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山田裕仁のスゴいレース回顧

【たちあおい賞争奪戦 回顧】結束の“核”となるもの

2023/02/13 (月) 18:00 39

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが静岡競輪場で開催された「開設70周年記念 たちあおい賞争奪戦」を振り返ります。

優勝した郡司浩平(撮影:島尻譲)

2023年2月12日(日)静岡12R 開設70周年記念 たちあおい賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①深谷知広(96期=静岡・33歳)
②松浦悠士(98期=広島・32歳)
③成田和也(88期=福島・43歳)
④吉田拓矢(107期=茨城・27歳)
⑤守澤太志(96期=秋田・37歳)
⑥佐々木眞也(117期=神奈川・28歳)
⑦郡司浩平(99期=神奈川・32歳)
⑧渡邉雄太(105期=静岡・28歳)

⑨清水裕友(105期=山口・28歳)

【初手・並び】
←④⑤③(混成)⑧①⑦⑥(南関東)⑨②(中国)

【結果】
1着 ⑦郡司浩平
2着 ①深谷知広
3着 ⑤守澤太志

強敵たちと戦うため結束を選んだ南関東

 2月12日には静岡競輪場で、たちあおい賞争奪戦(GIII)の決勝戦が行われました。4名ものS級S班が出場していましたが、そこに清水裕友選手(105期=山口・28歳)や吉田拓矢選手(107期=茨城・27歳)も加わるという、超ハイレベルなメンバー。ここまで強力な機動型が揃ったのですから、どのレースも見応えは十分でしたね。デキのよさを感じさせる選手も多かったですよ。

 新山響平選手(107期=青森・29歳)こそ残念ながら決勝進出を逃しましたが、そのほかのS級S班はすべて勝ち上がり。3分戦となった決勝戦で人気を集めたのは、唯一の4車ラインとなった南関東勢でした。自力のある選手が多いなか、南関東がひとつに結束するのを選んだというのは、ちょっと珍しい。その先頭を任されたのは、ここがホームバンクである渡邉雄太選手(105期=静岡・28歳)です。

 番手を回るのは深谷知広選手(96期=静岡・33歳)で、こちらも地元。深谷選手は、ここを目標にかなり身体を仕上げてきていた印象です。そして、郡司浩平選手(99期=神奈川・32歳)が3番手。過去に例がないわけではないですが、郡司選手が3番手を走るというのはかなりのレアケースです。そして、佐々木眞也選手(117期=神奈川・28歳)がラインの4番手を固めます。

南関東を阻む清水・松浦の黄金コンビ

 この強力な南関東勢に2車で立ち向かうのが、清水選手と松浦悠士選手(98期=広島・32歳)の中国ゴールデンコンビ。記念の決勝戦でこの連係が見られるのは、けっこう久しぶりですね。とはいえ、松浦選手はまだデキが戻りきってはいない様子。それとは対照的に、清水選手はかなり調子がよさそうです。それもあっておそらく、ここは清水選手が前、松浦選手が後ろという並びになったのでしょう。

 吉田選手は、北日本勢の守澤太志選手(96期=秋田・37歳)と成田和也選手(88期=福島・43歳)と連係して即席ラインを形成。吉田選手も、このシリーズではデキのよさが目立っていましたね。車番的にここは後ろ攻めとなりそうですが、二段駆けや三段駆けがありそうな南関東勢の動きを、どう封じ込めるかが大きな課題。優勝争いに持ち込めるかどうかは、それ次第といえるでしょう。

 主導権を奪ってすんなり二段駆けするカタチに持ち込みたい南関東勢と、それをなんとか阻みたい清水選手や吉田選手。そのせめぎ合いが初手からどうなるのかが、この決勝戦の見どころです。深谷選手のデキのよさを考えると、二段駆けが成立した時点で、他のラインの勝ち目はかなり低くなるはず。南関東勢を内から捌いての分断までありそうだ…というのが、レース前の見立てでした。

青板すぎに始まった清水選手の南関牽制

 それでは、決勝戦の回顧といきましょう。スタートの号砲が鳴って、最初に飛び出したのは成田選手。前に吉田選手と守澤選手を迎え入れて、このラインの前受けが確定します。南関東ライン先頭の渡邉選手は、4番手から。そして後方8番手に清水選手というのが、初手の並びです。ぜひとも主導権を奪いたい南関東勢は、中団からどのようなレース運びをするのか、注目ですね。

 後方の清水選手が動いたのは青板(残り3周)周回。後方からポジションを押し上げていって、先頭の吉田選手ではなく、中団の南関東勢を外から抑えにいきます。清水選手は南関東勢を牽制したままで赤板(残り2周)の手前までいきますが、そこで前へと踏んで、赤板を通過して先頭誘導員が離れると同時に先頭の吉田選手を斬って先頭に立ちます。吉田選手は抵抗せずに、ポジションを下げました。

併走後に清水裕友(紫・9番)を抜いた渡邉雄太(桃・8番)(撮影:島尻譲)

 清水選手が前を斬りに動いたのと同時に、動けるようになった渡邉選手は間髪を入れずに仕掛けて、これを叩きにいきました。当然ながら、清水選手はこれに抵抗。赤板後の1センターでは、内の清水選手と外の渡邉選手の併走となります。2コーナー過ぎには渡邉選手と深谷選手が前に出るカタチとなり、ここから清水選手はヨコの動きで南関東ラインを捌きにいくか…と思われたのですが、仕掛けませんでしたね。

 その結果、打鐘では南関東勢が主導権を取りきったカタチとなり、清水選手はいったん引いて5番手に。そして後方7番手に吉田選手という隊列に変わって、最終ホームへと帰ってきます。ここで態勢を立て直した清水選手が、そのままにするわけにはいかない…とばかりに再び仕掛けて前を捲りにいきますが、それを佐々木選手がブロック。同時に、深谷選手が早々と番手捲りにいきました。

快速の深谷が番手捲りで先頭へ

 最終2コーナー過ぎで先頭に立った深谷選手を清水選手がさらに追いますが、佐々木選手の再度のブロックによって、完全に失速。そこをすかさず仕掛けたのが後方にいた吉田選手で、最終バック手前からの捲りで前へと迫ります。しかし、先頭に立った深谷選手のかかりがよく、思ったほどには差が詰まらない。最終3コーナー手前で佐々木選手の外にまで並びかけた吉田選手を、今度は郡司選手が待ち構えます。

外から上昇してくる吉田拓矢(青・4番)(撮影:島尻譲)

 前との車間をきっていた郡司選手は、進路を少し外に出して、捲ってきた吉田選手をブロック。吉田選手の勢いを削いだのを確認して、再び前をいく深谷選手を追いかけます。その後ろにいるのは佐々木選手と、清水選手から切り替えた松浦選手、吉田選手から切り替えた守澤選手の3名。このうち、直線の入り口で綺麗に進路が開けたのは、佐々木選手と吉田選手の間を狙った守澤選手でした。

 先頭を走る深谷選手は、番手捲りで抜け出したとはいえ、清水選手の早い仕掛けによって先頭で長い距離を踏まされていますから、けっして楽ではありません。逆に、まだ十分に脚が残っているのが、ライン3番手の郡司選手。その後ろからは守澤選手も差を詰めてきていますが、一気に前を捉えきるほどの勢いはなく、優勝争いまではどうか…という態勢で、最後の直線勝負となりました。

結束の成果を見せつけた南関東

 先頭の深谷選手も最後までいい粘りをみせますが、外に出した郡司選手がグングン伸びて、一気に前を捉える勢い。その後ろでは佐々木選手と守澤選手が前を追いますが、こちらはやはり届きそうにない。最内を回った松浦選手は進路がありませんが、そもそも脚自体がそれほど残ってはいない様子。深谷選手と郡司選手のワンツーが濃厚という態勢で、ゴール直前では両者が横並びとなります。

 しかし、最後にグイッと前に出たのは外の郡司選手。接戦ではありましたが、ハンドルを投げた深谷選手を余裕をもって差したという印象で、レースを見てのイメージ以上に余力があったのでしょう。3着争いを制したのは外の守澤選手で、4着が佐々木選手、5着が成田選手という結果でした。優勝に向けて結束し、やりたいレースができた南関東勢の「完勝」といえるでしょう。

 清水選手が南関東ラインを捌くのではなく、立て直してからの捲りという正攻法を選んだのはちょっと意外でしたが、そこは相手が“地元”というのもあったでしょうね。あとは、今のデキならば正攻法でも勝負になるという手応えを感じていたのかもしれません。これが特別競輪の決勝戦であればまた話は別ですが、地元ラインを捌いて分断するという「悪役」の役回りは、やりたくないですからね。

レース後に深谷知広から祝福される郡司浩平(撮影:島尻譲)

 それに、南関東ライン先頭の渡邉選手が、清水選手が楽には飛びつけないようないいスピードで仕掛けたのも事実。主導権を奪いきるという役目をしっかり果たしてから深谷選手にバトンを繋いで、そこから番手捲りをした深谷選手もけっこうキツい展開のなかを最後の最後まで踏ん張り通した。最後は郡司選手に差されたとはいえ、深谷選手もいい走りをしていたと思いますよ。

 他のラインも健闘しましたが、ここは一致団結して優勝を目指した南関東ラインが一枚上だったということ。それにしても、このところの郡司選手の安定感は本当に大したものです。地区の“核”としての役割を果たすことで、選手同士の結びつきがより強くなっている気がしますね。北日本や近畿にも、そういった面での強さや勢いがある。中部にもぜひ、彼のような存在が出てきてほしいものなんですがねえ…。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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