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山田裕仁のスゴいレース回顧

【BNR大阪・関西万博協賛競輪 回顧】いまの自分に“足りない”もの

2023/04/05 (水) 18:00 29

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが四日市競輪場で開催された「BNR大阪・関西万博協賛競輪」を振り返ります。

21年9月松坂以来のGIII優勝となった浅井康太。右は決勝前の11Rを制した久米詩(写真撮影:チャリ・ロト)

2023年4月4日(火)四日市12R BNR 大阪・関西万博協賛競輪(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①浅井康太(90期=三重・38歳)
②嘉永泰斗(113期=熊本・25歳)
③新山響平(107期=青森・29歳)
④中田健太(99期=埼玉・32歳)
⑤成田和也(88期=福島・44歳)
⑥渡辺十夢(85期=福井・42歳)
⑦守澤太志(96期=秋田・37歳)
⑧庄子信弘(84期=宮城・44歳)
⑨諸橋愛(79期=新潟・45歳)

【初手・並び】

            ④(番手競り)
←②①⑥(混成)⑨(単騎)③⑦⑤⑧(北日本)

【結果】
1着 ①浅井康太
2着 ②嘉永泰斗
3着 ⑨諸橋愛

近年は減少「競り」となった決勝戦

4月4日には三重県の四日市競輪場で、BNR大阪・関西万博協賛競輪(GIII)の決勝戦が行われています。古性優作選手(100期=大阪・32歳)と郡司浩平選手(99期=神奈川・32歳)の病気欠場は残念でしたが、S級S班からは守澤太志選手(96期=秋田・37歳)と新山響平(107期=青森・29歳)が出場。その他にも成田和也選手(88期=福島・44歳)や諸橋愛選手(79期=新潟・45歳)など、なかなかいいメンバーが揃いました。

 シリーズで主役を張ったのは、新山でしょう。初めて経験するS級S班のプレッシャーもあったのか、今年の走りはやや安定感を欠いており、走りに“迷い”があるような印象。それが今回は、積極的に逃げるレースで二次予選と準決勝を圧勝と、吹っ切れたような強さを見せていました。デキのよさも手伝って、素晴らしいパフォーマンスを発揮していましたね。

S級S班1年目の新山響平。決勝までは素晴らしいレースを見せていたが…(写真撮影:チャリ・ロト)

 同じくデキのよさが目立っていたのが、嘉永泰斗選手(113期=熊本・25歳)です。勝ち上がりの過程で1着こそとれていませんでしたが、レースの内容は見どころ十分。もともと能力のある選手でしたが、最近はさらにひと皮剥けたというか…さらに力をつけてきているのは間違いありません。決勝戦に駒を進めた強力なメンバーが相手でも、いい勝負ができそうだと感じていました。

 決勝戦で注目を集めたのが、新山選手の番手が「競り」となったこと。4車が勝ち上がった北日本ラインの番手は守澤選手ですが、マーク選手の中田健太選手(99期=埼玉・32歳)も、その位置を主張。オールドファンにとっては珍しくもなんともありませんが、悪者になりたくないと考える選手が多くなった近年は、見る機会がかなり減りました。コレはコレで、競輪の面白さのひとつだと思うんですが…。

 同じ地区の自力選手がいない以上、マーク選手は単騎で勝負するか、他地区の自力選手と連係するか、勝負になるポジションを「競り」で獲りにいくかの三択となります。嘉永選手の番手も主張できますが、そこは今回、四日市がホームバンクである浅井康太選手(90期=三重・38歳)が回るんですよ。しかも、嘉永選手のほうから前を買って出たという話も聞こえてきている。さすがにそこを「競り」にいくのはハードルが高い。

 となれば、優勝を狙うならば守澤選手との競りになってでも、新山選手の番手を狙いにいったほうがいい…と考えるのはいたって自然な話で、べつに悪いことをしているわけではありません(笑)。北日本ラインの選手にしてみれば「招かざる客」ですが、それをいかに門前払いするかも、競輪選手に求められる技量のひとつ。守澤選手は今回、そこを問われることになりました。

 前置きが長くなりましたので、各ラインの詳細は割愛。嘉永選手が先頭を務める「西の混成ライン」と、新山選手が先頭の北日本ラインの二分戦で、中田選手は前述したように北日本ラインの番手を競りに。諸橋選手は単騎を選択して、自在の競輪で優勝を目指します。あとは、展開がどうなるか次第。すんなり先行できるならば新山選手が有利でしょうが、それが果たして叶うのかどうかです。

外の位置を巡り守澤と中田がバトル

 では、決勝戦の回顧に入ります。スタートの号砲が鳴って最初に飛び出したのは、1番車の浅井選手。車番通りに、西の混成ラインの前受けが決まります。二分戦なので、これで北日本勢の後ろ攻めも確定。新山選手は単騎の諸橋選手を前に入れて、初手5番手からのレースとなりました。北日本の番手を狙う中田選手は、守澤選手の外を併走。しかし、この内外は何度も入れ替わります。

レースは嘉永泰斗(2番・黒)が先頭の混成ラインが前を取る。新山(3番・赤)の北日本ラインは後方からの攻めとなった(写真撮影:チャリ・ロト)

 なぜかといえば、このカタチでの競りだと外のほうが有利だから。後ろ攻め=外に出して追い上げていくわけで、そのときに内に封じ込められた選手は、前の進路がなくなって最後尾まで下げざるをえなくなるんです。守澤選手と中田選手の両方がそれを狙っているので、脚を使ってでも外のポジションが欲しい。そんな駆け引きが続きながら、レースはまもなく赤板(残り2周)を迎えます。

 赤板の手前では守澤選手が「外」で、それを確認して新山選手が始動。守澤選手は中田選手を内に押し込めてから、新山選手の後を追います。成田選手と庄子信弘選手(84期=宮城・44歳)もそれに続いて、進路がない中田選手は最後方に。赤板を通過したところで、新山選手は先頭の嘉永選手を斬りにいきますが、嘉永選手は引かずに突っ張って抵抗。赤板後の2コーナーで、新山選手は無理せずにいったん引きます。

 ここでペースが緩みますが、最後方となった中田選手はこれを見逃さずに追い上げて、守澤選手にアタック。空いていた内からスルスルと守澤選手の内に潜りこんで、再び番手競りの態勢にもっていきます。中田選手が内から守澤選手を張りにいったのが、ちょうど打鐘のタイミング。自分の後ろがもつれているので、新山選手はどこから捲りにいくかという判断が難しくなりましたね。

 とはいえ、手をこまねいているわけにはいかない新山選手は、打鐘過ぎの3コーナーから再び始動して、前を捲りに。しかし、内の中田選手との競り合いが続いていたのもあって、守澤選手はこの仕掛けにうまく反応できずに遅れてしまいます。時を同じくして、西の混成ライン3番手を走っていた渡辺十夢選手(85期=福井・42歳)も、外に意識がいった瞬間の隙を突かれて、諸橋選手に懐へと潜りこまれてしまいました。

 内から捌かれた渡辺選手の外に、捲ってきた新山選手。守澤選手と同様に中田選手も離れてしまい、単騎で捲るカタチになってしまいます。新山選手の番手を獲りきれなかった中田選手は内に進路をとって、今度は諸橋選手の後ろのポジションを狙いにいきますが、最終ホーム手前で脚を使いきって失速。目標を失った守澤選手、成田選手、庄子選手(84期=宮城・44歳)の3人は、後方から必死に前を追いかけます。

 単騎捲りとなった新山選手が先頭の嘉永選手に並びかけて、最終ホームを通過。新山選手は、最終1センターで先頭に立ちます。守澤選手も後方から差を詰めてきますが、番手争いでかなり脚を消耗していたのは中田選手と同じで、最終2コーナーで早々と力尽きて失速。それを察した成田選手は切り替えて、最終バック手前では諸橋選手の後ろのポジションにつけます。

最終バック、脚を温存していた浅井が絶好位に

 単騎で捲りきった新山選手が先頭をキープしていますが、展開的に有利なのはその直後につけられた嘉永選手や、嘉永選手マークの浅井選手のほう。浅井選手はここまでまったく脚を使わず、ほぼサラ脚できています。味方の援護がない新山選手は、単純にここからどこまで粘れるかの勝負。後方の選手が捲ってくる気配はなく、優勝争いは完全に「前」に絞られた態勢で、最終3コーナーを回ります。

新山と守澤太志(7番・橙)の連係が外れ、嘉永、浅井康太(1番・白)が好位を確保(写真撮影:チャリ・ロト)

 最終2センターで諸橋選手は内を狙い、外の浅井選手と併走となって最後の直線へ。先頭ではまだ新山選手が踏ん張っていますが、直線なかばで脚が鈍ったところを、外から嘉永選手に差されてしまいます。そこに、新山選手と嘉永選手の間をこじ開けようと、インから諸橋選手が急接近。しかし、ゴール前でいちばんいい伸びをみせたのは、外を回った浅井選手でした。

 3車が横並びとなりましたが、少しだけ出てゴールラインを先頭で通過したのは、浅井選手。絶好の展開をモノにして、地元での通算5回目となるGIII優勝を決めてみせました。接戦となった2着は嘉永選手で、3着に諸橋選手。踏ん張りきれず最後に失速した新山選手は、4着という結果。中田選手との番手競りで脚を消耗した守澤選手は、見せ場なく8着に終わっています。

自分に足りないものを認識して次に生かして欲しい

 ゴールした瞬間には大きなガッツポーズが飛び出した浅井選手。ここを目標に身体をつくってきたのもあっていいデキでしたが、勝ち上がりの過程では地元らしい番組面での有利さがあり、決勝戦でも嘉永選手という絶好の目標を得ることができた。さらにその決勝戦では絶好の展開が転がり込んでくるという、「勝つときにはすべてがうまくいく」を地でいくような結果だったと思います。

浅井の優勝は勢いに欠ける中部地区の起爆剤にしたい(写真撮影:チャリ・ロト)

 これだけの“追い風”が得られたのは、地元だったからこそ。喜んで当然の結果とはいえ、彼クラスの選手ならば、そこでとどまっていてほしくはありません。このシリーズで得たものを、次の記念や特別での走りにどう生かしていくのか。研究熱心な浅井選手らしい、さらなる研鑽のほうにこそ期待したいですね。どうも勢いに欠ける中部地区の今後のためにも、これを起爆剤にしてもらいたいところです。

 その他の選手にとっても、この決勝戦は「次」につながるものが自分自身でみえた、収穫の大きなレースになったはずです。新山選手には正直なところ、楽ではない展開になったとはいえS級S班として、3着には残してほしかった。守澤選手には格上のマーク選手として、新山選手の番手を死守してほしかった。2着の嘉永選手や3着の諸橋選手にしても、自分のなかに喜びはありつつ、振り返る材料もまた多かったのではないでしょうか。

 いまの自分に足りないものは“何”なのか。そして、それを得るためには今後どうすればいいのか。それを考えて試すというトライアルアンドエラーを繰り返して、競輪選手は強くなります。この決勝戦の結果を糧として、どのように「次」へとつなげるのか。ファンの期待に応えるためにも、このレースを走った選手には、ぜひそれを期待したいですね。

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山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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