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「それで良かったん?」49歳桑原大志が自らに課し続ける"トライ&エラー"/独占インタビュー

アプリ限定 2025/07/17 (木) 19:00 11

2025年7月18〜21日の4日間、玉野競輪場で「サマーナイトフェスティバル(GII)」が開催される。今回は注目選手への特別インタビューとして、桑原大志に取材を敢行した。長年中国地区を引っ張ってきた桑原の競輪への向き合い方、心境の変化に迫った。(取材・文=アオケイ・八角あすか)

桑原大志(撮影:北山宏一)

後輩に慕われるコツは「気を遣わせないこと」

ーー後半戦は小松島記念からスタートでした。4日間をふり返っていかがでしょうか?

桑原 反省しなきゃいけないところがありますね。勝てていないところもあるので。あとは、どうしても脚力が違い過ぎるというか。

ーー最終日は川口雄太選手の番手で、古性優作選手を何度も牽制して止めて。「競輪」を感じた熱いレースでした。

桑原 古性君は隙がないので、どういう手で攻略しようか。いつもすごく考えます。あのレースも色々と反省するところがありますし、結局は勝てていないので。車券に貢献できていないですから。自分が頑張ったとか、そういう自己満足ではなく、競輪として考えた時に「僕も一生懸命やっているけど、どうなんだろう」と思うところがありましたね。

ーー町田太我選手、取鳥雄吾選手、連携する若手選手たちは口を揃えて「桑原さんならどうにかしてくれる。自分の持ち味を引き出してくれる」と言います。

桑原 嬉しいですけど、僕が若手におんぶしてもらっている立場。その中で若い選手たちが最大限に力を表現できればなと。選手ってみんな、いっぱい練習しているので。その成果をレースで表現できないということが一番悔しいと思うんです。最大限の力をレースで表現するために、やりたいことをさせてあげたいなと僕は思っています。

(撮影:北山宏一)

ーー若手選手との接し方などで気をつけていること、大事にしていることってありますか?

桑原 気を遣わせないことかなぁ。でも、向こうも気を遣ってくれるから有り難いですね。後輩が先輩にっていう部活チックなことは好きでなくて。

 ただ、気を遣わせないように自由でいいよって感じですが「ちょっとそれは止めた方がいいんじゃない?」と、それとなく言ってあげることはあります。「それを言うならやったら?」とか「やりもしないのに言うのはどうかと思うよ」って、ちょっとしたことは言いますね。

 プロフェッショナルとしてやらなきゃいけないこととか、宿舎内にしてもレースにしてもあると思うんです。そこができない人は社会に出てもダメだなと思っていて。

 強くなる人は言われたことをしっかり吸収します。やっぱり弱いって言ったら失礼ですけど、グレードレースに届かない人は自分のことを強いと思っているから「いやいや〜。桑原さんの意見なんて」って感じで思っている人もいるんじゃないでしょうか。

ーーなんだか…、理想の上司のような感じですね。

桑原 あはははは。会社が潰れてしまいますよ(笑)

競輪のスピード化で見えた課題

ーー競輪に一番必要なことって、何だと思いますか?

桑原 すごく難しい質問ですね…。一番かどうかは分からないけど『自分が車券の対象になっていること』は確実に意識していないといけないと思っていて。自己満足で発進したり、後ろを勝たせたいっていうのも、それはそれでいいんじゃないかとは思うんですけど。『どんな人でも車券の対象にはなる』っていうことだけは意識してやるのは大事かなって。そこは僕の中で結構大きなウエイトを占めていますね。

ーー桑原選手が思う番手としての極意などがあれば教えてください。

桑原 やっぱり全力サポートできる人、千切れない人。僕もあれこれできるわけではないので、まずは目先の連携を外さないっていうことですね。競輪は線で戦っているので、点にしてしまうと…。もう目も当てられないというか。

(撮影:北山宏一)

ーー時代とともに変わっていく競輪ですが、今のスピード競輪に感じることはありますか?

桑原 いや、本当にもうヤバイです。

ーーヤバイですか。

桑原 ヤバイって言葉だと薄っぺらいんですが「いや、まだ加速するの!?」って感じで。僕らは前がタレてくれないと抜けないのに、みんなゴールまで踏み切るんです。この5年ぐらいで(競輪は)ムチャクチャ変わったんじゃないですか。

ーー中四国地区では、犬伏湧也選手や太田海也選手と連携する機会もあると思います。

桑原 12月から5月まで、毎月千切れていたんですよ。取鳥、犬伏、山崎(賢人)、河端(朋之)に。もう謝ることしかできなくて。作戦会議では僕の場合「やりたいことをやりな〜」と言うタイプなので、レースになってみて予想外のこともあるんですけど…。それにしても半年間、毎月必ず千切れるって。もう心が折れてしまって、何をやったらいいのかもすら分からず自分の限界がしっかり見えた部分もありました。

ーーそこを踏まえて、課題っていうのは。

桑原 初速に千切れないっていうことしか考えていないです。追走ができていないのに、ブロックはこうやる、ああやるとか言えるステージにはいないと思っているので。まずは付いていく。「付いていけるぜ」という自信がついてからの話ですね。

 太田君に関しては松浦(悠士)君や清水(裕友)、そういう選手でも口が空いたりする。そのクラスの選手が無理なら自分は無理よなって。まずは付いていくってことを第一に考えて頑張りたいです。

『トライ』続ける選手人生

ーーご自身で気持ち、体の面での変化って感じていますか?

桑原 気持ちの面では、ゆっくりやっていこうと思っていても、そういう自分に腹が立ってガツガツしている部分もある。やっぱり負けたくない気持ちとか、根の部分が出てきて。でも、受け入れないといけないところもあると思うんです。昔、強かった人がずっと強いわけじゃない。

 自分を受け入れるって、こんなに難しいんだなって思いました。認めたくないじゃないですか、退化とか。でも、体力仕事なので、絶対に退化は来る。それをしっかり受け入れた中で、しっかりとやっていこうと思うようになりました。

ーー逆に昔も今も変わらないことってありますか?

桑原 こっちとこっち、どっちにする? ってなった時に『苦しい方、キツい方』を選択するようにはしています。それが合っているかどうかは別として、安定を取らないというか可能性にかけますね。

 飛躍するためには、喜んで後退しますよ。僕は。どんどん、どんどん前に進むためには、喜んで後退します。そのまま終わってしまっても後悔はない、やらないよりは。『トライ&エラー』だと捉えていて、トライしていない人は当然エラーもないけど、進化していくこともないんです。ずっと僕はトライ&エラーを続けてきたつもりです。

(写真提供:チャリ・ロト)

ーー人生のモットーは『トライ&エラー』ですか。

桑原 そこには負けん気の強さがベースにあるんですけど。こうみえて僕、負けん気が強いんです。

ーー優しそうな雰囲気からは、ちょっと意外と言いますか。

桑原 “自分に対しての"負けん気は、めちゃくちゃ強い。誰かに、人に対してっていうのもないことはないんですが、自分に腹が立つ。レース後に「何しよるん?」、「こうやってできたじゃん!」って。練習においても、あと1本だけど最後もういいかなってなるじゃないですか。「それで良かったん? 妥協していいん?」みたいな自分がいて。

ーー選手人生において『トライ』しなくなったら終わりってことですか?

桑原 うわ、重たっ(笑)。うーん。近い感じかもしれないですね。何かに挑戦していると、決勝に乗れたりとか、何かしらちょっとご褒美がある。トライして弱くなったとしても、そういう人生だと僕は受け止めます。

(撮影:北山宏一)

ーー今年8月でデビューして28年が経ちます。来年1月には50歳に。目標設定はどうですか?

桑原 28年? ひー、ビックリです。50歳でS級という目標がS級1班に。やっぱり欲も出てきて『50歳でGI出場』というのも、そんなに遠くはないのかなって。

ーー『50歳でS級』という目標設定は、誰か目標とする選手や先輩がいるのでしょうか?

桑原 僕が30代後半ぐらいの時に、徳島の小倉(竜二)君が「わいは50歳でS1が目標」と言っていて「まじで〜? ちょっと50ではキツない?」って思ったけど、じゃあ僕もこっそり目指してみようかなと。僕が小倉君に便乗した(笑)。

小倉竜二(撮影:北山宏一)

ーー小倉選手の影響だったんですね。その目標に近づいているのではないでしょうか?

桑原 前期は1班の点数が取れたので、50歳で1班を迎えられそうです。

ーー全日本選抜競輪(2月・熊本)の頃には50歳を迎えています。3月には地元でウィナーズカップも。高いモチベーションを保てていますか?

桑原 ウィナーズカップは選考基準(1着回数上位、FI決勝1位〜3位回数上位者)がなかなか厳しいので。がっつきたいけど、そこが全てではないと思っています。全日本に関しては、清水がタイトルを獲ってSSになってくれるように全力応援です。清水がS級S班になった瞬間、僕の(全日本選抜)出場が決まると思うので。

ーー清水選手がS班になれば、桑原選手が山口では競走得点トップとなって出場権利が回ってくるということですね。

桑原 清水がタイトルを獲ってSSにもなって、僕も全日本に行ける。そうなれば全部嬉しい。だから、宮杯の時もめちゃくちゃ清水を応援しました。「俺のためにも頑張れ」って一応、言ったんですけど(笑)。

「後ろを回るのは僕だ」清水裕友への特別な想い

ーー改めてお聞きしたいのですが、桑原選手にとって清水選手はどんな存在でしょう?

桑原 どんな存在かぁ。どんなって言われると、いい言葉が浮かばないですけど。絶対に必要な存在です。やさぐれている清水すら(笑)。

清水裕友(撮影:北山宏一)

ーーきっと色々な清水選手の顔を見てきたことでしょう(笑)。

桑原 やさぐれている時もあれば、ノっているなっていう時もある。あまり僕に求めてもこないので、ポンポンとたまに求めてきて乗り方を聞いてきたらアドバイスはしますけど。

ーー清水選手との連携には、やっぱり特別な思いがあるのでは?

桑原 「清水の後ろを回るのは僕だ」と思っている。そういう気持ちはあります。この前も宮杯の白虎賞で太田(海也)、清水、桑原と並んだ時に「特別競輪の優秀競走でこの並び、やばいなぁ」って。あまり昂ぶる感情が自分にはないと思っていたんですけど。道中で「うわぁ、すごいな。この並び」と感じながら走りました。またこういうメンバーで走れるように。そこを目標に、1つ1つやっていこうと思えました。

(撮影:北山宏一)

盟友・平原康多の引退

ーーS級S班(18年)での経験は、競輪人生にどう活きていますか?

桑原 そこはあまり活きていないと思います。「俺、S班だぜ」とも思ったこともないし、ただ淡々と走って終わった一年だったので。僕の中では1ミリも経験値が上がったとかはないですね。変わらず前の選手に付いて行くだけでしたし、その頃は太田竜馬との連係が多かったかな。今のように先行屋と言われる若手がたくさんいなかったので。一蓮托生なところがあって、あまりSSだからどうっていうのはなかったです。

ーー今年は仲のいい平原康多氏の引退もありました。

桑原 平原とは馬が合う関係というか、とにかく彼も探究心が旺盛。自分と同じ、喜んで後退するタイプだと思う。「これをやって前進するなら、弱くなっても構わない」というような感覚なんじゃないかな。練習方法や部品の使い方の話とか、ムチャクチャしたなぁ。

ーー贈る言葉、かけたい言葉はありますか?

桑原 「お疲れさま」と短いメッセージを送っただけ。来年あたり、落ち着いたら食事に行きたいですね。

平原康多氏(撮影:北山宏一)

ーー桑原選手って県外の選手との交友関係が広いですよね。平原さんもそうでしたし、今では古性優作選手をはじめ、本当に色んな選手が桑原さんを囲んでいる場面に現場で遭遇する気がします。

桑原 まぁ、いじられているんですよ。問題ですわ〜(笑)

ーー人気者ですね(笑)。それでは最後に、地元地区のビッグレースに向けての意気込みをお願いします。

桑原 特にこれっていうのはないですけど、しっかりとラインに付いていく。その意地は出す。中国地区で開催される大会なので、広島、岡山、山口でどう連携して優勝者を出すか。そういう地区の結束力の強さをお見せできたらなと思います。

(撮影:北山宏一)

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