2023/06/10 (土) 15:00 69
模索するワッキー。完全無欠の日本一の座に君臨する脇本雄太だが、揺れ動く競輪界にあって苦戦を強いられることもある。「どうにもならない」と感じる部分も生じ、そこからの脱却を図る現在だ。また、全プロ記念「スーパープロピストレーサー賞」での古性優作との別線勝負はどうだったのか。勢い抜群の犬伏湧也は、どんな姿に映っているのかーー。(取材・構成:netkeirin編集部)
平塚競輪場で5月2〜7日に開催された「第77回日本選手権競輪(GI)」は準決で残り1周を前半10秒8ー後半10秒7という、到底お目にかかれないタイムで駆け抜けた。だが「タイムは出ていたけど、感覚としてはそこまでいいものではなかった」と振り返る。風向きやその強さ、バンクコンディションもあって「そんなに気にしていない」のが本音だ。
インパクトある勝利で進んだ決勝だが、中四国の2段駆けに屈してしまった。戦前から「力のある選手の2段駆け相手は厳しい」と想定していたもの。何より「犬伏(湧也)君は自力でGIを獲れるくらい力のある選手。その犬伏君にあの走りをされると」と、大躍進中の若手のパワーは強烈だった。
加えて決勝戦は新山響平も中団にこだわり、脇本を警戒した。「武雄記念の決勝はうまくいったけど…」。優勝を逃した後、「相手が2段駆けにならないような勝ち上がりにもしないと」とも口にした。「難しいところですけどね。相手をつぶした中での戦い…。今の近畿の層の薄さが出ているので」が課題の一つだ。
最強王者としての苦悩。どうしても、誰からも警戒される。
「自力で戦う上で、僕をつぶしに来るレースをされなければいいんですが。先行してもいい構成だったら」
今、挑んでくる若手が増えた。「脇本さんと同じレースを走れるなんて」と燃える選手も多い。打開策を模索する日々に、入っている。
世界と戦ったタテ脚は、最大の武器として持ち続ける。その上で「力でねじ伏せるレースをしてきたけど、変化しないと…」と、戦闘コマンドのバリエーションを探る。今のままでは、この先、戦っていけない。“魔王”と恐れられる強さがありながら、苦しんでいる部分もあるのだ。
苦しめてくる若手の姿は、どう見ているのか。犬伏湧也は前出のように「自力でGIを獲れるくらいの力」と見ている。「今、ドーンと来てますよね。犬伏君が仕掛けるタイミングとか、すんなりの時どうだったとか、カマシの時はどうか、とか見ていますよ」。スタイル的に「僕と近いものがある」。
その力を認め「メンタル面も含めて、若手の中でGI優勝に一番近い」と断言する。また「町田(太我)君も…。年齢でいうと22歳で本当に若い世代。すんなり内側の先行なら僕以上の脚力がある」という。戦う中で感じ取る、若者の息吹がある。
ただし、競輪選手の歴史の中、先行選手としてずば抜けて苦労してきただけに「出させてくれる、とか条件があって力を出せる。警戒された時の対処がどうか、はあります」とみる。今年大ブレーク中の嘉永泰斗についても気になるが「まくり主体のイメージがあって、展開に左右される」と分析している。
「今、犬伏君は展開不問で強い。で、町田君が先行寄り、嘉永君がまくり寄りで、展開があれば強い。課題はあると思うんですけど、みんな向上心が強いから、そこを埋められると…、キッツいな〜(苦笑)」
地区が違うので、直接アドバイスをする機会はあまりない。競輪の”ライン”の下地になる地区でのまとまりがある。
「中四国は結構厳しくアドバイスをして若手を育てる印象がありますね。九州は緩いのかな〜(笑)。今だと荒井(崇博)さんくらいなのかな。強くなるために、こうした方がいい、としっかり伝えられるのは」
脇本自身も近畿の中で、ヤワに育てられた男ではない。時代は変わったが、当時はやはり厳しいものもあった。しかし「今でいうとパワハラとか言われるのかもしれないけど、パワハラとか思ってなかったですよ。レースに対して、優しさより、怒りとか悔しさ、負けたくないという気持ちが大事だと思っていたので」と、成長する糧だった。
脚力を付けることも大事だが「メンタルの向上心が7、8割で大事。強くなりたいという気持ち、向上心がすごく大事」と強調する。”鬼”があふれかえる競輪選手の世界。そこを生き抜いてきた背中がある。
6月13日に初日を迎える「第74回高松宮記念杯(GI)」が迫る。今年から6日制の戦いにバージョンアップされる。
「昼間の5走は、初めて。競輪祭とオールスターはナイターなので。体の疲れも違うと思う。ナイターだと、調整する時間は長く取れるんですよ。それに分宿だし、どう調整するか。ただ意識はし過ぎず、いつも通りに走れるように」
全プロ記念の前には岸和田競輪場で近畿の仲間との練習も行った。「合宿というよりは定例会、の感じかな。環境の慣れを壊す目的もあって」。多種多様なトレーニングを積んできたので、あらゆる準備法を知っている。それでも地元地区のGIを前に、気持ちの高ぶりはあり「若干、追い込み過ぎている感じはある(笑)」とのことだ。
輪史に輝くタッグとなっている古性優作との共闘もある。全プロ記念の「スーパープロピストレーサー賞」で久しぶりに別線勝負となった。どうだった?
「実際は、前を取らされた時点で新山君との先行争いをしないといけないのかな、が一番になってました。誘導と車間を切らずに突っ張るか、と構えていたけど、車間を切らない形はやってきてなかったし、叩かれてしまい厳しくなった」
そこを古性が中団を確保して、勝ち切った。
「古性君は、僕に対して警戒するんじゃなく、自分のレースをするという走りでした。割り切る力、があるんですよね。やりたくはないけど、こうしないといけないことは、やる、という」
古性は表彰式の際、後ろ乗りで登場するパフォーマンスで沸かせた。「BMXをやっていた人ならできるんだと思います。イナショー(稲川翔)さんもできると思う。ナショナルチームで一緒だった長迫吉拓もできましたし、BMXをやっていたら必ず遊びでやるんでしょう。あれ」。ちなみにワッキーは、あれ、できるの?
「僕はできないです! 無理! ワハハ!」
脇本雄太
Yuta Wakimoto
脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪9勝、20年最優秀選手賞を受賞。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。