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【競輪祭女子王座戦】和歌山初のグランプリ出場を狙う!「今年のチャンス逃さないつもりで挑む」/吉川美穂特別インタビュー

2023/11/21 (火) 18:00 40

ガールズケイリン年内ラストのGIシリーズ「競輪祭女子王座戦(GI)」が小倉競輪で開幕! 今回は新設されたGI開催を記念し、7月には「ガールズケイリンフェスティバル(函館競輪)」、10月には「オールガールズクラシック(松戸競輪)」で決勝2着と、デビュー3年目にして大躍進を遂げている吉川美穂選手の特別インタビューをお届けします。(取材・文=アオケイ・八角あすか)

吉川美穂(撮影:北山宏一)

ナショナルチームで東京五輪を目指していた中長距離の実力者

 グランプリに出場したいーー。

 吉川がデビュー当時に打ち立てた目標だ。その目標は今、達成されようとしている。デビュー3年目の今年は特別競輪の決勝でも結果を残し、飛躍の年となった。ガールズケイリンに新たな風を吹き込む吉川のバックグラウンド、そしてグランプリ出場への思いに迫った。

ーーまずは吉川選手と自転車の出会いについて教えてください。

吉川 中学、高校はソフトボール部に所属していました。高校3年の夏に引退し、学校の先生から「ガールズケイリン」を勧められたんです。ちょうど1期生のタイミングでした。でも、実業団から声がかかっていたのもあって、競輪学校の受験は見送りました。

ーー高校卒業後は実業団でロード選手として活躍。ナショナルチームにも6年間在籍しましたが、オリンピックを目指してやってきた6年間はどんな6年間でしたか?

吉川 そうですね…。人生で一番、ツラかったかもしれないです。東京オリンピックに出られる、出られないという厳しい状況の中で、結局、出場は叶わなかった。代表を辞める直前に関しては、実際にモチベーションも下がってしまっていましたね。本当にツラかったことの方が多いように感じます。

ーーツラいことの方が多かった中でも、ガールズケイリンに転身した現在、ナショナルチームでの経験は生かされていますか?

吉川 ナショナルチームでは精一杯、練習をしていたので、基礎体力は向上したと思うし、ロードレースとトラック種目の両方で学んだことや走り方を今は生かせているのかな、とは思います。

ーーロードレース、トラックでは中長距離種目を走っていた吉川選手ですが、長い距離はもちろん、ダッシュも良いですよね。

吉川 いや、実は長い距離は苦手で(苦笑)。ロード選手の中でも持久力や登坂能力があまり優れている方ではなかったんです。自転車を始めたのもロードからじゃなくて、500mから。最初に500mTTをやって、競輪学校の試験の準備のために1㎞を計ったりして。最初って『500mやケイリンやったら、頑張る時間は1分以内で良い』と思って始めたんです(笑)。『1分以内やったら頑張れるかもしれへん』と言ってやり始めのに、知らん間に何百㎞も走るような競技の方に…。

ーーまさか、長い距離が苦手だとは。1分以上は頑張れないと(笑)。

吉川 はい(笑)。最初なんてロードの練習に全然ついていけなくて「私、ケイリンをやるはずやったのに、何でこんなんロード走ってるんやろう?」と毎年、毎年思っていましたね(笑)。ロード選手の中では元々スプリント力はあった方なので、やっているうちに持久力もついてきた。そうしているうちにナショナルチームから声をかけていただき、中長距離種目でオリンピックを目指すことになりました。

ーー長い距離も踏めてダッシュも良い、偏りがないのは大きな武器になるのでは?

吉川 全体的にどれにおいてもトップにはなれそうにはないですが、どれもそれなりにできるおかげもあって、それなりに走れているのかな、とは思います。

ナショナルチーム時代の経験をガールズケイリンに生かしている(撮影:北山宏一)

「私には競輪しかないかなって」

ーー2019年、再びガールズケイリンの道を目指すことを決断しました。そのタイミングというのは?

吉川 オリンピックに出られなくて、2024年のパリを目指すのかどうするのかってなったときに、パリを目指すにしても生活面において少ない給料で生活をしていたので、まずは生活を安定させてから『競輪選手でやっていくのか、パリを目指すのか』その時に考えれば良いかなと思って。まずは競輪学校を受験しようと決断しました。

ーー橋本英也選手を始め、男子の中長距離選手が続々と競輪へ転身していますが、周囲に相談などはされましたか?

吉川 特にしていないですね。私は普通に試験を受けたんですが、気が付いたら、その年末に窪木(一茂)さんがオリンピック出場の特別枠で試験を受けることに。その後も近谷(涼)や一丸(尚吾)さんも競輪学校を受験。やっぱり、ここまで自転車をやってきたら、行く先は競輪になることが多いんかな、とは思います。私自身も今までやってきたことが役に立つ仕事ってなると、『私にはもう競輪しかないかな』っていう風に思っていました。

自然の流れの中で競輪への挑戦を固めていった(撮影:北山宏一)

ーー実は吉川選手は大阪出身なんですよね。所属は和歌山ですが、どういった経緯があったのでしょうか?

吉川 ソフトボールで和歌山の高校へ進学したんです。そこで自転車を勧められてから、登録もずっと和歌山だったので、競輪選手としての支部も和歌山になりました。

ーー師匠は稲毛健太選手ですが、そのあたりの経緯は?

吉川 稲毛さんとは同じ高校の出身なんです。稲毛さんも高校時代に自転車競技部の先生から勧められて競輪を始めたんですよ。同じような経緯で、そういった繋がりもあって、師匠をしてくれるということだったので。私自身も知っている人の方がやりやすいかなと思って、弟子入りをお願いしました。

ーー養成所では2度のゴールデンキャップを獲得、在所成績は1位で卒業という輝かしい実績を残しました。吉川選手自身は狙っていたのでしょうか?

吉川 そうですね。ゴールデンキャップはもちろん狙っていましたし、在所成績に関しても1位を取れるんやったら取ろうっていう気持ちでやっていました。

ーー2020年、注目が集まる中でデビューを迎えましたが、当時はどんな目標を立てていましたか?

吉川 できることなら『グランプリに出られるような選手になりたい』と思っていましたね。

デビュー時期の吉川美穂、グランプリへの意識はこの頃から

ビッグ制覇するために足りないもの

ーー今年でデビュー3年目、ここまでを振り返って自己評価はいかがでしょう?

吉川 思っていたぐらいって言ったら生意気かもしれないですけど、デビュー当時は多少、勝てるんじゃないかな、という風には思っていました。でも、デビューして半年は、なかなかレースの感じが分からなくて、思ったよりも走れていなかった。半年経ってからは少しずつ勝てるようになり始めてきたし、最近はある程度、成績は安定してきたと思います。

ーー今年は抜群の安定感を誇り、成績の数字が物語っています。(11月20日時点:75走して着外4回、3連対率94.6%)

吉川 大きいレースでの着外はあるけど今年は着外が少ないし、良かったかな、とは思うんですけど…。今年の前半は胃腸炎やコロナだったり、体調を崩してしまって一気に調子を落としてしまった。欲を言えば、去年よりも優勝回数が増えていたら最高やったんですけどね。(優勝回数は去年13回、今年11回)

ーービッグレースの話も出てきましたが、特別競輪には4回出場して直近のガールズケイリンフェスティバル(函館)、オールガールズクラシック(松戸)で連続決勝2着という成績を残しました。優勝まであと一歩、トップとの差や自分に足りないものなど感じていることはありますか?

吉川 佐藤(水菜)選手や(児玉)碧衣ちゃんと比べると、『自分で行き切ってしまう力』がない。自分はどうしてもレースの流れ次第になってしまう。自分で仕掛けても、後ろからズブズブに捲られてしまうんじゃないか、と思ってしまいます。二人はあまりにも力が違い過ぎて、どうやったら勝てるのかが見えてこないですね。

ーー普段はどんな練習をされているんですか?

吉川 和歌山は女子が少ないので、基本は男子選手との練習です。男子選手の後ろに付いているだけで、自分の限界以上の力で走れる。それこそ佐藤選手の番手に付くと、どうしても千切れてしまう選手も多いと思うんです。けど、練習で男子選手の後ろを付け切れることもあるので、それが自信になって佐藤選手の後ろでも自信を持って付いていけるという感じはありますね。実際、レースで佐藤選手の後ろにいるときは差せないにしても、しっかりと付いてはいけている。そこは男子選手との練習のおかげかな、と思います。

オールガールズクラシック決勝2着、吉川(緑・6番車)は佐藤水菜を追いながらのゴール(写真提供:チャリ・ロト)

「グランプリ出場を決めたい」まずは決勝に乗ることがマスト

ーーさて、いよいよ「競輪祭女子王座戦」が迫ってきました。「グランプリ出場」は射程圏内、賞金ランクは僅差ですが、今の心境はどうでしょう?(11月20日時点で吉川は賞金ランク4位)

吉川 かなり熾烈ですよね。グランプリ出場争いをしている中で私が一番、脚がないのに、なんで出走本数が一番少ないんやって思いますけどね(苦笑)。3位の尾方(真生)とは10走差ぐらいある(尾方85走、吉川75走)。先日、宇都宮の追加はいただけて良かった。本当にドキドキしますよね。

 競輪祭で優勝するのが誰かによっても、状況は変わってきますから。自分が優勝できればそれが一番ですけど、小倉では優勝を目指して、とにかくまずは決勝に乗ることがマストかなって思います。正直、気持ち的にはナショナルチームにおる時と同じぐらいシンドいです。でも、オリンピックに出られる、出られないっていう状況と比べて、今回はグランプリに出場できる可能性の方が高い気はするので、しっかりと最後まで頑張りたい。

ーーデビュー3年目、目標であった「グランプリ出場」が届く位置まで来ました。

吉川 グランプリ出場もそうですし、ビッグレースの決勝に連続で上がれて、決勝2着を取れるなんて。今後あるんかなっていうぐらい自分が驚いています。今年のチャンスを逃さないつもりで最後の競輪祭へ挑みたいですね。

大飛躍を遂げた2023年(撮影:北山宏一)

ーーガールズケイリンも、吉川選手の台頭で勢力図が変わってきたような。吉川選手や尾方真生選手たちの期の若い選手が新しい風を吹き込んでいます。

吉川 応援してくださるみなさんや、和歌山支部からもグランプリ出場が確定したかのような話をされるので、すごいドキドキはしています(苦笑)。『和歌山初のグランプリ出場』ということもあって期待はされているし、その期待にしっかりと応えたい気持ちが強いですね。

ーー小倉は過去2度走っていますが、バンクの印象はどうですか? また、意気込みをお願いします。

吉川 ドームなので、風の感じ方が屋外とは違うというか、競技をやっていたので懐かしいような気持ちにはなりますね。ただ、去年の競輪祭に関してはボロボロだったので(5・4・3着)。今年は7月に一度走って、それなりの成績(1・1・決勝2着)にはまとまったけど、どうしても去年のダメだったときのイメージがまだあるので…。今回で払拭できるように。

競輪祭はとにかく確定板にさえ載れれば、今回は決勝に上がれる。オールガールズクラシックは2着、2着がマストのような競走でしたから。1つでも上の着を目指して一戦一戦、頑張りたいと思います。

「グランプリ出場を決めて周囲の期待に応えたい」(撮影:北山宏一)

競輪を頑張れるモチベーション「8割ぐらいは愛猫のため」

ーー最後にプライベートな話も聞いちゃいましょう! 趣味や息抜きは何ですか?

吉川 愛猫とゲームですね。すごくゲームが好きで、めちゃくちゃインドアなんですよ。外に出るのが面倒くさくて、何も予定がないんやったら1週間でも2週間でも家におれるタイプ(笑)。休みのときは、お腹に猫を乗せて、ずーっとゲームをしています。

 「にゃーん」(※ナイスなタイミングで鳴き声)

ーー-SNSでも度々登場していますが、愛猫のロシアンブルー4匹の存在は大きいですか?

吉川 8割ぐらいは猫たちのために頑張っているようなものですね。競走に行くときは家族などに面倒を見てもらい、競走が終わったら直ぐに帰ります。少しでも良いから家にいたいですね。

ーー猫ちゃんたちへの愛が伝わってきます。

吉川 今年、私が体調を崩したときに猫も体調を崩してしまって。FIP(※)という難病になってしまったんです。今は治るような薬ができているので、無事に治療が終わって今は元気に暮らしています。(※猫伝染性腹膜炎:致死率が高く、有効な治療法は確立していない)

 その時に信じられへんぐらい高い治療費がかかって。本当に競輪選手になって良かったと思いましたね。普通の今までの仕事だったら、絶対に払えないような額だったので。もう『猫のための競輪』ですね、本当に。美味しいものを食べさせて良い暮らしをさせてあげたい! それが頑張る源にもなっています!

愛猫の待つ家へ大舞台を勝って帰りたい(撮影:北山宏一)

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