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山田裕仁のスゴいレース回顧

【周防国府杯争奪戦 回顧】どこまでも“主役”だった清水裕友

2023/11/06 (月) 18:00 66

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが玉野競輪場で開催された「周防国府杯争奪戦」を振り返ります。

(写真提供:チャリ・ロト)

2023年11月5日(日)玉野12R 開設74周年記念 周防国府杯争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①清水裕友(105期=山口・28歳)
②稲川翔(90期=大阪・38歳)
③松浦悠士(98期=広島・32歳)
④高久保雄介(100期=京都・36歳)
⑤犬伏湧也(119期=徳島・28歳)
⑥取鳥雄吾(107期=岡山・28歳)
⑦古性優作(100期=大阪・32歳)
⑧中本匠栄(97期=熊本・36歳)

⑨村上博幸(86期=京都・44歳)

【初手・並び】

←⑤⑥①③(中四国)⑦②(近畿)④⑨(近畿)⑧(単騎)

【結果】

1着 ①清水裕友
2着 ⑥取鳥雄吾
3着 ③松浦悠士

SS5名に注目株と超豪華なシリーズ

 11月5日には岡山県の玉野競輪場で、周防国府杯争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。山口県の防府競輪場が来年のリニューアルに向けて改修中であるため、今年は玉野バンクでの開催に。S級S班がなんと5名も出場し、ほかにも犬伏湧也選手(119期=徳島・28歳)などの注目株が走るという、超豪華なシリーズとなりました。初日特選なんて、特別競輪の決勝戦でもおかしくないメンバーですよ。

 そんな中、もっとも注目を集めたのが清水裕友選手(105期=山口・28歳)。この防府記念を5連覇中で、舞台が変わったとはいえ、今年は6連覇がかかります。ただでさえ勝つのが難しい地元記念を連続で勝つというのは、まさに至難の業。ここまできたら、この世界の金字塔である中野浩一さんの「世界選手権プロスプリント10連覇」のような、誰にも超えられない記録を樹立してほしいものです。

 このような大記録のかかるシリーズですから、注目されて当然。そんな清水選手は、超豪華メンバーとなった初日特選から1着をとって、好スタートを決めます。中四国勢の先頭を任された犬伏選手は、後方からのカマシで新山響平選手(107期=青森・30歳)を叩ききって主導権。その番手から発進した清水選手は、捲り追い込む郡司浩平選手(99期=神奈川・33歳)の追撃を退け、激戦をモノにしています。

 そして清水選手は、続く二次予選と準決勝も1着で勝ち上がり。映像からでも気迫が伝わってくる気持ちの入った走りで、完全優勝での大記録更新に“王手”をかけます。郡司選手は二次予選で、前で落車した村田雅一選手(90期=兵庫・39歳)を避けられずに自分も落車。また、守澤太志選手(96期=秋田・38歳)と新山選手は準決勝で敗退して、勝ち上がることができませんでした。

決勝戦へ勝ち進んだのはオール「西」の9名

 その結果、決勝戦に勝ち上がったS級S班は、松浦悠士選手(98期=広島・32歳)と古性優作選手(100期=大阪・32歳)の2名に。近畿が4名に中四国が4名、そして九州が1名という、オール「西」の選手による決勝戦となりました。中四国勢の並びがどうなるかが注目されましたが、全員が連係するカタチにすんなりと決まった様子。近畿勢は、大阪と京都が別線での勝負を選択しました。

 中四国勢の先頭は犬伏選手で、番手を回るのは取鳥雄吾選手(107期=岡山・28歳)。注目の清水選手は3番手で、最後尾をなんと松浦選手が固めるという布陣です。このところ中四国への貢献が大で、ここ玉野がホームバンクでもある取鳥選手に記念制覇のチャンスを…といった意図もあっての並び。とはいえ、「前が犬伏選手で後ろに清水選手」という位置を任されたプレッシャーは、並大抵ではないですよね。

「前が犬伏選手で後ろに清水選手」という位置を任された取鳥雄吾選手(写真提供:チャリ・ロト)

 大阪勢は、先頭が古性選手で番手に稲川翔選手(90期=大阪・38歳)というコンビで勝負。2車とはいえ、総合力の高さは相当なものですよ。そして京都勢は、無傷の3連勝で決勝戦に駒を進めた高久保雄介選手(100期=京都・36歳)が先頭で、番手は村上博幸選手(86期=京都・44歳)。相手は超強力ですが、デキのよさならば高久保選手も負けてはいない。大物を食う「一発」があっても不思議ではありません。

 そして最後に、単騎勝負を選んだ中本匠栄選手(97期=熊本・36歳)。中四国の並び次第では犬伏選手の番手が転がり込む可能性もありましたが、そうはなりませんでしたね。多勢に無勢で相手関係も厳しいここで上位争いをするには、立ち回りの巧さと展開の助けの両方が必要でしょう。「自力選手4名の連係」である中四国勢に対して、ほかのラインはどのような戦いを挑んだのか。それでは、決勝戦の回顧に入りましょう。

 スタートの号砲と同時に飛び出したのは、1番車の清水選手。2番車の稲川選手も出てきますが、ここは最内の清水選手がキッチリとスタートを取りきって、中四国勢の前受けを確定させます。中団5番手に、大阪勢の先頭である古性選手。その後ろの7番手が高久保選手で、単騎の中本選手が最後方というのが、初手の並びです。初手の並びや中四国の前受けは、レース前に想定されていたとおりですね。

 レースが動き出したのは青板(残り3周)周回。後方にいた高久保選手がゆっくりとポジションを押し上げ、先頭を走る犬伏選手の様子をうかがいます。犬伏選手は先頭誘導員との車間をきって、それを待ち構える態勢で赤板(残り2周)前のホームに。外から前を斬りにいく高久保選手を犬伏選手が突っ張って、ほぼ横並びで赤板を通過しました。高久保選手も引かず、両者が踏み合って打鐘前のホームストレッチに入ります。

高久保選手を犬伏選手が突っ張ってほぼ横並びで赤板を通過した(写真提供:チャリ・ロト)

 その後もお互いに一歩も譲らないまま、取鳥選手の外を高久保選手が併走するカタチで、レースは打鐘を迎えました。その様子を、後方で動かずにじっと伺っている古性選手。単騎の中本選手は、高久保選手が動いたときに大阪勢の後ろに切り替えました。打鐘後も前での主導権争いが続きますが、取鳥選手のブロックもあってか、犬伏選手の加速に外の高久保選手はついていけず、打鐘後の2センターで後退します。

 これでレースは、主導権を奪いきった中四国勢と、その直後に控える大阪勢の戦いに。中四国の4名が完全に出切った状態で、最終ホームを通過します。犬伏選手の番手を追走する取鳥選手は、振り返って古性選手の動きをチェックしつつ、犬伏選手との車間を少しきって番手発進の態勢に。そして、最終2コーナーを回ってバックストレッチに入ったところで、古性選手が捲り始動します。

 古性選手が松浦選手の外に並びかけたところで、先頭の犬伏選手の脚が鈍ります。それをみた番手の取鳥選手は、最終バック手前から前へと踏んで先頭に。仕掛けを合わされた古性選手ですが、それでも力強く加速して、最終3コーナー手前で清水選手の外に並びかけます。一気に前を捲りきりそうな加速をみせる古性選手と、そうは問屋が卸さない清水選手がここで激突。何度も身体をぶつけ合い、古性選手を止めにいきました。

 二度、三度と激突し、前に出ようとする古性選手を清水選手が頭を出して必死のブロック。その間に、番手捲りから先頭に立った取鳥選手は、いいスピードで後続との差を少し広げます。古性選手を捌きにいって空いた清水選手のインには松浦選手が入って、その後ろには大阪勢から切り替えた中本選手。古性選手のブロックから戻った清水選手は、2番手の外から再び前を追って、最後の直線に入ります。

 先頭の取鳥選手が踏ん張るところを、清水選手が鬼気迫る勢いで猛追。松浦選手はその合間を狙い、清水選手の外からは態勢を立て直した古性選手が前を追います。ジリジリと差を詰める清水選手が先頭の取鳥選手を捉えて、ゴール直前で先頭に。最内で粘る取鳥選手と、その外の松浦選手がほぼ横に並び、その外からは古性選手も伸びていますが、こちらはやや態勢不利。そして、清水選手が先頭でゴールラインを駆け抜けました。

清水選手が先頭でゴールラインを駆け抜けた(写真提供:チャリ・ロト)

清水選手は「地元6割増し」

 3車が並んで僅差となった争いは、取鳥選手が2着を死守。3着が松浦選手で、4着が古性選手という結果です。古性選手が捲りきるか…という瞬間もありましたが、終わってみれば4車連係の中四国勢が上位を独占。そして清水選手は、完全優勝で地元記念6連覇という大記録を樹立しました。しかも、スタートを取り、古性選手の捲りを受け止めるという獅子奮迅の働きでの優勝ですから、なおさら素晴らしい。

 その優勝を支えた犬伏選手の走りや、尋常ではないプレッシャーのなかで番手捲りから2着に粘り込んだ取鳥選手もお見事。前受けからの突っ張り先行とはいえ、犬伏選手のダッシュに「絶対についていかねばならない」というのは、本当にキツかったはずですよ。しかも自分の後ろには、大記録のかかる清水選手がいる。番手でいいよと言われても、私だったら固辞していたでしょうね(笑)。

 レース後に松浦選手がコメントしていたとおり、この結果は中四国の4車連係によって生み出されたもの。松浦選手がライン4番手を固めることで、中団から捲る選手の位置がそのぶん遠くなるというのは、やはり大きいですよ。この余裕があるからこそ、中団から捲った古性選手の鋭さに反応して、清水選手は全力で止めにいくことができた。そのほかにも松浦選手は、清水選手の優勝をさまざまな側面から支えていたと思います。

 そういった「清水裕友の優勝を応援したい」という周囲の支えがあっての結果とはいえ、その雰囲気をつくり出しているのは、ほかでもない清水選手自身。これまでの積み重ねはもちろん、清水選手の人柄によるところも大きいのでしょう。それにしても、このシリーズでの清水選手は本当に強かった。よく「地元3割増し」などといいますが、清水選手については「地元6割増し」くらいの印象があります。

 走り慣れた333mバンクの防府と違って玉野は400mバンクですから、これまでよりも連覇のハードルは高かったはず。でも、それをまったく感じさせない強さで完全優勝を果たした清水選手の強さを、素直に称えたいですね。犬伏選手に真っ向勝負を挑んだ高久保選手も含めて、全選手が優勝を目指して自分のやるべき仕事を全うした、見応えのあるいい決勝戦でした!

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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