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山田裕仁のスゴいレース回顧

【施設整備等協賛競輪 回顧】同期対決を制して“力”を示した山口拳矢

2023/02/20 (月) 18:00 24

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが伊東温泉競輪場で開催された「施設整備等協賛競輪in伊東温泉」を振り返ります。

優勝した山口拳矢(撮影:島尻譲)

2023年2月19日(日)伊東12R 施設整備等協賛競輪in伊東温泉(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①山口拳矢(117期=岐阜・27歳)
②竹内智彦(84期=宮城・45歳)
③隅田洋介(107期=岡山・35歳)
④久保田泰弘(111期=山口・27歳)
⑤青野将大(117期=神奈川・28歳)
⑥佐藤愼太郎(83期=福島・44歳)
⑦阿部将大(117期=大分・26歳)

⑧川口聖二(103期=岐阜・29歳)
⑨石塚輪太郎(105期=和歌山・29歳)

【初手・並び】
←①⑧(中部)⑦③④(混成)⑤②⑥(混成)⑨(単騎)

【結果】
1着 ①山口拳矢
2着 ③隅田洋介
3着 ④久保田泰弘

強いレースでシリーズを牽引した山口拳矢

 2月19日には静岡県の伊東温泉競輪場で、施設整備等協賛競輪in伊東温泉(GIII)の決勝戦が行われました。レースの「格」こそGIIIですが、全日本選抜競輪(GI)の直前というタイミングもあって、出場する選手のレベルはかなり低め。シリーズを牽引する存在として初日から注目を集めたのは、山口拳矢選手(117期=岐阜・27歳)でした。競走得点の高さから考えても、当然ですよね。

 初日特選では接触による車体故障というアクシデントに見舞われた山口選手ですが、二次予選と準決勝ではいずれも非常に強い内容で1着をもぎ取って、決勝戦に進出。2日目からは自転車の前輪を交換したとのことでしたが、幸いその影響はなかったようですね。連日速い上がりを繰り出しているように、調子も上々である様子。決勝戦には、準決勝でも連係した川口聖二選手(103期=岐阜・29歳)とのコンビで挑みます。

もう一人の柱は1・2・1で好調の隅田洋介

 このシリーズで強い存在感を発揮していたもうひとつの存在が、隅田洋介選手(107期=岡山・35歳)です。捲りきって1着をとった初日特選を皮切りに、二次予選と準決勝でも自力捲りでで2着、1着と好結果を残していました。このシリーズでは能力自体もトップクラスで、本人のコメントは控えめでしたが、かなり調子がよさそう。自力でもまだまだやれるところを見せてくれましたね。

 隅田選手は、決勝戦では阿部将大選手(117期=大分・26歳)の番手を回ることに。ライン3番手は久保田泰弘選手(111期=山口・27歳)が固めます。とはいえ、ここまで自力で好結果を出していたのもあって、決勝戦で阿部選手に任せるのがプラスに出るかどうかは、何ともいえないところ。普段から連係しているわけではない混成ラインだと、仕掛けのタイミングなどが読みづらいんですよね。

 3名が勝ち上がった東の選手も、ここは結束して混成ラインを形成しました。先頭を任されたのは青野将大選手(117期=神奈川・28歳)で、番手を回るのは竹内智彦選手(84期=宮城・45歳)。ライン3番手を佐藤愼太郎選手(83期=福島・44歳)が固めます。そして、単騎での勝負を選択したのが石塚輪太郎選手(105期=和歌山・29歳)で、決勝戦での立ち回りが注目されるところです。

特別な「同期」との競走でレースに熱が入る117期生

 興味深いのが、各ラインの先頭がいずれも競輪選手養成所117期の「同期」であること。そして、山口選手と阿部選手がすでにGIIやGIIIを獲っているのに対して、青野選手がまだであることです。ここは阿部選手と青野選手の主導権争いになりそうですが、競輪選手は同期に対して、仲間意識とライバルとして意識する部分の両方がありますから、ここは主導権争いが激化する可能性があります。

 では、ここからは決勝戦の回顧に入っていきましょう。スタートを取りにいったのは山口選手と久保田選手でしたが、車番的に有利な山口選手が前の位置を取りきって、まずは中部ラインの前受けが確定。その後ろの3番手に、西の混成ライン先頭の阿部選手がつけます。青野選手は6番手からで、最後方に単騎の石塚選手というのが、初手の並び。ほぼ、レース前に想定された通りの隊列となりました。

 最初に動いたのは後方の青野選手。青板(残り3周)周回で、先頭の山口選手ではなく中団の阿部選手の少し前につけて、その動きを抑えにいきました。単騎の石塚選手もこの動きに連動して、まずは東の混成ライン最後尾に。しばらくはその隊列のままでレースが進行しますが、青板周回の3コーナーで青野選手が再び動いて、今度は先頭の山口選手を斬って先頭に立ちました。

青野将大(黄・5番)が山口拳矢(白・1番)を追う(撮影:島尻譲)

 この仕掛けで身動きがとれるようになった阿部選手も、少し遅れて青野選手の後を追いかけて、赤板を通過。これで今度は、内にいた山口選手の身動きがとれなくなりました。とはいえ、ここで下げていては勝負になりませんから、外にいる石塚選手と併走しながら、内の4番手をキープ。そして打鐘前の2コーナーを回ったところで、外から阿部選手が仕掛けて、先頭の青野選手を叩きにいきます。

 すんなりと主導権を譲るわけにはいかない青野選手は、全力で踏んでこれに抵抗。しかし、外から阿部選手がジリジリと迫ってきます。青野選手が最終ホームに戻ってきたときには、外から迫る阿部選手とほぼ横並びに。内で押し込められるカタチとなった山口選手は、ポジションを維持しつつ、じっと脚をタメつつ進路が開けるのを待ちます。前では、青野選手と阿部選手が並んでのもがき合いとなりました。

同期対決の外から番手捲りをきめた隅田選手

 最終1センターで久保田選手が外を通過したことで、ようやく動けるようになった山口選手。しかし、前でまだもがき合いが続いているのもあって、進路を外に出してから、仕掛けを少し待ちましたね。そこで先捲りをうったのが、阿部選手の番手にいた隅田選手。最終バック手前で阿部選手の脚が鈍ったのを察すると、そこから自力に切り替えて前を一気に飲み込みます。

 隅田選手が久保田選手を引き連れて先頭に立ち、その直後に山口選手と川口選手。その後ろに、切り替えた石塚選手という隊列で、最終3コーナーを通過。先頭に立った隅田選手には、まだ余裕がありそうです。前を射程に入れているとはいえ、ここから捲って果たして山口選手は届くのか…という態勢で、最後の直線へ。このレースの優勝争いは、完全に前の4名に絞られました。

隅田洋介(赤・3番)を追う山口拳矢(白・1番)(撮影:島尻譲)

 先頭で粘り込みをはかる隅田選手に、外から差しにいった久保田選手が、ジリジリと距離を詰めていきます。しかし、直線での脚の鋭さが目立ったのは中部ラインの山口選手と川口選手のほう。直線の入り口で内をついて一気に差を詰めた川口選手と、外を回った山口選手が、前へと襲いかかります。ところが、内をついて勝負した川口選手は、最後の最後で前が詰まり、進路がないカタチになってしまいました。

山口選手が立ち回りと脚の鋭さで優勝を手にした

 そこを、猛烈なスピードで伸びてきたのが山口選手。ゴールの直前に隅田選手と久保田選手がほぼ横並びになったところを、外から豪快に突き抜けて、先頭でゴールラインを駆け抜けました。勝ち上がりの過程でも素晴らしい上がりをみせていましたが、決勝戦での最後の脚も本当に鋭かったですね。既にGIIのタイトルを獲っている山口選手ですが、GIIIはこれが初優勝。道中の立ち回りも巧かったですね。

 大接戦となった2着争いを制したのは隅田選手で、3着に今回が初のGIII決勝戦だった久保田選手。山口選手と同様に、強い選手がキッチリと力を発揮したレースといえるでしょう。着差が着差だけに隅田選手や久保田選手は悔しかったでしょうし、好調だった隅田選手については、最初から自力で勝負していれば…というタラレバもありそうですが、それでも山口選手を逆転できていたかどうか。

 青野選手と阿部選手の激しい主導権争いも見応えがありましたが、最終的に凱歌が上がったのは、身動きが取れない状況でも慌てずにうまく立ち回った山口選手。けっして楽な展開ではなかったはずですが、それでもチャンスを逃さずに攻めるべきところで攻めたことで、最高の結果をモノにしました。とはいえ、彼は本来ならば次の全日本選抜競輪(GI)を走っているべき選手。もっと上を目指して、さらに精進してほしいものです。

優勝者インタビューでこぶしを突き上げる山口拳矢(撮影:島尻譲)

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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