2023/04/17 (月) 18:00 36
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが小田原競輪場で開催された「北条早雲杯争奪戦」を振り返ります。
2023年4月16日(日)小田原12R 開設74周年記念 北条早雲杯争奪戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①郡司浩平(99期=神奈川・32歳)
②眞杉匠(113期=栃木・24歳)
③新田祐大(90期=福島・37歳)
④雨谷一樹(96期=栃木・33歳)
⑤深谷知広(96期=静岡・33歳)
⑥佐々木龍(109期=神奈川・32歳)
⑦神田紘輔(100期=大阪・36歳)
⑧内藤秀久(89期=神奈川・41歳)
⑨和田圭(92期=宮城・37歳)
【初手・並び】
←②④(関東)③⑨(北日本)⑦(単騎)⑤①⑧⑥(南関東)
【結果】
1着 ①郡司浩平
2着 ③新田祐大
3着 ⑨和田圭
4月16日には神奈川県の小田原競輪場で、北条早雲杯争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。このシリーズに出場していたS級S班は、つい先日の高知記念で優勝した新田祐大選手(90期=福島・37歳)と、地元・神奈川の郡司浩平選手(99期=神奈川・32歳)、そして守澤太志選手(96期=秋田・37歳)の3名。なかでもファンの期待が大きかったのは、過去にこの小田原記念を3回も制している郡司選手でしょう。
守澤選手は残念ながら準決勝で敗退となりましたが、マーク選手だけにあの展開では致し方なし。その準決勝で強い勝ち方をみせていたのが眞杉匠選手(113期=栃木・24歳)でした。初日特選は中団から捲るも届かず3着でしたが、突っ張り先行から後続を完封した二次予選での走りは文句なしに強い内容で、調子のよさはかなりのもの。S級S班が相手でも、優勝争いができておかしくないデキだったといえます。
このところ走りの“幅”を広げている新田選手は、このシリーズでも大いに存在感を発揮。初日特選は後方から捲るも届かず5着という結果でしたが、二次予選は前受けから突っ張って主導権を奪いきって2着。準決勝では、前受けから松井宏佑選手(113期=神奈川・30歳)の番手に飛びついて完勝と、動きのある競輪でしっかりと結果を出しています。前回も述べましたが、最近の彼は安定感が違いますよね。
決勝戦にもっとも多く勝ち上がったのは南関東勢で、4車が連係。その先頭は、昨年の覇者である深谷知広選手(96期=静岡・33歳)に任されました。番手を回るのは郡司選手で、3番手が内藤秀久選手(89期=神奈川・41歳)。最後尾4番手を、佐々木龍選手(109期=神奈川・32歳)が固めるという布陣です。この数の利を生かすためにも、深谷選手は積極的に主導権を奪いにくるでしょうね。
2車ラインとなった関東勢は、眞杉選手が先頭で番手に雨谷一樹選手(96期=栃木・33歳)というコンビで勝負。眞杉選手が深谷選手に真っ向勝負を挑んでくるケースも考えられますが、ここは捲りに構える可能性のほうが高いでしょう。同じく2車の北日本勢は、二次予選や準決勝に続いて、新田選手が前で和田圭選手(92期=宮城・37歳)が後ろという並び。新田選手が決勝戦ではどのような走りをみせるのか、注目が集まります。
そして、単騎での勝負を選んだのが神田紘輔選手(100期=大阪・36歳)。とはいえ、選択肢はそれほど多くありませんから、おそらくは関東勢か北日本勢の後ろにつけての「一発」狙いでしょう。レースの焦点は、南関東勢がすんなりと逃げられる展開になるのかどうか。新田選手が南関東ラインの分断を狙ってくるケースもありそうですが、そのあたりは初手の並びがどうなるか次第でもありますね。
ではここからは、決勝戦の回顧といきましょう。スタートが切られると同時に1番車の郡司選手が積極的に出していきますが、さらに鋭いダッシュをみせた雨谷選手と新田選手が、その前へと出ます。いきなり激しい争いとなりましたが、スタートを取りきったのは関東勢。眞杉選手が先頭に立ち、新田選手は3番手から。その直後には、単騎の神田選手がつけました。南関東勢は意外にも、6番手からの後ろ攻めです。
主導権が欲しい深谷選手が後方となると、レースが動き出すのは遅めのタイミングになるか…とも思われましたが、そんなことはありませんでしたね。青板(残り3周)のバック手前から早々と始動し、スピードに乗って先頭の眞杉選手をスパッと斬りにいきます。眞杉選手は抵抗せずに引いて下げますが、ここで新田選手はすかさず動いて、南関東勢の後ろに続きました。単騎の神田選手も、これに連動します。
深谷選手が先頭、新田選手が中団5番手、眞杉選手が後方8番手という隊列で赤板(残り2周)のホームを通過。直線が短い333mバンクの小田原というのもあって、先頭に立った深谷選手は、このあたりからすでに全力モードです。その後も大きな動きのないままでレースは進んで、一列棒状でレースは打鐘を迎えます。こうなると、後方に置かれるカタチとなった眞杉選手は、すでに苦しいですよね。
かかりのいい先行で飛ばす深谷選手が先頭で、最終ホームも通過。主導権をすんなりと奪えたとはいえ、深谷選手はかなり早くから仕掛けていますから、どこまで踏ん張れるかの勝負ですね。最終1センターを回ったところで後方の眞杉選手が前を捲りにいきますが、前との差がなかなか詰まらない。そして最終バック手前、今度は新田選手が中団から捲りにいきますが、ほぼ同時に郡司選手が深谷選手の番手から発進します。
新田選手の仕掛けにジャストで合わせた、郡司選手の番手捲り。ハイペースの先行を番手で追走していた郡司選手もけっして楽ではなかったはずですが、いい伸びで先頭に立って、後続を突き放そうとします。しかし、ここまで脚を温存できている新田選手の捲りも鋭く、佐々木選手を捉えて内藤選手の外にまで進出。後方から捲った眞杉選手は伸びがなく、後方のままです。
最終3コーナーでは、内藤選手が新田選手をブロック。これで新田選手は少し外に振られますが、態勢を立て直して再び前を追います。その間に、先に抜け出していた郡司選手はリードを広げて、最終2センターを回ります。ブロックから戻った内藤選手と佐々木選手は内のコースを、新田選手と和田選手は外を通って、最後の直線へ。優勝争いは、この5名に絞られました。
外から新田選手が郡司選手にジリジリと迫りますが、一気に捉えるような勢いはなし。内にいった内藤選手や佐々木選手はさらに劣勢で、こちらは3着争いが精一杯という脚色です。新田選手マークから少し内を突いた和田選手も伸びてきていますが、小田原の直線はいかんせん短い。結局、番手捲りでセイフティリードを築いた郡司選手が、そのまま押し切ってゴールイン。通算4回目となる小田原記念優勝を決めました。
2着は新田選手で3着は和田選手と、北日本勢が確定板に。最後の伸びを欠いた南関東勢の内藤選手は4着、佐々木選手は5着に終わりました。眞杉選手は、いいところなく後方ままで7着に惨敗。主導権を奪った深谷選手の「ラインから優勝者を出すための走り」が、勝負を決めましたね。一列棒状の隊列がずっと続いていたように、今日の深谷選手の逃げは本当にかかっていた。そう簡単に差は詰められませんよ。
それを追走しているだけでもかなり脚を削られたはずですが、それでも託されたバトンをしっかりと繋いで、番手捲りから力強く抜け出した郡司選手は、さすがです。全力で踏んでいる距離が長い展開での番手捲りというのは、簡単そうにみえてじつは難しいですからね。内藤選手や佐々木選手が最後に伸びを欠いたのも、深谷選手についていくだけでもキツい流れだったのが影響しているでしょうね。
後手を踏んで存在感を発揮できなかった眞杉選手については、残念ながらちょっと他力本願な面があった気がしますね。おそらくは、「新田選手が南関東勢に何か仕掛けること」を期待していたのでしょう。だからこそ、深谷選手が前を斬りにきたときに無抵抗で引いた。しかし今回の場合、その思惑どおりにいかなかった場合には、最悪の結果が待っています。デキのよさを生かして、もっと積極的な走りをしてほしかったですね…。
惜しくも2着に敗れた新田選手ですが、走りの“幅”を広げたことで、ファンはもちろん選手にも「何か仕掛けてくる&やってくれる選手」という認識が強まっていますよね。このイメージを利用することで、自分に有利な展開をつくり出すことができるようになってきました。しかも彼には、自力でも十分に勝負できる強力なタテ脚がある。まさに「縦横無尽」な走りができるようになりつつあります。
あとは、我々がイメージする以上に強風の影響があった様子。風速2.5mとの発表でしたが、新田選手は「爆風の影響もあって仕掛けるタイミングが難しかった」とレース後にコメントしていましたね。それを考えると、後続を寄せ付けないペースで逃げた深谷選手は、なおさらすごかったということに。郡司選手とは今後も、互いに貸し借りが続くいい関係となることでしょう。今日の殊勲賞は、言うまでもなく彼ですよ。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。