くの奈良競輪場に、選手を目指す人を対象とした「愛好会」があることがわかり、問い合わせをして参加することになった。

 奈良競輪場で出会ったのが、のちに師匠となる中川武志(引退)氏。島田は「選手を目指したいんです」と中川氏に声をかけ、弟子入りすることになった。中川氏のもとで練習していた溝口香奈(のちの同期)と共に、ガールズケイリン選手を目指すことになる。

同期の日野友葵(左)と

106期で不合格…練習漬けの浪人生活

 高校3年生のとき日本競輪学校106期の適性試験に挑戦したが、結果は不合格。中学生以来スポーツから離れていたブランクもあり、手応えはなかった。このときの適性試験の合格者は小林優香や奥井迪で、島田はハードルの高さを思い知った。

「改めて中川さんのもとで、108期の技能試験合格を目指して頑張ろうという気持ちになりました」

 師匠の中川氏は合格に向け、島田のためにフレームと部品を用意してくれたという。島田は学校が休みの時期は自転車に乗り込み、高校卒業後も奈良競輪場で練習漬けの日々を送った。開催日はJKAの選手管理のアルバイトもこなしながら汗を流した。

 1年間の努力は確実に実を結び、108期の試験前には合格ラインのタイムを記録。2回目の受験で見事に合格を掴み取った。

「試験は1年に1回だから緊張しました。もしダメでも翌年受けていたとは思うけど、うまくいって良かったです」

競輪学校時代ーー仲間と過ごした濃密な1年

競輪学校時代、上段左から2番目が島田(本人提供)

 日本競輪学校での在校成績は15人中12位、在所0勝と苦戦したが、“長所を伸ばすこと”をテーマに訓練と向き合った。

「同期に恵まれ楽しかった。当時から尾崎睦さんや児玉碧衣ちゃんが強かったですね。競走訓練は難しかったけど、中川さんのアドバイスで追走を意識するようになりました。自分なりにできることをやって卒業できたけど、1勝はしたかったですね(笑)」

 競輪学校卒業後は、ホームバンクの奈良でデビューに備えて練習を重ねた。ちょうどこのころ、奈良競輪がYouTubeで「Future GIRL’S」として近畿所属のガールズ108期の密着企画を展開。デビューに向けて常にカメラが回っている状況だったが「見てもらえるのは励みになった」と前向きに受け止めていたそうだ。

奈良支部の元砂七夕美(中央)、溝口香奈(右・現大分支部)と

上々のデビューとマーク巧者としての台頭

 2015年7月の川崎でデビューを迎えると、1走目は山原さくら、2走目は尾崎睦の仕掛けに食い下がり連続2着で決勝進出。決勝は7着だったが在校成績12位の前評判を覆し、マーク巧者・島田優里の名を全国のガールズケイリンファンにアピールした。

 続く小倉最終日では小坂知子を追走し、差して初白星。4場所目の岐阜では予選初勝利を挙げ、11月の高知では準優勝も経験するなど、順調な滑り出しだった。

「バンクの中から声援を聞いて、自分もやっと選手になれたんだと実感しました。デビュー前は不安もあったけど、師匠とやってきた練習の成果が出せたと思う。追走には少し自信があったので、強みを生かして結果が出たのが嬉しかったですね」

 2年目以降も安定した走りで決勝の常連となったが「決勝では上位に食い込めず悔しかった」と振り返る。

日野友葵(右)、鈴木彩夏(中央)と

大ケガと成績不振、そして結婚・出産

 しかし2017年後半に長期欠場を余儀なくされ、2018年に復帰するも以前のようなマーク・追い込みの“島田らしい走り”を取り戻せなかった。競走得点を落としていく中、2022年8月の京王閣で落車し、鎖骨と肩の一部(烏口突起)を骨折。約3か月の戦線離脱を経験する。

「選手生活で一番の大ケガでした。点数も47点を切っていたし、不安でした。肉体的にも精神的にも苦しかったです」

 翌年1月の武雄で復帰したものの、思うようには走れなかった。競走得点が47点を切り、成績下位が強制引退となる『代謝制度』の成績審査対象に入る厳しい状況は続いた。

 そんな中、私生活では転機が訪れる。2023年に結婚し、翌2024年に出産。2025年3月に長崎支部へ移籍した。

代謝対象となる“3期目”で覚悟の復帰

 2025年7月の松戸で産休から復帰。復帰した今期から代謝制度の対象で、レース勘では不利となる中、いきなり勝負駆けになる状況だった。

※2022年後期45.86点、2023年前期45.91点。2023年後期〜2025年前期は産休によるあっせん保留のためノーカウントとなり、今期2025年後期が3期目

「いきなり3期目になるので、復帰は迷いました。でもこのまま辞めても後悔すると思ったんです。せっかく自分でやりたいと思った競輪選手という仕事、最初から諦めることはしたくなかった。師匠にも相談したら『自分がしたいようにするのがいいよ』って背中を押してもらえたので、やってダメなら仕方ないと覚悟を決めました」

 そして移籍先の長崎支部の支援を受け、復帰に向けた練習を重ねた。

「長崎支部のみなさんには本当にお世話になっています。諫早の干拓グループや佐世保競輪場で練習をさせてもらって復帰することができました。もともと近畿で同期の溝口香奈さん、元砂七夕美ちゃんが産休から復帰していたのも大きかった。2人には何でも相談できるので頼りになりました」

 復帰戦では一般戦で2着に入る健闘。10月の佐世保では復帰後初の決勝進出も果たした。

「産休前よりガールズケイリンのレベルは確実に上がっている。対応するのが大変だけど、少しずつ流れに乗れるようになってきました。もう少し落ち着いて周りが見られるようになれば戦えると思うし、頑張りたいです」

同期の細田愛未(右)と

崖っぷちでも挑み続ける“母の強さ”

 女性アスリートにとってライフステージの変化は、選手生活と切っても切れない関係がある。ガールズケイリンでは結婚、出産を経て復帰している選手が増えており、スポーツ界に希望を与えているのではないだろうか。

 島田のように厳しい状況でも覚悟を決めて復帰し走る姿は、周りに勇気を与える。そして代謝の危機を乗り越えることができれば、他のガールズケイリン選手たちにとっても励みになるはずだ。

「復帰して同期や先輩、後輩と再会できた。初めて会う選手もいっぱいいます。現場にいくとレースも宿舎も楽しいし、やっぱりガールズケイリン選手になってよかったと思うんです」

同期の板根茜弥(左)、佐藤亜貴子(右)と

 今は夫の協力もあり、練習時間も確保ができているという。練習環境も抜群で、第二の競輪人生はまだ始まったばかりだ。

「少しでも長く選手を続けたい。まずは今期47点以上を取りたいです」

 愛する我が子が大きくなるまでガールズケイリンレーサーでいるためにも、ここで選手生活を終えるわけにはいかないーー。母としての強さも胸に秘め、島田優里が立ち向かう覚悟の挑戦を応援したい。

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松本直

千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。

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