2025/11/18 (火) 12:00 25
2人はわかっているのだろう。KEIRINグランプリ出場のボーダーにいる深谷知広(35歳・静岡=96期)と新山響平(32歳・青森=107期)だ。今年も賞金争いは険しい戦いとなり、競輪祭に入る。「グランプリに出てほしい」「S班がふさわしい」ーー。
2人がやってきた競輪は、ファンに支持され愛され、かつ競輪選手の中でも憧れられるものだ。しかし、なんともはや…。苦しい場所に立っている。「いや…なんとかグランプリに…」と今年の後半は何度も口にしてきたが、実はそれではいけないのかもしれない。
「取らないとダメ、ということ」
記者の先輩と話していて、その先輩は口元を引き締めてこう言った。ハッとした。小倉競輪場で11月19〜24日に「第67回競輪祭(GI)」、19〜21日にガールズケイリンの「第3回競輪祭女子王座戦(GI)」が開催される。その戦いを前に、今の2人に満足してはいけない。2人がやるべきことはもうひとつ上。いるべき場所はもっと上だと。
そして、2人は間違いなくずっと「取らないとダメ」とその胸に秘めているんだろうと思った。
賞金でもグランプリに乗れれば、と思っていた当方の気持ちに揺らぎがあった。2人に対して、だ。10位にいる松本貴治(31歳・愛媛=111期)は立場が違う。賞金でもグランプリに出られることが先につながる。松本は大きくなれる。だが、深谷と新山はそこにはいない。
寺崎浩平(31歳・福井=117期)と嘉永泰斗(27歳・熊本=113期)が今年GI初優勝を手にし、競輪祭でも誰かがそれを成し遂げるかもしれない。深谷と新山、そして今年S班に繰り上がった犬伏湧也(30歳・徳島=119期)の戦いを見ても、彼らの苦闘があるからこそ、寺崎と嘉永の優勝の価値が音のない世界でフィードバックしてくる。重力は、無言。立ち上がる者だけに感じられる。
競輪は当然、優勝劣敗の世界。勝者と敗者には歴然とした差がある。その過酷さに色も音もなく、涙も色褪せる。灰色の砂漠に吹く風が、戦う者たちを苦しめる。自暴自棄も、酒も煙草も、意味を持たない。ファンは、はいつくばりながらそのモノクロームの世界に色を求める。
歓声は、いつ聞こえる? 歓声は、どこに届く?
脇本雄太(36歳・福井=94期)が10月前橋「寛仁親王牌・世界選手権記念(GI)」3日目のアップ中のケガで欠場となっている。近畿勢の戦いに注目が集まる。こうした主力選手がいなくなった時の近畿は、底力を見せてきた。こうした時に結果を残すのが“近畿だ”というのが歴史だ。
古性優作(34歳・大阪=100期)は3月伊東ウィナーズカップ(GII)を制し、大ケガもありながら年間通して結果を残し、GI優勝はないものの賞金ランキングでトップにいる。そのすごさは超現実。色彩の奥にある原色が迫ってくる。目指すダブルグランドスラムがある。
まずはその前にグランドスラム。競輪祭と日本選手権競輪が残っている。この大会を制し、完膚なきまでに“古性優作”のすごさを知らしめるか。
劣勢だった九州が勢いをつけたことで、他の地区も火がついている。燃える競輪祭に全身で飛び込んでほしい。
佐藤水菜(26歳・神奈川=114期)が10月チリの世界選手権でケイリン連覇を成し遂げた。スプリントでも銀メダル。ケイリンでの快挙と、紛れがない競技と言われるスプリントでの世界2位は、もうその背中が見えない。3月岐阜オールガールズクラシック、6月岸和田パールカップ、8月宇都宮女子オールスター競輪に続く、年間GI完全制覇こそふさわしい実力者。
平塚で行われる「ガールズグランプリ2025」ももちろんだ。漫画の世界、と言われるような出来事を現実にしていく。国内で完全な頂点に立ち、また世界で輝ける姿を証明することは、新しい世代への希望と勇気、夢につながる。
もはや誰もなしえないかもしれない偉業になりそうでも、そこに挑もうとする新世代が続くこと。スポーツの無限の可能性を秘めていると思う。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。
