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山田裕仁のスゴいレース回顧

【サマーナイトフェスティバル 回顧】脇本雄太がみせた“気概”あふれる走り

2024/07/16 (火) 18:00 49

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが松戸競輪場で開催された「サマーナイトフェスティバル」を振り返ります。

サマーナイトフェスティバルを制した、3番車(赤)の眞杉匠(写真提供:チャリ・ロト)

2024年7月15日(月)松戸12R 第20回サマーナイトフェスティバル(GII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①北井佑季(119期=神奈川・34歳)
②古性優作(100期=大阪・33歳)
③眞杉匠(113期=栃木・25歳)
④吉田拓矢(107期=茨城・29歳)
⑤郡司浩平(99期=神奈川・33歳)
⑥松谷秀幸(96期=神奈川・41歳)
⑦山口拳矢(117期=岐阜・28歳)
⑧新田祐大(90期=福島・38歳)
⑨脇本雄太(94期=福井・35歳)

【初手・並び】
←⑨②(近畿)③④(関東)⑦(単騎)①⑤⑥(南関東)⑧(単騎)

【結果】
1着 ③眞杉匠
2着 ④吉田拓矢
3着 ⑧新田祐大

夏の祭典は一筋縄でいかない333mバンク!

 下半期で最初のビッグが、夏の祭典であるサマーナイトフェスティバル(GII)。今年は千葉県の松戸競輪場が舞台で、7月15日にはその決勝戦が行われています。直線が短い333mバンクでカントも浅いので、基本的に前有利。しかし、それを意識して主導権争いが激化すると、道中で動かず脚をタメていたラインの捲りが決まる。選手はもちろん、車券を買う側にとっても一筋縄ではいかないところのあるバンクです。

 初日特選は、南関東勢の先頭を任された北井佑季選手(119期=神奈川・34歳)が突っ張り先行。その番手から郡司浩平選手(99期=神奈川・33歳)が抜け出し、脇本雄太選手(94期=福井・35歳)の番手から自力に切り替えた古性優作選手(100期=大阪・33歳)が迫ろうとするところを、単騎の山崎賢人選手(111期=長崎・31歳)が後方からのひと捲りで豪快に突き抜けました。3連単10万車券の大波乱です。

北井佑季(写真提供:チャリ・ロト)

 そんな山崎選手は、準決勝では眞杉匠選手(113期=栃木・25歳)の後塵を拝して勝ち上がれず。現在3連覇中で、サマーナイトフェスティバルの代名詞的存在である松浦悠士選手(98期=広島・33歳)も、今年は準決勝で4着に敗れて決勝戦進出を逃しています。準決勝もそうでしたが、波乱決着となったレースが全体的に多く、車券で苦戦を強いられたという方も少なくなかったことでしょう。

 それでも、決勝戦は錚々たるメンバーに。南関東、関東、近畿の各地区を代表する自力選手がぶつかり合う、大激戦の様相となりました。最多となる3名が勝ち上がったのは、地元地区である南関東。北井選手が先頭で番手は郡司選手、3番手は松谷秀幸選手(96期=神奈川・41歳)が固めます。北井選手は、岸和田・高松宮記念杯競輪(GI)での“恩”を郡司選手に返す機会が、さっそく巡ってきましたね。

眞杉匠(写真提供:チャリ・ロト)

 2名が勝ち上がった関東勢は、前を任されたのが眞杉選手で、番手が吉田拓矢選手(107期=茨城・29歳)という組み合わせ。上半期は怪我に泣かされた眞杉選手ですが、ここにきて調子をグングン上げてきています。番手の吉田選手も好気配で、こと「デキのよさ」については、関東勢がいちばん目立っていたかもしれませんね。車番にも恵まれたここは、中団でうまく立ち回りたいところです。

 近畿勢は初日特選と同じく、脇本選手が先頭で番手に古性選手という並び。近畿地区が誇る“最強”コンビが、今度はどのようなレースを見せてくれるのか楽しみですね。ただし、今回の脇本選手はそこまでデキがいいという印象はなく、北井選手がいる以上、楽な展開は望めません。初日特選で捲り不発になったのを踏まえて、決勝戦ではレースプランをどのように修正してくるのか、注目ですね。

脇本雄太(写真提供:チャリ・ロト)

 単騎での勝負を選んだのが、新田祐大選手(90期=福島・38歳)と山口拳矢選手(117期=岐阜・28歳)。南関東がすんなり主導権を奪うような展開だと厳しいですが、道中でもつれるようならば、単騎でも出番はありそうですよね。いずれもデキは上々で、あとは展開と立ち回り次第。好結果を残せなかった上半期からの挽回を期して、モチベーションもかなり高いと思いますよ。

 唯一の3車ラインで、車番的にも有利な南関東勢。北井選手が前受けから突っ張って主導権を奪う展開だと、他のラインはなすすべなく終わってしまう可能性もあります。そうさせないために、関東勢や近畿勢はどのような戦略や戦術をもってここに臨むのか。ラインの先頭はいずれも超ハイレベルな機動型ですから、いかにも見応えのあるレースになりそうですよね。それでは、決勝戦の回顧に入りましょうか。

近畿勢の前受け、3番手に眞杉
南関東勢は後方6番手

 レース開始を告げる号砲が鳴ると同時に、素晴らしいダッシュでスタートを取りにいった古性選手。先頭誘導員の直後を取りきり、近畿勢の前受けが決まります。その直後の3番手に、関東勢の先頭である眞杉選手。5番手に単騎の山口選手がつけて、南関東勢は後方6番手から。そして最後方に単騎の新田選手というのが、初手の並びです。古性選手は初手から、南関東勢の青写真を切り崩しにきましたね。

 レースが動き出したのは、青板(残り3周)のホームから。後ろ攻めとなった北井選手がポジションを押し上げて、先頭の脇本選手を押さえにいきます。先頭誘導員が離れる青板のバックに合わせて北井選手が踏み込みますが、先頭の脇本選手は引かずに突っ張って応戦。北井選手も脇本選手を強引に叩きにいって、両者が一歩も譲らない態勢のままで赤板前の2センターを回り、ホームに帰ってきます。

青板2コーナー付近。1番車(白)の北井佑季がポジションを上げ、9番車(紫)の脇本雄太を押さえに(写真提供:チャリ・ロト)

 脇本選手と北井選手がもがき合うなか、古性選手は赤板後の1コーナーで、外にいる郡司選手をヨコの動きで捌きにいきます。これで郡司選手と松谷選手は、北井選手との連係を分断されてしまいました。それを察知した脇本選手は、少し引いて北井選手のハコに収まります。なんとか挽回しようとする郡司選手は再び外から上がっていきますが、古性選手にさらにブロックされたところで、レースは打鐘を迎えます。

赤板付近。南関東の郡司浩平(5番車・黄)、松谷秀幸(6番車・緑)(写真提供:チャリ・ロト)

 脇本選手は北井選手との車間をきって、2番手を追走。郡司選手は古性選手と絡みながら打鐘後の2センターを回りますが、下がったところで、眞杉選手からも捌かれて万事休す。そして最終ホームに戻ってきたところで、脚が鈍ってきた北井選手を脇本選手が仕掛けて抜き去り、再び先頭に躍り出ました。北井選手は、ここで完全に失速。そして、ほとんど動かずにいた眞杉選手も仕掛け、前との差を詰めにかかります。

最終ホームストレッチ。眞杉匠(3番車・赤)が前との差を詰めにかかる(写真提供:チャリ・ロト)

 最終1センターを回ったところで、前の近畿勢を射程圏に入れた眞杉選手。単騎の山口選手と新田選手もこれに続いて、南関東勢以外の6車が1列となってバックストレッチに入ります。眞杉選手は最終バックで前を強襲しますが、その前に立ちふさがったのは、やはり古性選手。しかし、古性選手のブロックを浴びても眞杉選手は堪えて、絶好の展開をモノにしようと前に迫ります。

 そして最終3コーナー。単騎の山口選手は内に進路を求め、新田選手は吉田選手の後ろからの勝負を選択。先頭ではまだ脇本選手が踏ん張っており、その直後を内の古性選手と外の眞杉選手が併走で、最終2センターを回りました。古性選手の内からは山口選手が迫ってきますが、進路があるかどうか。外から伸びる眞杉選手が古性選手の前に出たところで、最後の直線に入りました。

 ここで、ここまで先頭でよく粘っていた脇本選手が失速。そして、古性選手の外から力強く伸びた眞杉選手が先頭に立ちます。眞杉選手マークの吉田選手も外に出して差しにいき、古性選手は捉えますが、先頭に立った眞杉選手との差はあまり詰まらないまま。内を突いた山口選手は、下がってくる脇本選手と内圏線ピッタリを回る古性選手に阻まれて、完全に詰まってしまっています。

 そこに大外をついて飛んできたのが、新田選手。素晴らしい伸びで一気に先頭に迫りますが、松戸バンクの直線はあまりに短い。直線の入り口で先頭に立った眞杉選手がそのまま押し切り、ゴールラインを駆け抜けました。2着は吉田選手で、関東勢のワンツー決着。最後に外からよく伸びた新田選手が3着で、古性選手は4着。人気を集めた南関東勢は揃って7〜9着と、期待に応えられない結果となってしまいました。

関東勢のワンツー決着(写真提供:チャリ・ロト)

“北井には絶対に先行させない!”脇本の気概
観る者をシビレさせた眞杉の力強い走り

 この決勝戦を面白いものにしてくれた立役者は、なんといっても近畿勢でしょう。北井選手ともがき合うキツい展開を覚悟の上で、前受けから突っ張って南関東勢の思惑を粉砕した脇本選手。そして、郡司選手を捌いてのライン分断を、最初から狙っていたであろう古性選手。残念ながら好結果こそ出せませんでしたが、いずれも本当に素晴らしい走りをしていたと思いますよ。

 北井選手には絶対に先行させないという脇本選手の“気概”が感じられたレースで、その意気込みは、どうやら周囲の選手にも伝わっていたようですね。それを伝えるレース後コメントが面白かったので、ここで抜粋してご紹介しましょう。脇本選手や古性選手が、「南関東勢の思惑どおりには絶対にさせない」という強い意志をもって、この決勝戦に臨んでいたのがよくわかると思います。

「顔見せから脇本君は絶対に行くなと分かっていました」(新田選手)
「初日も準決勝もワッキーは行けていないからその分も絶対に踏んでくるよと、北井と浩平には言っていた」(松谷選手)
「初日も古性がSを取りに行っていたし、今日も近畿勢が前受けならワッキーは絶対に踏んでくるなと頭にはあった」(郡司選手)

 なかでも興味深いのが新田選手のコメントで、皮膚感覚的に伝わってくるものがあったのでしょうね。そして見事に南関東勢の思惑を粉砕した近畿勢ですが、展開は当然ながらたいへんキツいものになってしまった。初手で中団を取って、以降はずっと脚を温存できた関東勢や、単騎の2名に展開が向いたのは言うまでもありません。新田選手は、最初からこのカタチでの一発を狙っていたのだと思いますよ。

 そして、眞杉選手の力強い走りにもシビレましたね。展開が向いたとはいえ、勝機をしっかりとモノにできるだけの能力と、デキのよさがともなっていたからこその優勝です。付け加えるなら、古性選手のブロックを乗り越えたときに番手の吉田選手も一緒に勢いを削がれたことが、眞杉選手にとってプラスに働いた面があると思います。アレがなければ、吉田選手はもっと際どい勝負に持ち込めたかもしれませんね。

ワンツーを決めた3番車(赤)の眞杉匠、4番車(青)の吉田拓矢(写真提供:チャリ・ロト)

 ファンの期待に応えられなかった南関東勢については、大舞台で番手を回る機会が増えてきている郡司選手について、課題が見えたレースといえるでしょう。自力で十分に勝負できる選手だからこそ、番手でのレース経験がまだ不足している。この“隙”は今後も他地区から狙われるはずで、それにいかに対応していくかが問われます。いわば過渡期にある郡司選手ですが、この敗北を糧にさらなる成長を遂げてほしいものです。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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