2023/06/12 (月) 18:00 11
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが京都向日町競輪場で開催された「施設整備等協賛競輪 京都向日町カップ」を振り返ります。
2023年6月11日(日)向日町12R 施設整備等協賛競輪 京都向日町カップ(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①佐々木眞也(117期=神奈川・28歳)
②朝倉智仁(115期=茨城・23歳)
③阿部将大(117期=大分・26歳)
④二藤元太(95期=静岡・39歳)
⑤黒沢征治(113期=埼玉・31歳)
⑥小島歩(97期=神奈川・33歳)
⑦佐藤龍二(94期=神奈川・34歳)
⑧志村太賀(90期=山梨・39歳)
⑨簗田一輝(107期=静岡・27歳)
【初手・並び】
←②⑤⑧(関東)①⑦⑥(南関東)⑨④(南関東)③(単騎)
【結果】
1着 ⑨簗田一輝
2着 ⑧志村太賀
3着 ⑤黒沢征治
6月11日には京都府の向日町競輪場で、京都向日町カップ(GIII)の決勝戦が行われています。岸和田・高松宮記念杯競輪(GI)の直前というタイミングでもあり、出場メンバーはかなり手薄でしたね。傑出した選手が見当たらないシリーズらしく、初日から波乱決着の連続。初日特選に出場していた9選手のうち、決勝戦まで駒を進めたのが朝倉智仁選手(115期=茨城・23歳)だけというのは、さすがに驚きましたね。
準決勝の3連単配当は、第10レースが16,650円、第11レースが43,190円、第12レースが64,420円と、穴党でもなかなか獲れない高配当の連続。当然ながら決勝戦も大混戦で、展開次第で誰にでもチャンスがある一戦となりました。デキのよさがもっとも目立っていたのは阿部将大選手(117期=大分・26歳)なのですが、決勝戦では連係する相手がおらず、単騎勝負を選択。コレで余計に予想が難しくなった印象です。
近畿地区での開催ながら、このシリーズでは関東圏の選手が大活躍。なんと8名が関東と南関東の選手で、唯一の例外が前述の阿部選手です。5名が勝ち上がった南関東は、決勝戦では神奈川勢と静岡勢に分かれての勝負に。まずは静岡勢ですが、こちらは簗田一輝選手(107期=静岡・27歳)が前で、二藤元太選手(95期=静岡・39歳)が後ろという組み合わせになりました。車番が悪いので、こちらは後ろ攻めとなりそうですね。
3車ラインの神奈川勢は、佐々木眞也選手(117期=神奈川・28歳)が先頭を任されました。佐々木選手は初日から3着、1着、1着で勝ち上がりと、こちらも調子はかなりよさそう。自力もあるので、思いきって主導権争いに加わってくるケースも考えられます。その番手を回るのは佐藤龍二選手(94期=神奈川・34歳)で、3番手を小島歩選手(97期=神奈川・33歳)が固めます。
逃げる可能性がいちばん高いのは、関東勢の先頭である朝倉選手でしょう。先行一車といえる有利なメンバー構成でもあり、ここは主導権奪取からの「二段駆け」がいかにもありそう。番手を回る黒沢征治選手(113期=埼玉・31歳)にとっても、GIIIを勝つ好機といえます。ライン3番手の志村太賀選手(90期=山梨・39歳)にも、チャンスは十分あるでしょうね。
それでは、決勝戦の回顧に入ります。スタートの号砲が鳴ると同時に飛び出していったのが、朝倉選手と黒沢選手。1番車の佐々木選手もいいスタートでしたが、関東勢は最初から前受けを狙っていたのでしょう。朝倉選手が先頭に立って、佐々木選手が先頭の神奈川勢は4番手から。梁田選手が7番手で、最後方に単騎の阿部選手というのが、初手の並びとなりました。
朝倉選手が前受けを狙ったということは、誰かが抑えにきても、突っ張って先行する可能性が高いということですよね。中団の佐々木選手や後ろ攻めとなった梁田選手は、それを考慮に入れてレースを組み立てる必要があります。レースが動き出したのは青板(残り3周)周回で、後方の梁田選手がゆっくりとポジションを押し上げて、外から朝倉選手を抑えに。単騎の阿部選手は、連動せず最後方のままです。
先頭誘導員との車間をきって、後方の仕掛けを待ち構えていた朝倉選手。赤板(残り2周)を通過すると同時に前へと踏み込んで、先頭を主張しました。しかし、関東ライン3番手の志村選手が踏み遅れて、黒沢選手との間にスペースが発生。ここで見事な立ち回りをみせたのが梁田選手で、赤板過ぎの1センターで外からうまく割って入り、黒沢選手の後ろのポジションを確保しました。
ただし、梁田選手の番手にいた二藤選手はそのスペースには潜り込めず、佐々木選手に阻まれて志村選手の後ろにも入れませんでした。コレで完全に浮いてしまうかと思いきや、二藤選手は内から少しずつポジションを下げて、佐々木選手の番手を確保。つまり、「静岡の2車が関東ラインと神奈川ラインをそれぞれ分断する」という、かなり特殊な隊列となったわけです。
【打鐘】←②⑤⑨⑧ ①④⑦⑥ ③
この分断は最初から狙っていたわけではなく、梁田選手と二藤選手のどちらも「スペースがあったから入った」というカンジ。しかし、このような隊列になってしまうと、番手に別線の選手がいる佐々木選手は思いきったレースを仕掛けづらくなる。同じ南関東の選手とはいえ、別線を選んだ以上は「敵」ですからね。また、自分の後ろに梁田選手がいる黒沢選手も、早めの番手捲りを仕掛けづらくなりました。
レースは打鐘を迎えて、朝倉選手の主導権で打鐘後の2センターを通過。ここで、二藤選手が佐々木選手の外に出て、激しくぶつかり合いながら併走のままで最終ホームに帰ってきます。二藤選手によって内に詰まらされている佐々木選手は、捲りにいきたくとも身動きがとれない状況。それをみて、最後方にいた阿部選手が猛然とスパートを開始。豪快な単騎捲りで、前との差を一気に詰めていきます。
それとほぼ同じタイミングで、志村選手は梁田選手の内へと入り込み、黒沢選手の後ろを奪い返しにいきます。手に入れた絶好のポジションを明け渡せない梁田選手は、もちろん応戦。内外でぶつかり合いながら、最終1センターを回ります。外から単騎で捲った阿部選手は、グングン伸びて黒沢選手の外まで進出。それを確認した黒沢選手は進路を外に出して、阿部選手をブロックにいきました。
黒沢選手のブロックで外を回らされた阿部選手ですが、それでも勢いは落ちずにジリジリと前に肉迫。最終2コーナーを過ぎたところで、先頭だった朝倉選手の脚色が鈍って、黒沢選手が番手から発進します。その直後では、内の志村選手と外の梁田選手が併走。二藤選手の失速で進路が開いて動けるようになった佐々木選手も、前との差を詰めて梁田選手の後ろにまで迫ってきました。
内の黒沢選手と外の阿部選手が先頭で併走するカタチで、最終バックを通過。最終3コーナー手前では、外から捲った佐々木選手がさらに差を詰めて、志村選手や梁田選手と並ぶところまできています。佐々木選手マークの佐藤選手も、前が射程圏に入る位置まで進出。ここで仕掛けた梁田選手がグイッと伸び、進路を外にとって、前にいる黒沢選手と阿部選手を強襲します。
最後の直線に入ったところで、先頭を争っていた阿部選手は力尽きてやや失速。黒沢選手が先頭に立ち、空いていた内の最短ルートから一気に差を詰めた志村選手が、内の狭いスペースを突いてきます。外からは梁田選手と佐々木選手が伸びてきますが、勢いがいいのは梁田選手のほう。ゴール直前では最内の志村選手、中の黒沢選手、外の梁田選手が横並びという大激戦となりました。
この大接戦をモノにしたのは、ゴール寸前のハンドル投げ勝負で競り勝った梁田選手。後ろ攻めから関東ラインを分断し、ポジションを取り戻そうとする志村選手との攻防では一歩も引かず、さらに勝負どころでも冷静に立ち回って接戦に競り勝つという、文句なしの内容でしたね。梁田選手は勝ち上がりの過程でも、派手さこそないですが、いい走りをしていたんですよ。この内容でのGIII初優勝は、大きな自信になります。
序盤で梁田選手にポジションを奪われるという失敗をするも、そこからの挽回を期して必死に戦った志村選手が2着。着差が着差だけに悔しかったでしょうが、自分の失敗が梁田選手の優勝につながっているのですから、反省点のほうが大きい一戦といえます。3着の黒沢選手は、ラインから優勝者を出す走りをしてくれた朝倉選手の気持ちに報いたかったところ。勝負どころでの走りに、詰めの甘さがありましたね。
もっとも悔しさが残ったのは、おそらく佐々木選手。最後はいい伸びをみせるも僅差4着という結果ですから、ほんの少しだけでも早く仕掛けられていれば……という思いが強かったでしょう。連係を外した後の二藤選手が佐々木選手の動きを阻んで、結果的に梁田選手の優勝に大きく貢献しているんですよね。二藤選手もさすがにそこまで考えていなかったでしょうが、この結果に繋がっているのは確かです。
朝倉選手がラインから優勝者を出す走りに徹したというのは、いまの関東地区全体にそういった“空気”があるというのが大きいのではないでしょうか。若い機動型の選手が、仲間のためを思ってがむしゃらに走ってくれる。今回は最高の結果こそ出せませんでしたが、こういった気持ちを共有している地区は、やはり強いですよ。
最後には力尽きて失速するも、単騎勝負でレースをおおいに盛り上げた阿部選手の走りも力強かったですね。なかなか見応えのある、いい決勝戦だったと思います。決勝戦の3連単配当は130,310円と最後の最後まで大波乱で、車券のほうはサッパリでしたが……これはまあ、仕方がありませんね(笑)。次節の高松宮記念杯競輪(GI)でも、ファンが手に汗握るような激闘や熱戦を期待したいものです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。