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【山口拳矢】“爪痕を残せれば”の考えはない!「初出場・初優勝を目指し結果だけを求めたい」/KEIRINグランプリ2023特別インタビュー

2023/12/28 (木) 12:00 20

第77回日本選手権競輪を制し、競輪界に新たな風を吹き込んだ山口拳矢選手が激動の1年を振り返ります。初出場となる「KEIRINグランプリ」への意気込みや来年の所属級班「S級S班」について、そのほかライバル選手の存在などについてもお聞きしました。また、偉大な父・山口幸二氏の背中を追いかける胸中など、若きダービー王の素顔に迫りました。(取材・文=アオケイ・八角あすか)

山口拳矢(撮影:北山宏一)

2023年を振り返って GI初制覇・ダービーの裏側

ーー2023年はどんな目標を立てていましたか?

拳矢 記念の優勝とGIの決勝に行くことでしたね。

ーー伊東GIIIに名古屋記念、平塚GI・ダービー優勝、見事に目標達成です。

拳矢 伊東の優勝は嬉しかったんですけど、(高知GI・全日本選抜前の)裏開催でSSもいなくて、自分がシリーズリーダーの立場だったし…。獲れて嬉しいけど、フルメンバーでの記念を獲りたいなっていうのが正直な感想でしたね。

ーー4月に入って、福井(FI)、富山(FI)と2場所連続優勝し、最高の形でダービーを迎えました。改めて優勝されたダービーを振り返ってみていかがでしょうか?

拳矢 1着スタートを切れて、準決勝の時点で中部は橋本優己と二人だけ。優己と「もしかすると一緒になるかもね」っていう話をしていたら、本当に一緒になって。前後どうするか、結構、迷ったんですけど…。

ーー記者陣がコメントを求めた際にも「時間を下さい」と熟考されていましたね。

拳矢 最初は「僕が前で」という話だったんですけど、話しているうちに段々と自信がなくなってきて。その前のレースが3番手追走の3着(※)だったので、そのイメージが残っていて不安もあった。そうしたら優己が「全然、僕が前でも」と言ってくれて任せることにしました。(※)二次予選は最終ホームで仕掛けた眞杉匠-神山拓弥の後位を取り切って、山口拳矢-岡本総-坂口晃輔が追走。逃げ切った眞杉1着、マークの神山2着、山口3着で入線。

ーーいざ、決勝の舞台にたどり着いて心境や自信はいかがでしたか?

拳矢 めちゃくちゃ緊張という感じではなかったですね。感触としては一番良かったですかね、アップの感じとかも。GIの決勝自体が初めてで、獲る自信や予感とかは現実味がなくて。直前の控え室でも「獲れたらどうする?!」みたいな話を優己としていましたね(笑)。

ーー初めてのGI決勝、単騎戦ということもあって気負わずに臨めましたか?

拳矢 そうですね。「この展開だったら良いな」と考えていた通りのレースになりました。

単騎となったダービー決勝、チャンスを逃さず初GI制覇を果たした(撮影:北山宏一)

ーー優勝インタビューでは「実感が湧かない」とお話されていましたが、実感が湧き始めたのは?

拳矢 1週間、2週間ほど経ってからですかね。何回も自分のレースを見て、色々な取材を受けて、やっと飲み込めた感じです。

ーーゴールの瞬間って覚えていますか? 「やったー!」という感動と驚きはどちらが大きかったですか?

拳矢 ゴール直後は「ほぼ抜いた!」と思ったんですけど、勘違いだったら嫌だなって(笑)。自分がビジョンに映されていたのを見て、ほぼほぼ確信したって感じでしたね。驚きの方が大きかったかな、現実味がなさすぎて。

ーーお父さま・山口幸二さんもタイトルホルダーであり、グランプリ覇者です。「自分もそういう星の元に生まれたのかな」なんて感じることは…?

拳矢 それは思わないけど、近くにそういう存在がいると目標にしやすいですよね。何歳ぐらいにこの立場、このレベルみたいな。目標設定としてわかりやすい存在になります。

なくなった「迷い」と生じた「気持ちのブレーキ」

ーーグランプリ出場が決まり7月、地元地区の名古屋記念で2度目のGIII優勝。この頃の調子はいかがでしたか?

拳矢 迷いがなくなりましたね。

ーー「迷い」というのは?

拳矢 グランプリが決まったので、そこに向けてという感じだったんですけど。やっぱり、目先の結果が出ないとモチベーションも下がりますし、周りからも『タイトルを獲ったのに』と言われることもありますし。同期とも話したりして「何かを変えたりするんじゃなくて今まで通り変わらずに行こう」って。

地元地区の記念で優勝、シリーズを通じて強さを示した(写真提供:チャリ・ロト)

ーー8月のオールスターで落車をしましたが、シリーズを完走しました。GI覇者としての意地でしょうか?

拳矢 いや、全然そんなに格好良い理由じゃない(笑)。シャイニングスター賞(無条件で準決勝進出)を走って準決勝は確定していた。でも打撲で、歩くのも痛いぐらい状態は悪かった。正直、厳しいと思ったけど、走る以上は「1%でも決勝の可能性があるのならば…」と思って。

 結果的に準決勝は8着だったけど、最終日まで走ったのはナイター開催で帰れないし、残って治療してもらった方が良いと思ったのもあって残りました。怪我は右の腰の打撲で体重を乗せると痛くて…。でもアップの時点では痛かったけどレースになればアドレナリンが出るので、痛みは気にならなかったですね。

ーーその後の前橋(FI)を欠場し、青森GII・共同通信社杯に出場。落車後はご自身の中でリズムが狂った感じはありましたか?

拳矢 バランスがなかなか戻らなかった。「良いかな?」と思ってレースに臨んでも、良くなかったり。でも、優勝できた10月の川崎(FI)ですかね。あのシリーズは感じが良くて「もう戻ったな」と思えたし、練習の感じも悪くなかったんです。でも、その後はなかなかレースの流れやリズムが悪かったですね。結果も残せなかったですし。

ーーグランプリ前の最後のレースとなった競輪祭では「自信がなくなった」と弱気な発言も。そこから調整は順調にできていますか?

拳矢 「勝ちたい」という気持ちは変わらないんですけど。「無理できない」というか、無意識に気持ちにブレーキがかかってしまうことはありましたね。やりたい練習はできているし、調子も上がってきているので、この状態を維持できれば。

S級S班としての覚悟、ライバルの存在

来年は赤パンを纏い戦う(撮影:北山宏一)

ーータイトルを獲って意識的なものなど、何か変わったことはありますか?

拳矢 僕自身は何も変わっていないと思いますね。

ーーS級S班はどういったイメージですか?

拳矢 何でもできる人が一番強いなっていうイメージ。

ーー来年、SSとして、どういう戦いをしていきたいですか?

拳矢 レーススタイル的には、ずっとデビューした頃から古性優作さんや松浦悠士さんみたいな『オールラウンダーな選手』を目指しているので、そこは変わらずに来年も攻めたレースをしていきたいです。

ーー今後、克服していきたい点や課題は何でしょう?

拳矢 一回、脚を使ってからもう一回、自力を出すっていうところが気持ち的に弱くなってしまう部分があるので、もうちょっと積極性を出していけたらと思います。

ーー新たなにSSとして、年齢も近い眞杉匠選手の存在は意識されますか?

拳矢 先行で強い選手ですし、ヨコもできる。一緒のレースになると、眞杉を中心に作戦を立てるので、そういう意味では意識しますね。あとは結構、同級生は意識する。犬伏湧也とかヨシタク(吉田拓矢)とか。ヨシタクは期が上だし、「しょうがない」と思えるけど、犬伏は期が1つしか変わらない。ダービーの時も犬伏が先に決勝進出を決めて「自分も!」という気持ちは強くなりましたね。

ーー犬伏選手のどういったところが凄いと感じますか?

拳矢 シンプルにタテ脚が凄いですよね。

父・幸二氏の存在、競輪選手になって感じること

日本選手権競輪表彰式にて(撮影:北山宏一)

ーー「やっぱり親子だな」と思うことはありますか?

拳矢 えー…、自分じゃ全然思わないですね。似ているとも思わないですし(笑)

ーー偉大な父を超えられそうですか?

拳矢 一回グランプリを獲って、やっと足元が見えるぐらいだと思う。今は、やっと背中が見えてきたぐらいです。

ーー幸二さんは立川(98年)、平塚(11年)とグランプリを2度優勝。史上初の親子制覇がかかります。

拳矢 父も初めてのグランプリ出場が立川だったので、縁を感じていますね。

ーーグランプリで優勝したら購入したいものはありますか? ちなみにダービーの優勝賞金の使い道は…?

拳矢 うーん、時計を買いたいかなと思いますけど。やっぱり賞金額がデカいから年内に買いたいんですけど。次の日しかないっていうのが…どうかなって感じですね。ダービーの賞金は車ですね。ずっと「GIを獲ったら買おう」と欲しかった車を買いました。

ーー何という車でしょうか?

拳矢 ランボルギーニのSUVですね

ーー自分の頑張り次第で欲しいものが買えるって、モチベーションになりますか?

拳矢 そうですね。それは一番ある。僕は先に買っちゃうと買って満足しちゃうので、達成してから買わないとダメかなって(笑)

ーー競輪選手になって良かったと思いますか?

拳矢 自由が多いっていうところが一番ですね。時間や服装、髪型も自由ですし。そこは自分に合っていると思いますね。そもそも、朝起きるのがしんどい(笑)

ーー気持ちはわかります(笑)。練習はどうしているんですか?

拳矢 最近は午前練習も増えてきて早く起きたりするけど、どうかなぁ…。4、5日続くと、ちょっとしんどくなってくるので「明日は午後で!」みたいな(笑)。でも、周りには自由にやらせてもらっているので、ありがたいです。

競輪選手生活に自由を感じている(撮影:北山宏一)

ーーもしも競輪選手になっていなかったら、どんな道に進んでいたと思いますか?

拳矢 全然、想像がつかないですね。やりたいこともなかったし、本当にどうなっていたんだろう。親のコネでどっかの会社に入っていたんじゃないですかね(笑)。

ーー前検日のファッションやコレクションのアクセサリーを見て“お洒落さん”という印象があるのですが、そういうアパレル関係の道はどうでしょう。

拳矢 まぁ、好きですけど給料が…(苦笑)。それに僕、あまり人とコミュニケーションを取るのが得意じゃなくて。しゃべってもらえれば普通にしゃべりますけど、自分からはなかなか難しい。アパレルの店員さんって自分からガンガン行かないとダメそうだし、僕には向いていないですね(笑)。

ーーきっと、競輪選手は天職なんだと思いますよ。それでは最後にグランプリに向けての意気込みをお願いします!

拳矢 初出場で若手の枠、“チャレンジャー”という立場。でも「チャレンジャーだから爪痕を残せれば良い」という考えではなくて、結果だけを求めたい。結構、『初出場・初優勝』ってよく聞くので、自分もそれを目指して。本当に優勝だけを目指したいと思います!

ーー脅威に感じるライン、選手はいますか?

拳矢 やっぱり近畿勢ですかね。脇本さんがどこから仕掛けるのかによって、展開が大きく変わってくるかなと思います。

いざグランプリの舞台へ(撮影:北山宏一)

山口幸二氏特別インタビューはこちら

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