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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【佐藤慎太郎のプライド】日本選手権競輪で感じたことは気のせいじゃない「いよいよ“競輪”が変わった」

2023/05/12 (金) 18:00 81

日本選手権競輪に出場した佐藤慎太郎がシリーズを振り返る(撮影:北山宏一)

 全国300万人の慎太郎ファン、そしてnetkeirin読者のみなさん、ダービーでの熱い応援と労いの言葉、本当にアザした! 結果に悔しがっている時間はない。すでに平塚で感じたことを練習に落とし込み、メニューも刷新している。早急に強くなり、あのゴール差を埋めようと思う。ところで今、「ビハインド・ザ・カスク」って函館の新しいウイスキーを飲みながらコラムを書いてるんだけど、尋常じゃなく美味い。これは流行る!

はじまりは“100%”のパフォーマンス

 それでは平塚・日本選手権競輪を振り返ろう。前回のコラムで書いたとおり、最近は体のキレがいい。瞬間的な判断に対して俊敏にイケる。体の反射に不安要素がないと気持ちが明るい。平塚に入る時もシリーズ中も気持ちはずっとノッていた感じ。開催2日目の特選レースがオレの1走目。脚見せの時からたくさんの声援が届いたよ。「慎太郎! オールスター投票したからな!」なんて声も嬉しかったよ。マジで気合入ったぜ。

多くの競輪ファンの声援を受けながら特選レースの号砲を聞いた(撮影:北山宏一)

 特選レースは3着で走り終えたわけだけど、着よりも内容に納得感があった。流れていくレースの中で脚をうまく温存でき、勝負所のパフォーマンスに繋げることができた。100%の力を発揮しながら直線を伸びて行ける感覚に手ごたえがあった。

勝ち上がりは厳しいレースだった

 ゴールデンレーサー賞と準決勝は勝ち上がるも“ギリギリ”の状態。余裕のなさに厳しさを感じるゴールだった。2発とも難しいレースだったとはいえ、ゴール地点で脚力は残っていなかったし、自分のキャパを広げる必要性を感じた。「シリーズ中に脚力が倍増しました」なんて超常現象は起きないので、最大限ロスなく走り、今できることだけに集中した。フォーム・セッティング・走法とあらゆる面でクリアすべき課題を見つけたので、弱い部分を強化するヒントを見つけたって意味では大きな収穫があった。

 それにしてもシリーズを通して響平の覚醒は明らかで、「自分の先行スタイルを貫くのみ」とリスク恐れぬ潔さは素晴らしかった。もともと磨き上げている先行力を次のレベルに引き上げていたし、準決勝の北日本ラインのワンツースリーは本当に気持ち良かった。

準決勝レース後の新山響平&佐藤慎太郎(撮影:北山宏一)

ゴールラインを通過しながら「オレって弱いよな」

 そして北日本3車で迎えた決勝。結論から言えば勝ち上がりでも感じていた“余裕のなさ”を克服できずゴールすることになった。ゴール後の率直な気持ちを記せば「オレって弱いよな」って一言に尽きる。あの決勝の最終局面、「オレが勝つためのコースがある!」と気力で突っ込んでいけた。本能的に反射的に優勝までのコースを取って行ける確信を持って踏んだわけ。でも突っ込んだ時から脚が残ってなかった。

 気力だけではどうにもならないのが脚力であり、競輪のレース。パワーがなくちゃ進まないだろってのが現実だよね。道中のダメージで余力ナシのオレは直線でも伸び切ることができなかった。あの2番車、佐藤慎太郎は弱い。現状で自分の持っているすべてを出し切って戦ったシリーズだと言い切れるからこそ、優勝できなかったオレは弱い。でも次を走りたい意欲しか湧いてこない。強化できるポイントはあると確信して帰ってきた。

最終直線の死闘(撮影:北山宏一)

いよいよ“競輪”が変わった

 オレのレースの振り返りは以上だが、少しだけ話を続けてみる。ここ数年のトレンドを表すなら「自力全盛の時代」って言葉が主流かな。追い込み屋のオレからすれば、どこか屈辱的なニュアンスを感じなくもない言葉の響きだけど(苦笑)。

 でも変わるレーススタイルの中で、追い込み屋のヨコの技術だったり、睨み合いで駆け引きしたりの必要性が弱くなっているのも事実。その時代の流れを受け入れないことには前進などないし、一定のルール・条件の中で結果を求めていくのがプロフェッショナルだと公言してきたし、実際そう。

自力選手のタイム・航続距離によってラインの在り方は変わっていく(撮影:北山宏一)

 自力全盛の時代の中で、「追い込み屋の佐藤慎太郎君は何ができるの?」って日々考えてきたし、今も考え続けている。ライン内の役割分担も当然変化していくからね。先頭誘導員が2周でいなくなって、そこから2周もがき切れてしまう自力選手がいるわけで。

 今回のダービーで感じたのは「自力全盛の時代」と呼ばれる競輪が、ある種のトレンドなんかではなく、完全に確立された状態で『今の競輪』になったということ。このシリーズ、オレは競輪のレースをひとり部屋で見まくっていた。心ゆくまで分析しまくっていた。レース→ゴルフチャンネル→レース→ゴルフチャンネル→出走みたいな宿舎生活でしたわ。サウナ→水風呂→サウナ→水風呂みたいな理論でととのってたと思う(笑)。

追い込み屋のプライドがある

 冗談はさておき、この「今の競輪」において、ブロックや車間の詰め方・切り方、さばき、色々と見直さなくてはいけないと考えている。オレは“新しい追い込み屋”に進化する必要がある。『ラインの中で追い込み屋の価値とは?』って命題と向き合い、ラインにどのように貢献すべきなのかを考えなくちゃ。

先行選手を守るブロックの有効性も変化している(photo by Shimajoe)

「前に踏む力」と「脚力的余裕」は重要なキーポイントになる。例えばダービーの準決勝、響平を超えようとした眞杉が状況判断でオレをキメにきていた。へばりつくように横にいたのではなく、位置を奪うぜって質のアタック。作戦として織り込み済みの走りだったように思う。早めに対処して1着でゴールできたが、「少しの隙も作らねえ」って気持ちを再確認したよ。

 デビューしてから26年、今までも大きな変化を経験しながら走ってきたが、ここにきてまた大きな変化に挑んでいくって宣言だよ。0からでも1からでも組み立てるし、「今の競輪」に順応する。ラインのチカラを高められる追い込み屋に、勝てる追い込み屋になろうと思う。オレなりの方法で追い込み屋の存在意義を示していく。さすがにそこにだけは強烈なプライドがある。

今の競輪に順応したスキルを磨くため、「やることは山積み」と本人談(撮影:北山宏一)

ダービーの決勝も記念の予選も

 さて、ウイスキーもとっくに飲み干しちまったから、そろそろ筆を置く。最高峰のGIである日本選手権競輪はとても重い意味を持つ開催だけど、それは記念開催も同じ。ダービーの決勝だろうと記念の予選だろうと関係なく1走1走を全力でやる。1レースに大事なお金を賭けてるお客さんからすればグレードは関係ねえ。次走の宇都宮も頑張るよ。

【公式HP・SNSはコチラ】
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佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。

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