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山田裕仁のスゴいレース回顧

【水都大垣杯 回顧】犬伏湧也にまだ足りないもの

2023/06/07 (水) 18:00 77

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが大垣競輪場で開催された「水都大垣杯」を振り返ります。

四日市に続き今年2度目のGIII優勝を果たした浅井康太。地元地区の中部勢として意地を見せた(写真提供:チャリ・ロト)

2023年6月6日(火)大垣12R 開設71周年記念 水都大垣杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①浅井康太(90期=三重・38歳)
②犬伏湧也(119期=徳島・27歳)
③松谷秀幸(96期=神奈川・40歳)
④菅田壱道(91期=宮城・37歳)
⑤園田匠(87期=福岡・41歳)
⑥山賀雅仁(87期=千葉・41歳)
⑦佐藤慎太郎(78期=福島・46歳)
⑧橋本壮史(119期=茨城・28歳)
⑨荒井崇博(82期=長崎・45歳)

【初手・並び】
←②⑨⑤(混成)①(単騎)③⑥(南関東)⑧⑦④(混成)

【結果】
1着 ①浅井康太
2着 ③松谷秀幸
3着 ④菅田壱道

松浦悠士でさえ追走できなかった犬伏湧也の爆発的なスピード

 6月6日には岐阜県の大垣競輪場で、水都大垣杯(GIII)の決勝戦が行われています。前回の大垣記念からまだ3カ月しか経過していないので、ちょっと変なカンジですよね。その前回を非常に強い内容で優勝した犬伏湧也選手(119期=徳島・27歳)が、ディフェンディングチャンピオンとして今回も出場。S級S班からは、松浦悠士選手(98期=広島・32歳)と佐藤慎太郎選手(78期=福島・46歳)が出場しています。

 強力な他地区の選手を迎え撃つ地元代表として期待されたのは、今年のダービー王である山口拳矢選手(117期=岐阜・27歳)。しかし、準決勝では後方に置かれてしまい、最後に差を詰めてくるも接触して落車という残念な結果に。そして松浦選手も準決勝で、連係した犬伏選手のダッシュについていけずに口があいてしまい、さらにブロックも受けて5着に終わってしまいました。

 このシリーズでとにかく目立っていたのが、犬伏選手の強さ。いまだ復調途上というデキの問題もあったのでしょうが、あの松浦選手がついていけずに連係を外すというのは、なかなか衝撃的ですよね。いったん後方に引いてからの捲りやカマシで、初日特選からスピードの違いを見せつけて2着、1着、1着で勝ち上がり。調子はかなりよさそうで、決勝戦では押しも押されもしない大本命となりました。

初日は2着も圧倒的なスピードで連勝し、決勝に臨んだ犬伏湧也(撮影:北山宏一)

 そんな犬伏選手の後ろを決勝戦で回るのは荒井崇博選手(82期=長崎・45歳)で、ライン3番手が園田匠選手(87期=福岡・41歳)と、ここは西日本の混成ラインとなりました。総合力十分のラインナップですが、問題は荒井選手が離れずに追走できるかどうか。犬伏選手が本気でダッシュすると、口があいてしまう可能性がけっこう高いですからね。連係を外さずにいけるかどうかが、このラインの大きな課題といえます。

 西日本勢と主導権を争いそうなのが、橋本壮史選手(119期=茨城・28歳)が先頭を任された、関東と北日本の混成ライン。橋本選手は、打鐘から先行した準決勝でもいいスピードをみせていたように、かなりデキがよさそうでした。その番手を回るのは佐藤選手で、このシリーズでは2日目から決勝戦までずっと連係しています。ライン3番手は、菅田壱道選手(91期=宮城・37歳)が固めます。

 2車ラインとなった南関東勢は、松谷秀幸選手(96期=神奈川・40歳)が前で山賀雅仁選手(87期=千葉・41歳)が後ろという組み合わせ。とはいえ、真っ向勝負できるような自力はありませんから、中団でうまく立ち回っての上位食い込みを狙ってくるでしょう。単騎を選んだ浅井康太選手(90期=三重・38歳)は、主導権を奪ったラインの直後につけて、一発を狙ってきそうです。

赤板過ぎで前に出る橋本壮史、対して犬伏は抵抗せずに引いたが…

 では、決勝戦の回顧に入りましょう。レース前から雨が本降りとなり、ウェットなバンクコンディションでの決勝戦に。スタートの号砲が鳴って最初に出ていったのは、犬伏選手でしたね。西日本勢の前受けとなり、その直後の4番手に単騎の浅井選手。5番手は松谷選手で、後方7番手に橋本選手というのが、初手の並びです。これは、レース前に想定されていた通りの隊列といえるでしょう。

 レースが動き出したのは青板(残り3周)周回。後方にいた橋本選手がゆっくりとポジションを押し上げていき、先頭の犬伏選手を抑えにいきます。西日本勢の後ろにいた浅井選手は、ここで早々と菅田選手の後ろに切り替えました。先頭誘導員との車間を少しきった状態で、両者併走のままで赤板(残り2周)を通過。それと同時に外の橋本選手が前へと踏むと、犬伏選手は抵抗せずに引きます。

初手周回は7番手から赤板で先頭をうかがう橋本壮史(8番・桃)(写真提供:チャリ・ロト)

 それをみて、南関東勢も動いて浅井選手の後ろに。今度は犬伏選手が後方7番手となって、再び一列棒状でレースは打鐘を迎えます。それと同時に、先頭の橋本選手がペースアップ。4番手の浅井選手は、前との車間を少しきって追走しています。そして最終ホームへと戻ってくる手前で、後方の犬伏選手が始動。中団の浅井選手との距離を詰めていきますが、ここで園田選手が早々と離れてしまいます。

 最終1センターで犬伏選手が浅井選手の外に並びかけますが、これに合わせて浅井選手も前を捲りに。橋本選手の先行がかかっているのもあって、犬伏選手は前との差をなかなか詰めることができないどころか、最終バック手前で早々と脚をなくしてしまいます。それとは対照的に、中団から捲った浅井選手は素晴らしいスピードで、最終バックでは佐藤選手の外に並びかけ、先頭を射程圏に入れました。

 浅井選手の後ろにいた松谷選手と山賀選手も、浅井選手をマークするカタチで前へと進出。先頭では橋本選手が踏ん張っていますが、中団から捲った浅井選手の勢いがよく、誰もブロックにもいけません。最終3コーナーで浅井選手が先頭に立ち、橋本選手の脚が止まったところで、番手にいた佐藤選手が前へと踏んで、浅井選手を追います。その後ろの菅田選手も、佐藤選手に続きました。

最終バックで逃げる橋本を捉えにかかる浅井(1番・白)(写真提供:チャリ・ロト)

 最終2センターでは浅井選手が少し抜け出し、それを外から松谷選手と山賀選手、内からは佐藤選手と菅田選手が追うという態勢に。さらにその後ろには荒井選手がいますが、この位置からの巻き返しはさすがに厳しい。そして最後の直線、先頭の浅井選手を松谷選手が必死に追いすがりますが、その差は詰まりそうで詰まらない。内を突いた佐藤選手も、いつものような鋭い伸びはありません。

 結局、浅井選手がそのままリードを守りきって先頭でゴールイン。4月の四日市に続く、今年2度目のGIII優勝を決めました。1車輪差の2着は、浅井選手マークのカタチとなった松谷選手で、3着は直線でいい伸びをみせて山賀選手をゴール寸前で捉えた菅田選手。人気の中心だった犬伏選手や佐藤選手が4着以下に終わったのもあって、3連単は57,050円という高配当となりました。

準決勝まで強かった犬伏はなぜ決勝で力を発揮できなかったのか

 単騎勝負でしたが、橋本選手が犬伏選手を抑えにいったときには瞬時に切り替えて、「主導権をとるラインの直後」にこだわるレースをした浅井選手。犬伏選手は突っ張らずに引くと読んでの立ち回りで、後方から捲る犬伏選手の仕掛けにキッチリ合わせたスパートもお見事でしたね。しかも、今回は先日の四日市GIIIとは違って、自力で勝負にいっての優勝ですから価値がありますよ。38歳という年齢を考えると、本当に頭が下がります。

 人気に応えられず8着大敗に終わった犬伏選手については……彼が負けるならば「後方に置かれての捲り不発」だとは、誰もが思っていたのではないでしょうか。これは、脇本雄太選手(94期=福井・34歳)の負けパターンとまったく同じですよね。勝ち上がりの過程ではスピードの差で圧倒できたとしても、出場選手のレベルが上がりデキもいい決勝戦だと、同じようにはいかないですから。

 あとは“運”も味方しなかった。というのも、決勝戦の前になって雨が降り始めて、濡れたバンクコンディションになったじゃないですか。犬伏選手のようにダッシュの鋭い選手だと、タイヤが路面に食いつかなくなって余計に滑るんですよ。それに、犬伏選手が周りから「突っ張らない」「抑えたら引く」と思われているのもよくない。そのイメージを払拭するためにも、もっとレースの組み立てを考える必要がありますね。

 同期の犬伏選手には負けないという「気持ち」の入った先行をした橋本選手は、残念ながら結果はともないませんでしたが、いい走りをしていたと思います。準決勝や決勝戦での最終周回タイムから考えても、本当にいいスピードを持っていますよ。まだまだこれから伸びる選手でしょうから、今後に注目したいですね。浅井選手の優勝コメントではないですが、中部にもこういうイキのいい若手がどんどん出てきてほしいものです。

橋本は119期の28歳。今後も注目していきたい選手の1人だ(撮影:北山宏一)

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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