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山田裕仁のスゴいレース回顧

【玉藻杯争覇戦 回顧】点ではなく“線”でつながるのが競輪

2024/02/21 (水) 18:00 52

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが高松競輪場で開催された「玉藻杯争覇戦」を振り返ります。

優勝した浅井康太(写真提供:チャリ・ロト)

2024年2月20日(火)高松12R 開設73周年記念 玉藻杯争覇戦(GIII・最終日)S級決勝

※左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①松浦悠士(98期=広島・33歳)
②佐藤慎太郎(78期=福島・47歳)
③井上昌己(86期=長崎・44歳)
④菊池岳仁(117期=長野・23歳)
⑤町田太我(117期=広島・23歳)
⑥東龍之介(96期=神奈川・34歳)
⑦香川雄介(76期=香川・49歳)
⑧福島武士(96期=香川・38歳)
⑨浅井康太(90期=三重・39歳)

【初手・並び】
  ②
←④⑥(混成)⑨③(混成)⑤①⑦⑧(中四国)

【結果】
1着 ⑨浅井康太
2着 ①松浦悠士
3着 ③井上昌己

決勝は松浦悠士が完全Vに王手、浅井康太と井上昌己が「GP王者ライン」結成

 全国的に汗ばむほどの暖かさとなった、2月20日。香川県の高松競輪場では、玉藻杯争覇戦(GIII)の決勝戦が行われています。S級S班からは、佐藤慎太郎選手(78期=福島・47歳)と松浦悠士選手(98期=広島・33歳)がエントリー。山口拳矢選手(117期=岐阜・28歳)も出場を予定していましたが、残念ながら病気欠場となりました。おそらく全日本選抜競輪(GI)も、かなり無理して走っていたのでしょう。

 S級S班の出場は2名だけとなりましたが、浅井康太選手(90期=三重・39歳)や北津留翼選手(90期=福岡・38歳)、犬伏湧也選手(119期=徳島・28歳)なども出場と、層の厚さはなかなかのもの。初日特選を制したのは松浦選手で、主導権を奪った犬伏選手の3番手から、最後の直線では中を割って力強く伸び、差し切りました。松浦選手は、調子を上げてきている印象を受けましたね。

 松浦選手は二次予選と準決勝でも1着をもぎ取り、完全優勝に王手をかけて決勝戦に進出。期待された四国勢の犬伏選手は、準決勝で果敢な突っ張り先行からよく粘るも、道中で巧い立ち回りをみせた浅井選手に捲りきられて、5着に敗退しています。浅井選手は、まだまだタテ脚でも勝負できる…ということを見せつけるようなレース内容。浅井選手と同じく、佐藤選手の立ち回りもさすがでしたね。

 決勝戦に4名が勝ち上がった中四国勢は、ひとつのラインで結束して勝負。その先頭を任されたのは町田太我選手(117期=広島・23歳)で、1着こそ取れていないものの、デキのよさが目立っていました。その番手を回るのが松浦選手で、3番手に香川雄介選手(76期=香川・49歳)。そして4番手を固めるのが福島武士選手(96期=香川・38歳)と、ラインの3番手と4番手に地元勢が並ぶカタチです。

 浅井選手は、過去に連係実績もある井上昌己選手(86期=長崎・44歳)と「グランプリ王者ライン」を結成。混成ラインとはいえ、自分の後ろに井上選手がついてくれたことは、浅井選手も心強かったことでしょう。そして、菊池岳仁選手(117期=長野・23歳)の後ろは、佐藤選手と東龍之介選手(96期=神奈川・34歳)の「番手競り」に。近年でこそ珍しくなりましたが、一昔前は普通にあったことなんですよね。

 自力で勝るうえに“数の利”まである中四国勢の好きにさせると、他のラインは手も足も出ずに終わってしまう可能性がある一戦。中四国勢が嫌がるような展開に、いかに持ち込むかが問われる決勝戦といえるでしょう。注目は、町田選手と同期で年齢まで同じである、菊池選手の動き。レース前にも「町田君には負けたくない」とコメントしていただけに、どのような走りで勝負をかけてくるのか楽しみです。

関東の菊池岳仁が前を取り中四国勢は後ろ攻めに

 ではここからは、決勝戦のレース回顧に入ります。レース開始を告げる号砲と同時に飛び出していったのは、1番車の松浦選手と4番車の菊池選手。内の車番である松浦選手が先頭誘導員の直後につけますが、菊池選手は引かずにその外を併走します。それならば…と松浦選手は自転車を下げて、先頭のポジションを菊池選手に譲ります。その直後の中団4番手が浅井選手で、中四国勢は後ろ攻めとなりました。

 後方に位置する町田選手が動き出したのは、赤板(残り2周)の手前から。先頭の菊池選手は先頭誘導員との車間をきって、町田選手が前を斬りにくるのを待ち構えています。町田選手は赤板通過に合わせて、後方から一気の加速で先頭に襲いかかりますが、菊池選手も全力で突っ張る姿勢。菊池選手の直後では、佐藤選手と東選手が番手を巡って、早々と激しく身体をぶつけ合っています。

菊池岳仁(青・4番車)が待ち構える中、赤板手前から中四国ラインの先頭・町田太我(黄・5番車)が動き出す(写真提供:チャリ・ロト)

 佐藤選手と東選手は番手を競っているのもあって、菊池選手のダッシュについていけない。後方から差を詰めてきた町田選手は、ぽっかりと空いた菊池選手の後ろに入るかどうか逡巡しながら、赤板後の1センターを回ってバックストレッチに入ります。中四国勢すべてが収まるほどのスペースではなかったことや、ライン3番手の香川選手や4番手の福島選手が離れそうになっていたのも、迷った理由でしょうね。

 結局、町田選手は打鐘の手前で、松浦選手に迎えられるように菊池選手の後ろに入りました。その直後に、松浦選手と香川選手。しかし、中四国ライン4番手の福島選手は、もう番手を競る必要のなくなった佐藤選手と絡んでいます。佐藤選手の後ろに東選手で、後方8番手に浅井選手という隊列に変わって、レースは打鐘を迎えました。町田選手はかなり脚を使わされましたが、中四国勢にとっては悪くない展開です。

赤板過ぎの1センター。町田(黄・5番車)は菊池(青・4番車)の後ろへ入るか逡巡(写真提供:チャリ・ロト)

刺客・東龍之介が中四国4車を分断

 打鐘後の2センターでは、差を詰めた佐藤選手が香川選手の内に入り込み、香川選手の外には東選手が急接近。中四国勢を捌いて「松浦選手の後ろ」を奪取すべく、内外から刺客が忍び寄ります。最終ホームに帰ってくる手前で、町田選手が加速して先頭の菊池選手を追い抜きにいきますが、ここで中四国ライン3番手の香川選手が少し離れてしまいます。その隙を見逃さなかったのが、外から前を追っていた東選手でした。

 東選手は外から内に一気に切れ込んで、松浦選手と香川選手を分断。福島選手も離れて後方となっているため、中四国勢は4車から2車にまで減らされました。東選手の直後につけていた浅井選手と井上選手も、連動して中団の位置へと浮上。前では、最終ホーム通過と同時に町田選手が菊池選手の番手から発進して、ここで先頭に立ちました。しかし、菊池選手は先頭を奪われてからも、松浦選手の内でいい粘りをみせます。

最終ホーム通過と同時に町田(黄・5番車)が先頭に立つ(写真提供:チャリ・ロト)

 松浦選手の後ろを奪われた香川選手も、挽回を期して東選手の後ろを確保。外の浅井選手と併走で、最終1センターを回ります。そして、最終2コーナーを回ってバックストレッチに入ったところで、浅井選手が仕掛けて前を捲りに。いいダッシュをみせ、最終バック手前で東選手の外に並びました。松浦選手の内で粘っていた菊池選手は、ここでついに力尽きて後退します。

 一気に前を飲み込みそうな勢いだった浅井選手を、内の東選手がブロック。それで少し勢いが削がれたタイミングで、今度は松浦選手が前へと踏んで、脚が鈍った町田選手の番手から抜け出しにいきます。浅井選手はいったん松浦選手の番手に入り、その後ろに浅井選手マークの井上選手と東選手。さらにその後ろには香川選手と、最後方から一気の脚で差を詰めてきた福島選手がいます。

 最終3コーナーで町田選手は完全に失速。番手から捲った松浦選手が先頭に立って、その番手に浅井選手、さらにその後ろに東選手と井上選手という態勢で、最終2センターを通過。外から一気に捲りあげてきた福島選手は、香川選手の外まで進出しています。そして最後の直線、先に抜け出した松浦選手が粘り込みをはかるところに、外から差しにいった浅井選手がジリジリと差を詰めていきました。

 さらにその外から井上選手も伸びますが、一気に前を飲み込むような勢いはなく、ゴール前はこの3車がきわどい争いになりそうな態勢。井上選手の後ろでは、内から東選手、香川選手、福島選手が横並びでの攻防となりますが、前とはかなり差があります。ゴール直前に松浦選手がハンドルを投げますが、松浦選手よりもほんの少しだけ遅いタイミングでハンドルを投げた浅井選手が、最後の最後でグイッと伸びます。

「入れ替わり立ち替わり」の激戦制した浅井康太

 そして…僅差となった1着争いは、外の浅井選手に勝利の女神が微笑みました。惜しい2着が松浦選手で、3着に浅井選手マークから伸びた井上選手。まさに「入れ替わり立ち替わり」といった様相の激戦で、私も観戦していて手に汗を握りましたよ。有利と目される中四国勢の力を、他のラインが少しずつ削いでいって、最後の最後で逆転を果たしたといったレース結果。この優勝の味は、浅井選手にとっても格別だったでしょう。

浅井康太(紫・9番車)が松浦(白・1番車)との優勝争いを1/4車輪差で制す(写真提供:チャリ・ロト)

 ずっと脚を使わされるなかを中団から自力で捲っての優勝ですから、浅井選手の強さはまさに文句なし。東選手にブロックされた結果、一気に前を捲るのではなく松浦選手の後ろを追走するカタチになったのも、結果的によかったと思います。あのブロックがなかったら、最終3コーナーから松浦選手とのもがき合いになって、井上選手あたりが優勝していたかもしれませんよ。

 さらにタラレバをいうならば、準決勝で犬伏選手を勝ち上がらせなかったことも、浅井選手の優勝につながっている。競輪という競技が「点ではなく線」であることを、改めて感じましたね。「町田選手にだけは負けたくない」とコメントしていた菊池選手も、結果はともかく気概は示した。地元・香川勢も、連係を外してからも挽回を期して必死に戦い、諦めない姿勢を最後まで見せていました。

 強い相手がいるならば、その力を削ぐために「できるだけ嫌がることをする」というのが競輪の基本。菊池選手は初手から中四国勢のプランを崩し、さらに町田選手の脚を削って、松浦選手が早めに仕掛けざるをえない展開を作り出した。そして、東選手がラインを分断した。僅差の2着に終わった松浦選手は悔しかったでしょうが、あのタフな展開のなかで、やるべきことをやった上での結果だったと思います。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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