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【KEIRINグランプリを知る男】100か0の世界、勝ったやつが正しい世界/山口幸二独占インタビュー

2023/12/28 (木) 12:00 32

「KEIRINグランプリ2023特別インタビュー」で山口拳矢選手への取材後、父であり、グランプリ2Vを誇る山口幸二氏にも直撃!“新時代の幕開け”の様相を見せる現代の競輪を幸二氏はどう見ているのか。そして、グランプリに出場する息子・拳矢選手についても“選手目線”で語っていただきました。ここだけの独占インタビューであり、必見です!(取材・文=アオケイ・八角あすか)

ーー今年の競輪界、幸二さんが選ぶ一大ニュースを教えてください。

幸二 拳矢と眞杉がタイトルを獲ったことかな。インパクトが強かったですね。新時代の幕開けというか、これから新しい競輪になっていくのかなっていうのを目の当たりにしたよね。これまでは何となく「若い選手が強くなってきたな〜」っていう思いはあったけど、いよいよこういう時代が来たのかな、と。

若き2人のタイトルホルダー(撮影:北山宏一)

ーー拳矢選手、眞杉選手それぞれタイプが違うっていうのも面白いですよね。

幸二 違うね、競輪の王道としては眞杉だよね。眞杉もオールスターをヨシタク(吉田拓矢)の番手で獲って、その後の立川記念で優勝した森田優弥の前で先行した。自分がヨシタクの力を借りて優勝したから、立川ではあの走りをやらざるを得なくなったと思う。だけど、競輪祭を自分の力で獲ったことで、そういう呪縛から放たれたのかな。

ーー他に印象に残っている選手はいますか?

幸二 あとは犬伏だね、先行して逃げてタイトルが狙える数少ない選手だと思いますね。今は番手捲りや混戦を捲ったり、っていうのが多い中で犬伏は自分の力でタイトルを獲れる選手だと思う。犬伏の出現は大きいですよ。

犬伏湧也(撮影:北山宏一)

ーー現代のスピード競輪において重要なことは何でしょうか?

幸二 残り2周で出たらいけないっていうルール(※)がある以上、『突っ張り』が一つのトレンドになったよね。新山みたいに。昔の若手は後ろから押さえて逃げるのが王道だったけど、今は違う。前を取って突っ張って、先行選手としてアピールするっていう真逆に変わってきた。だから、これから強くなる今の若手に大事なのは『2周先行』できる力ですよね。

(※)先頭員早期追い抜き失格(競技規則58条):33バンクは残り2周半のバック、400バンクは残り2周の赤板ホーム、500バンクは打鐘まで誘導を追い抜くことは禁止されている。よって、早い仕掛けができなくなり、Sを取った先行選手は誘導を長く使えるため突っ張りが増えた。

ーー選手目線で見た拳矢選手はどういうタイプの選手だと思いますか?

幸二 拳矢は『数に入ってない時だけ勝てる選手』。単騎で3番手? 4番手回るの? だけど、こっちには強い選手がいるからそこに構っていられないよっていう時だけ結果が出せるタイプ。だから、本当に強いわけじゃないとは思うよね。

ーー拳矢選手は嗅覚が利きますよね。

幸二 周りの人は嗅覚と言うけど、『数に入っていないから回れる』っていうところがあって。その嗅覚もダービーや名古屋記念は上手く回ったけど、競輪祭の時は同じようなことをしても同じ展開にならないので。拳矢にとっては運がすごく大事で、決して力でダービーを獲ったわけじゃない。その辺りの評価っていうのが眞杉とか、あの辺とは違いますよね。

名古屋記念「金鯱賞争奪戦」山口拳矢優勝(写真提供:チャリ・ロト)

ーー2度グランプリを獲った幸二さんが思う「グランプリを獲る条件」とは。

幸二 そんなのはもう『運』一本でしょう。

ーー『運』を兼ね備えていないと、ですか。

幸二 グランプリに出るのは脚がある選手ばかり。みんな強くて当たり前だし、展開が来れば獲れる選手ばかりだから。あとは『運』一本ですよね。

ーー幸二さんは初めて出場された立川グランプリの時に、ガッツポーズの予行演習をされていたと聞きました。

幸二 したした(笑)

ーー拳矢選手にも伝授しましたか?

幸二 してない、それはしてないな(笑)。ああ見えて拳矢は、すごい人見知り。家でも喋ったりしなくて、急にスイッチが入ったかのように「あそこのレース、ああだった。こうだった」って話をするタイプで。チャラけたことを話すことはまずないですね。

ーーレースの話は結構されますか?

幸二 レースの話はする。最初の頃はレースの組み立てとかを色々と聞いてきたけど、段々と自分なりに分かってきたみたい。レースのアドバイスだったのが、振り返りみたいな話が今は多くなったね。「あそこ、こうだったかな」って自分なりの答えを持って、ただレースの話をするだけって感じ。

ーー「自分の息子だな」って感じることはありますか?

幸二 うーん、まずは容姿が似ているでしょう。

ーー拳矢選手は「似ていない」と言ってましたが(笑)

幸二 だって自分の若い頃とソックリだもん(笑)。容姿が似ているのと、ふてぶてしく見せているけど、実はちょっと繊細なところがレースから感じ取れたり。そういうところは親父の俺に似ているのかな、と思う。

“繊細さ”が似ていると父・幸二氏は語る(撮影:北山宏一)

ーーどういう選手になってほしいですか?

幸二 そりゃあ眞杉や犬伏みたいな選手になってほしいけど。実質、先行じゃ敵わないし、ラインの層も違う。1周ガマシぐらいはできる選手になって、拳矢と一緒の番組は「やったー!」と周りに言われる選手になってほしいよね。

ーーもしも同じ時代に拳矢選手と走るとしたら、どういう作戦を立てますか?

幸二 「ここで行ったら、お前にもこういうメリットがあるよ」という作戦を入念に立てて、番手に付くかな。高圧的ではなくて、今の時代に合った感じでね(笑)

ーー拳矢選手は選手人生の目標に「父の実績を超えること」と掲げていました。賞金、タイトル数、現役年数、何を超えたら幸二さんは認めますか?

幸二 ダービーを獲ったし、もう超えたんじゃないかなと思うけどね(笑)

ーー拳矢さん自身は「グランプリを獲って、やっと足元が見えるぐらい」だと。

幸二 やっぱり、グランプリは他のタイトルとは違って一年の集大成なので。一年かけてトーナメント、優勝戦を狙うもの。本人がダービーを獲っても、グランプリが目標ということであれば、一年ずっと頑張らなきゃいけない。「親父はグランプリ2個だな」って数字的にも明確な目標になるなら、それはそれで良いのかな。

ーー最後に幸二さんにとって、『グランプリ』とは何か教えてください。

幸二 グランプリとは、何やろうね…。集大成だよね、一年間の。『100か0の世界』、2着では意味がない。他のタイトルなら、2着でも賞金を上積みできたってなるけど。グランプリは『勝ったやつが正しい世界』だから。一発勝負、勝ち方とかそんなものは要らないと思う。

日本選手権競輪表彰式では親子で握手を交わした(撮影:北山宏一)

山口拳矢特別インタビューはこちら

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