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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【佐藤慎太郎の近況報告】ただのラーメン好きおっさんにはまだなれない〜走れない日々にも発見がある〜

2025/03/29 (土) 18:00 46

骨盤骨折により戦線離脱を余儀なくされている佐藤慎太郎が近況を語る(写真提供:チャリ・ロト)

 全国300万人の慎太郎ファン、netkeirinをご覧のみなさん、佐藤慎太郎です。最近は春らしい陽気になり、暖かい日も増えてきたように思う。気温が上がると体も動きやすくなるし、本来なら意気揚々とトレーニングに精を出す季節だ。しかし、今年はそうも行かずなかなか悔しい思いをしている。ケガでの欠場が続き、日頃から応援してくれる人達には心配もかけちまうし、心苦しい限りだよ。今月は回復状況や現在の心境などを書いていこうと思う。

難しい選択の中で

 回復状況の話をはじめる前にまず礼を言いたい。先月、オレの著書『限界?気のせいだよ!』が発刊されたが、そのタイミングでこのコラムにも思いを綴らせてもらった。本当にたくさんの人が読んでくれていて、おかげさまで発売後すぐに『重版決定』の連絡をもらった。嬉しいっていうより“ビビった”ってのが本音だ。改めてみなさんに御礼を言いたい、アザした!

 さて、ケガの状況について書いていこう。ここにきてやっと痛みからは解放され、日常生活に支障がなくなってきた。今回の骨盤骨折だが、寛骨臼(かんこつきゅう)という、股関節の受け皿になる部分をやっちまっている。簡単にいうと大腿骨(だいたいこつ)が収まっているところだね。この箇所の厄介なところは、「完治しているのかどうか」の判断がつきにくいところだ。

 痛みがないからといって高負荷をかけるトレーニングをしちまうと、寛骨臼が開いてしまって大腿骨の収まりが悪くなり、結果として回復が遅れてしまう。ドクターからは「普通の生活をする上では問題ないが、自転車のトレ-ニングには制限が必要」と言われている。体重以上の負荷が股関節にかかる「立ち漕ぎ」も良くないらしく、ハンドル方向に体重を分散させるように工夫しながらやっている状況だね。

 この先はドクターの見解と自分の感覚をしっかりと考慮して練習メニューを組み、復帰の時期を模索していかなくてはならない。一刻も早く復帰したい。だからこそ、一刻も早く全力でトレーニングに打ち込みたい。でも、無理をすれば完治が遅れ、かえって復帰が遠のいてしまう。

 「早く全力で練習したい」という気持ちと、「過信は禁物、療養が優先」という意識。その両方の気持ちを持たなければならないのは、正直苦しい。アクセルを踏むべきか、それともブレーキをかけるべきか。レースでもこういう選択はあるが、ホント正解のわからない選択というのは難しいものがあるね。

モチベーションのありか

モチベーションの源はどこにあるのか(写真提供:チャリ・ロト)

 話は変わるが、今回の療養期間は自分の「モチベーション」について深く知るきっかけになっている。ケガをした当初は「焦っても仕方がない」とか「この機会にしっかり休んでみるか」とか落ち着いた考えを持っていたが、いざゆっくりしてみるとそれは苦痛に近く、性に合わん。自分がいかに「競輪選手・佐藤慎太郎の生活」が好きなのかを痛感することになっている。

 脚とかケツとかの筋肉量が少し落ちてきた時にはがっかりしたし、これまで食事管理も徹底して日々全力のトレーニングに明け暮れて自分を鍛え続けてきたことの意味と理由を実感する。オレは『自分の肉体を鍛えること』を相当好んでいるということだ。

筋肉の鎧をまといハードなレースを凌いできている(写真:北山宏一)

 また『自分の肉体を鍛えること』と別にモチベーションがもうひとつある。それは『お客さんの前で走りたい』という欲求だ。自分を鍛え上げ、強いレースを観てもらうこと。オレは心からその2つを欲している。オレのモチベーションはこの2つで完全に説明できる。

「お客さんに披露するものだからこそ、ハードな練習だって頑張れる」(写真提供:チャリ・ロト)

 しかし、今の状況はどちらも叶わないため、モチベーションには大打撃だ。正直に話すと退院後1週間くらいは気の緩んだ“普通の佐藤慎太郎”に支配されちまったんだよ。ラクな方に流されたり、誘惑に負けたり。普通の佐藤慎太郎はかなり弱い精神の持ち主だった模様。「明日も練習できないし、もう一杯飲んじまおう」、「どうせ筋肉も落ちるし好きなラーメンはスープまで飲んじまおう」とか、「レースもないし痛みも出てないし遊びに行こうか」とか。

 「引退したらこんな生活になるのかな」とふと思ったが、あまりテンションが上がるものでもなく、心惹かれるものではなかった。というか誘惑に負けて行動を決めている割にあんまり面白いってわけでもないんだよな、これが不思議と。

自分の気持ちを知ることは本当に良いこと

 『佐藤慎太郎はストイック』なんて言ってくれるファンもたくさんいるが、それは競輪選手・佐藤慎太郎の揺るぎない事実であって「限界などは脳が作り出した幻想だからさっさと破壊しちまえばいい」と常々思っているクレイジー野郎である。でもオレから「レースやトレーニング」を取ったらストイックでも何でもなく、ただの気合の入った麻雀好き&ラーメン好きの普通のクレイジーなおっさんでしかないわけだよ。

競輪選手でいるからこそ己にムチが打てる(撮影:北山宏一)

 こういう気持ちを再確認するのは久々で、競輪に真剣に打ち込める毎日はどれだけ有意義なことか、どれだけ幸福なことかを知ることができる。今はやっと自転車でのトレーニングを再開して自分の様子を確認し始めたところ。近いうち、全力でもがける日が来たら療養中に感じた悶々とした気持ちをすべてトレーニングにぶつけようと思う。

 さて、いろいろと近況報告を書いてきたが、今のところ復帰のタイミングを明言するのは本当に難しいと考えている。というかできない。でもビッグレースの出場選考基準には出走本数が関わるし、何よりずっと休んでいたのでは応援してくれるお客さんに申し訳ない気持ちがある。

 ケガの回復状況とモチベーション、上位レースの選考スケジュールと応援を届けてくれる人達。復帰を目指してさまざまな要素を総合的に考えて決めていこうと思う。「焦るな」と自分に言い聞かせている。でも「“ケガ人の意識”に支配されるな」とも言い聞かせている。ただのラーメン好きのおっさんとして生きるのはもう少し後でいい。まだまだS級でバチバチ火花を散らしたい。みなさん、もう少し待っていてくれ!

【公式HP・SNSはコチラ】
佐藤慎太郎公式ホームページ
佐藤慎太郎X(旧Twitter)

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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界の第一線で活躍し続けている。2019年、立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現で常にファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。麻雀とラーメンをこよなく愛する筋肉界隈のナイスミドルであり、本人の決め台詞「限界?気のせいだよ!」の言葉の意味そのままに自身の志した競輪道を突き進む。

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