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山田裕仁のスゴいレース回顧

【金亀杯争覇戦 回顧】“復調”山田庸平の次につながる勝利

2023/03/13 (月) 18:00 26

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが松山競輪場で開催された「金亀杯争覇戦」を振り返ります。

昨年は獲得賞金ランキング12位とグランプリ争いにも加わった山田庸平(撮影:島尻譲)

2023年3月12日(日)松山12R 開設73周年記念 金亀杯争覇戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①松本貴治(111期=愛媛・29歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・32歳)
③守澤太志(96期=秋田・37歳)
④渡邉一成(88期=福島・39歳)
⑤松谷秀幸(96期=神奈川・40歳)
⑥伊藤颯馬(115期=沖縄・23歳)
⑦福田知也(88期=神奈川・40歳)
⑧東龍之介(96期=神奈川・33歳)
⑨山田庸平(94期=佐賀・35歳)

【初手・並び】
←④③(北日本)①(単騎)②⑦⑤⑧(南関東)⑥⑨(九州)

【結果】
1着 ⑨山田庸平
2着 ①松本貴治
3着 ⑦福田知也

神奈川4車が結束した決勝、買える要素は満載だった

 3月12日には愛媛県の松山競輪場で、金亀杯争覇戦(GIII)の決勝戦がおこなわれています。S級S班から、ここには郡司浩平選手(99期=神奈川・32歳)と松浦悠士選手(98期=広島・32歳)、守澤太志選手(96期=秋田・37歳)の3名が出場。なかでもデキのよさが目立っていたのは郡司選手で、初日特選からオール2連対で危なげなく決勝戦進出を決めています。

 郡司選手と同様に、守澤選手も好調モード。勝ち上がりの過程でも、最後の脚の鋭さをみせていました。逆に、デキがいまひとつに思われたのが松浦選手。準決勝では「タイヤ差」という僅差の4着に終わり勝ち上がれませんでしたが、いいときの彼なら、あのカマシで先頭まで出切っていたと思いますよ。最終日も最後に差されて2着という結果で、やはり本調子ではなかったのでないかと。

 シリーズ全般を通していえるのが、デキがいい選手がしっかり結果を残したということ。渡邉一成選手(88期=福島・39歳)や、地元から唯一の勝ち上がりとなった松本貴治選手(111期=愛媛・29歳)など、決勝戦へと駒を進めた選手も総じて調子がよさそうでした。気がかりだったのが風の影響で、決勝戦のときには、バックに強い向かい風が吹いていたんですよね。後方から捲る選手にとって、なかなかキツいコンディションといえます。

 三分戦となった決勝戦で人気を集めたのは、4名が連係する南関東勢です。先頭は郡司選手で、番手を回るのは福田知也選手(88期=神奈川・40歳)。3番手が松谷秀幸選手(96期=神奈川・40歳)で、4番手を東龍之介選手(96期=神奈川・33歳)が固めます。オール神奈川という結束力の強さは大きな魅力で、しかも先頭が立ち回りの上手な郡司選手ですから、そりゃあ買いたくなりますよね。

 2名が勝ち上がった北日本勢は、渡邉選手が前で守澤選手が後ろという組み合わせ。好調モードの渡邉選手が、強力な南関東ラインに対してどのような戦略で挑んでくるのか。そこが、レースの見どころにもなりそうです。同じく2車となった九州勢は、伊藤颯馬選手(115期=沖縄・23歳)が先頭で番手に山田庸平選手(94期=佐賀・35歳)というコンビ。後ろ攻めから主導権を奪いにきそうな、伊藤選手の走りも要注目でしょう。

 そして唯一の単騎が、ここ松山がホームバンクである松本選手。多勢に無勢ではありますが、1番車がもらえたのは大きいですよね。うまく中団で立ち回って、展開をついての一発を期待したいところ。いい頃のデキに戻ってきている印象でもあるので、地元の意地をぜひ見せてもらいたいものです。

渡邉との併走で脚を使った郡司

 ではさっそく、決勝戦の回顧といきましょう。ここは郡司選手の前受けかと思われましたが、スタートを積極的に取りにいったのは渡邉選手でしたね。その後ろの3番手に単騎の松本選手がつけて、郡司選手は4番手から。そして後方8番手に伊藤選手というのが、初手の並びです。想定通りに後ろ攻めとなった伊藤選手は、赤板(残り2周)の手前からポジションを上げて、先頭の渡邉選手を切りにいきます。

 先頭誘導員が離れたところで伊藤選手が先頭に立ち、渡邉選手は抵抗せずに下げて3番手に。次は後方となった郡司選手が動く「順番」ですが、先に動いたのは意外にも渡邉選手のほう。打鐘前からのダッシュで先頭の伊藤選手を叩きにいって、打鐘で先頭を奪い返しました。単騎の松本選手は、渡邉選手の動きには連動せず、九州ラインの後ろに切り替えるカタチに。そして今後は、後方の郡司選手が動きました。

最終ホーム、打鐘で渡邉一成(4番・青)が先行態勢に入る(撮影:島尻譲)

 打鐘過ぎの3コーナーから急加速した郡司選手は、前との差を一気に詰めて、2番手の外でホームを通過。渡邉選手も全力でこれに応戦して、郡司選手と激しくぶつかり合いながら最終1センターを通過します。しばらく両者がもがき合いますが、最終2コーナー過ぎで郡司選手が前に出て、単独先頭に。想定外の展開となったのか、伊藤選手は後方のインで詰まって、身動きがとれない状況です。

最終1センター、郡司浩平(2番・黒)が渡邉との競り合いを制して前へ出る。山田は8番手(撮影:島尻譲)

 同じく守澤選手も、外から覆い被さる南関東ラインによって内に押し込められて、動きたくとも動けない状況に。そこで最終バック手前から自力に切り替えて捲りにいったのが、後方8番手にいた山田選手です。先頭に立った郡司選手ですが、キツい展開になったのもあり、あまりかかりがよくありません。そこを、外から捲った山田選手が一気の脚で強襲。その仕掛けに乗って、山田選手の後ろにつけていた松本選手も差を詰めてきます。

 しかし、南関東勢も外をすんなりとは通しません。最終3コーナーの手前で、山田選手は福田選手、松本選手は松谷選手にそれぞれブロックされることに。山田選手はなんとか踏ん張りましたが、松本選手は大きく外に振られてしまいます。このブロックで空いた内のコースを狙ったのが守澤選手。最短コースを通って郡司選手の直後につけますが、ブロックから戻った福田選手と松谷選手によって、内に閉じ込められました。

展開は味方したが力のあるところを示した山田

 8車が内外で密集するカタチで最終2センターを回って、最後の直線に。まだ郡司選手が先頭で踏ん張っていますが、その直後から福田選手が差しにいきます。その外から伸びてくるのは、山田選手と態勢を立て直した松本選手。脚色が鈍った郡司選手を山田選手が一気に捉えて、直線なかばで先頭に立ちます。福田選手は伸び脚が意外に鈍く、郡司選手をなんとか差すのが精一杯という脚色です。

 そこを大外からグングン伸びた松本選手が抜き去り、先頭に立った山田選手に迫りますが、残念ながら時すでに遅し。後方からの力強い捲りで真っ先にゴールラインを駆け抜けたのは山田選手で、通算二度目となる記念優勝を決めました。近況ちょっと調子を落としていた印象の山田選手ですが、昨年は獲得賞金額でのグランプリ出場争いに加わっていたほど。展開も向きましたが、やはり力がありますね。

直線で脚色が鈍った郡司を捉え、通算2度目のGIII優勝を飾った(撮影:島尻譲)

 そして、地元の意地をみせた松本選手が2着。打鐘で渡邉選手が前を叩きにいったときについていかなかったのが、結果的に功を奏しました。意図的に離れたようにも見えましたが、レース後に「すごいダッシュだったので、渡邉選手を追わなかったというより追えなかった」とコメントしていたように、偶発的なものだったようですね。前がもつれる展開を読んでのものだったら、すごいなと思ったんですが(笑)。

 結果オーライとはいえ、この相手を向こうに回して単騎で「あわや」のシーンまであったのですから、松本選手も強かった。タラレバは禁物ですが、南関東勢のブロックであおりを受けていなければ、1着まであったかもしれません。郡司選手マークから伸びきれず3着に終わった福田選手については、タフな展開となったのが最後の伸びに影響されたのでしょう。番手追走とはいえ、脚はけっこう削られているはずですからね。

 神奈川カルテットを率いる郡司選手が、赤板過ぎのホーム手前から早めに仕掛けてくるというのは、想定されたこと。結果は惨敗だったとはいえ、先手をとってそこに真っ向勝負を挑みにいった渡邉選手の気概ある走りも、見せ場は十分だったと思います。守澤選手は、直線の入り口で完全に包まれてしまっては致し方なし。最後の最後までコースが開けず、脚を余す結果になってしまいました。

 優勝した山田選手には、この勢いに乗って、次節の別府・ウィナーズカップ(GII)でも活躍を期待したいところ。おそらく、ウィナーズカップに向けて調子を上げてきていたことが、今回の好結果にも繋がったのでしょう。地元・九州勢として、近畿や北日本に大舞台で負けてはいられませんからね。この決勝戦のように、ファンが手に汗を握ってアツくなれるようなレースを、ぜひ期待したいものです。

観客の声援に応える山田(撮影:島尻譲)

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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