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山田裕仁のスゴいレース回顧

【ウィナーズカップ 回顧】これぞ松浦悠士の“真骨頂”

2023/03/22 (水) 18:00 47

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが別府競輪場で開催された「ウィナーズカップ」を振り返ります。

優勝した松浦悠士(一番右)。左端は「ガールズケイリンコレクション別府ステージ」を制した佐藤水菜、中央は別府出身のタレント脇あかり(撮影:島尻譲)

2023年3月21日(火)別府12R 第7回ウィナーズカップ オランダ王国友好杯(GII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①脇本雄太(94期=福井・34歳)
②松浦悠士(98期=広島・32歳)
③新山響平(107期=青森・29歳)
④山田庸平(94期=佐賀・35歳)
⑤古性優作(100期=大阪・32歳)
⑥福田知也(88期=神奈川・40歳)
⑦守澤太志(96期=秋田・37歳)
⑧嘉永泰斗(113期=熊本・24歳)
⑨新田祐大(90期=福島・37歳)

【初手・並び】
←⑧④(九州)⑤①(近畿)②⑥(混成)③⑨⑦(北日本)

【結果】
1着 ②松浦悠士
2着 ①脇本雄太
3着 ⑦守澤太志

決勝はS級S班3人の北日本ラインか古性ー脇本の近畿ラインか

 やはり「ビッグ」が来ると、胸が高鳴りますね! 3月21日には大分県の別府競輪場で、ウィナーズカップ(GII)の決勝戦が行われています。持病である腰痛の悪化が懸念されていた脇本雄太選手(94期=福井・34歳)も無事に出場を果たして、9名のS級S班が勢ぞろい。初日の特別選抜予選から、激しいバトルが繰り広げられました。波乱となったレースが多かったのも印象的で、車券が本当に難しかったなあ…と、思わず遠い目になってしまうほどですよ。

 熾烈な戦いだったのを示すのが決勝戦に進出した選手の「着順」で、勝ち上がりの過程で2勝していた選手はゼロ。注目された脇本選手はやはり調子が思わしくないようで、決勝戦に駒を進めたものの、その着順は2着、6着、3着というもの。着順だけでなく内容もイマイチで、準決勝では4車が落車するアクシデントもあって勝ち上がりましたが、アレがなければおそらく、決勝戦には進めていないと思います。

 それとは対照的に、3着、6着、1着という結果とはいえ、かなりデキがよさそうだったのが古性優作選手(100期=大阪・32歳)。今年は安定して好成績を残している古性選手ですが、準決勝でみせた捲りの鋭さは素晴らしいものでした。この「デキの差」を考慮してか、決勝戦での近畿勢は、古性選手が前で脇本選手が番手という並びで勝負することに。初の試みですが、脇本選手の状態を考えると、確かにこのほうがいい結果を出せそうです。

開催を通して安定した走りを見せていた古性優作(撮影:島尻譲)

 3名が勝ち上がった北日本勢は、新山響平選手(107期=青森・29歳)が先頭で番手に新田祐大選手(90期=福島・37歳)、3番手が守澤太志選手(96期=秋田・37歳)という超強力ラインナップ。決勝戦で唯一の3車ラインで、しかも全員がS級S班なのですから、総合力が高くて当然です。そして九州勢は、先頭が嘉永泰斗選手(113期=熊本・24歳)で、番手は先日に松山記念を優勝したばかりの山田庸平選手(94期=佐賀・35歳)。こちらも、デキはかなりいいですよ。

 松浦悠士選手(98期=広島・32歳)は、ビッグの決勝戦に乗るのが競輪人生で初となる、福田知也選手(88期=神奈川・40歳)と即席コンビを結成。このシリーズでの松浦選手はタテ脚ではなく、自身のストロングポイントである「レース展開の読みと組み立て」で勝負していた感がありました。決勝戦は自力自在での勝負となりましたが、この強力な相手にどのような戦略で挑んでくるのか、楽しみですよね。久々に〝らしさ〟を見せてほしいところです。

 どのラインの先頭も自力勝負ができるという四分戦で、古性選手や松浦選手のように、ヨコの動きで捌ける選手もいる。このメンバーだと北日本勢が積極的に主導権を奪いにきそうですが、「捌き」でのライン分断を警戒する必要があるので、おそらく前受けからレースを組み立てるのではないか…と考えていました。古性選手や松浦選手は中団でうまく立ち回りたいでしょうから、3番車でもスタートは取れるはずです。

最終バック、空いたスペースを見逃さなかった松浦

 では、前置きはこのあたりにして、決勝戦のレース回顧に入りましょう。スタートの号砲が鳴って、最初に出ていったのは4番車の山田選手。そこからは車番通りで、3番手に古性選手で5番手に松浦選手。新山選手は最後方7番手からの後ろ攻めというのが、初手の並びです。私の読みとは違って、北日本勢は前受けではなく後ろ攻めを選択。主導権を奪いにくると目されている新山選手が最後方なのですから、レースが動き出すのはおのずと遅くなります。

 青板(残り3周)周回では誰も動かないままで、赤板(残り2周)を通過。後方に位置する新山選手が動き出したのは、赤板過ぎの1センターでした。カマシ気味にポジションを押し上げていきますが、その動きを振り返って確認した先頭の嘉永選手は、一気に前へと踏んで全力で突っ張る態勢に。しかし新山選手のダッシュは鋭く、打鐘では山田選手の外まで差を詰めて、打鐘後の4コーナー過ぎには北日本ライン3名が完全に出切ってしまいます。

 とはいえ、先頭に立った新山選手も出切るまでにかなり脚を使わされ、楽ではない展開に。そこをすかさず叩きにいったのが6番手にいた古性選手で、最終ホーム手前からの仕掛けで、一気に前へと襲いかかりました。近畿勢の後ろにいた松浦選手も、この仕掛けに連動。古性選手は、最終2コーナー過ぎで新田選手の外に並びかけますが、当然ながら新田選手も簡単に前には出させません。進路を外に振ってブロックし、その後も身体をぶつけあっての激しいバトルとなりました。

最終2コーナー付近、新田祐大(9番・紫)と古性(5番・黄)が激しく火花を散らす(撮影:島尻譲)

 後方では山田選手が、脚のなくなった嘉永選手から切り替えて、守澤選手の直後に。新田選手と古性選手のバトルは、最終バック過ぎに古性選手が競り勝って前に出るか…というタイミングで、残念ながら新田選手が落車するアクシデントが発生してしまいます。新田選手直後にいた守澤選手や、さらにその後ろにいた山田選手は、うまく避けて落車はまぬがれましたが、これによって新山選手の後ろにスペースが発生。これを見逃さなかったのが、松浦選手です。

 脇本選手の後ろを走っていた松浦選手は、瞬時にタテに踏んで内へと切れ込み、新山選手の後ろのポジションを確保。前では新山選手がまだ先頭で踏ん張っていますが、最終3コーナーでは外から迫る古性選手とのぶつかり合いとなり、かなり厳しい状況です。そして最終2センター、古性選手の後ろにいた脇本選手が外に少し膨らんだところを、コーナーをタイトに回りつつ踏み勝った松浦選手が綺麗に内からすくって、脇本選手の前に出ました。

松浦(2番・黒)は一瞬の隙を逃さず、内に進路を取って脇本雄太(1番・白)の前に出る(撮影:島尻譲)

 先頭は新山選手と古性選手ですが、最後の直線に入る手前で、外から松浦選手が強襲。脇本選手は、その後ろを追走しています。松浦選手がいなくなって空いた内のスペースからは、最短コースで守澤選手と山田選手が急追。先頭集団の6車が一団となって、最後の直線に入ります。内で粘る新山選手を古性選手が捉えたところを、その外から松浦選手が差して先頭に。その後ろでは、脇本選手と内をついた守澤選手が必死に前を追いすがります。

 しかし、追撃を封じて先頭でゴールを駆け抜けたのは、先に抜け出した松浦選手。立ち回りの巧さや瞬時の判断力によって、通算2度目となるウィナーズカップ制覇を決めてみせました。彼にしては冴えない結果が続いていたのもあってか、ゴール後には力強いガッツポーズが飛び出しましたね。清水裕友選手(105期=山口・28歳)とのコンビで毎年のように好結果を出していたように、松浦選手はこのレースとは不思議と相性がいいんですよ。

落車はあったが「ビッグ」の決勝戦にふさわしい良いレース

 展開が向いたという側面もありましたが、勝因はなんといっても、新田選手の落車によって生まれたスペースを見逃さなかったこと。アクシデントの直後にあれだけ冷静に立ち回れるというのは、やはり尋常ではないですよ。「タテ脚に頼らない自在の競輪」ができる希有な選手でありましたが、その能力にさらに磨きがかかってきた感がありますね。この決勝戦では、その持ち味がフルに発揮されていたように感じました。

 2着の脇本選手は、デキが悪いところに慣れない番手からの競輪とあって、松浦選手に付け入られる“隙”があった。古性選手の頑張りを考えると本人的には不甲斐ない結果でしょうが、致し方のない面はありますよね。自力勝負ではなかったとはいえ、あの状態で2着に好走できてしまうというのが、そもそも驚異的なんですよ。自力で戦えるコンディションまで、ここからどう戻していくのか。それが、年末を見据えての課題といえるでしょう。

 悔しい結果となったのが、3着だった守澤選手。レース後にコメントしていたように、新田選手が落車した直後の判断次第では、松浦選手の通ったコースを自分のものにできた可能性が十分にありますからね。念願であるビッグでの優勝に手が届きそうで届きませんが、大舞台で常に上位争いできる力があるんですから、あとはもう“勝ち運”だけ。今の北日本の勢いならば、遠からずチャンスは巡ってきますよ。

不利もありながら3着に食い込んだ守澤太志。ビッグ優勝は”勝ち運”次第(撮影:島尻譲)

 4位で入線した古性選手は、新田選手を押圧して落車させたことで、レース後に失格となりました。それだけに褒めるわけにはいきませんが、早めから仕掛けて北日本勢を叩きにいったアグレッシブな走りは、ファンを大いに盛り上げましたよね。キツい展開のなかをよく踏ん張っていた新山選手や、前受けからの突っ張りでその新山選手を苦しめた嘉永選手も、自分のなすべきことをしっかりやっている。ビッグの決勝戦にふさわしい、いいレースでした!

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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