2025/08/12 (火) 18:00 4
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが小倉競輪場で開催された「吉岡カップ」を振り返ります。
2025年8月11日(月)小倉12R 第19回吉岡カップ(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①林大悟(109期=福岡・30歳)
②嶋津拓弥(103期=神奈川・39歳)
③原田研太朗(98期=徳島・34歳)
④林慶次郎(111期=福岡・28歳)
⑤小林弘和(91期=佐賀・41歳)
⑥阪本和也(115期=長崎・30歳)
⑦上野優太(113期=熊本・28歳)
⑧柳詰正宏(97期=福岡・38歳)
⑨櫻井正孝(100期=宮城・38歳)
【初手・並び】
←④①⑧⑦(九州)③②(混成)⑥⑤(九州)
⑨(番手競り)
【結果】
1着 ⑧柳詰正宏
2着 ③原田研太朗
3着 ⑦上野優太
8月11日には福岡県の小倉競輪場で、吉岡カップ(GIII)の決勝戦が行われています。決勝戦の翌日から函館・オールスター競輪(GI)が始まるという「裏」開催で、競走得点が最も高いのが110.50の林大悟選手(109期=福岡・30歳)と、出場メンバーのレベルはかなり低かったですね。記念や特別しか観ないようなファンの方だと、名前を知っている選手がほとんどいないシリーズだったかもしれません。
とはいえ出場する選手、なかでもGIII優勝がまだない選手にとっては、大きなチャンス。裏開催でもGIIIであることに変わりはありませんから、3着以内に入れば競輪祭(GI)の出場権も得られます。とはいえ、確たる中心を欠く出場メンバーであるのは明白で、車券を買う側としてはかなり難しいシリーズでしたね。四分戦となった初日特選も、難解なレースとなりました。
ここで先行したのは、つい先日の富山記念でも決勝戦を走っていた岸田剛選手(121期=福井・26歳)。谷口遼平選手(103期=三重・31歳)は捲りにいくも伸びを欠き、林大悟選手は中団の内で詰まって動けなくなっているところを、最終バックで仕掛けた原田研太朗選手(98期=徳島・34歳)が後方から猛追します。ゴール前は接戦となりましたが、原田選手が捲りきって1着。逃げた岸田選手が2着に粘りました。
原田選手はその後も1着、3着で決勝戦に勝ち上がり。前場所の別府FIでもいい走りをみせていましたが、引き続き好調をキープしています。同様に岸田選手も上々のデキだと感じましたが、準決勝では後方に置かれてしまい9着に惨敗。決勝戦に駒を進めることができませんでした。勢いがあったのは九州勢で、過半数である6名が決勝戦に勝ち上がり。混戦のシリーズでこの“数の利”は、本当に大きいですよ。
九州勢は、地元・福岡勢を中心にまとまった4車と、それ以外の2車に分かれて勝負することになりました。4車ラインの先頭は林慶次郎選手(111期=福岡・28歳)で、その番手を実兄である林大悟選手が回ります。3番手は柳詰正宏選手(97期=福岡・38歳)で、最後尾を上野優太選手(113期=熊本・28歳)が固めるという布陣。福岡勢の後ろに上野選手がついたのは、競走得点の高さが理由でしょう。
もうひとつの九州勢は、阪本和也選手(115期=長崎・30歳)が先頭で、番手が小林弘和選手(91期=佐賀・41歳)という組み合わせ。しかし、別線になったとはいえ九州は全体の結束が強い地区で、しかも阪本選手はふだん自力で勝負していない選手ですから、共倒れになるような戦い方はしてこないでしょうね。そうなると選択肢は非常に少ないですが、覚悟の上での別線勝負だと思います。
好調モードの原田選手は、嶋津拓弥選手(103期=神奈川・39歳)と即席コンビを結成。初日特選と同様に、ここは自分のレースに徹してきそうですね。そして、福岡勢の番手を競りにいくと宣言したのが、櫻井正孝選手(100期=宮城・38歳)。地元の兄弟連係を崩しにいく「ヒール」の役回りですが、そういった選手がいなければ、競輪は面白くありません。これで一気に、展開がマギレる可能性が出ました。
それでは、決勝戦の回顧に入りましょう。レース開始を告げる号砲が鳴ると、外から7番車の上野選手がいい飛び出しをみせ、スタートを取りました。これで福岡勢の前受けが決まりますが、林大悟選手の外には櫻井選手がつけて、位置を主張します。その後ろの6番手に、原田選手が先頭の即席コンビ。そして後方8番手に阪本選手というのが、初手の並びです。
レースが動いたのは、青板(残り3週)の3コーナーから。後方の阪本選手が動いて先頭をうかがいますが、先頭の林慶次郎選手は軽く突っ張って抵抗。その番手では、林大悟選手と櫻井選手の競りが早くも始まっています。阪本選手はここは無理せずに下げて、中団の位置に収まりました。原田選手が8番手に変わって、その後はとくに動きがないままで、レースは打鐘を迎えました。
こうなると注目は、「番手競り」がどうなるか。一気にペースが上がって、両者が絡み合いながら打鐘後の3コーナーを回りますが、ここで外の櫻井選手が早々と後退。番手競りは思った以上に早く決着がついて、林大悟選手が番手を守りきりました。最終ホームに帰ってきたところで、櫻井選手は上野選手の後ろの5番手に入ります。ここで小林選手は阪本選手の内に入って、櫻井選手の後ろに切り替えました。
最終1センターを回ってバックストレッチに入ったところで、じっと後方で脚を温存していた原田選手が捲り始動。林大悟選手は先頭の林慶次郎選手との車間をきって、後方の仕掛けを待ち構えています。林大悟選手は、最終バックから前に踏んで番手捲りの態勢を整えますが、その間に後方から捲った原田選手は5番手まで進出。柳詰選手は、最終3コーナーで進路を外に振って、原田選手を軽くブロックします。
最終2センターでは、番手から捲った林大悟選手が林慶次郎選手の外に並び、その後ろから柳詰選手と上野選手が追う態勢に。後方から捲った原田選手は5番手の外で、前を射程圏に入れています。番手から捲った林大悟選手が先頭に変わり、内を狙う上野選手と外を回った柳詰選手が追いすがるという隊列で、最後の直線へ。原田選手は、柳詰選手の直後から大外に出しました。
番手から捲って先頭に立った林大悟選手は意外に伸びがなく、後ろから迫る柳詰選手や上野選手のほうが脚色はいい。そこに外から原田選手が迫って、30m線を通過します。林大悟選手がなんとか先頭で踏ん張ろうとしますが、柳詰選手がこれを捉えて先頭に立ち、その内から上野選手、外からは原田選手が追いすがるという態勢に。外からよく伸びた原田選手が柳詰選手に詰め寄り、最後はハンドル投げ勝負となります。
しかし、ゴールラインを先頭で駆け抜けたのは柳詰選手のほう。原田選手に踏み勝ち、デビュー16年目にして初のGIII優勝をホームバンクである小倉で決められたのですから、最高にうれしかったことでしょう。後方から捲った原田選手が2着で、3着は上野選手。最後の伸びを欠いた林大悟選手は4着に終わっています。なお、3着の上野選手がゴール後に落車していますが、コメントからおそらく大事には至っていないようです。
初手の並びも、レース中の展開も、ほぼレース前の想定通りだったといえる決勝戦。それでも林大悟選手最後の伸びを欠いたのは、やはり「番手競り」と、その後にも細かく脚を使わされたのが影響したのでしょう。結果的に、勝負どころまで脚を温存できた選手が上位を独占。能力的には上位拮抗のメンバー構成だと、こういった少しの差が結果に大きく響くんですよね。
決勝戦の上位3選手は、これで競輪祭(GI)の出場権を獲得。柳詰選手は、地元GIIIの優勝によって地元ビッグに挑めるわけですから、さぞかし気合いが入ることでしょう。地元でのGIII優勝は競輪選手にとってかけがえのないものですが、柳詰選手にはこの優勝で得た自信によって、さらに上を目指してもらいたい。「遅咲きの花は大輪に成る」といいますから、もっと大きな花を咲かせてほしいものです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。