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山田裕仁のスゴいレース回顧

【よさこい賞争覇戦 回顧】松浦悠士の読みを上回ってみせた新田祐大

2023/04/10 (月) 18:00 39

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが高知競輪場で開催された「よさこい賞争覇戦」を振り返ります。

今年、記念競輪2度目の優勝となった新田祐大。賞金ランキングは6位に(写真提供:チャリ・ロト)

2023年4月9日(日)高知12R 開設73周年記念 よさこい賞争覇戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①犬伏湧也(119期=徳島・27歳)
②平原康多(87期=埼玉・40歳)
③松浦悠士(98期=広島・32歳)
④松川高大(94期=熊本・34歳)
⑤町田太我(117期=広島・22歳)
⑥宗崎世連(100期=高知・31歳)
⑦荒井崇博(82期=長崎・45歳)
⑧才迫開(101期=広島・31歳)
⑨新田祐大(90期=福島・37歳)

【初手・並び】
←②④(混成)⑨⑦(混成)①⑥(四国)⑤③⑧(中国)

【結果】
1着 ⑨新田祐大
2着 ③松浦悠士
3着 ⑤町田太我

開催通して充実目立った町田

 4月9日には高知競輪場で、よさこい賞争覇戦(GIII)の決勝戦が行われています。ここには脇本雄太選手(94期=福井・34歳)を筆頭に、佐藤慎太郎選手(78期=福島・46歳)や平原康多選手(87期=埼玉・40歳)、新田祐大選手(90期=福島・37歳)、松浦悠士選手(98期=広島・32歳)と、5名ものS級S班が出場。先日の大垣記念を圧勝した犬伏湧也選手(119期=徳島・27歳)など、勢いのある若手も多く出場していました。

 脇本選手は準決勝で、離れた後方7番手から一気に捲るレースを仕掛けますが、残念ながら不発で7着に大敗。まだ本調子にはほど遠いというのもあるでしょうが、逃げた町田太我選手(117期=広島・22歳)の調子が非常によかったというのも敗因です。脇本選手を完封したという結果に、町田選手も自信を深めたはず。このデキならば、決勝戦でも好勝負ができそうです。

 佐藤選手も残念ながら二次予選で敗退となりましたが、いわゆる「負け戦」に回った3日目と4日目はいずれも快勝と、力を見せていましたね。同様に脇本選手も、最終日には力の違いをまざまざと見せつけるような走りで1着に。決勝戦に勝ち上がれなかったのは残念でしたが、その後にキッチリとS級S班という“格”を示す走りをしていたのはさすがで、印象にも残りました。

 ちょっと脱線してしまったので話を戻して…勝ち上がりの過程で大いに存在感を発揮したのが中四国勢で、なんと過半数である5名が決勝戦に進出。いつもは一緒に戦っている仲間だけにやりづらさはありますが、四国勢と中国勢は「別線」を選択しました。四国勢の先頭は犬伏選手で、番手を回るのは地元の宗崎世連選手(100期=高知・31歳)。宗崎選手は、犬伏選手のダッシュについていけるかどうかが課題ですね。

 広島トリオとなった中国勢の先頭を任されたのは、絶好調の町田選手。その番手は松浦選手で、ライン3番手を才迫開選手(101期=広島・31歳)が固めます。ここは犬伏選手と町田選手の主導権争いとなりそうですが、ラインの総合力が高いのは、やはり松浦選手がいる中国勢のほう。町田選手だけでなく松浦選手も、少しずつ調子を上げてきている印象を受けました。

開催通じて強いレースを見せていた町田太我(写真提供:チャリ・ロト)

 同じ地区の選手が勝ち上がれず、浮いてしまったのが平原選手と新田選手。S級S班の後ろが空いているのならば…と、平原選手の後ろには松川高大選手(94期=熊本・34歳)、新田選手の番手には荒井崇博選手(82期=長崎・45歳)と、九州の選手が分かれてつくことになりました。九州2車で連係するよりも、そのほうが優勝できる可能性が高いとの判断だったのでしょう。

 細切れの四分戦で、主導権を争うのは前述したように、犬伏選手と町田選手。道中の立ち回りが上手な平原選手や新田選手は、中団から巧みに展開をつくようなレースを仕掛けてくることでしょう。唯一の3車ラインとなった中国勢は“数”の利を生かすようなレースをしたいところですが、平原選手や新田選手がその分断を狙ってくる可能性は十分にある。なかなか面白く、見応えのある決勝戦になりそうです。

単騎捲りとなった犬伏、町田・松浦は絶好の展開に

 では、決勝戦の回顧といきましょう。スタートの号砲が鳴って、内から飛び出していったのは平原選手でした。その後の3番手に、新田選手が先頭の混成ライン。犬伏選手は5番手からで、最後方7番手に町田選手というのが、初手の並びです。主導権を奪いたい町田選手が最後方ですから、早い段階から「斬って斬られて」が繰り返されるような展開にはならない可能性が高いですよね。

 町田選手がゆっくりと動き出したのは、赤板(残り2周)の手前から。先頭の平原選手を斬りにいくのではなく、自分の直前にいた犬伏選手を外から抑えて、その動きを封じにいきます。先頭誘導員が離れないままのゆっくりとした流れのなか、そのままの隊列で打鐘前の2コーナーを回ってバックに進入。犬伏選手を抑え込んでいた町田選手が再び動いたのは、レースが打鐘を迎えるのと同時でした。

平原康多(2番・黒)と松川高大(4番・青)のラインが前を取って周回(写真提供:チャリ・ロト)

 一気に前へと踏んで、町田選手が先頭を奪いに。先頭で後方が動くのを待っていた平原選手は、抵抗こそしませんでしたが、中国勢が外を通過する際にライン3番手の才迫開選手(101期=広島・31歳)を内から捌いて、松浦選手の後ろのポジションを奪いにかかります。町田選手と松浦選手が前に出て、その直後を平原選手と才迫選手が併走するカタチで、最終ホームに戻ってきました。

 打鐘後の4コーナーを回ったところで、最後方となっていた犬伏選手が始動。素晴らしいダッシュで前との差をグングン詰めていきますが、番手の宗崎選手はついていけずに連係を外して、最終1コーナーを回ったところで単騎捲りとなってしまいます。それでも犬伏選手は先頭まで出切りますが、単騎で果たして最後まで粘りきれるかどうか。逆に、町田選手と松浦選手にとっては、最高の展開となったといえます。

犬伏湧也(1番・白)が外から先頭をうかがう(写真提供:チャリ・ロト)

最終2センター、脚を溜めていた新田が動く

 平原選手に捌かれた才迫選手と犬伏選手から離れてしまった宗崎選手は、早々と脚をなくして戦線を離脱。残りの7車が一列棒状で、最終バックを通過します。そして最終3コーナーでは、町田選手が早々と先頭の犬伏選手を捲りに。前とは少しだけ車間をあけて、松浦選手と平原選手がそれに続きます。最終2センターでは犬伏選手をねじ伏せるように、町田選手が外から襲いかかります。

 ここで満を持して動いたのが、6番手にいた新田選手。ここまで、存在感を消したかのようにまったく動かずにいたのもあって、完全なサラ脚です。外に出しての捲り追い込みで、最終4コーナーでは平原選手の外にまで進出。その後ろを走る荒井選手も、まだ最後方ながら前との差をかなり詰めてきます。7車が一団の態勢で、最終4コーナーを回って最後の直線に入りました。

 直線に入ったところで犬伏選手の脚が止まって、その番手から抜け出した町田選手が先頭に。その直後に松浦選手で、ここから十分に差し切れそうです。松浦選手の後ろから平原選手や松川選手も前を追いますが、グッと伸びてくるような気配はない。これは展開をモノにした広島勢のワンツーか…と思われた矢先に外から飛んできたのが、新田選手でした。

 先に抜けた町田選手が粘るところを松浦選手が差して先頭に立った瞬間に、その外を新田選手が鮮やかに突き抜けて、先頭でゴールイン。年明けの立川記念に続く今年2回目の記念優勝を、強い内容で決めてみせました。2着は松浦選手で、3着に町田選手。新田選手マークから最後よく伸びた荒井選手が4着で、犬伏選手は最後の粘りを欠いて7着に終わっています。

町田、犬伏に期待の若手機動型に期待したいこと

 初日特選では張られて捲り不発に終わっていた新田選手ですが、二次予選はカマシて主導権を奪い2着。準決勝では内をすくってポジションを押し上げてからの捲り追い込みで1着と、ここにきて戦略や戦術の「幅」が以前よりも広がってきている印象なんですよね。レース展開を読み切る能力はこの世界でもトップクラスで、言うまでもなくタテ脚もある。もともと備えていた強さや速さに安定感が加わってきた…みたいな感じですよ。

 展開が向いたのは間違いなく中国勢で、早めに犬伏選手を捉えにいった町田選手の動きをみて、その後の仕掛けを待つほどの余裕が松浦選手にはあった。つまりそれだけ、絶好の展開をモノにしたという手応えがあったということです。それをひっくり返して鮮やかな勝利を収めたのですから、今日の新田選手はそうとう強い。そして松浦選手はこの2着、かなり悔しかったと思いますよ。

直線で新田祐大が広島ラインを差し切る(写真提供:チャリ・ロト)

 惜しい3着だった町田選手も悔しかったでしょうが、出場選手のレベルが高かったこのシリーズで結果を出せたことは、大きな収穫となったはず。以前よりも戦法に幅が出てきて、着実に成長していると感じます。犬伏選手や太田海也選手(121期=岡山・23歳)など、このところイキのいい機動型がどんどん出てきていますからね。町田選手も負けてはいられませんよ。

 残念な結果に終わった犬伏選手については、単騎捲りのカタチとなってしまったことや、500mバンクだったというのも影響しているでしょうね。それでも、これからさらに高みを目指すのであれば、「今回の展開で3着に粘れるような力」を身につけてほしいと思います。レベルの高い要求ですが、記念や特別でトップクラスと張り合っていくには、そのくらいの力が必要なんですよ。そして彼には、そんな選手になれるだけのポテンシャルがある。さらなる精進を期待したいものです。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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