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山田裕仁のスゴいレース回顧

【金亀杯争覇戦 回顧】これぞ古性優作が超一流である“理由”

2024/03/11 (月) 18:00 57

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが松山競輪場で開催された「金亀杯争覇戦(GIII)」を振り返ります。

金亀杯争覇戦を制した古性優作(写真提供:チャリ・ロト)

2024年3月10日(日)松山12R 開設74周年記念 金亀杯争覇戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①松本貴治(111期=愛媛・30歳)
②古性優作(100期=大阪・33歳)
③深谷知広(96期=静岡・34歳)
④和田圭(92期=宮城・38歳)
⑤和田真久留(99期=神奈川・33歳)
⑥橋本強(89期=愛媛・39歳)
⑦北井佑季(119期=神奈川・34歳)
⑧小原太樹(95期=神奈川・35歳)
⑨和田健太郎(87期=千葉・42歳)

【初手・並び】

←⑦⑤⑧(南関東)①⑥(中国)②④(混成)③⑨(南関東)

【結果】

1着 ②古性優作
2着 ⑦北井佑季
3着 ①松本貴治

S班から5名!成長株も参加 豪華メンバーが集結したシリーズ

 3月10日には愛媛県の松山競輪場で、金亀杯争覇戦(GIII)の決勝戦が行われています。S級S班からは、脇本雄太選手(94期=福井・34歳)など5名が出場。さらに、嘉永泰斗選手(113期=熊本・25歳)や北井佑季選手(119期=神奈川・34歳)、犬伏湧也選手(119期=徳島・28歳)といった成長株も出場という、豪華メンバーが集結したシリーズとなりました。強力な自力選手がぶつかり合う、熾烈なバトルの連続でしたね。

北井佑季(写真提供:チャリ・ロト)

 初日特選は、特別競輪の決勝戦のようなメンツの濃さ。ここで驚異的な強さをみせたのが、このところ劇的な進化を遂げている北井選手です。前受けからの突っ張り先行で、嘉永選手や新山響平選手(107期=青森・30歳)などが次々と襲いかかるも、すべて撃退。番手を回った深谷知広選手(96期=静岡・34歳)の援護もあって、南関東ラインのワンツースリー決着となりました。

深谷知広(写真提供:チャリ・ロト)

 戦った相手が相手だけに、初日特選で北井選手がみせた強さに驚いたという方が多かったでしょうね。私もその一人ですが、それをさらに強く感じたのは、このシリーズで一緒に走ったほかの選手たちでしょう。北井選手は二次予選では3着、地元勢との連係となった準決勝は2着と、いずれも積極的に逃げる走りで勝ち上がり。決勝戦でも、多くのファンがその走りに注目していたことでしょう。

 脇本選手は準決勝で、後方から捲るも届かず4着という結果で敗退。新山選手と佐藤慎太郎選手(78期=福島・47歳)は準決勝で、北井選手の先行の前になすすべなく敗れています。決勝戦に駒を進めたS級S班は、古性優作選手(100期=大阪・33歳)と深谷選手の2名だけ。もっとも多くの選手が勝ち上がったのは南関東勢で、決勝戦では2つのラインに分かれて、別線で勝負することになりました。

古性優作(写真提供:チャリ・ロト)

 唯一の3車ラインとなったのが神奈川勢で、その先頭は当然ながら北井選手。番手を回るのは和田真久留選手(99期=神奈川・33歳)で、ライン3番手を小原太樹選手(95期=神奈川・35歳)が固めます。北井選手は積極的なレースを仕掛けてくるでしょうが、車番に恵まれなかったここは、初手で後ろ攻めとなる可能性が高い。自分のカタチにいかに持ち込むかが問われそうですね。

 もうひとつの南関勢は、深谷知広選手(96期=静岡・34歳)と和田健太郎選手(87期=千葉・42歳)のコンビ。深谷選手は初日特選からオール1着で勝ち上がりと、デキのよさはかなり目立っています。別線になったとはいえ、北井選手と前でもがき合うような展開は避けるでしょうから、どう立ち回るかがちょっと難しい。主導権を奪った神奈川勢の直後につけられれば、いいレースが期待できそうです。

 しかし、そのポジションが欲しいのは他のラインも同じ。2名が勝ち上がった中国勢はいずれも地元・愛媛の選手で、松本貴治選手(111期=愛媛・30歳)が前を任されました。その番手を、橋本強選手(89期=愛媛・39歳)が回ります。強力な機動力を有する相手に対して、初手からどのように立ち回るかが重要な一戦となりそう。車番に恵まれたここはそれが可能なはずで、地元の“意地”をみせてほしいですね。

松本貴治(写真提供:チャリ・ロト)

 最後に、古性選手と和田圭選手(92期=宮城・38歳)の混成ライン。古性選手は自分の調子についてネガティブなコメントをしていましたが、二次予選と準決勝で続けて1着をとっているように、デキはけっして悪くなかったと思います。あれは、自分に課するハードルが高いゆえの発言でしょう。現役屈指のレース巧者が、どのような戦略&戦術でこの決勝戦に臨んでくるのか、楽しみですよ。

初手の並び、北井が南関東勢の先頭で前受け

 それでは、決勝戦の回顧に入りましょう。レース開始を告げる号砲と同時に飛び出していったのは、1番車の松本選手と8番車の小原選手。ここは松本選手が引いて、小原選手がスタートを取りました。北井選手が先頭の南関東勢が前受けとなり、その直後の4番手に松本選手がつけます。6番手は古性選手が先頭の混成ラインで、深谷選手は後方8番手からというのが、初手の並びです。

 この並びをみて、深谷選手から車券を買っていた人は頭を抱えたかもしれませんね。外の車番からスタートを取りにいったわけですから、北井選手はここも、前受けからの突っ張り先行が濃厚。つまり、後方の深谷選手が前を斬らせてもらえる可能性はかなり低い。だからといって同地区を相手に、赤板(残り2周)から併走で主導権を争うような展開にはしたくない。深谷選手は、かなり難しい立場となりました。

赤板付近の様子(写真提供:チャリ・ロト)

 青板(残り3周)周回のバック過ぎから、ゆっくりとポジションを押し上げていった深谷選手。古性選手は切り替えて、その後ろにつけました。先頭の北井選手は、誘導員との車間をきって、突っ張る態勢で待ち構えています。そして赤板通過と同時に、北井選手は先頭を主張。それを察した深谷選手は無理せずに引いて、外を大きく回りながら後方に戻りました。その間に古性選手は、再び四国勢の直後につけます。

 結局は初手と同じ並びに戻って、レースは打鐘を迎えます。その直後、ペースが緩んだところでカマシ気味に動いたのが、6番手の古性選手。いいダッシュで先頭との差を詰め、打鐘後の4コーナー過ぎで、和田真久留選手の外まで浮上します。もしや、主導権を奪いにいって北井選手ともがき合うのか…と思いきや、これは「追い上げ」でしたね。鋭いヨコの動きで、内の和田真久留選手を捌きにいきました。

打鐘過ぎ2センター(写真提供:チャリ・ロト)

 一発で見事にキメて、北井選手の番手を奪取した古性選手。古性選手の番手を回る和田圭選手もこの動きにしっかり続いて、3番手につけます。捌かれた和田真久留選手やその後ろにいた小原選手は、これ以上ポジションが悪くならないように内で踏ん張りますが、その後ろにいた松本選手が最終1コーナーで始動。まずは和田圭選手との車間を詰めにいって、その勢いのまま前を捲りにいきます。

最終ホームストレッチ(写真提供:チャリ・ロト)

 捲りにいった松本選手を、最終1センターで小原選手がブロック。これで松本選手は少し勢いを削がれますが、必死に態勢を立て直して再び前を追います。深谷選手は仕掛けるタイミングを逸して、完全に後方に置かれるカタチに。バックストレッチに入ったところから仕掛けて差を詰めにいきますが、先頭で逃げる北井選手がかかっているのもあって、前との差がなかなか詰まりません。

 捲りにいった松本選手は、最終バックを4番手で通過。最終3コーナーでは和田圭選手の外に並びかけ、ジリジリと伸びて先頭をうかがいます。しかし、逃げる北井選手やその番手にいる古性選手は、まだまだ余力がありそう。後方から捲った深谷選手は、勝負どころでも後方のままで、完全に不発のまま失速してしまいました。和田真久留選手や小原選手が伸びてくる気配もなく、完全に「前」で決まる態勢です。

隊列に変化ないまま最後の直線へ

 隊列に大きな変化のないままで最終2センターを回って、最後の直線へ。先頭の北井選手が粘るところを、古性選手が外に出して差しにいきます。その後ろでは、内の和田圭選手と外の松本選手が前を追いすがりますが、鋭くグイグイと伸びてくるほどの勢いはなし。それとは対照的に、古性選手は鋭く伸びて、直線なかばで北井選手を捉えて、単独先頭に躍り出ました。

 そしてそのまま、古性選手が先頭でゴールイン。その後ろは内外で3車が並ぶ接戦となりましたが、逃げ粘った北井選手が2着に。さらなる接戦だった3着争いは、外の松本選手が微差で競り勝ち、地元の意地をみせています。以下は、4着に古性選手マークの和田圭選手、5着に橋本選手という結果。完全優勝に王手をかけていた深谷選手は、なすすべなく最下位に終わっています。

ゴールの様子(写真提供:チャリ・ロト)

 シリーズの台風の目であった北井選手に対して、初日特選の結果を「糧」として、自分のなすべきことを完全にやりきった古性選手。これぞS級S班、これぞ超一流という、掛け値なしに素晴らしい走りをみせてくれました。北井選手が自分のタイミングで逃げる展開になると、どれほどキツい流れでも最後まで粘り切られてしまう可能性が高い。では、どうすれば優勝できるのか? それに対する“正解”が、この走りですよ。

超一流とそれ以外との“差”

 古性選手がやったことを、地元の松本選手がやるという選択肢もあったはずなんですよ。松本選手は準決勝で北井選手の後ろを走っているので、正攻法で挑んだ場合にどうなるかを、身をもって感じていたでしょうからね。しかし、それを実際にやってのけたのは古性選手だった。古性選手にヨコの動きができるという強みがあるとはいえ、地元記念という舞台ならば、松本選手にも挑むことはできたと思います。

 これこそが、超一流とそれ以外との“差”なんですよね。展開を考えると、北井選手は初日特選のほうがよっぽどキツい先行だったはずで、それでも最善を尽くした古性選手に上をいかれてしまった。ビッグのタイトルに手が届きそうなほど力をつけてきた北井選手にとっても、この決勝戦は悔しさと大きな収穫の両方があったはず。地元開催の平塚・オールスター競輪(GI)あたりで、さらなる飛躍を遂げてもらいたいですね。

 最下位に終わった深谷選手については、初手で後ろ攻めとなってしまったこと。そして、古性選手が追い上げにいったときに続けなかったのが敗因。北井選手と別線となった以上、こうなった場合にどう対応するかは、もっと考えておく必要があったでしょう。ここは、小原選手にスタートを譲った松本選手の戦略勝ち。素晴らしいデキで、私も期待していただけに、見せ場すらなく終わってしまったのは本当に残念でした。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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