アプリ限定 2023/04/08 (土) 12:00 45
2022年度の競輪の売り上げが1兆円を回復した。2002年度以来の1兆円ということで、明るい気持ちになれるものだ。しかし、現場取材、ネットなどの反応を見ると、安心しているだけの人は少ないようだ。
「これからが大事でしょう」
「これでまた下がったとしたら…」
「ボートレースは2兆4千億円ですよ」
「本場には、誰もいませんよ」
危機的な声を聞くことも多い。確かにまず、本場で観戦するファンの少なさは目を引くものであり、長い目で見ると“不安”になることは仕方ない。ネットなどで楽しむことは有用ではあるが、その状態では“離れやすさ”も生みやすい。
時折、書いていることだが、全国の競輪場はそれぞれの努力で姿を変えている。ただ競輪を楽しむ場所でなく、地域に根差し、いろんな人が来られる場所へと施設の改修が進んでいる。イベントも多岐にわたり、新しい存在意義を生んでいる。
法律上、『車券を買えるのは20歳から』は無論のこと。車券に触れる機会のない人たちに、競輪のレースにある意味で“参加”できるものを準備してはどうだろう。“二次投票”として、例えば3Rの1〜9番のくじを作り、引いた数字が当たったらお菓子をもらえる。子どもの遊びみたいなものを準備して、本場で競輪を見る機会だけでも作る。
競輪場は全国にあるので、各地の名産もある。“二次投票”の景品も多様にできれば、それを楽しみに競輪場を巡ることもできる。本場でできることの開拓がこれからの課題だ。特に家族連れが訪れて、子どもたちが『競輪選手になりたい』と思うかもしれない可能性も掘り下げていいと思う。
2023年度も選手の賞金は上がった。売り上げに見合うパーセンテージでの設定になる仕組みだが、過酷な職業だけに高い賞金は必須ともいえる。賞金の高さは、『選手になりたい』に直結する。 とても大きなことだ。
かつて、選手になりたいという若者と面談したというトップ選手が「今の環境、賞金では、すぐに『ぜひなった方がいい』と言い切れなかったのがつらかった」と話したことがある。賞金が安定してきた今、競技としての魅力、ファンとのつながりの価値などが後押しして、競輪選手の良さが伝わってほしい。
ファンとのつながり、はスポーツにおいてどこにも存在する。先日、大いに盛り上がった野球のWBCがまさにそうだった。
現在、ビッグレースではコロナの影響で勝ち上がりを逃した選手は取材できない。例えば地元のGIであと一歩のところで準決進出を逃した選手がいたり、激しいもがき合いの末に9着になった選手の話は聞くことができない。
競輪は敗者戦があり、勝ち上がれなくても次の日もレースを走るので、その時の状況、状態、気持ちを聞くことがファンの車券戦術につながる。そして、次のシリーズでまたこの選手の走りを見てみたい、につながる。
勝ち上がりのレースも敗者戦も、車券を買う、その100円の重みは変わらない。コロナ禍の後の取材のあり方が問われてくる。今のままでは「勝ち上がれなかった選手の存在価値はないんか」と批判されても仕方ない。
WBCでは選手たちが活躍し、また苦しむ選手もいて、その姿がそれぞれに大きく報道された。チームが一つになり、多種多様な言葉が、たくさんファンのもとに届いていた。
打てない時に誰がどう思っていたか、それを他の選手がどう支えて、接していたか。投げる機会のない投手への思い。いろんな“思い”が大会を進めていた。
競輪には日々、それがある。ビッグレースだけでなく、FIIやFIでも価値は変わらない。腰椎圧迫骨折から復帰し、「あきらめられないんで」と必死に復調を目指す選手もいる。着に絡めないことが多くても、こうした選手を取材すること、その姿をファンに届けることが競輪そのものの意味だと思っている。
競輪は今もってマイナーの枠から脱しえないのは事実。野球選手とファンがつながったように、競輪選手とファンがつながっていくことが長期的な成長につながる。
本場に誰もいない、選手の姿が伝わりづらい…の現状が、早急に改善されるべき問題点である。
Twitterでも競輪のこぼれ話をツイート中
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。