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脇本雄太の競輪無双十三面待ち 〜そして伝説へ〜

【脇本雄太のKEIRINグランプリ】「古性とはいい組み合わせだと思う」近畿の相棒と高め合い頂点を目指す

2022/12/20 (火) 12:00 47

2022年、競輪界の長い戦いが12月30日にクライマックスを迎える。脇本雄太の一年は山あり谷あり。5月いわき平の日本選手権(ダービー)、8月西武園のオールスターと2回のGI優勝は飾ったものの、苦しむ姿も多く見せた。4回目の挑戦となるグランプリという舞台は、脇本にとってどんな位置づけなのか。また、相棒・古性優作への思いとはーー。(取材・構成:netkeirin編集部)

2回のGI優勝を飾るも体に再び異変が…

 昨年10月、体の奥深く、聞こえようのない悲鳴が響いた。世界に3例ほどという希少な部位の骨折で、復帰すら危ぶまれた。暗闇の中、唇をかんで「絶対にこのケガには負けない」とあらゆる努力を尽くし、復帰の道を探った。そして迎えた2022年。「復帰自体が遅れてしまったし、この一年は順調ではなかったですね」と思い起こす。

 1月は走れず、2月の奈良記念でやっとバンクに帰ってこれた。一歩ずつ、しかし確かな目標をダービーに定めた。「僕の中での2022年一発目のGIだったので、優勝したいと思っていました。手応え自体もあったし、かみ合った」と予選から納得の走りで表彰台の真ん中に君臨した。

5月の日本選手権競輪を制覇。ゴール後にガッツポーズも出た(撮影:島尻譲)

“輪史最強”

 もう一度、その地点に立ち悪魔的な強さを見せていく…、はずだった。が、壁もあった。「FI戦も含めて番手も経験させてもらい…。でも正直、ヘタクソでした」と頭をかく。これまで「自分自身が慣れていないのを周りの人も承知だし、とにかく経験不足。ずっと前で戦ってきた弊害もあって」と、期待に応えられないレースもあった。

 今年何度か口にしてきたが「苦手のままではダメなので、ちょっとずつ対策を練っていかないと」がこれからの課題だ。オールスターの決勝では同県の後輩・寺崎浩平(28歳・福井=117期)の番手を奪われ、7番手になってしまった。しかし、そこからまくって優勝。

「優勝したから責任を果たしたか、っていうと悔しいけど違う。ただ、できることはやったのかなと思う」

8月オールスター競輪で今年GI2勝目を飾る(9番・紫)(撮影:島尻譲)

 考え得る最悪の展開でも、勝った。ただし、自分が求めるものではない。自分自身を見つめながら、ちょうど福井に帰る時期でもあった。ナショナルチームを離れ、拠点も地元へ移す。少し、気になることがあった。

「ナショナルチームの素晴らしい環境から完全に離れて、ボディメンテナンスの面で課題みたいなのがあった。いろいろと自分の中で対策しているつもりなんですが、こうなることは分かっていた。ただ、思ったより早かった」

 9月の時点では「レースには影響はなかった」。ちょっとした、以前の思わしくない痛みが時々その顔を表していた。そして「実際に来たのは10月ですね」と明らかに体の異変があった。ただし「去年ほどの大きな影響があるものではない」と冷静に向き合い、これまで通り「できることをやっていく」ことで状態を保とうとしてきた。

北日本に単騎勢、4度目のグランプリはどう挑む!?

 11月の競輪祭を走り終えて今、グランプリに向けての時間がある。

「治療していっている段階でもあるんですけど、岸和田での合宿もやれたんです。今の力を把握することはできています」。そこには古性優作(32歳・大阪=100期)もいて「いろいろと一緒にやらせてもらいました」と高め合う時間を持てた。

「不安がないと言ったらウソになるけど、現状、できることをやるしかないのは分かっている」

11月の競輪祭は二次予選敗退。ここからコンディションを上げてKEIRINグランプリに挑む(撮影:島尻譲)

 昨年は出場できなかったが「グランプリも4回目ですし、特別なことをするわけでもない。気持ちの方は問題ない」とまっすぐに向かっている。

 グランプリ初出場は2018年の静岡大会だ。あの時は「ラインも4車で、先行する意志も強かった。ただ不慣れなまま終わったな、と思う」と振り返る。そして2019年の立川大会は、もう少しで逃げ切りVというところを佐藤慎太郎(46歳・福島=78期)の強襲に泣いた。

 あと少しだったとはいえ「悔しいというのはなかったですね。納得した部分が大きかったです。やれることをしっかりやったので。まあ、なかなか思い通りにはいかないな、と。慎太郎さんをうらやましいというのはあったけど、悔しいではなかった。戦法も違いますし、自分が最上級の走りはできたので」と清々しい気持ちだった。

 2020年の平塚大会では、なんと平原康多(40歳・埼玉=87期)と連係するというレースになった。普段は敵だが「光栄でした。他地区の選手につくことが基本的にない人。近畿でいえば村上(義弘、引退=73期)さんのような立場の人。連係させてもらえるのはうれしかった」と燃えた。

 脇本が先行して、平原は4角でブロック。レースVTRは「年明けの1週間くらいまでは、見ましたかね。でもそんなには見てませんよ(笑)」。平原のブロックはどう、見えた?

「平原さんらしいな〜って!自分は仕掛けどころも早くて、最後はきつかった。『平原さん、タテに踏んで!』も少しありましたね(苦笑)」

 またしても脇本は2着で、平原は5着。結果には結びつけられなかったが「その地区をまとめる代表格の人。村上さんみたいに、その地区のすべての選手の基準になるような人」とラインを組めたことは大きな宝となった。

2020年平塚では直線で和田健太郎に差され2着に終わる(2番・黒)(撮影:島尻譲)

 2022年のグランプリは平塚で開催される。競輪祭の決勝で大逆転の切符をつかんだ新山響平(29歳・青森=107期)が景色を変える。

「先行させてもらえるメンバーから、絶対させてくれないメンバーになりましたからね(苦笑)。でも新山は元々タイトルを取る力を持っていたし、一皮むけたのかなと」

 おそらく北日本は新山を先頭に4人まとまる。そして単騎が3人。「単騎の人たちも味方に回ってくれる人はいない」が率直な読みだ。「ワッキーをどうにかして」が、先に立つ。では、どうする。まず、とにかくは新山との勝負がある。

「3分戦で新山が自分以外のラインを気にして、自分が駆けて、とか新山が失敗するレースとかあったんですが、今回はそうじゃない。それにお互いがお互いを知っているし、対策もしやすい」

特異な才能を持つ2人が力を合わせた先にあるもの

 戦い方の基本姿勢は、ある。

「グランプリだから、という特別な感じはないんです。自分の中ではGIの決勝のひとつ、みたいな感じです。2023年は年間通じて新山と戦うだろうし、そうしたGIの決勝で戦うと考えて“その手を打つか”というところ」

 8周回の長い戦い。「確かに長いんですけど、もうお客さんの歓声がすごすぎて、思考が飛ぶのか長いとかはあまり思わない」。年の瀬迫る冬のバンク。「寒いとバンクは重たい。風の影響も冬は受けやすい」が事実。だが、海外での戦いも含め、五輪という究極の戦いも含め、百戦錬磨の猛者中の猛者ーー。

 相棒は古性。競輪選手の歴史の中でも特異な強さを誇る。「お互いの持っていない力を持っていると思うと、いい組み合わせだと思う」。特に「レース中の人の良し悪し、の判断が早い。ヨコに振るパターンか振らないパターンか、を見極める感性がすごい。鋭い。自分は持っていない感覚です」と、一番には判断力のすごさを感じている。

脇本と同じく今年GI・2勝の古性優作。昨年のKEIRINグランプリ王者(撮影:島尻譲)

 古性は2月取手の全日本選抜、6月地元の岸和田高松宮記念杯と2つのGI優勝。堂々たる成績で2021年グランプリ王者の責務を果たしてきた。だが、右手人差し指の腱断裂という大ケガを9月に負ってしまった。「でもこの前の合宿では元気でしたよ。風も強くて悪条件だったんですけど、練習していると、指の腱が切れたとか全く何も感じさせなかった」という。肉体的な強さと、そして心の前向きさが古性を支えている。

「勉強して、僕と一緒にレースを走りたいという気持ちが強い。前橋のカントのきついところとか、体の使い方をよく聞いてくるし」

 向上心を持ち、「脇本さんを抜くために」を公言してさらなる高みを目指している。「抜くって言うことは、僕についていくことを苦に思っていないわけでしょう。こんなに頼もしいことはない」。近畿2人。お互いの力を引き出すことで、他の7人に立ち向かう。力を合わせたその先に、やむことのない大歓声がある。

決して順風満帆ではなかった2022年。KEIRINグランプリでは今のベストを尽くして走る(撮影:島尻譲)

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脇本雄太

Yuta Wakimoto

脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪9勝、20年最優秀選手賞を受賞。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。

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