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「きっと母親にも届いてくれる」松井宏佑が明かすルーツとターニングポイント、射程圏内にある“日本一”/高松宮記念杯スペシャルインタビュー

アプリ限定 2025/06/15 (日) 18:00 12

2025年6月17日〜22日の6日間、岸和田G1高松宮記念杯競輪が開催となる。今回は注目選手への特別インタビューとして、松井宏佑に取材を敢行した。競輪選手はさまざまなバックグラウンドを持っているが、松井もその一人。思わぬ出会いに導かれ競輪界への扉を叩き、その決断を後押しした母がいた。亡き母に最高の報告を。ナショナルチームを引退し、競輪一本に絞って「日本一」を目指す男。松井の内なる情熱と思いに迫った。(取材・文=アオケイ・八角あすか)

松井宏佑(撮影:北山宏一)

がむしゃらに、本気で向き合えている

ーーはやくも6月です。今年、ここまでをふり返っていかがでしょうか? 2月に奈良記念を優勝、ビッグレースではダービー(GI名古屋)で決勝に進出されました。

松井 もうちょっと結果を出したい気持ちはあったんですけど、実際はあまり自分が思うような納得できる結果を出せなくて。もっと上を目指したいと思う前半戦でしたね。

ーーどのようなところに物足りなさを感じていますか? 自転車なのかコンディション、気持ちの面なのか。

松井 うーん。競走での勝負強さだとか、大事な勝負どころで気持ちの弱さが出てしまったりする部分だとか。やっぱり、他の強い自力選手に比べて足りないところもいっぱいありますし。まだまだ足りないなって思い知らされています。

ライバル達を見て「足りない部分」を見つけることも(撮影:北山宏一)

ーー7月でデビュー7年目に突入します。デビューから一年後にはGIにも初出場(19年オールスター)、翌年にはヤンググランプリ(平塚)を優勝されて、順風満帆に見えるスタートだったと思うのですが。ご自身、この6年間をどう見ていますか?

松井 出だしは結構良かったですね。だいぶ早くS級にも上がれたし、ヤング(グランプリ)も獲れたし記念も獲れました。最初の方はいい勢いだったんですけど、落ち着いてからは結果がなかなか出なくて苦しかったです。

 ナショナルチームを辞めてからですかね。競輪一本に絞って、競輪という仕事に打ち込める環境づくりができました。家族の支えを始め、神奈川所属の先輩や後輩たち、師匠(三ツ井勉)など、色んな人たちの支えがあって練習に全力で打ち込めています。いい環境でやらせてもらっているので、もうちょっと上を目指せると思うんですけど、今一歩というか。毎日、精一杯頑張るだけです。

ーーこの6年間でターニングポイントになったできごとやレースはありますか? 今、お話にあった「ナショナルチーム引退」が一つのポイントでしょうか。

松井 ターニングポイント…。そうですね。競輪に専念して、より競輪っていう仕事の奥深さというか、ただ自分だけが勝てればいいじゃなくて、もっと広い視野を持つことが大事なんだなと。周りの人に支えられているっていうのも実感しました。

ーーGI初決勝(20年競輪祭・9着)を経験されてから23年の高松宮記念杯(決勝8着)まで、なかなかGIの決勝に勝ち上がれない時期がありました。

松井 はい。

ーーこの期間っていうのは、ご自身で何が足りなかったと思いますか?

松井 何が足りなかったかと言われると…、がむしゃらに頑張るっていうのが足りていなかったんだと思います。もうすぐデビュー7年目に入りますけど、以前よりもがむしゃらにやれていますし、競輪に本気で向き合えている感じがありますね。

本気で競輪に向き合えている今(撮影:北山宏一)

ーーやっぱり、競輪に打ち込めているという環境が大きいのでしょうか。

松井 環境が大きいですし、ナショナルチームにいたときは色々な選手と関わる機会がなかったんですけど、競輪に専念してから、ずっと競輪をやってきた人たちと関わる機会が増えて。競輪という仕事の難しさを始め、色々と教えてもらうことがあった。自分の気持ちも変わりましたね。

届きそうで届かなかったタイトル、悔しさを糧に地元・平塚グランプリへ

ーー松井選手を語る上で、競輪祭・決勝2着(23年)についてお聞きしたいのですが…。レース後の涙が全てを物語っていたと思うんです。今、あのレースをどう分析していますか?

松井 今、考えると…。もうちょっと気持ちを強く持って、もうちょっと早めに(先行した深谷知広選手の番手から)出ていれば上手く3番手の簗田(一輝)君を最後まで連れて行くことができたと思いますし、二車で出切れれば違ったレースになったと思うので。なんていうんだろう、自分の強さが分かっていなかったというか。もったいないのと深谷さんに申し訳ない走りをしたなと。

ーー結果的に、その年はグランプリの補欠に。あの時の悔しさは糧になっていますか?

松井 はい、もちろん糧になっています。あの(競輪祭決勝の)時は番手でしたけど、普段は人の前で走ることが多いので。どうやったら1人でも多く勝ち上がらせることができるか、どうやったら後ろを勝たせることができるか。あのレースをきっかけに以前よりも深く考えるようになりましたね。

2023年競輪祭は決勝へ(撮影:北山宏一)

ーー今年のグランプリはホームバンク・平塚が舞台です。その舞台へ、かける思いはいかがですか?

松井 常にFIや記念でも一戦一戦グランプリを目標にして走っていますし、常に自分が満足いくような走りがしたいという気持ちを強く持っています。GIでも少しでも良い着を取り、決勝にもコンスタントに乗りたい、タイトルを獲りたいと思っている。がむしゃらに一戦一戦、練習でも一日一日悔いのないようにやっています。

ーーいよいよ今年3つ目のGI・高松宮記念杯を迎えます。東西に分かれての勝ち上がり戦です。都道府県別に見ると神奈川からは8人が出場し、全体のトップ。大きなアドバンテージになりますね。

松井 ラインは1人でも多い方が有利に運べますし、自分を含めて決勝に1人でも多く乗れれば自分に流れが向くような展開も作りやすくなるので、アドバンテージになりますね。

ーー南関地区はもちろんですが、神奈川勢の戦力の厚さが目立ちます。その要因はどんなところにあるのでしょうか?

松井 そうっすねー…。やっぱり、郡司(浩平)さんがいい走りをしているので。自分も続きたいって目標にしている選手が多いと思うし、若手選手も郡司さんが引っ張って練習を見ていたりするので、そういうところじゃないですか。

ーー郡司選手を中心に全体の士気が高まっていると言いますか。

松井 はい。僕も郡司さんを目標にしているんですけど、いつか僕も目標とされる選手になりたいと思っています。まだ郡司さんに肩を並べられていないですけど、肩を並べて一緒に引っ張っていけるようになれれば、もっと神奈川にいい流れを作れると思うので頑張りたいですね。

郡司浩平(撮影:北山宏一)

ーー宮杯はポイント制の勝ち上がりとなりますが、どう考えていますか? 毎年、波乱が起こる印象もあります。

松井 波乱…、起きますね。しっかり取りこぼさないよう頑張るだけですかね。

スピードスケートから競輪へ、描いた新たな夢と亡き母の後押し

ーーここからは松井選手のルーツに迫りたいと思います。まず、ご出身は北海道出身(清里)とお聞きしました。競輪選手になる前はスピードスケートをやられていたそうですね。

松井 はい。地元はすごく小さい町なんですけど、オリンピックに出場しているスケート選手が多くて。スケートが盛んな町で、僕もよく父と一緒にスケートをするのが好きでした。やっていくうちに本格的にやりたいなって気持ちに。

ーーご家族や周りでスケートをやっていた方がいらっしゃったのですか?

松井 僕の後に妹と弟も始めたんですけど、本格的にやるってなって大学まで続けたのは僕だけでした。妹と弟も中学生ぐらいまでやっていたんですけどね。

ーーご実家はお寺だと伺いました。家業を継ぐ選択肢は…。

松井 ゆくゆくは坊さんになりたいなって気持ちもあったし、なかったとは言い切れないですけど。スケートをやっていたので、スケートは若いうちしかできないなって。

 スケートをできるところまでやりたいという気持ちがあったんですけど、大学でできなくなってしまって。スケートを続けられなくなってからは「坊さんになればいっか」みたいな感じで引きこもっていて。でも、転機があって。

ーーどんな転機だったのでしょう?

松井 飲み歩くのが好きだったんですけど…(笑)。SNSでパチプロが行っているという美味い焼き鳥屋さんを見つけて、元競輪選手がやっていたお店だったんです。行ってみて店主と話をしていたら、競輪にスカウトされて。

ーーそこに競輪への扉が。

松井 何回かお店に通っているうちに口説かれて。「これも若いうちにしかできないし」と思って、ずっとスポーツもやっていたしスポーツは嫌いじゃないので、面白そうだなと。1回だけ(養成所の)試験を受けてダメだったら辞めようと思っていたら、受かったので良かったです。

ーー「競輪にチャレンジしてみよう」と決断を後押ししたものは何だったのでしょうか?

松井 そうですね…、親ですかね。もう亡くなってしまったんですけれど、母親はスケートとかもすごく応援していてくれて。「またちょっと競輪に興味を持っているんだよね」と言ったときも、すごく母親は後押しをしてくれて。

 スケートで結果を出したときに親がすごく喜んでくれるのが自分も楽しみで。スケートができなくなって、また競輪で結果を出せれば親は喜んでくれるかなっていう思いも自分の中にあったんだと思います。

ーーお母さまはずっと見守ってくれているはずです。競輪で結果を出して、良い報告をしたいですね。

松井 そうですね。頑張って結果を出せれば、きっと母親にも届いてくれると思うので。

結果を出して報告をしたい人がいる(撮影:北山宏一)

ーー松井選手が競輪選手として成し遂げたい夢や目標は何でしょう?

松井 「日本一」は目指せないところにあるわけじゃないと思うので。グランプリを優勝して日本一になりたいっていう夢はありますね。

ーーそれでは、最後に高松宮記念杯への意気込みをお願いします。

松井 ダービーでは決勝に勝ち上がれたんですけど。思うような結果が出なかったので、宮杯では決勝に勝ち上がって自分が満足する結果、タイトルを獲るという目標を持って挑んでいきたいと思います。一生懸命、頑張りますっ!

ーーちなみに…。ダービーは前検日にバニラ色の素敵なスーツで登場されましたが、今回も勝負スーツと言いますか、お洋服は何か準備されていますか? (笑)

松井 いや〜、まだちょっと考えていないんですけど…。ちょっとは爪跡を残せるように考えてみたいと思います(笑)

ーーファッションでも爪跡を残したい、と。

松井 いや、洋服だけじゃなくてレースでも爪跡を残したいですよ(笑)

ーー分かっていますって(笑)。レースがメインですよね。

松井 ダービーの時は洋服だけになっちゃったら、どうしようかなと思ったんですけど(笑)。決勝に勝ち上がることはできたので。

ーー宮記念杯、そして益々のご活躍を期待しております!

松井 はい、頑張ります!

高松宮記念杯競輪でも日本一をめざして(撮影:北山宏一)

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