2023/06/28 (水) 18:00 39
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが久留米競輪場で開催された「中野カップレース」を振り返ります。
2023年6月27日(火)久留米12R 開設74周年記念 第29回中野カップレース(GIII・最終日)決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①脇本雄太(94期=福井・34歳)
②坂井洋(115期=栃木・28歳)
③成田和也(88期=福島・44歳)
④渡部幸訓(89期=福島・40歳)
⑤東口善朋(85期=和歌山・43歳)
⑥津村洸次郎(101期=福岡・32歳)
⑦新田祐大(90期=福島・37歳)
⑧坂本健太郎(86期=福岡・42歳)
【初手・並び】
←⑨⑦③④(北日本)②⑧⑥(混成)①⑤(近畿)
【結果】
1着 ③成田和也
2着 ⑦新田祐大
3着 ④渡部幸訓
6月27日に福岡県の久留米競輪場で、中野カップレース(GIII)の決勝戦が行われました。つい先日の岸和田・高松宮記念杯競輪(GI)でも“主役”を張った脇本雄太(94期=福井・34歳)以外にも、新田祐大選手(90期=福島・37歳)と新山響平選手(107期=青森・29歳)がS級S班から出場。出場メンバーのレベルが高い、なかなか面白そうなシリーズになりましたね。
初日特選は、中団でうまく立ち回った関東勢のワンツー。残念ながら決勝戦には勝ち上がれませんでしたが、勝った吉田拓矢選手(107期=茨城・28歳)はけっこうデキがよさそうだったんですよ。脇本選手は後方から捲るも、北日本勢に前受けから突っ張られて不発。新田選手は、先頭の新山選手との車間をきっていたところを吉田選手に捲られるという失敗をしてしまっています。前を残そうという意識が強すぎましたね。
脇本選手はその後の二次予選と準決勝では、いずれも一番時計をマークする捲りで快勝。彼は自分のデキについて常にネガティブなコメントをするのですが、アレはメディア向けの話ではなく、選手間でも同様らしいですね(笑)。それだけに調子については、実際にその走りをみて確かめるしかない。あれだけ速い上がりを使えているんですから、デキはけっして悪くなかったと思います。
ただし、決勝戦については初日特選同様、一抹の不安がありました。初日特選に出場していた選手のうち6名が決勝戦まで勝ち上がって、同じような展開になりそうだ…というのがひとつ。そしてもうひとつが、捲りづらいという久留米バンクの“特徴”です。オーソドックスな400mバンクにみえますが、じつはけっこうクセが強くて、後ろからの捲りが届きづらい。かなり前団有利のバンクなんですよ。
そんなバンクで初日特選と同様に後方8番手からのレースとなると、さすがの脇本選手でもかなり厳しい。しかも、初日特選では3車だった北日本勢が決勝戦では4車と、ラインの厚みをさらに増しています。それに対して近畿勢は2車と、“数”の面でも不利ですからね。脇本選手の番手は、初日特選や準決勝と同じく東口善朋選手(85期=和歌山・43歳)が回ります。
北日本勢は新山選手が先頭で、番手に新田選手。3番手を回るのが成田和也選手(88期=福島・44歳)で、4番手を渡部幸訓選手(89期=福島・40歳)が固めるという強力な布陣です。ただし、このシリーズでの新田選手は準決勝で1着をとっているものの、そうデキがいいという印象はありません。それとは対照的に、絶好調を感じさせる動きだったのが成田選手で、こちらはかなり目立っていました。
2名が勝ち上がった地元・福岡勢は、坂井洋選手(115期=栃木・28歳)と即席ラインを形成。先頭が坂井選手で、番手を回るのが坂本健太郎選手(86期=福岡・42歳)で、3番手が津村洸次郎選手(101期=福岡・32歳)という並びです。ここは初日特選での吉田選手のように、中団でうまく立ち回るのが基本戦略。後ろが地元勢でもあり、坂井選手が積極的なレースを仕掛けてくるケースもありそうです。
では、決勝戦のレース回顧といきましょう。初手の並びがどうなるかと思われましたが、スタートを取りにいったのは成田選手で、すんなりと北日本勢の前受けが確定。中団に坂井選手が先頭の混成ライン、そして後方8番手に脇本選手というのが、初手の並びです。近畿勢が前受けとなった場合でも最終的にはこの隊列になるわけで、ならば前受けから突っ張ったほうがベターというのが、北日本勢の判断だったのでしょう。
そして初手がこの隊列だと、「斬って斬られて」が繰り返されるような展開にはならず、動きがないまま淡々と周回が進んでいくと読めますよね。実際のレースもその通りで、赤板(残り2周)を通過しても、後方の脇本選手は動きません。先頭の新山選手は何度も振り返りつつ、先頭誘導員との車間をきって後ろの動きを待ち構えます。脇本選手が動いたのは、打鐘前のバックストレッチに入ってからでした。
その仕掛けに合わせて、先頭の新山選手が打鐘とほぼ同時に、素晴らしいダッシュで急加速。先頭まで一気にいくかと思われた脇本選手でしたが、新山選手にうまく合わされたのと、東口選手が渡部選手と坂井選手の間にうまく入り込んだのもあって、打鐘過ぎの2センターでは北日本勢の後ろの5番手に収まりました。先頭の新山選手はすでに全力モードで、かかりのいい先行で最終ホームに帰ってきます。
盤石と思われた中団のポジションを、うまく隙をついた東口選手に奪われるカタチとなった坂井選手。この時点で、かなり厳しい展開となってしまいました。そして、中団に入り込んだ脇本選手も、先ほどのカマシで脚をそれなりに使わされています。ここからまた捲りにいけるだけの脚があるのか…とファンが固唾をのんで見守る最終周回。一列棒状のままで最終2コーナーを回って、バックストレッチに入りました。
最終バック手前で中団の脇本選手が捲りにいきますが、北日本ライン3番手の成田選手の外まで並ぶところまでもいけずに不発。脇本選手の捲りについていけなかった東口選手は、渡部選手の後ろのポジションをそのまま維持しました。こうなると、レースは北日本勢のもの。先頭で飛ばしている新山選手にまだ余裕があるので、番手の新田選手も早い段階で番手捲りにはいきませんでしたね。
最終3コーナーで新田選手は進路を外に出して、先頭の新山選手を差しにいく態勢に。その直後に成田選手で、渡部選手は内に進路をとりました。東口選手は成田選手の後ろにつけて、最終4コーナーを回って最後の直線に突入。坂井選手や福岡勢はまだ後方のままで、捲り不発に終わった脇本選手はレース自体を諦めてしまったかのように力尽きて、最後方まで下がってしまっています。
直線の入り口で、先頭で踏ん張ってきた新山選手がついに失速。それを新田選手が捉えて先頭に立ちます。しかし、その外から迫る成田選手の脚色がいい。内を突こうとしていた渡部選手は進路がなく、外に出したところで東口選手と身体をぶつけ合う争いになりましたが、新田選手や成田選手には届きそうにありません。先に抜け出した新田選手と追い込む成田選手の、熾烈な優勝争いとなりました。
ゴールライン直前では、ほぼ横並びとなった両者。最後の最後でほんの少しだけ前に出たのは、成田選手のほうでしたね。最後の最後で成田選手のデキのよさがモノをいったという印象で、なんと記念優勝は10年ぶりとのこと。佐藤慎太郎選手(78期=福島・46歳)と同じく、北日本が誇るスゴ腕のマーク屋として随所で存在感を発揮していただけに、記念優勝からこれほど遠ざかっていたと聞いて驚きましたよ。
僅差の2着に新田選手で、3着争いを制したのは渡部選手と、福島の選手によるワン・ツー・スリー決着。東口選手、新山選手は同着4位という結果でした。この「北日本の完全勝利」をもたらした立役者は、当然ながら新山選手。脇本選手のカマシを猛ダッシュで合わせきって、そこからほとんどペースを緩めることなく最後の直線まで踏ん張ったのですから、内容については文句なしですよ。
新田選手も、初日特選での失敗を踏まえた走り方をしていましたよね。もっと早い段階で前に踏むと思っていましたが、それだけ新山選手の逃げがかかっていたのでしょう。脇本選手も新田選手と同様、初日特選とは同じ失敗をしないように、レースの仕掛けを変更してきた。それでもここは、ラインの総合力で勝負した北日本勢に、残念ながら力およばなかったということです。“最強”ですが“無敵”ではないですからね。
まったく存在感を発揮できなかった坂井選手や福岡勢は、この相手関係で後方のポジションになってしまったのが痛恨。あそこで東口選手に入られたのは坂井選手のミスで、中団から捲った脇本選手でさえ不発になるところを、さらにその上をいって捲りきるなどという芸当は、そうそうできません。しかも、舞台が前団有利の久留米バンクとなれば、なおさらです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。
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