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山田裕仁のスゴいレース回顧

【三山王冠争奪戦 回顧】超一流は失敗を繰り返さない

2023/07/03 (月) 18:00 48

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが前橋競輪場で開催された「三山王冠争奪戦」を振り返ります。

動きはいつもほどの迫力を感じられなかたものの、テクニックで優勝を勝ち取った古性選手(写真提供:チャリ・ロト)

2023年7月2日(日)前橋12R 開設73周年記念 三山王冠争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①佐々木悠葵(115期=群馬・27歳)
②古性優作(100期=大阪・32歳)
③内藤秀久(89期=神奈川・41歳)
④松本貴治(111期=愛媛・29歳)
⑤深谷知広(96期=静岡・33歳)
⑥小林大介(79期=群馬・45歳)
⑦眞杉匠(113期=栃木・24歳)
⑧木暮安由(92期=群馬・38歳)

⑨平原康多(87期=埼玉・41歳)

【初手・並び】

←⑦⑨(関東)①⑧⑥(関東)⑤③(南関東)②(単騎)④(単騎)

【結果】

1着 ②古性優作
2着 ①佐々木悠葵
3着 ④松本貴治

決勝に上がったS班はデキがいいとは言えなかった

 7月2日に群馬県の前橋競輪場で、三山王冠争奪戦(GIII)の決勝戦が行われました。このシリーズにS級S班から出場していたのは、先日の岸和田・高松宮記念杯競輪(GI)を制した古性優作選手(100期=大阪・32歳)と、そこで古性選手の2着だった佐藤慎太郎選手(78期=福島・46歳)、そして平原康多選手(87期=埼玉・41歳)の3名。そのほかの出場メンバーもなかなか強力で、面白いシリーズになりましたね。

 初日特選は、眞杉匠選手(113期=栃木・24歳)が突っ張り先行から主導権を奪い、関東勢が上位を独占。単騎で勝負した古性選手は最終バック手前から捲りにいくも、伸びきれずに5着に終わっています。古性選手はその後、二次予選と準決勝ではいずれも1着をとって勝ち上がってきましたが、動きにいつもほどの迫力がないというか…レースの巧さで結果を出している印象で、そうデキがいいとは感じませんでした。

 そして、「状態が悪い」と断言できるようなデキだったのが平原選手。本人もギリギリの状態だとコメントしていましたが、実際にその走りからも、平原選手“らしさ”を感じられませんでしたね。また、残念ながら佐藤選手は、二次予選で押圧による失格をとられて勝ち上がれず。つまり、決勝戦に駒を進めたS級S班は、いずれもデキの面で不安が残る状態だったといえます。

対して好調だった関東勢

 総じて好調だったのが地元である群馬勢で、決勝戦には3名が勝ち上がり。前橋競輪場では寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメント(GI)がよく開催される関係で、「記念」が開催されない年もありますよね。そういう背景もあってか、他県よりも走れる機会が少ない地元記念を盛り上げようという気持ちを強く感じました。ここは関東地区の選手が5名も勝ち上がりましたが、群馬勢は「別線」を選択しています。

群馬トリオの先頭を任された佐々木悠葵選手(写真提供:チャリ・ロト)

 群馬トリオの先頭を任されたのは佐々木悠葵選手(115期=群馬・27歳)で、1番車を貰えたというのも有利。しかも、細切れ戦となった決勝戦で、唯一の3車ラインでもあります。機動力のある選手が多いここは展開的に楽ではないでしょうが、“数の利”を生かせる走りをすれば勝機は十分。番手を回るのは木暮安由選手(92期=群馬・38歳)で、ライン3番手は小林大介選手(79期=群馬・45歳)が固めます。

 もうひとつの関東勢が、眞杉匠選手(113期=栃木・24歳)と平原選手のコンビ。眞杉選手は調子がよさそうで、初日特選での2着に続いて二次予選で1着、準決勝でも1着をとっています。車番に恵まれなかったので後ろ攻めからの組み立てとなりそうですが、展開次第では同地区である佐々木選手とのガチンコ勝負になるかも。その番手を「関東の盟主」平原選手が回ります。

 2名が勝ち上がった南関東勢は、深谷知広選手(96期=静岡・33歳)が前で内藤秀久選手(89期=神奈川・41歳)が後ろという組み合わせ。細切れ戦で相手も強力なだけに、深谷選手は立ち回りの巧さが要求されそうですね。そして、単騎を選択したのが古性選手と松本貴治選手(111期=愛媛・29歳)の2名。オール2着で勝ち上がってきた松本選手も、デキのよさが目立っていました。細切れ戦のここは、単騎でも侮れませんよ。

レースの組み立ての巧さで結果を出した古性選手

 それではさっそく、決勝戦の回顧に入っていきましょう。スタートの号砲が鳴って最初に飛び出していったのは、7番車の眞杉選手と9番車の平原選手。前橋バンクはカントが非常にキツいので、それを利して外枠からでもスタートを取りにいきやすいんですよ。後ろ攻めからの組み立てよりも、前受けから突っ張るカタチのほうがいい…と眞杉選手は判断したのでしょう。

 群馬トリオ先頭の佐々木選手は、その直後の3番手となりました。その後ろの6番手が深谷選手で、単騎の古性選手は8番手から。そして最後方に松本選手というのが、初手の並びです。レース前の想定とは異なる並びとなっただけに、ここからどのような展開となるのか楽しみですね。「斬って斬られて」が繰り返される、動きの多いレースとなりそうな予感がします。

 最初に動いたのは後方の深谷選手で、青板(残り3周)周回に入ってからポジションを押し上げて、先頭の眞杉選手を抑えにいきました。その直後にいた単騎の古性選手と松本選手も、その動きに追随。先頭の眞杉選手は突っ張って、深谷選手と併走するカタチで、先頭誘導員が離れる青板のバックを迎えます。それをみて、迷わず動いたのが古性選手。外から勢いよく上昇して前を斬り、先頭に立ちました。

 先頭誘導員を抜きかねない、一瞬ヒヤッとするタイミングでしたが、そこを攻めて先頭に立った古性選手。松本選手はここも古性選手と連動して、その直後の位置をキープします。そこからは様子見の状態となり、互いの動向をうかがいつつ流しながら赤板(残り2周)のホームを通過。最初に前を抑えにいった深谷選手は、ポジションを下げて最後方となっています。

 眞杉選手は3番手の外を追走しており、その内には群馬トリオ先頭の佐々木選手。そして赤板過ぎの1センター、眞杉選手が動いて主導権を奪いにいこうとしたその瞬間に、その番手にいた平原選手が内の佐々木選手と接触してしまいます。平原選手は落車こそしませんでしたが、当然ながら眞杉選手の仕掛けにまったく反応できず、連係を外す結果に。眞杉選手は2コーナー過ぎから加速し、単騎となって先頭をうかがいます。

 落車しそうになった平原選手を避けるため、隊列がバラけてしまった群馬トリオ。木暮選手は態勢を立て直して佐々木選手の後ろに復帰しますが、小林選手はここで離れてしまいました。平原選手も、接触による自転車へのダメージを確かめるように、ポジションを下げて後方に。さらにその後ろに深谷選手という隊列で、レースは打鐘を迎えました。前の5車と後ろの4車で、かなり車間があいています。

 先頭に立つも、自分の後ろに平原選手がいないことに気付いた眞杉選手。これでは早くから全力では踏めず、流し気味で最終ホームに帰ってきます。それをみて、打鐘過ぎの4コーナーから果敢に捲りにいったのが、古性選手の後ろにいた松本選手。「残り1周ならば」と最終ホームで眞杉選手の前に出て先頭に立ち、押し切りを狙います。それと時を同じくして、後方の深谷選手も捲りに動きました。

 スピードに乗った捲りで前との差を一気に詰めて、最終2コーナー過ぎでは佐々木選手の外まで進出した深谷選手。しかし、そこで脚色が同じになってしまい、この捲りは不発に終わりました。先頭では松本選手が飛ばしており、少し車間をきって2番手に眞杉選手。その後方に古性選手と佐々木選手という隊列で、最終バックを通過。最終3コーナー手前で眞杉選手が外に出して、松本選手を捉えにかかります。

 その内をついたのが古性選手で、最終2センターで内から眞杉選手に並びかけると、直線の入り口で松本選手と眞杉選手との狭い隙間を綺麗に割って抜けてきました。眞杉選手も必死に前を追いますが、伸びはイマイチ。その直後につけた佐々木選手が、直線で外に出して、前を強襲します。佐々木選手マークの木暮選手は、直線では最内を選択。最後の直線での攻防に入りました。

 ここまで先頭で踏ん張ってきた松本選手は、直線に入ったところで古性選手に差されて2番手に。外からは眞杉選手も前を追いますが、前を捉えられるようなスピードはありません。伸びがいいのはその外に出した佐々木選手ですが、それでも先に抜け出した古性選手を捉えられそうにはありません。結局そのまま、古性選手が後続との差を保ったまま、先頭でゴールラインを駆け抜けました。

後続との差を保ったまま古性選手がゴールラインを駆け抜けた(写真提供:チャリ・ロト)

 僅差となった2着争いは、外からよく伸びた佐々木選手の勝利。3着に松本選手、4着に眞杉選手、5着に木暮選手という結果となりました。いいときの迫力が感じられなかった古性選手ですが、そんなデキでもレースの組み立ての巧さでキッチリ結果を出してくる。関東勢にしてやられた初日特選での失敗を繰り返さず、その反省を踏まえたレースをしてくるというのも、超一流の証明ですよ。

 それとは対照的に、ファンが期待していたレースができていなかったのが、地元である群馬勢。佐々木選手がなんとか2着に食い込んだとはいえ、もっと積極性のあるレースで「ラインから優勝者を出す走り」をしてほしかったというのが正直なところ。1番車や3車ラインであることのメリットをまったく生かせず、佐々木選手は「自分だけに優勝のチャンスがあるレース」をしてしまいましたからね。群馬の選手が盛り上げてきたシリーズの最後がこれでは、画竜点睛を欠くというか、消化不良というか…。

 同様に深谷選手も、ファンが期待する走りをできていない。前を抑えにいくも、その後に最後方へと下げてそこから捲ったのでは、脚を使った意味が何もありません。先頭誘導員を抜きかねないリスクを取って、前をしっかり「斬り」にいった古性選手とは、そこが大きく違う。道中でペースが緩んだ瞬間もあったわけで、そこでカマシて主導権を奪いにいくようなレースをしてもよかったと思います。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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