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山田裕仁のスゴいレース回顧

【春日賞争覇戦 回顧】すべてが“劇的”で最高にシビれる決勝戦に

2024/02/26 (月) 18:00 68

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが奈良競輪場で開催された「能登半島支援春日賞争覇戦」を振り返ります。

1番車(白)の三谷竜生が地元記念連覇(写真提供:チャリ・ロト)

2024年2月25日(日)奈良12R 開設73周年記念 春日賞争覇戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①三谷竜生(101期=奈良・36歳)
②守澤太志(96期=秋田・38歳)
③古性優作(100期=大阪・33歳)
④菅田壱道(91期=宮城・37歳)
⑤脇本雄太(94期=福井・34歳)
⑥松岡健介(87期=兵庫・45歳)
⑦南修二(88期=大阪・42歳)
⑧三谷将太(92期=奈良・38歳)
⑨東口善朋(85期=和歌山・44歳)

【初手・並び】

←③⑦⑥(近畿)①⑧(近畿)④②(北日本)⑤⑨(近畿)

【結果】

1着 ①三谷竜生
2着 ⑧三谷将太
3着 ④菅田壱道

近畿勢7名が3つのラインに分かれて火花を散らす

 2月25日には奈良競輪場で、春日賞争覇戦(GIII)の決勝戦が行われています。S級S班からは、近畿地区の看板を背負う存在である脇本雄太選手(94期=福井・34歳)と古性優作選手(100期=大阪・33歳)、そして北日本の新山響平選手(107期=青森・30歳)が出場しています。記念らしく、近畿勢の層の厚さはかなりのもの。他地区の選手は、初日から厳しい戦いを強いられたことでしょう。

 初日特選からして、過半数である5名が近畿勢。脇本選手と古性選手は別線を選択して、初日から激しくぶつかり合いました。このレースは、後方から捲る得意のスタイルで脇本選手が快勝。自転車競技で250mバンクを走り慣れているのもあるのでしょうが、カントがきつい奈良の333mバンクでみせた脇本選手のスピードは、本当に素晴らしかった。それに、デキもかなり戻してきていましたね。

 脇本選手は続く二次予選も、後方7番手から捲って圧勝。ここでマークした9秒1という上がりの速さは強烈で、復調が改めて感じられました。準決勝では打鐘前からの仕掛けで主導権を奪い、そのまま押し切って1着。無傷の3連勝で、完全優勝に王手をかけました。古性選手も、二次予選と準決勝ともに1着で勝ち上がり。しかし、新山選手は準決勝で近畿4車の結束によって勝ち上がりを阻まれ、7着に敗退しています。

脇本雄太(写真提供:チャリ・ロト)

 準決勝3レースはすべて、近畿勢のワンツー決着に。その結果、決勝戦に出場する9名のうち7名までが近畿勢という、まるで近畿の地区プロというメンバーとなりました。並びがどうなるかが注目されましたが、脇本選手の提案で、3つのラインに分かれての勝負に。お互いやりづらい面はあるでしょうが、このほうが多くの選手に優勝するチャンスができるのも事実で、車券的にもグンと面白くなりましたよね。

 唯一の3車ラインとなったのが、古性選手が先頭の近畿勢。現役最強のオールラウンダーが、敵となった脇本選手に対してどう対応してくるか、注目です。その番手を回るのは、近況でよく連係している南修二選手(88期=大阪・42歳)。近畿地区の選手が相手でもキッチリ止めてくれそうな南選手が後ろにつくのは、古性選手にとっても心強いでしょう。そして、ライン3番手は松岡健介選手(87期=兵庫・45歳)が固めます。

古性優作(写真提供:チャリ・ロト)

 脇本選手は、東口善朋選手(85期=和歌山・44歳)とのコンビで勝負。車番に恵まれなかったのもあって、初手での後ろ攻めが濃厚ですね。となれば、脇本選手が動いたときに先頭にいる選手は、タイミング次第ではかなりキツい展開を強いられそう。デキがいいときの脇本選手は、本当に手がつけられないほどの強さをみせますからね。番手を追走する東口選手も、ここは一瞬たりとも気が抜けません。

 そして、地元代表である三谷竜生選手(101期=奈良・36歳)は、三谷将太選手(92期=奈良・38歳)との兄弟タッグで勝負です。三谷竜生選手は昨年の覇者で、このシリーズでの走りも非常にいいのですが、いかんせん相手が超強力。脇本&古性という近畿のツートップを向こうに回すとなると、中団でうまく立ち回るのは必要条件で、さらに展開面での助けも欲しいところです。

三谷竜生(左)と三谷将太(写真提供:チャリ・ロト)

 最後に北日本勢ですが、こちらは菅田壱道選手(91期=宮城・37歳)が先頭で、番手が守澤太志選手(96期=秋田・38歳)という組み合わせ。奈良の兄弟タッグと同様、中団でどれだけうまく立ち回り、勝機を逃さず捲りにいけるか次第でしょう。北日本勢にとって本当に大きかったのが、近畿勢が3ラインに分かれてに四分戦となったこと。菅田選手もデキは上々のようなので、ぜひ意地をみせてもらいたいですね。

菅田壱道(写真提供:チャリ・ロト)

初手の並びは脇本雄太が後方、古性優作が“堂々と受けて立つ”

 前置きが長くなってしまいましたが、そろそろ決勝戦の回顧に入りましょう。レース開始の号砲が鳴って、まずは1番車の三谷竜生選手と3番車の古性選手が飛び出していきますが、それならば…と三谷竜生選手が引いて古性選手が先頭に。「堂々と受けて立つ」という、古性選手の意志を感じましたね。三谷竜生選手は4番手となり、6番手に菅田選手、そして後方8番手に脇本選手というのが、初手の並びです。

 脇本選手が初手で後方だと、四分戦とはいえ「斬った斬られた」が繰り返されるような展開にはなりづらい。デキもいいので、なおさら自分の得意とするカタチで勝負してきそうです。誰も動かないまま青板(残り3周)周回が終わって、赤板(残り2周)を通過。後方の脇本選手は前との車間をきって、いつでもダッシュできる態勢を整えています。そして赤板後の1センター手前で、脇本選手が動きました。

脇本雄太の失速 襲いかかる菅田壱道

 一気の加速で先頭に迫る脇本選手。打鐘の直前というタイミングで、ここで前を斬らせるわけにはいかない古性選手も、先頭誘導員が離れた瞬間に踏み込んで突っ張りにいきます。脇本選手と東口選手の後ろには、6番手から切り替えた菅田選手が追走。脇本選手は打鐘で、南選手の直後まで進出します。しかし、全力ダッシュで合わせる古性選手は、脇本選手にこれ以上の進撃を許しません。

打鐘手前2コーナー付近(写真提供:チャリ・ロト)

 古性・脇本の両者が、がっぷり四つでもがき合ったまま、打鐘後の2センターを通過。ここで、古性選手の番手にいた南選手が、ヨコの動きで脇本選手をブロックします。これで少し外に振られた脇本選手ですが、態勢を立て直して、最終ホーム手前では再び南選手の外を併走。脇本選手の番手にいた東口選手は、外から勢いをつけて松岡選手を内に押し込みつつ、最終ホームを通過します。

最終ホームストレッチ(写真提供:チャリ・ロト)

 ここで、後方の外にいた菅田選手が仕掛けて進出開始。そして前では、南選手が外の脇本選手を再び牽制しました。もがき合いながら必死に食らいついていた脇本選手ですが、この牽制で力尽き、最終1センターで大きく外に膨れて失速。それとまったく同じタイミングで、三谷竜生選手が外の守澤選手を鋭いヨコの動きで一瞬にして捌き、菅田選手の番手を奪取しました。三谷将太選手もそれに続いて、菅田選手の3番手を確保。脇本選手を撃墜した大阪勢に、今度は菅田選手が襲いかかります。

最終1センター付近(写真提供:チャリ・ロト)
最終2コーナー付近(写真提供:チャリ・ロト)

 いい加速をみせる菅田選手は、最終バックでは南選手の外まで進出。先頭では古性選手が踏ん張っていますが、脇本選手の仕掛けを合わせきった後ですから、さすがに脚に余裕はないでしょう。最終3コーナー手前で、これは菅田が一気に前を呑み込むか…と思った刹那、菅田選手の番手から仕掛けた三谷竜生選手が、大外をついて猛追。最終2センターで、先頭に立った菅田選手の外に並びかけました。

古性優作はついに力尽き、三谷竜生が先頭に躍り出る!

 しかし、絶好の展開をモノにしたい菅田選手もスピードは衰えず、三谷竜生選手よりも少しだけ前に出た態勢を保って最終2センターを通過。古性選手はついに力尽きて、番手にいた南選手は、菅田選手の後ろに切り替えています。三谷竜生選手の直後は、兄の三谷将太選手がぴったりとマーク。そして最後の直線に入った瞬間、三谷竜生選手は菅田選手を捉えて、先頭に躍り出ます。

 外に出して差しにいった三谷将太選手も、内で粘る菅田選手を捉えますが、先頭に立った三谷竜生選手との差はほとんど詰められないまま。ホームバンクの短い直線を、三谷竜生選手が先頭で駆け抜け、昨年に続く連覇を達成しました。2着は三谷将太選手で、言うまでもなく地元勢のワンツー決着。さらにいえば、これは2018年の奈良記念以来となる、三谷兄弟のワンツー決着でもあります。

見どころ「しか」なかったような決勝戦

 いったんは先頭に立った菅田選手が3着に粘って、3連単は65,070円という高配当に。でも、この結果でこの配当というのは、正直なところ安いですよね。つまりそれだけ、地元の看板を背負って戦う、三谷兄弟を応援していた方が多かったということ。記念での地元選手というものは、時としてこういうドラマチックな結果を出すものではありますが…それにしても劇的というか。そりゃあ、三谷将太選手も表彰式で涙ぐみますよ。

三谷将太(左)と三谷竜生(写真提供:チャリ・ロト)

 レース展開も熾烈かつ劇的で、どこを切り取っても見どころ「しか」なかったような決勝戦に。まずはなんといっても、脇本選手と古性選手のもがき合いでしょう。完全優勝に王手をかけるほどのデキだった脇本選手の捲りを、古性選手は前受けからの突っ張り先行で堂々と迎え撃ち、合わせきった。古性選手は、前受けを選んだ時点でこの展開を覚悟していたと思いますが…いやあ、本当にすごかったですね。

 また、先に捲った菅田選手の強さにも驚かされましたね。結果的には三谷竜生選手に「その上」をいかれましたが、このメンバーの記念決勝で観衆をあっといわせるところまでいけたのですから、自信を持っていい。それだけに悔しかったのが守澤選手で、自分のポジションを捌いた三谷竜生選手が優勝したというのは、マーク屋として忸怩たるものがあるでしょう。北日本のファンから「慎太郎なら勝っていた」なんて言われかねません。

 そんな激闘を制して連覇を達成した三谷竜生選手には、惜しみない拍手を贈りたいですね。この超強力なメンバーを相手に、最高の立ち回りをして最高の結果をもぎ取ったわけですから、シビれるほどに強かった。展開が向いたという見方があるかもしれませんが、だからといってやすやすと勝てるような相手ではない。車券や予想がハズレでも、本当にいいものをみせてもらった…という気持ちで満たされちゃいますよね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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