2025/05/22 (木) 18:00 16
全国300万人の慎太郎ファン、netkeirinをご覧のみなさん、復帰後にKEIRINアドバンス、名古屋ダービー、宇都宮記念を走ってきました佐藤慎太郎です。今回は3発のレースを振り返ろうと思う。
まずは復帰戦となった伊東だが、これは新形態のレース「KEIRINアドバンス」だった。ヨコの動きが禁止されているレースとあって、それを生業にしているオレからしたら武器ナシで戦うようなもの(笑)。だが、実のところ、このKEIRINアドバンスでの復帰はメリットがあった。ひとつはヨコの意識が不要なのでタテの意識に集中できること。勝負の世界に戻るわけで“試運転”みたいな気持ちはさらさらないわけだが、自分の体の状態だったり、自転車の進み具合だったりを実戦で確認する意識は働くので、良い刺激を受けながら自分と向き合うことができた。
レースを自己分析すると想定していた力よりもやや下回っている印象を持ったが、落車や事故の危険性を感じることなく復帰に集中できたシリーズとなり、新しい競輪の誕生に立ち会えたことも光栄だった。また、一番良かったのが「いつもの競輪」ではなかった点。どうしても9車立てのライン戦で復帰すると、ケガ以前の自分と今の自分を意識せずとも比べてしまう。だがKEIRINアドバンスは何もかもが新しいので「いつもの競輪」とはステージが違う。前検日の入り時間すら違うので、現場に一番乗りで飛び込んじまったくらいだよ(笑)。シリーズで点数を下げてしまったのは残念ではあるが、プラスの意識を持ってGIに臨めそうな気配も感じられた。
そして復帰二戦目にGIシリーズを迎えた。前回のコラムで書いたが、「理想は程遠い状態」だと感じていたが、できることを精一杯やろうと名古屋に乗り込んだ。初日を走ったところ、不思議と「まったく戦えないということもなさそうだな」といった感触を持てた。レースは7着で確定板には載れなかったわけだが、アクシデントもあって落車回避に動く必要もあったので、それを差っ引けば自分が思うほどコンディションは悪くないのかもしれないとポジティブな感触が残った。
そして準決を懸けて戦う二次予選の話。過去何度も書いてきたが、ラインの並びを決める時には様々な要素を考慮して決めていく。オレは「理想とは程遠い状態」でシリーズ入りしているのだから、守澤が番手を回った方が強いラインになると考えて3番手を回ろうとしていた。だが、守澤が「番手は慎太郎さんが回ってください」とオレに特等席を譲る姿勢だった。
話し合いながら「オレもこんな状態だしよ」と返していたら、「そんなに自信がないなら自分が番手行きますけど、慎太郎さん行ってくださいよ」と3番手を固める意思を示してくれた。最高峰のGIで日本を代表する新山響平の番手を回り、意思疎通の取れる守澤が後ろを固めてくれる構成など、オレからすれば役満聴牌(テンパイ)の状態。なおかつ「自信がないならオリますか?」と聞かれている状況だ。
初日の感触が悪くなかったこともあり、なおかつ「ここで響平の番手で追走し切れたら、怪我による離脱期間がなかったことにできるかもしれない」とも考えた。「(そんなに自信がないなら、ってほど自信はなくはないだろ?イケるだろ慎太郎!)」と気持ちに熱も入っていき、危険牌を捨てて放銃することになっても役満をアガるために勝負に行かなければならない局面だと判断した。しかし、この判断について今でも猛烈に反省している。
レースではアガり牌をつかめないばかりか、多面張に大放銃となった。ただただ無様な姿をさらすことになり、最高峰のGI・日本選手権競輪に対して失礼なことをしたと考えている。やれ骨盤骨折だ、やれ復帰二戦目だ、それらはすべて言い訳。あんな結果しか出せないなら、守澤に「お前が番手だ」と言い切らなくてはならなかった。
オレの脳ミソは筋肉とプロテインで構成されているが、さすがにネガティブな感情にやられた。マイナスの言葉が渦巻くものがあったね。だが最終日には久々の白星を獲得した。顔見せの段階で場内から佐藤慎太郎へ熱い声援が届けられた。顔見せから戻ると山岸佳太が「慎太郎さんっていつもこんな応援されてるんですか? もう僕はこの声援にすでに感激しちゃってますよ」と言ってくれた。
現場のみなさんが声を届けてくれるってのは結局山岸にも向けられているものでもあり、「佐藤慎太郎の声援は全部自分に向けられていると思い込んで欲しい」と言った。山岸は「それは力になりますね」と言っていた。
結果的には山岸が巧く仕掛けて勝機を切り開き、オレたちはワンツーを決めた。現場の声援と山岸の頑張りによって、オレは白星でシリーズを終えることができた。これには感謝しかない。予選で無様な姿をさらしたし、GIというステージで戦うべき人間ではなかったようにも思っている。だが最終日は復帰後の初勝利、久々の1着だった。うれしかったよ。
ダービーが終わり、宇都宮記念でも響平を追走し切れずに離れてしまった。慎太郎ファンは負けても声を届けてくれる人が多い。温かい労りの声掛けもあれば、もちろん叱咤激励もある。だからオレは負けても競輪場に足を運んでくれた人の顔を見ることにしている。負けても声をかけてくれるのだから、負けても反応はしたい。だが、宇都宮では悔しい気持ちに支配され、お客さんの顔を直視することができなかったな。申し訳ない気持ちにもなった。
そして復帰後の3場所を走ってみて理解したことがある。ここ数ヶ月、「今の時期は結果に一喜一憂してはいけない」とか「アクセルを踏み込み過ぎずブレーキもかけないといけない」とかコラムには綴ってきた。頭で正解を考えて最善策を模索しているつもりだったが、その考えに血が通ってなければ強くはいられん。実戦復帰して思うことは、負ければとてつもなく悔しいということ。
無様なレースを見せてしまうのはケガで『練習量』が足りていないからだ。それはハッキリしている。オレ自身がわかっている。「アクセルとブレーキをちょうどよく」なんて冷静に分析してみても、その考えに佐藤慎太郎の血が通ってない。一喜一憂してはいけない時期だとか考えても、しっかりと自分に深く失望している。瞬間的に落胆している。
だから、「もう、やっちゃおう」って思っている。通常のトレーニングメニューに戻し、命懸けの毎日に戻ると決めた。それでぶっ壊れるならそれでいいって感情はここにきてガッチリと固まったんだよ。やぶれかぶれの自暴自棄な気持ちではない。身体のケアも全力でやるし、セッティングだって全力でやる。できることをすべてやろう、限界ナシの心で。
“燃え尽きた”と心から晴れやかに思えることを目指して。オレはやっちゃおうと思う。あまりに悔しい気持ちを感じたせいか、今一番納得できる“後悔しない選択”ができた気がしている。さあ、佐藤慎太郎をぶっ壊すくらいのトレーニングマシーンになるぜ! ガハハ!
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佐藤慎太郎
Shintaro Sato
福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界の第一線で活躍し続けている。2019年、立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現で常にファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。麻雀とラーメンをこよなく愛する筋肉界隈のナイスミドルであり、本人の決め台詞「限界?気のせいだよ!」の言葉の意味そのままに自身の志した競輪道を突き進む。